Vol.115-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはAmazonが発売した大画面の「Echo Show 15」。スマートホームの課題に対して、Echo Show 15はどうアプローチしているのかを解説していく。
スマートホームの最大の問題点は「難しいこと」だ。適切に機器が連動するように設定するには、それなりの知識とインスピレーションがいる。特に、複数のメーカーの機器を混在して使う場合、その扱いはなかなかわかりづらい。
このことはAmazonも以前から問題視している。
現在は「簡単セットアップ」「フラストレーションフリーセットアップ」として、Amazon側にWi-Fiなど自宅の設定データを蓄積しておき、検出した機器に転送する仕組みも生まれている。
だから監視カメラのように、自社にブランドがあってそこと連動する場合にはいいのだが、他社製品だと、ライトやスイッチなどをちょっと組み込むだけでも、慣れない人には困難が伴う。そもそも、Amazon以外の「スマートホーム・プラットフォーム」を使っている場合も含め、機器の互換性や設定が複雑になっていくのは避けたい。
そこで、Amazonだけでなく、アップルやGoogleも参加する「Matter」という規格が立ち上がった。Connectivity Standards Allianceという業界団体が取りまとめており、どのメーカーの製品でも、Matter対応が謳われている機器ならば、バーコード読み取りなどで簡単に接続設定が終わるようになることを目指している。
だからといって、いきなり全部が簡単になるわけではないだろう。スマートホームのやっかいなところは、単に機器をつなげばいいわけでなく、「この部屋で自分は機械になにをして欲しいのか」「どんなことを自動化すると便利なのか」という想像力を働かせる必要がある点だ。
ある意味家作りであり、部屋作りなので「それが楽しい」というところもあるのだが、管理も含め、もうちょっと簡単に発想できるようになる必要はあるだろう。
Echo Show 15について、米Amazonのハードウェア担当者に話を聞いたとき、彼は「家庭での掲示板」に加え、「スマートホームの管理に便利」と説明していた。声だけで、脳内で機器を操作するよりも、ビジュアルで機能が並び、必要なら指でタップしてコントロールした方が楽だからだ。
タッチ操作していくことは、ユーザーの自然な生活に合わせてコンピューターの価値が生まれる「アンビエント・コンピューティング」の理想から離れているように思えて、ちょっとした矛盾も感じる。
しかし確かに、大きな画面を「家庭内の管理端末」とするのは理にかなっている。ここからAIによる応答の機能がさらに改善されていけば、もっと「アンビエントらしい」動作になっていくのかもしれない。
以前、日本の家電メーカーは「テレビがスマートホームの中心になる」という考え方を持っていた。だが結局、日本メーカーは連携する機器も作れなかったし、エコシステムも構築できなかった。
「大きなディスプレイをスマートホームの軸にする」という発想自体は間違いではなかったのだが、結局、エコシステムを作る能力を持っているAmazonが、その発想を現実のものにした……というところだろうか。
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