Vol.111-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは2年ぶりに発表されたソニーのEV「VISION-S」。ソニーは今後どのようにEVを展開していくのかを考察する。
ソニーが自動車メーカーになるとして、彼らはどのくらいの台数を作って、どんな規模の「自動車メーカー」になることを目指しているのだろうか?
ここははっきりしない。だが、いきなりトヨタにはなれないし、SUBARUやホンダにもなれないだろう。
ソニーには自動車生産ラインがない。EVを作るならそれを用意する必要があるのだが、自動車の生産経験を持たないソニーには、自分たちだけで自動車工場を作り、生産に乗り出すのは不可能だ。試作車である「VISION-S」の開発では、自動車製造の大手であるオーストリアのマグナ・シュタイアがパートナーとなった。市販車でもマグナ・シュタイアがパートナーかはわからないが、必ず「生産パートナー」が必要になる。
だとすると、いきなりさまざまなラインナップのEVを幅広く作る……というのは無理がある。まあ、「生産パートナーとしてトヨタがソニーモビリティに出資」といったことになれば話は別なのだが、それはそれでまた別の議論になる。
ソニーは自動車メーカーとして実績がない。だが、「ソニーブランド」の実績はある。そう考えると、安価な軽自動車的EVからの参入ではなく、コストの高い、差別化された「特別な車」からの参入になるのではないだろうか。
国内の大手自動車メーカーのようなシェアを確保するのは難しいが、スポーツカーの専業メーカー、たとえばポルシェやフェラーリの規模を小さくしたような路線はアリだろう。ひょっとすると、初期には製造台数も少なく、販売路線の関係から、世界でもごく限られた地域での販売となる可能性だってある。
では、ソニーモビリティは「小さい特別な自動車メーカー」のままいくのだろうか? これは難しい。やはりそれなりの規模を持つ世界的なメーカーへと成長することを狙っているのではないだろうか。
しかし、そうなるのはすぐではない。さらに経験を積んだのちのことになるだろう。
その頃には技術開発も進み、ドライバーが関与しない自動運転「レベル4」も実現している可能性がある。
そうすると、自動車の中の居住性をあげ、「車内のAV品質がいい」「車内をオフィスとして使える」などの付加価値も高くなってきそうだ。
そのときこそ、ソニーが自動車に全力を出せるのかもしれない。すなわち、自動車がEV+自動運転全盛の時代となり、今までの車の形・内装にこだわる必要がなくなったときこそ、家電メーカーの本領が発揮される……と予想することもできるわけだ。
それは最低でも、まだ10年は先の未来だ。
だが、自動車開発は家電のそれよりも時間がかかる。入念なテストも必要だ。時には規制当局との話し合いもしなければいけないだろう。
だとしても、そうした未来が「いつかは来る」のは間違いなく、その未来がやってきてから準備しても、既存の自動車メーカーや多数の新興企業に敵わない可能性が高い。
だからそこソニーは、「変化が素早い」と読み、今からEV事業に参入すると決めたのだろう。
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