デジタル
2020/12/15 7:00

【西田宗千佳連載】5Gのエリア拡大に力を注ぐ各社、成果は春に向けて明確に

Vol.97-4

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「5G」。2020年の一大トレンドとして注目された5Gだが、実際どうなっているのか。現状と課題を解説する。

 

5Gを利用するうえで最大の問題は「エリアの狭さ」だ。新たに5Gのアンテナを敷設し、5G向けの帯域でサービスを展開しないといけないこと、そもそも5Gが使う高い周波数帯は電波が遠くまで届きにくいことなどから、サービス開始から半年以上が経過しても、エリア展開の速度は遅かった。

 

iPhoneをはじめとした5G端末が増えてきたこともあり、携帯電話大手4社としては差別化しやすい5G契約を推進したいが、そのためにはエリア拡大を加速する必要がある。

 

楽天は4Gも含めて自社エリアがまだ狭いので、粛々とやっていくしか方法論がない。だがNTTドコモ・KDDI(au)・ソフトバンクの3社はまた別だ。ドコモとau、ソフトバンクでは、エリア拡大の方法論が違うのである。

 

auとソフトバンクは、4Gに使っている電波の一部を5Gに転用する。具体的には、auがまず700MHz帯と1.7GHz帯を、ソフトバンクが700MHz帯と3.4GH帯を5Gに使う。ここではダイナミックスペクトラムシェアリング(DSS)という技術が使われ、4Gと5Gが共存することになる。4Gで使っていた届きやすい周波数帯を使うことで、5Gのエリア展開を改善するわけだ。この効果は劇的なものになると予想される。

 

だが、NTTドコモはこのやり方に批判的だ。4Gで使っている帯域を転用しても、通信に使える帯域幅は広くならないからである。5Gとはいうものの、4G+α程度の速度にとどまる。また、4Gの帯域を5Gに転用するということは、それだけ4G利用者の速度が落ちる可能性もある。

 

ドコモは他社と異なり、4.5GHz帯にも5Gの帯域を100MHz分持っているため、こちらを積極的に活用する。そうすると、5Gの速度はさらに上がる。だが、エリア拡大には基地局整備を加速する必要があり、他社に比べ「面展開」の効率では劣る。現状、どちらの言いぶんにも一理あるのだが、単純な心理的効果で言えば、「5G」と表示されるシーンが増えるほうがありがたいかもしれない。

 

各社の積極的なエリア拡大が身を結びつつあるのか、東京の主要駅近くでは、「5G」の表示を目にする機会も増えてきた。ただ、表示は「5G」だが、通信を始めると「4G」に落ちてしまうことも多い。現状の5Gは4Gとの併用を前提にした形になっており、まず4Gの基地局につながり、それから5Gにつながる。その際、5Gの電波を完全に掴みきれないと、結果的に通信そのものは4Gになる……ということがある。こうした現象は、5Gのエリア拡大が進む途上で起きやすいものだ。だから「エリアがもうすぐ充実する」印とも言えるのだが、わかりづらく、不信感の元になる。

 

こうした部分も含め、いかにもいまの5Gは「移行期」らしい混乱がある。今後の展望としても、2020年の末にいきなり快適になるというわけではなく、今秋から年末にかけて改善が目に見えてきて、来春ごろに体感として5Gの活用が進み始める……というのが実情だろう。だとすると、「混乱期に一切興味がない」なら5Gへの乗り換えは春以降でもいいし、「この混沌を楽しんでみたい」ならすぐにでも5Gに契約するのがオススメ、ということになるだろう。

 

 

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