Vol.120-1
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは新型iPhone。機能の進化は控えめといわれるが、Appleがスタンダード機とProとでつけた差と、その狙いは何か。
価格を据え置きつつバリューの向上に注力
スマートフォンの進化がスローペースになってきた、というのは以前から指摘されてきたことだ。Appleは特に今年、そのジレンマで苦しんだことだろう。
今年の新製品である「iPhone 14」シリーズが直面していた課題は数多くあるが、特に大変だったと思われる点は2つある。
1つ目はコストだ。iPhoneはこの3年ほど、アメリカでの売価を据え置く形で進化してきた。中身は高度化しなければならないので、コストは高くなる。しかも今年は過去にないペースで円安が進み、日本でのiPhoneの売価は例年より高くなっている。これはアメリカを除くほかの国でも同様。高い商品は売れづらくなっているので、例年以上に“価格は上げずにバリューを上げる”ことが求められるようになった。
2つ目が半導体製造の事情だ。プロセッサーの性能を上げるには、半導体製造技術を進化させる必要がある。しかし今年は、Appleが生産を委託するTSMCの半導体製造プロセスが進化の端境期にあり、性能向上の幅が小さくなると予想されていた。すなわち「プロセッサーの性能が上がって速くなりました」という魅力の訴求は、例年よりも控えめにせざるを得ない。
そのうえで今年のiPhoneはどうしたのか? 簡単に言えば、「上」と「下」でラインナップの考え方を変えたのである。
スタンダードモデルとProの差がより明確に
スタンダードなiPhone 14は昨年モデルとの差が小さい。毎年iPhoneを買うファンよりも、“数年に一度スマホを買い替える人”、すなわち、より広い層がいつでも選べる製品に仕上げたのだ。スマホは以前のように、誰もが発売日に買うものではなくなった。2年から4年のスパンで必要なときに買い替える人が増えている。スタンダードモデルには、そのような人に向けた製品という役割が大きくなっているわけだ。
しかも中身を見ると、設計変更を積極的に行い、低コスト化と修理の簡便化に注力しているようだ。逆にいえば裏技として、購入価格を少しでも抑えたい人は“あえてiPhone 13を選ぶ”という選択肢もある。
また、昨年まであった「mini」がなくなった。小型モデルは人気が伸び悩んだためか、今年は6.7インチディスプレイを使った「Plus」が登場した。“Pro Maxは高いが大画面は欲しい”層を狙ったのだろう。
一方で「Pro」は、厳しいなかで今年搭載できる差別化パーツを組み込む方向になった。イメージセンサーが大型化したことや、常時表示対応のディスプレイパネルに変更されたことなどは、そのわかりやすい例と言えるだろう。
そのため今年は、例年以上にスタンダードモデルとProモデルの間で、性能の差が大きい年になった。もしかするとこれからもそういう路線になるのかもしれない。そのなかで「iPhone SE」が出るとすれば、“さらに割り切ってコスト重視のモデル”になる可能性が高い。
では今回、Appleが未来に向けた布石として用意した機能は何なのか? iPhoneのシェアは今後どうなっていくのか? そういった部分は次回解説していく。
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