デジタル
2021/1/29 7:00

【西田宗千佳連載】「値下げ」を急いで携帯電話料金の「寡占」を加速した菅政権

Vol.99-2

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、
「携帯料金値下げ」。携帯電話料金事情に楽天モバイル登場以来となる大きな変化が起きようとしている。

 

この3月に向けて携帯電話料金に大きな変化があるのは、ご存知のとおり、政府が携帯電話料金の値下げを求めたためだ。料金が下がるのは消費者にとって、基本的にプラスである。だが、問題はその前提が正しいかどうかだ。

 

政府として、コロナ禍で国民の生活が苦しくなるなか、負担を減らしたいというのはわかる。だが、そもそも論として、政府が民間が決める携帯電話料金に細かく口を出すのは「資本主義社会」としては正しくない。また、国民の生活を助けたいなら、企業に値下げを強いるのではなく、減税や補助などの形でやるのが筋だ。

 

政府が携帯電話料金の高さを問題にするのは、「諸外国に比べ日本の料金は高い」という調査があるからでもある。だが、これはちょっと内容が微妙だ。「20GBのプラン」に絞った調査では確かに高いのだが、低容量や大容量プランはそうでもない。また、通信速度や「圏外の少なさ」などのネットワーク品質を考えると、日本はかなり優位にある。

 

日本の携帯電話料金の問題は「高い」ことではない。高いものもあるが、安いものもすでにある。実際には、20GBクラスのプランが少なかったこと、大手同士では価格やサービスの差が小さかったこと、そして、サービスを乗り換えようと思う人が少なかったことなど、「競争上の課題」が存在していたのだ。

楽天モバイル Rakuten Hand/実売価格2万円

 

これらは確かに解決すべき問題なのだが、それをシンプルに「高い」と置き換えてよかったのか。競争をより活性化し、選べるサービスや提供元を増やしていく施策を導入すべきだったのに、今回は政府からの圧力という形で、大手3社が20GBプランを軸に値下げする流れになった。結果として、安価なプランが世の中に出るのは早くなったものの、競争環境としては非常に厳しいものになった。大手3社が安価なプランを提示してしまったため、結果として、楽天モバイルとMVNOなどが「価格で勝負」するのが難しい状況になってしまったのだ。

 

電気通信事業者などの業界団体であるテレコムサービス協会・MVNO委員会は、1月19日に開催された総務省の有識者会議「接続料の算定等に関する研究会」において、MVNO向けの接続料や音声卸料金の引き下げを要望した。これは実質的に、MVNOからの「降参宣言」だった。早急に大手3社から携帯電話回線を借り受ける際の価格を大幅に引き下げないと、3社の「20GBプラン」などに価格で対抗するのは困難だ……という要請だったからだ。

 

もともと総務省の計画では、2020年からの3年で、MVNOから大手携帯電話事業者への「接続料」を、2019年度比で半分にする計画だった。だが、菅政権下で「値下げ」が急がれた結果、3年を待っていては事業が成り立たない、という話になったのである。楽天モバイルとMVNOは、価格面でしばらくかなり厳しい立場に置かれる。なかなか簡単ではないことだが、価格以外で戦うか、企業体質を変えてさらに低価格で戦うか、という選択を迫られそうだ。

 

大手の値下げは、そのくらい各社に大きな影響を与えた。では、大手3社は赤字覚悟で価格を下げているのか、不公正な料金設定を打ち出してきたのか、というとそうではない。ちゃんと裏付けはある。そして、それこそが、今後の携帯電話事業に大きく影響する点であり、今回の「価格以上の目玉」であり、各社の今後の差別化ポイントでもある。

 

それはどういうことなのか? 次回のウェブ版で解説したい。

 

 

 

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