デジタル
2022/10/20 11:15

【西田宗千佳連載】お絵描きAIが「イラストレーターやカメラマンから仕事を奪う」ことはない

Vol.119-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、キーワードを入れるだけで高精細なイラストが描けるAIサービス。これらのサービスによって、一部では仕事が奪われるのではないかという懸念があるが、どうなのだろうか。

↑デヴィッド・ホルツ氏が開発した画像生成AIサービス「Midjourney」。Discord上でAIにどのような絵を描いてほしいかをキーワード、または文章で指示すると数分で非常に高精度な絵を生成することができる。トライアル版は25枚までの画像生成が無料で、有料版は月額10ドルから利用が可能

 

絵を描くAIが生まれたことで、我々は大きな衝撃を受けた。出来上がった絵があまりに印象的だったからだ。7月にMidjourneyが公開されたばかりの頃は、特定のテイストのイラストに偏っていたが、その後、Stable Diffusionの登場によって絵の幅がイラストから写真までぐっと拡大。さらに競い合って絵を描くための「命令」(呪文、と呼ばれたりもする)のノウハウが広がっていくと、描かれる絵のバリエーションも増えていった。

 

絵を描くのが苦手な人々(筆者もそうだ)にとって、文章から望みの絵を作れるというのはとてもありがたいことである。一方で、「イラストレーターやカメラマンの仕事を奪うのでは」「著作権的に問題が出るのでは」「フェイク画像が作られるのでは」といった懸念も生まれている。

 

仕事を奪う、という話については、筆者は楽観視している。

 

ポイントは2つある。「AIで作られた絵がどこに使われるのか」という点と、「その絵は結局誰が描かせるのか」という点だ。

 

個人が楽しみのためにAIで描くのは、もうまったく問題ない。一方で「仕事」と考えたとき、いわゆる「作品」としてのイラストや写真の価値を奪うか、というとそうではないように思う。

 

理由は「属人性」だ。作品・仕事としての画像を考えるとき、そこには「誰が作っても良いもの」と「作った人が重要」なものがある。我々が認識するのはたいてい後者だ。そちらはAIに描かせると「誰が作ったのか」という意味づけが失われるので価値が減る。

 

そもそもAIで絵を描くには、どういう絵を描かせるのか、明確なイメージを文章で示す必要がある。イメージ化は文章で行うのであっても、絵が描けない人より、絵を描く能力を持っている人の方が有利。絵を描ける人は脳内にイメージを持っており、それを手作業で形にしているようなものだ。

 

だとすれば、ある程度の部分をAIに描かせ、不自然な部分や足りない部分、自分がより強く主張したいところを「手作業で描き足す」方が、良い絵を作るにはプラスとなる。すなわち「ツール」として捉えると、絵を描くAIは「絵を描ける人の方が活用できる道具」でもあるのだ。

 

一方で、「なんとなくここに絵が欲しい」という場合、作った人物よりも内容とコストが大切になる。クリップアート集やフォトストックを使うのはそういうときだ。日本だと「いらすとや」を使う例が多いが、そこではいらすとやであることよりも「すぐ使える」「いろいろある」ことが重要になる。フォトストックも同様だろう。

 

9月21日、フォトストック大手のGetty Imagesは、AIで描かれた映像・画像の登録を一切受け付けないことを発表した。フォトストックはまさに、「なんとなくここで画像が欲しい」ときに使われる存在。AIが描いた絵については、著作権の所在をどう判断するかが面倒であることと同時に、彼らのサービスと競合することが問題視されたようだ。

 

フォトストックやクリップアートに作品を提供している人にはマイナスになる要素だが、そうした「属人性の薄いもの」を作っている人は、そもそもプロとしてやっていくのが難しい……という事情もあるだろう。

 

では、権利などの問題は大丈夫なのか? その点は次回解説したい。

 

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