エンタメ
2016/2/8 20:30

Netflixのドキュメンタリー「Making a Murderer~殺人者への道~」は噂どおりの出来で、一気に見ちゃいました

全米で大反響を巻き起こしたクライムドキュメンタリー

殺人者への道 予告編 – Netflix [HD]

全米で大きな注目を集めるクライムドキュメンタリー最新作。18年間服役し­た後にDNA鑑定で無実を証明されたスティーヴン・エイヴリー。自由の身となった彼の­周辺で新たな殺人事件が発生する。10年もの歳月を費やして、事件とその数奇な運命を­追ったNetflixオリジナルシリーズ。全10話。

 

本作は本国アメリカで大きな話題を巻き起こしたドキュメンタリー。10年間にわたる、ある犯罪(というか、権力との戦い)の記録で、タイトルも原題を意訳すれば「殺人者に仕立て上げられるまで」というものです。

全10話のほとんどが法廷や検証シーン。あとは殺風景な街並みや稼働していない倉庫、検察官が着るスーツのダークな色、色あせた昔の写真、老いた母の泣き顔…それだけでもしんどいのに、一市民が権力から嵌められ、犯してもいない罪をかぶせられ終身刑を言い渡されたら……? 残念なことにこれはドキュメンタリーなので、画面に映る不愉快さは全部実物なのです。実際、その嵌められた、という視点で描かれています。

 

ウィスコンシン州の貧しい田舎町で起こった事件

ウィスコンシン州マニトワック郡の貧しい田舎町で、自営業者で多少裕福だったため周囲に溶け込むことなく、コミュニティから一線をおいていたエイブリー家。その息子スティーブンは、小金持ちの家の子によくあるように、若い頃はヤンチャで不法侵入や恐喝など、軽犯罪での前科アリ。そんなスティーブンが1985年にレイプの容疑(これといった物証なし!)で逮捕され18年も服役したものの、 DNA解析によりそれが冤罪と判定されたところからこのドキュメンタリーは始まります。

「保釈は罪を認めること」と冤罪確定まで無実を訴え服役し、正義を貫いたヒーローとして祭り上げられるスティーブン。冤罪に苦しむ人を助ける団体イノセント・プロジェクトの協力もあって、2003年の冤罪確定後に郡や警察・検察の責任者を相手に3600万ドルの慰謝料を請求する訴訟を起こし、州では「エイブリー法」という名前を冠した法案まで可決されたほど。

 

今度は殺人事件の容疑者として逮捕される

そんなスティーブンが、家に取材にやってきた情報誌の女性記者テレサ・ハルバックを殺害した疑いで再び逮捕されたのは出所後まもなく。賠償訴訟により警察や検察、裁判所の腐敗があらわになってしまい面子を丸つぶれされたことで、権力側が結託してスティーブンを陥れたのではないか? という、視点(2人の監督の)で描かれているのがこの作品の特徴です。

殺人容疑事件の家宅捜索が行われた間、家族全員は犯行現場と言われているガレージだけでなく自宅からロックアウト。つまり、その間の偽装工作は自由自在……というわけです。なぜか、スティーブの寝室から殺されたテレサの車の鍵が出てきたり、採取された血痕はのちにかなりグレーと判定されたり……。

そんな時、16歳の甥・ブレンダンが「スティーブンと一緒にテレサを殺した」と名乗り出てしまいました。ブレンダンは体格こそ大きいものの知能の発達に遅れがあり、弁護士無し・たった一人で、誘導尋問する気満々な取り調べを受ける様子が本編中でも公開されますが、どう考えても抗えるものではありません。果たして、スティーブンとブレンダンの行方は?

裁判の展開が気になって、ノンストップ視聴は確実!

法廷の様子はもちろん、取調室での録画まで公開されている、日本では考えられないドキュメンタリーに、ドキドキが止まらず「ノンストップ視聴」は必至です(1話が終わるころには、もう次が見たくてたまらない! そして10話イッキ見!!!)。

実はわたくし、裁判傍聴が好きで、一時はひんぱんに東京地裁・高裁に通っていました。本物だけが持つ迫力があの小さい個室(よくテレビに映る104号など、大きい法廷は大事件で使われるのみ)にはぎっしり詰まっていて、そこらの映画やドラマよりよっぽどハードコアだからです。

凶悪なリンチ殺人の冒頭陳述では、その手口の生々しさに吐きそうになったり、エロDVDの窃盗事件では、お堅い検察官が1本ずつ「人妻〜」とか「痴女〜」とかタイトルを読みあげる(証拠品なので)のに吹き出しそうになったり…。性癖までも人定されるこの恥ずかしさはものすごい犯罪抑止力になるのではないか? と密かに思っています。中学校の社会科見学にぜひ加えるべき

ほんと、日本でも裁判の様子がノーカットで見られる作品があればいいのに。それこそもうネット配信の時代なんですから。

 

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文/上杉久代:イラストレーターなどとして活躍。最近の日本エンタメ界には山城新伍成分が足りないのではないかと危機感を抱いている中年女子。