デジタル
2021/2/5 7:00

【西田宗千佳連載】政府からの圧力の前から、水面下で進んでいた「大手3社の若者争奪戦」

Vol.99-3

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、
「携帯料金値下げ」。携帯電話料金事情に楽天モバイル登場以来となる大きな変化が起きようとしている。

 

今春の大手3社による携帯電話料金値下げの中核となるのは、「データ量20GB・月額料金2980円」のプランだ。正確には、KDDIの「povo」は月額2480円なのだが、まあ、まずは同じグループと考えていただきたい。

 

各社とも20GBというデータ量になったのは政府側が「20GB」を名指ししたから、という側面がある。一方で、各社のプランは、20GB以外にも似た側面を持っている。それは、どれも「若者向け」「オンライン専売」の形を採っている、ということだ。

 

従来、大手3社は自社の「携帯電話販売店網」を使って契約・サポート・販売促進を行ってきた。だが、実際に店舗を運営するのはほとんどが販売代理店であり、彼らに支払う「顧客獲得に伴う費用」の大きさは、携帯電話料金になって跳ね返っている。MVNOの多くが低価格を打ち出せるのは、大手3社ほどの規模がなく、販売代理店契約がそこまで重荷にならないからだ。

 

オンライン専売になるということは、携帯電話販売店網に頼らない・頼れないという意味であり、そのぶんコストが下がる。結果として、サポートに価値を感じる法人や高齢者は対象にしづらい。

 

一方で、携帯電話事業者はすでに「顧客獲得競争」が難しい状況にある。携帯電話契約が日本中の家庭に行き渡り、収益拡大の柱だった「完全な新規顧客獲得」は困難になっていたからだ。

 

となると、他社から顧客を奪うしかない。ではどこから奪うのがいいのか? そのまま行けば長期顧客になる可能性のある若者が独り立ちするタイミングがベストだ。若者ならネット専売に対する拒否感も小さいだろうし、「データ量が小さすぎず、高くもない」プランに惹かれるだろう。従来、安価なプランを作る場合は「データ量を少なくして安くする」のが定番だったが、それでは若者ニーズは満たせない。

 

特にここを狙ったのがNTTドコモだ。ドコモはシェアトップでありながら、若者層に弱い。ここ数年は新規顧客獲得数でも利益率でも、KDDIやソフトバンクに負けている。逆転を狙うなら弱点である若者を狙うのが一番。だから「ahamo」を作ったのである。

 

KDDIも負けてはいない。彼らの「povo」は、KDDIが若者層をターゲットにするうえで課題となっていた「料金の複雑さ」、「他社との差別化」の面を解決したプランになっている。割引サービスなどはないが、最初から月額2480円と安い。「トッピング」と名付けられたオプションを使わない場合は、通話料金が他社より高い計算になるが、若者は「電話回線での通話」はあまりせず、LINEなどで通話することが多いため、問題としては小さい。

 

ソフトバンクも同様に、自社傘下に入るLINEの価値を最大限生かせるものとして「SoftBank on LINE」を開発した。

 

実はどれも、政府に言われたからすぐにできうような料金プランではなく、年単位での検討が行われていたもののようだ。「オンライン専売」はメリットもあるが、顧客に混乱をもたらす可能性があるし、場合によっては、長年築き上げてきた販売店網の再編にもつながる。新たなシステム構築も必要で、当然検討には時間を要する。

 

各社は裏で、若者をターゲットに顧客獲得競争のための準備をしていたのだ。政府の圧力がなければもう少し高いものになったかもしれないし、こんなに早く発表されることもなかったかもしれないが。

 

では、新「20GBプラン」は我々の生活にどのような影響を与えるのだろうか? そのあたりは次回のウェブ版で解説する。

 

 

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