先ごろ、一般家庭でも利用されているスマートTVがサイバー攻撃受けて、ウイルスに感染し被害が出ているとの報道がなされました。
従来のウイルスはパソコンに感染し、データを流出させたり、パソコンが使用できなくなるなどの症状が一般的でしたが、ここにきてスマート家電に代表されるIoTデバイスにも感染するウイルスが確認され、警戒や対策が必要になってきたのです。
では、具体的にスマートデバイスがウイルスに感染する仕組みや、感染を防ぐためにどのような対策を取ればいいのかといったことを、セキュリティソフト大手・トレンドマイクロの森本 純さんに伺ってみました。
――IoTデバイスがウイルスに感染してしまう仕組みを教えて下さい。
森本さん(以下敬称略):その前にIoTをご説明しましょう。IoT(Internet of Things)は、文字通り「すべてのモノをインターネットにつなげる」ことで、具体的にはテレビや冷蔵庫、照明や体組成計など様々です。
家電製品をインターネットに接続するとどんなメリットがあるのか。例えば、外出先からスマホを使ってテレビ番組の予約や照明を点灯させたり。体重や健康管理もスマホやパソコンでできるようになります。
また、家電メーカーに製品の使用状況などを送信することにより、製品開発や性能向上といったことに活用されるので、メリットは大きいです。将来的には、患者の健康状態をデータ送信し、最適な投薬を行う自動投薬機器などもIoTによって実現するかもしれません。
――IoTのメリットはわかりました。ではデメリットはあるのでしょうか?
森本:先ほど話したとおり、IoTはインターネットを通じてデータを送受信します。これは、世界中からサイバー攻撃の標的にされる可能性を秘めていることを意味しています。インターネット上を流れるデータは常に脅威にさらされているといっても過言ではありません。
――なぜIoTがサイバー攻撃の標的にされてしまうのでしょうか?
森本:ひとつは、IoTの分野はまだまだセキュリティが考慮されていない点があることに起因します。パソコンのようにセキュリティソフトが存在しないIoTデバイスは、セキュリティのリスクが潜んでいると言わざるを得ません。
――IoTデバイスがウイルスに感染するとどういう症状や被害が出るのでしょうか?
森本:実例として報告が上がっているのが、スマートTVがランサムウェアに感染し、警告画面が表示され続けてテレビが見られなくなる被害です。ランサムウェアとは、身代金を要求する不正プログラムで、画面をロックしてしまったり、スマートTVが見られなくなるなどの被害が発生します。
――IoTデバイスはどういう手段でウイルスやサイバー攻撃の侵入を許してしまうのでしょうか?
森本:パソコンの場合は、ウイルスに感染したファイルを開いてしまったり、実行したりすることでウイルスに感染するのが一般的です。一方、IoTデバイスは「ファイルを開く」といった操作ができないため、安全に思えます。しかし、スマートTVなどはアプリのインストールが行えますので、不正なアプリのインストールによりウイルスに感染したファイルの侵入を許してしまう場合があります。
また、IoTデバイスにはファームウェアと呼ばれる制御用のソフトウェアを更新する必要がしばしばあります。通常、ファームウェアはメーカーのサーバーからダウンロードされるので安全といえます。しかし、家庭内のパソコンやIoTデバイスをインターネットに接続する「ルーター」が不正プログラムによって攻撃を受けてしまうと、ファームウェアのダウンロード先を攻撃者のサーバーに書き換えられてしまい、不正プログラムをダウンロードさせられてしまう被害にもつながります。
――では、IoTデバイスをサイバー攻撃から守るにはどうしたら良いでしょうか?
森本:IoTデバイスはパソコンのように、セキュリティソフトで対策することができません。また、前述の通り、ルーターが不正プログラムによって攻撃されてしまう被害もあります。よって、ご家庭のネットワークをまとめて守るソリューションが必要になります。弊社では、「ウイルスバスター for HomeNetwork Security」という製品を発表させて頂きました。こちらも、ご家庭のルーターに接続するだけで、ホームネットワークに接続されているすべてのIoTデバイスを保護することが可能となります。
――そのほかに対策はありますか?
森本:インターネットを通じて、送信して良いデータかそうでないかをユーザー自身が見極めることです。例えば、体組成計の場合、年齢や体重のデータが盗み見られても実害はほぼないといえますが、住所や名前など個人情報につながるデータの取り扱いには注意が必要です。IoTは医療やフィットネスなど、有用な利用方法が期待されているため、危険視ばかりが先行するのも問題です。しかし、投薬の量や種類などがのぞき見され、さらには不正プログラムによって、投薬量を書き換えられてしまうと人命に関わる事態に発展するので、データの取り扱いには特に注意しなくてはなりません。
――ありがとうございました。
森本さんが提唱するIoTデバイスを脅威から守る方法は主に以下の2点ということを覚えておきましょう。
1.ホームネットワークを守るセキュリティ製品を導入する
2.IoTデバイスから送信されるデータが適切かどうかを見極める