デジタル
2020/10/16 7:00

【西田宗千佳連載】CPU性能だけでなく「AIによる高速処理」がインテルとクアルコムの競争を加熱する

Vol.95-4

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「モダンPC」。実態のつかみにくい概念だった「モダンPC」が、ついにその姿を現しつつある。

 

PCの立ち位置は、新型コロナウィルス感染症の流行以降、少し変わり始めている。ビデオ会議の増加によって、コミュニケーション・デバイスとしての価値が高まったことがその代表例だ。

 

従来から、PCが内蔵するカメラやマイクの質は良いに越したことはなかったが、それらはスマートフォンほど重視されていたわけではない。さらには、そこで得た映像・音声を加工し、相手に伝わりやすいようにする技術も重要になってきた。こうした場合、必要になるのが、いわゆるAIの処理を高速化するための機構である。iPhoneなどのハイエンドスマートフォン向けプロセッサーには「カメラの高画質化用」などの形でそうした機能が増え、SoC(System-on-a-Chip)のなかで、CPUやGPUと並ぶ大きな要素になっている。

 

インテルやクアルコムのPC用プロセッサーも同様だ。PCでは慣例的につい「CPU」と呼んでしまいがちだが、いまの「CPU」と言われるものは、従来のCPUにGPUやその他の機構を組み合わせたSoCである。性能・機能は異なるものの、実態はスマホ用プロセッサーと同様の「SoC」なのだ。そのため、特に最新のものでは、いかにAIを生かしてCPUやGPUの性能以外の部分で差別化するか、が重要になっている。

 

クアルコムはスマホ由来の技術をそのまま拡大転用し、AI処理を高速化する道を選んだ。一方、あまり注目されないが、インテルも2019年発売の「第10世代Core iプロセッサー」や2020年発売の「第11世代Core iプロセッサー」に、AI処理を高速化する「Intel Gaussian & Neural Accelerator(GNA)」という仕組みを搭載している。

 

現在、市場には、ビデオ会議などのマイク入力音声から、キーボードの音やファンノイズなどを除去する「ボイスエンハンスソフト」がいくつか出ている。そのなかには、日本ではブイキューブが代理店を務めている「Krisp」のように、GNAに対応したものがある。GNAを備えたCPUだと、CPU負荷と電力消費が大幅に軽減され、バッテリーでもより長く動作する。Krispは筆者も使っているが、本当にスッキリとタイプ音が消える、オススメのソフトだ。

 

また、マイクロソフトは、クアルコムと共同開発したプロセッサー「Microsoft SQ」を搭載した「Surface Pro X」シリーズに新しい要素を追加した。ビデオ通話では、画面の位置とカメラの位置がずれているため、どうしても目線が下にずれる。この違和感を、AIの力で「動画の視線の位置だけを自動補正する」機能で解消しているのだ。これももちろん、クアルコムが開発したプロセッサーの中にある、AI処理高速化機能の賜物だ。

 

今後はいわゆるCPU性能だけでなく、こうした付加機能が製品の価値を決めていくと、筆者は予測している。PCのカメラも、スマホと同じように、高性能イメージセンサー+AI補正で高画質化する可能性が高い。

 

だとすると、PC選びは単に「どのCPUを積んでいるか」だけでなく、「どのような最適化機能が搭載されているのか」という点がカギになってくる可能性も高い。

 

インテルとクアルコムが競争し、そこへさらにAMDやNVIDIAも巻き込まれていくことになれば、クロック周波数やコア数以上に「このプロセッサーではどんなことができるのか」が問われる時代になる。それはすなわち競争がより激化していくということでもあり、消費者にとってはうれしくも悩ましい時代になりそうだ。

 

 

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