デジタル
2021/3/31 19:15

米中摩擦、そして自動車産業との半導体の取り合いがPS5に影響

Vol.101-2

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「PS5の品不足」。欲しい人になかなか行き渡らない、その背景にある“原因”はいったい何なのか?

 

 

PlayStation 5(PS5)やハイエンドGPUは、買いたくても市場にあまりない状態がつづいている。一義的には、こうした製品が人気であることが品不足の理由である。PS5は製品自体の魅力から人気があるし、ハイエンドGPUは、ゲームよりむしろ仮想通貨(暗号資産)のマイニングを目的に買われている。

 

もちろん本来なら、需要に合わせて増産されるのが基本である。だが現状、ハイエンド半導体を生産する台湾・TSMCの生産ラインのキャパシティはいっぱいであり、短期での大規模増産は難しい状況にある。

 

なぜそうなっているのか? ひとことでいえば奇妙な玉突き現象の結果である。遠因となったのは、米中摩擦の激化だ。

 

2018年まで、半導体業界は好調に沸いていた。だが2019年以降、アメリカ政府が対中制裁を強化したことから、変化が生まれた。特に影響が出たのは、2020年9月以降本格化した、中芯国際集成電路製造(SIMC)に対する制裁である。

 

といっても、SIMCが、ハイエンドGPUやPS5に使われるようなハイエンド半導体を作っていたわけではない。SIMCが作っているのは、技術的にはこなれた28nm(ナノメートル)から65nmというプロセスルールによる車載向け半導体が中心である。

 

これにより、現在、自動車向け半導体の分野では、PS5やハイエンドGPUと同様に「半導体不足」が深刻化している。各自動車メーカーが、自動車自体の生産量を減らさねばならないほどの、過去に類を見ない状況になっているのだ。

 

 

ソニー・インタラクティブ エンタテインメント PlayStation 5/実売価格5万4978円

 

だが、前述のように、SIMCはハイエンド半導体を作っていない。それならPS5やハイエンドGPUには関係してこないように思える。なのになぜ、SIMCが作っていないようなハイエンド製品まで影響を受けるのか? それは、SIMCに製造委託できなくなったぶんを、TSMCが作らざるを得なくなったからである。

 

TMSCはあらゆる半導体の製造を請け負っている。ハイエンド製品が差別化の中心であり収益源でもあるが、世の中にあるのはハイエンド半導体でできた製品ばかりではない。むしろ数だけで言えば、こなれたプロセスで作られるもののほうが多い。

 

一方、ハイエンド半導体以外の生産ラインについては、積極的な拡大が図られているわけではない。投資効率で言えば、ハイエンドに投資し、それが次第に古くなって一般的な製品向けになっていくのが好ましいためだ。結果、稼働率が落ちていた古いラインを自動車のために回し、ハイエンド半導体向けのラインは維持、という方向になっている。

 

ただ、TSMCはあらゆる方向から半導体を求められるゆえ、これではまったく需要が追いついていないのである。

 

また、ハイエンド製品であっても、電源関連やメモリまわりなどは、すべてがハイエンド半導体ではない。自動車向けと同じようなプロセスで作られる部品もあり、ここは自動車との取り合いが発生している。CPUだけでなく、すべての部品が足りなければ、結局製造はできない。

 

では、その深刻さはどのくらいなのか? 解決の方法はあるのか?  そのあたりは次回のウェブ版で解説していく。

 

 

週刊GetNavi、バックナンバーはこちら