Vol.122-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはマイクロソフトが自社PCで採用し始めたARM系CPUの話題。Appleシリコンを含め、現在のCPU勢力図を解説する。
ノートPC向けとして性能が高く、消費電力が低く、完成度が高いプロセッサーはなにか?
以前であれば、かなり議論が分かれたことだろう。だがいまは「Appleシリコンを使ったMacである」という点を否定する人は少ないのではないか。
実際そのくらい、MacはAppleシリコンの世代になることで完成度を上げた。スマートフォンに近いアーキテクチャを採用したうえで、高帯域なバスで接続されたメインメモリーをCPU/GPUで共有するUMA構造を採用したM1・M2は、現状のノートPC向けとしては非常に優れた存在である。
そのため、「AppleシリコンはARMベースだから快適」「ARMだから消費電力が低い」と言われることも多い。
だが、それは少々違う。
CPUがx86系の命令を使っているのか、それともARM系の命令を使っているのかは、消費電力にはさほど影響していないことが知られている。
AppleシリコンはARMだから優秀なのではなく、構造が優秀なのだ。また、ハードもソフトも自社で最適化を進めており、結果として快適な製品ができあがっている。
AppleシリコンでMacが良い製品になったのは喜ばしいことだ。だが、世の中Macだけがあればいいわけではない。ほかのPC、Windowsをベースとした製品の価値をどう上げていくか、ということも同様に重要だ。
現状、消費電力の制約が小さい“ハイパフォーマンス”領域では、MacよりWindowsのほうが有利だ。最高性能のGPUとAppleシリコンに搭載されているものを比較すると、NVIDIAやAMDのGPUの方が性能は高い。
ただ、PCの主力はノート型であり、日常的な利用での消費電力の低さも重要になっている。すなわち、性能の高さと消費電力の両立が重要になっているわけだ。
すでに出荷が開始されている第12世代Core iシリーズ(開発コード名Alder Lake)は、以前に比べ性能が向上し、消費電力面でも改善が見られる。だが、搭載ノートPCの発熱を含めた快適さでは、もう一歩進歩が必要だ。
2023年前半に本格的な出荷が始まる次の第13世代は、性能向上が著しいと予想されている。ゲームやクリエイター向けの作業では、いままでの世代に比べ2割から4割のもの性能向上が見込まれている。ただ、消費電力の面ではさほど変化はなさそうだ。
そうすると、ノートPC向けの本命はさらに次、第14世代となる「Meteor Lake」かもしれない。こちらもプロセッサーとしては2023年の出荷が予定されているものの、ノートPCの形で世の中に広がるのは、2024年以降と考えて良さそうだ。
Meteor Lakeはプロセッサーを作るための半導体プロセスと、半導体チップをプロセッサーとして作り上げる「パッケージング技術」を大きく変えるため、大きなジャンプアップになる可能性がある。だから、2024年以降のPCはかなり商品性が変わってくる可能性はあるわけだ。
とはいえ、実際の性能がどうなるかチェックして内容がわかってくるまでには、まだ1年半近くかかる可能性があるわけで、“そこまで待っていられない”人もいそうだ。
というわけで、マイクロソフトは、Surface Pro 9を製品化するうえで、「性能重視・保守的な市場向け」にインテルCPUを搭載したモデルと、「省電力とモバイル通信重視」のARM版(クアルコムとマイクロソフトの協業によるSQ3搭載)を作ったのだと思われる。
では、ARMプロセッサーを搭載したWindows PCの現状はどうなのか? その点は次回解説する。
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