デジタル
2021/4/30 16:30

高校でも“1人1台”の時代に突入 『GIGAスクール構想』で教育現場が変わる!

1人1台の学習端末所有を骨子とする『GIGAスクール構想』。小学校、中学校に続き、今年度から高校でも本格的なデジタル学習がスタートしている。

そこで、ICT環境の導入によるシステム上のメリットをはじめ、教育現場での活用例や現状抱えている問題点など、1年前倒しされて開始された高校向け『GIGAスクール構想』の現状を学研プラス社の文教担当者に伺った。

 

今までデジタル学習への取り組みを行なっていた“現場を知る人”の話だけに、教育ICT環境の現実的な部分が見えてくるはずだ。

 

生徒と教員をつなぐ「学習eポータル」準拠のプラットフォーム

現在は、2019年度より採り入れられた“探究学習”をはじめ、高校の授業内容の変化・深化が進み、生徒はもちろん、教員からもICTの活用が期待されている状況。必要となるのは、情報の共有や利活用がしやすい“学習のハブ”だ。

 

↑高校教育コンテンツ事業部で“学習eポータル”を担当する田中宏樹さん(左)と教材編集室の室長を務める志村俊幸さん(右)に、ICT環境導入の現状についてお聴きした

 

「探求学習は、以前アクティブラーニングと呼ばれていたもので、単純な暗記ではなく、自身で考えて能動的に学ぶことができる授業のこと。例えば古地図を見て“この庄屋の生活として考えられることは何か”といったように、正解が書かれていないものを調べ、自分で考えて答えを出すというものです。この例でいえば、地図上にある倉に年貢として集められた米が保存されていたのではないかとか、そういったことが考えられるわけですね。ただし、これだけでは知識と想像止まりです。ここにICTが加わると、文化遺産として現存している屋敷や倉の様子を調べる、検索で異なる見解を見つける、専門家へと連絡してコメントをもらうといったことまで実現できます」(志村氏)

 

「現実世界と知識を結び付け、自分事として扱うというのが、従来との大きな違いでしょう。小学校や中学校ではこういった傾向がありますが、高校ではもう少し踏み込んだところ、例えば世界が取り組むべき課題に対し、調べながらレポートを作成するとか、問題点を洗い出すとか、それらをまとめてプレゼンする、といったことが考えられていそうです。グループ内の議論やデータの取りまとめなどで“学習eポータル”が活用されれば、教員があとから議論の中身をチェックでき、どの生徒がどんな役割をしていたのかの把握も可能になります」(田中氏)

 

このように、教科書の中で完結していた学習と違い、外部からの意見を採り入れたり、新しい情報を検索で探せるというのがICTが得意とする部分だ。そして最終的な答えだけでなく、その過程まで共有できる学習のハブとしての役割が“学習eポータル”に期待できる。

 

「こういった学校での学習はもちろんですが、それ以外でもICTは期待されています。そのひとつが、留学。本来であれば海外へ行くような学ぶ意欲の高い人たちが、コロナ禍によってその道が閉ざされてしまっています。こういった人向けに、世界の人たちとつながれる場所、また、海外の専門家と直接やり取りできる方法として、ICTが活用できるのではないでしょうか」(田中氏)

 

【ミニコラム01】

『学習eポータル』とは?

ICT環境導入のメリットは、データが収集しやすく、学習や生徒指導、校務などの効率をアップできる点だ。とはいえ、ただデータを集約すれば良いというわけではない。一定のルールに沿ってデータを記録することで、手軽にデータを分析したり、利活用したりといったことが可能になる。収集するデータのルールを定めるのが文部科学省の提唱する『学習eポータル』だ。児童生徒・教職員・学校の基本情報をまとめた“主体情報”、学習内容を記録する“内容情報”、出欠や成績・評価などの“活動情報”の3分野に区分される。全国の学校や児童生徒の属性など、共通化することが目的だ。

 

生徒の状況を“見える化”することで、効果的な指導を実現!

ICT導入の大きなメリットとなるのは、生徒の状況を“見える化”できること。学習の進捗状況や生徒の行動を把握でき、学力の向上や生徒指導なども、生徒個人に合わせて、より効果的なアドバイスが可能になる。

 

「ある高校生が数学の成績で悩んでいるといった場合、過去の宿題の提出状況とか、テストの結果などと突き合せれば、どこで悩んでいるのか、何が問題になっているのかを教員が見つけやすくなります。漠然と“勉強しろ”というだけではなく、より効果が高く、生徒に寄り添った指導ができるようになるわけです」(志村氏)

 

ICTの活用は、生徒の状況を“見える化”することで、問題点を見つけるまでの時間を大きく短縮できるのがメリットだ。今まで以上に的確な指導ができるようになるため、全体レベルの底上げや優秀な生徒のさらなる能力向上も見込めるようになるだろう。

↑ビジネスシーンでは、さまざまな情報をデータ化して記録をとり、そのデータを元に作業の効率化や製品開発の方向性などへフィードバックするのが常識に。今後は教育機関でも同様のデジタルトランスフォーメーション(DX)が求められる

 

一方で、教材や教育コンテンツとしてデジタル学習が増えていくと、プリントや資料の配布準備といったものが必要なくなり、教員の負担が軽減されていくことは想像に難くない。そうなれば、生徒と向き合える時間がさらに増えるだろう。

 

また、デジタル学習で期待されていることのひとつが、配信を使ったリモート授業だ。

 

「以前から配信を使った授業、学習を行なうというのは言われてきていましたが、普及はせず、足踏みしている状態でした。この理由は簡単で、日本では通える範囲に学校があるというのがほとんどで、必要性がなかったからです。海外では学校に行こうとすれば移動だけで半日かかるとか、冬場は雪で閉ざされてしまうので通えないといった地理的問題があり、こういった生徒向けに通信を使った教育が普及してきました。日本ではコロナ禍の影響で学校へ通えなくなってリモート授業の必要性が高まり、多くの現場で急遽導入されるようになりました」(志村氏)

 

ただし多くの場合、教員の工夫や努力による部分が大きかったのも事実。ソフトやサービスの選定から機器の用意まで、保護者の協力を得ながらなんとか実現したというところも少なくなかっただろう。

 

しっかり環境が整ったプラットフォームが導入され、1人1台学習端末が行き届くようになれば、こういった準備の苦労をすることなく、授業ができるようになるのだ。

↑以前に取材した埼玉県の『学校法人塩原学園 本庄第一高等学校』では、すでに“1人1台”環境を実現し、リモート授業も対応。加えて、校務の効率化にも活用され、教員をサポートしているという

 

【ミニコラム02】

“高校GIGA”を視野に入れた教育機関向けのソリューションが登場

ICT導入やデジタル学習におけるメリット、デメリットを多くあげてきたが、運用が軌道に乗れば、教員の負担が減り、授業や生徒への指導に割ける時間が増えるというのは間違いないだろう。そこで注目したいのが、NECの教育クラウドサービス『Open Platform for Education』だ。

↑今年2月に機能強化された『Open Platform for Education』。“探究学習のサポート”や“オンライン進路相談”など、高校教育に役立つ機能を実装されるという

 

従来までの提供していたデジタル教科書や教材の利用に加えて、新たに文科省の『学習eポータル』へ対応。学習履歴の確認や分析などを前提とした仕組みを取り入れている。

 

また、設定したテーマに対して専門家や識者なども交えて議論ができる“探究学習のサポート”、社会人や大学生と面談することで将来の目標をより具体的にできる“オンライン進路相談”など、今後、教育現場で必要になる強化が図られている。

 

今後、本格的にICT環境の導入を検討している高校は、チェックしておきたいソリューションだ。

 

事前の準備や対策で、ICT導入直後のトラブルは回避できる

ICT導入といっても、生徒に情報端末を配れば完了ではない。情報端末を活用できる環境を整えられなければ、スタート地点にすらたどり着いていないことになる。環境とは、インターネットへ接続可能なネットワーク設備、コンテンツの用意、情報端末のセットアップ、利用マニュアル、トラブル対応できる人材など、多岐に渡る。

 

こういった点を考えると、Wi-Fi環境の構築と管理ができ、教員の情報端末操作をサポートする仕組み……いわゆる“情報システム部”が欲しくなる。学校ごとに数人常駐させるというのが理想だが、予算や人材面を考えれば不可能に近い。どうしても一部のわかる教員が頼りにされ、負担が大きくなってしまいがちだ。

↑企業では、専門の部署を設けたり、アウトソーシングしたり、ICT環境の構築やメンテナンスは切り分けるのが常識。教育機関では、それらを一般の教員が兼務していることが多く、なおざりにされるケースも

 

ここで問題となるのは生徒の端末だ。今年度からスタートした、高校向けのGIGAスクール構想では、生徒の端末は“BYOD”が前提となっている。BYODとは“Bring Your Own Device”の略称で、生徒が使う情報端末は保護者が用意し、それを学校に持ち込んで利用するという方法。このBYODのメリットは、情報端末の予算を保護者が負担するため、1人1台のICT導入コストが抑えられることだ。

その反面、教員がカバーしなければいけないデメリットは大きい。

 

「共通の情報端末でも操作に困るというのに、生徒それぞれがOSもメーカーも性能も違う情報端末を持ってきた時、対応できる先生がどれだけいるでしょうか。トラブルがあった場合の原因切り分けすら難しいでしょう」(志村氏)

 

パソコンのサポートが本業の人でも、利用したことのない端末をサポートすることは難しい。再起動するだけでも、電源ボタンの場所がわからず、手間取ることもある。ましてや、ICTが触れる機会の少ない生徒や保護者、そして教員である。無制限に端末を持ち込めば、授業の妨げになりかねない。

 

「こういったデメリットを考えると、メモリーが4GBでCPUがセレロンといった低性能パソコンでもいいから、確実に学習コンテンツが使える共通の情報端末を全員に配る方がよいでしょう。もちろん、小学校から高校まですべて同じにする必要はありませんが、せめて、学年で使う機器を統一する、もしくは、数機種に絞って選べるようにすると運用しやすいでしょう」(志村氏)

↑ビジネスシーンでも、同じタイミングで導入されるパソコンは統一されているのが一般的。いくつかの種類から選べる場合もあるが、BYODのように個人の端末をメインマシンにすることは稀なケースと言える

 

たとえ“1人1台”環境が実現できたとしても、それを十全に利用できる環境を用意できないのであれば本末転倒だ。とはいえ、高校向けの『GIGAスクール構想』は、本年度からスタートしており、待ったなしの状況になっている。ICTのリテラシーが高い担当者を用意できないのであれば『Open Platform for Education』などのような、統合型のソリューションの導入を検討したほうがよいだろう。

 

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