デジタル
2022/8/9 10:45

【西田宗千佳連載】ソニーのINZONEは「ゲーマーに認めてもらう」ことを目指す

Vol.117-3

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は、ソニーのゲーミングブランド「INZONE」について解説。ソニーが持つ強みをどう活かしているのかを見ていく。

↑ソニーが6月に発表したPCゲーミング向けオーディオ・ビジュアルデバイスのブランド「INZONE」

 

ゲーミングPC向け製品市場の特徴は2つある。

 

ひとつは、「完全な個人向け」。家族と共有するものではないし、どれが良いか、という判断は“欲しい人”自身が決める。高額な製品は家族全体でシェアすることが多いが、趣味性が高いものは話が変わってくる。カメラはその最たるものだが、ゲーミングPCやその周辺機器も似ている。重要なのは、購入する個人の好み・目的への合致だ。

 

2つめは、オンラインでの購入比率がほかの商品以上に高いこと。ごく少数のゲーミングPCに強い店や専門店を除くと、品物を店頭に置いている例は少ない。いかにオンラインで訴求するかが重要な市場だ。その場合には、どちらかといえばスペックと価格のバランス、いわゆる「コスパ」重視になりやすい。

 

ソニーはこうした市場に、比較的価格の高い製品を投入してきた。理由は、ゲーミングPC関連市場を「良い製品を支持してくれる市場」と判断してのものだ。

 

たとえばPCディスプレイ。ビジネス向けは完全に価格勝負になっており、高価格なものは一部の「クリエイター向け」だけになっている。だが、遅延を短くし、画質にもこだわったものを「ゲーマー向け」として売った方が、市場規模は大きく単価も高くなるし、なにより、しっかり注目してもらえる。

 

テレビは家族と相談しないと買えないが、趣味のゲーミング・ディスプレイはまた別。従来ならなかなか成立しにくかった、「個人向けの高価なディスプレイ」という市場が、ゲームを軸にして成立するようになってきたというわけだ。

 

もちろん、同じようなことはどのメーカーも考えている。しかし、そこではやはり、「ソニー」というブランドと画質に対するノウハウは有利な要因になる。

 

ヘッドホンも同様で、過当競争の感があるスマホ・オーディオ向けとは違う市場で、同じノウハウを活用した製品を売ることが、市場開拓につながる。

 

ただし、ソニーには弱みもある。

 

AV機器やPlayStationブランドでの知名度はあっても、ゲーミングPCの世界では新参者、という点だ。ゲーマーの世界はゲーマー同士で、この10年ほどで市場が醸成されてきた。遅延や操作性などで、ゲーミングPCならではの要素が多く、評価は「ゲーマー」というインナーサークルにいないと高まらない。

 

ソニーとしては、今年出した初代モデルは、「自信作でもあるが、ゲーマーへの挨拶でもある」ようだ。これが受け入れられるかどうかで、来年以降のビジネスも決まる。同社は今年ヒットしなければ、という考え方ではなく、「ここからどうゲーマー内部での評価を高めるか」を考えているようだ。

 

では、もうひとつの「ゲーミングPC市場」に取り組む日本メーカー、NECパーソナルコンピュータはどう市場を攻めようとしているのだろうか? その点は次回解説する。

 

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