デジタル
2022/2/9 18:30

【西田宗千佳連載】ソニーがEVで目指すのはPlayStationのようなビジネスモデル

Vol.111-3

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは2年ぶりに発表されたソニーのEV「VISION-S」。ソニーはどのようなビジネスモデルを展開するのか、解説していく。

↑2020年のCESで発表されたソニーのVISION-S(右)と、今年1月のCESで発表されたVISION-S 02(左)

 

自動車メーカーはなにをやって儲けているのだろうか? 言うまでもなく「自動車を売る」ことだ。

 

だが、そこに付随するビジネスはあまりにも多彩で、非常に強固で複雑な構造ができあがっている。なぜなら、自動車は危険な乗り物だからだ。

 

非常に便利だが、万一事故が起きると、自分だけでなく他人にも被害が及ぶ。それをカバーするには「保険」が必要になる。また、自動車が常に安全かつ正常に走るには、「メンテナンス」が欠かせない。修理が必要になった場合には、その場所に速やかに移動して修理工場などへ持ち込むための「ロードサービス」も必要だ。

 

そしてもちろん、それらの事態に対応するには、もともと安全性などの面で基準をクリアした自動車を開発する必要があるし、そのサポートについても、迅速な対応が求められる。

 

自動車メーカーになるということと、家電メーカーである、ということは大きく違う。自動車メーカーは、自動車とその周辺を取り巻くエコシステムを維持する、それぞれの企業と関係を作り、素早く対応できる体制を整える必要が出てくる。それも、国ごとにだ。制度も文化も違うので、「日本で自動車を売ったらアメリカですぐ売れる」という話ではない。この辺も、家電よりずっとハードルが高い。

 

自動車に関連する産業は、長い期間をかけて現在のような姿に醸成されたものだ。そのため、自動車に関するすべての周辺ビジネスを「自社傘下だけ」でカバーしているメーカーはいない。

 

もちろん、自動車会社傘下には、保険会社もメンテナンス会社もあるが、それらを使わなくてもいい。カーディーラーから自動車を買ったら、あとは自分で選んだ保険会社と修理会社に依頼する形でもいいし、昔であればあるほど、「バラバラに選ぶのが当たり前」という部分があった。

 

だが、いまは変わりつつある。カーディーラーは自動車の購入者との関係をできるだけ長く保とうとし、保険やメンテナンスの窓口も担当する。自動車の中には通信モジュールが入り、メンテナンス状況や故障の兆候などを判断し、カーオーナーとディーラーに伝える仕組みを持っている。自動車も「顧客と関係を継続する産業」になっているのだ。

 

EVではそれがさらに拡大するだろう。エンジンオイルがなくなる分メンテナンス収入は減るが、ソフトウェアのアップデートからバッテリーの寿命に伴う交換まで、顧客との接点は別のものができる。

 

では、それらを「有料のサービス」とし、収益の軸にするとしたら?

 

ソニーが考えているのはこれだ。自動車のメンテナンスやアップデートを「購入者向けの会員制」とし、有料で提供することで、自動車を「売り切り」ではなく「リカーリング」(継続型)ビジネスの起点とすることを考えているのだ。

 

現在のPlayStationは、ハードウェアを購入したのち、さらに会員サービスである「PlayStation Network」への加入を消費者に促す。有料プラン加入者にはさまざまな付帯サービスを提供することで、ゲームハードの売上に加え、ネットワークサービスからも収益を得ている「リカーリング」モデルになっている。さらに、ゲームハードも赤字で売る期間はできるだけ短くし、製品ライフサイクル全体で見れば、ほとんどの期間を「ハードからも利益が得られる」形としている。

 

ではこの構造において、ゲーム機を自動車に置き換えるとどうだろう?

 

自動車向けの通信も、ソニーの考えるEVには必須のものになるから、会員制サービスに含めてもいい。自動車の中で流す映像は? ソニーがそのサービスを提供してもいい。それらを「定額・使い放題」にしたとしても、自動車向けの各種サービスとセットにしてそれなりの単価をつけられるなら利益は高くできる。ソニーグループ傘下には保険会社や銀行もあるから、保険とローンまでまかなえる。

 

家電以上に「顧客と長期的な関係を築ける製品」として、自動車は非常に有望なのである。

 

では、ソニーは自動車会社としてどのようなシェアを確保できるのだろうか? さらなる将来展望は? その辺は次回解説する。

 

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