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2017/3/31 19:59

あべ静江「コーヒーショップで」のマスターのように定点観測で見えてくる“人の移ろい”

ギャランティーク和恵の歌謡案内「TOKYO夜ふかし気分」第12夜

みなさんこんばんは、ギャランティーク和恵です。明日から4月で新年度がスタートですね。ワタシの仕事においてはまったく関係のない節目ではありますが、お店やライブに来てくださるお客さんのなかには、東京から地方へ転勤される方がいたり、地方から上京される方もいらっしゃったりと、ワタシにとっても新しい出会いと別れの季節でもあります。

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↑ギャランティーク和恵さん(撮影:下村しのぶ)

 

新宿・ゴールデン街にあるワタシのお店「夜間飛行」も今年で10年を迎えようとしており、この10年もの間に色んなお客さんがいらっしゃいました。新宿が職場になったのをきっかけに足を運ぶようになった人、ワタシという歌手の存在を知って興味を持って足を運んでくださった人、たまたま入ったら常連さんと話が合ってそれからウチの店に懐いてくれた人、それぞれ色んなきっかけでお店に足を運んでくれるようになりました。その逆もあり、職場が変わってお店から遠のいた人、体調を崩してお酒が呑めなくなった人、別の店が行きつけになった人、ワタシという歌手に飽きた人、ワタシと喧嘩した人(わ、なんか恨み言みたいになってきた……)、大なり小なりの理由で足を運ばなくなった人もいます。

 

【今夜の歌謡曲】

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提供:ポニーキャニオン

12.「コーヒーショップで」/あべ静江

(作詞/阿久 悠 作曲/三木たかし)

 

早速ですが、今夜ご紹介する歌謡曲は、あべ静江さんの「コーヒーショップで」です。この曲は、古くから学生街に喫茶店を構えるマスターが、長きにわたって学生の移り変わりを眺めているというもの。当時、ガロの「学生街の喫茶店」や、岩崎宏美さんの「学生街の四季」など、70年代には学生街をテーマにした歌謡曲がいくつかあり、さらには、井上 順さんの「お茶の水えれじい」、沢たまきさんの「初めての日のように」、江口有子さんの「お茶の水あたり」などのように、青春のたまり場の象徴として「お茶の水」という街がよく描かれています。あべ静江さんの「コーヒーショップで」で描かれている喫茶店は、作詞の阿久 悠センセーによると「特定の場所ではない」ということですが、なんとなくお茶の水あたりを想像してしまいます。

 

そのコーヒーショップのマスターは年老いていて、恐らく何十年という長い間、春が来るたびにこの街から旅立っていく学生たちを見送り、そして新しくやってくる学生たちを迎え続けている。時代が変わろうとも、学生たちの顔ぶれが変わろうとも、マスターはその喫茶店のカウンターの中で、ただただその人の流れを「定点観測」し続けているのです。そして、昔の学生はこうだった……と話もするし、けれどもいつだって若い子はイイものだ……とも言う。そんなマスターの話を聞きながら、主人公は特に涙ぐむわけでもなく、マスターの似顔絵を描いて心を休めているというひと時を歌った歌なのですが、その何気ないひと時の描写の中に、時の流れや人の移ろいの儚さ、そしてそれを受け入れるマスターの静かな孤独を感じ取ることができます。

 

ワタシも夜間飛行というバーのママをやっていると、水商売とはよくいったもので、お客さんが新しくやって来てはいつしかいなくり、そしてまた新しくやってきて……と、まさに川の流れのようなものだな、と実感します。その流れというのは、お客さんそれぞれの人生であり、その合流地点にたまたま「夜間飛行」という水門があって、ワタシはその門番としているだけなのです。いつかまたその流れがどこかへ流れていこうとも、ワタシはただ見守るのみ。もしその水門を閉じてお客さんの流れを止めようものなら、水は濁り、腐ってしまうように、お店もどこか不健全なものになってしまうのではないかと思うのです。だから、どんなに大切なお客さんでも、いつかはいなくなってしまうんだろうな……、といつも心のどこかで覚悟しています。

 

「歌手」という職業も同じことがいえると思います。ワタシの歌を好きでいてくれる人たちが、この先もずっと好きでいてくれるか……それだって繋ぎとめられるものではないし、だからこそまた新しく好きになってくれる人も現れる。そうやってお客さんが流れていることも、健全な状態だと思ってます。人の気持ちの移ろいだって、決して繫ぎ止めることは出来ないのです。「コーヒーショップで」のマスターの場合は、4年間という学生の限られた時間があるなかでの寂しさや諦めがありますが、ワタシの場合はそのような限られた時間があるわけではないので、長く足を運んでくださる常連さんや、ずっと応援してくれるファンの方もたくさんいて、だからこそありがたく、幸せだなと思ってます。

 

水商売はお客さんを待つのが仕事。人気商売はお客さんを飽きさせないのが仕事。自分に会いにきてくれる人たちを待ち構える人生というのは、多くの人に恵まれることでもあるけど、結局は孤独です。それでも、ワタシという「定点」に集ってくれる人たち同士が楽しく過ごしているのを眺め続けていられる、そんな人生がワタシには性に合ってるような気がします。でも、いつかはどこかへ行ってしまうんだろうな……なんて思っていながらも、気づけばお互いジジィババァになってて、カウンターでしつこく顔を付き合わせてるような常連さんもきっといるんだろうな……。「アンタまだココに来てんのかい!」なんて憎まれ口ききながら、その人の酒飲み人生までも定点観測できちゃうこの仕事も悪くないな、なんて思う春うららな今日の頃です。(←無理やり春につなげる)

 

 

<和恵のチェックポイント>

1973年にリリースされた、あべ静江のデビューシングル。作詞は名匠・阿久 悠センセー。時代の流れや人の心の移ろいを阿久 悠センセーならではの視点で描く。この詞の凄いところは、主人公がマスターに感情移入をしていないところだと思います。そんなマスターが淋しそう、とも言わないし、素敵だ、とも言わない。主人公はただ、マスターの似顔絵を描いて心を休めてるだけなのです。それが、この喫茶店に静かに流れている古くからの時間や人々の移ろいの気配を際立たせ、どこか儚さを感じさせているように思います。それにしても、「かれた似顔絵」という表現が気になるところです。目の前の老人相手に「かれた」とはないだろう……と。随分な言い方ですなぁ。そして「なぜか心を休めてる」の「なぜか」という表現も不思議な感じがします。なんか腑に落ちない消化不良な感じでモヤモヤするのがこの曲の特徴です。

 

作曲は三木たかしセンセー。石川さゆり「津軽海峡冬景色」や、テレサ・テン「時の流れに身をまかせ」などの大ヒットを生み出した作曲家でもあり、わらべ「もしも明日が」や、伊藤咲子「乙女のワルツ」など、アイドルへの楽曲提供も多くある方です。1972年に流行ったガロの「学生街の喫茶店」を意識してるのかな? というクラシックのようなメロディですが、それがあべ静江の澄んだ裏声の美しさと相性がいい。澄んだ裏声といえば、天地真理を思い浮かべますが、天地真理の声には心が洗われるような純粋さがある一方、あべ静江の声には隠しきれない女のしたたかさが感じられます。だから、真理ちゃんだったらこのマスターの前で涙を流したりするんだろうけど、シーちゃんの場合は涙を流さず「かれた」似顔絵を描くのです。そういう意味でよく出来ている歌だと思います。

 

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(撮影:下村しのぶ)

 

【INFORMATION】

星屑スキャットワンマンライブ

4月16日(日)に、恵比寿アクトスクエアにて星屑スキャットのワンマンライブが開催されます。今回はお食事をしながらテーブル席でゆっくりとお楽しみいただけるスペシャルなライブとなっております。昼・夜の2回公演です。

星屑ディナー2017

星屑ディナー2017

2017年4月16日(日)

@アクトスクエア(恵比寿)

<時間> 昼/12:00開場 13:00開演 夜/16:30開場 17:30開演

<料金> S席 1万3000円(お土産付き) A席 9800円

出演:星屑スキャット

(ミッツ・マングローブ/ギャランティーク和恵/メイリー・ムー)

チケット:3月11日よりチケットぴあにてチケット発売中

(Pコード:327-490)

 

星屑スキャットの配信シングル「半蔵門シェリ」

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ギャランティーク和恵さんが、ミッツ・マングローブさん、メイリー・ムーさんと結成した音楽ユニット・星屑スキャットの約1年半ぶりとなる ニューシングル「半蔵門シェリ」が、配信限定で3月31日にリリースされました。

 

iTunes Store、着うた、レコチョクなどの音楽配信サイトにて好評配信中です!

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