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2017/9/21 13:30

ROVOの勝井祐二が“音”を意識した作品を語る! 「Talkin’ Loud & Sayin’ Music」Vol.5

音楽評論家の小野島 大さんとゲストが選ぶ優れたレコーディング作品を高音質で聴きながら、その作品の魅力や音へのこだわりについて語るトーク・イベント「Astell&Kern×disk union presents Talkin’ Loud & Sayin’ Music」。そのタイトル通り、ポータブルプレイヤーのハイエンドブランド「Astell&Kern」とディスクユニオンによる共同イベントとなります。その第5回は昨年、結成20周年を迎えたダンスミュージックバンド「ROVO」のメンバーで、音楽家/ヴァイオリニストの勝井祐二さんが登場。勝井さんが考える優れたレコーディング作品について、熱いトークが繰り広げられました。

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イベントは勝井さんが考える良質な録音作品3枚を「Astell&Kern」の新フラッグシップモデルとなるポータブルプレイヤー「A&ultima SP1000」を通して試聴し、小野島さんが勝井さんに選出理由や魅力について聞いていくという流れでスタート。その3枚についてのおふたりのやりとりをここで紹介しながら、レポートをお届けします。

 

1.ザ・スリッツ「ニュータウン」(『カット』収録)

勝井:子どもの頃から聴いていた曲を選びました。この曲と次に選んだ曲は“これが良い音だな”って意味で聴いてたんじゃなくて、もちろん音楽として好きで聴いてたんですけど、初めて“音”っていうことを意識した作品。

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小野島:歌やメロディじゃなくて、音そのものということですね。

 

勝井:そうですね。構成要素のなかの、音。音があるぞ、みたいな。僕はパンク・ロック世代ですが、ラモーンズやダムドを“これ良い音だな”ってポテンシャルのある音楽としては聴かないじゃないですか、ああいう音楽って当時は。あ、でもクラッシュのファーストは音がスカスカだなと思った。

 

小野島:(笑)。最初に聴いていただくのが、スリッツ。勝井さんは、いろんなところでスリッツが大好きだっていうことをおっしゃっていますね。これは2009年にリリースされたデラックス・エディションのリマスター・ヴァージョンで、そのなかから「ニュータウン」を聴いていただきます。これは1977年の曲ですが、勝井さんはおいくつでした?

 

勝井:13歳ですかね。

 

小野島:ロックの聴き始めの頃ですか?

 

勝井:もうガンガン聴いてましたね。生活の中心でした。

 

小野島:これはバンドの演奏だけじゃなくて、いろんな音も入ってますね。

 

勝井:しかもそれが、テキトーに入ってるじゃないですか。例えばピンク・フロイドの「マネー」にレジスターの音が入ってるのとは違って、意味性のない音っていうのが。

 

小野島:「ニュータウン」にスプーンの落ちる音はあまり関係なさそう。

 

勝井:たぶん、スタジオで遊んでるんだと思う。こんな音がしたら面白い、みたいな。いいな~と思いましたね、これはすっごく。

 

小野島:リマスターされたっていうこともあって、すごく立体感のある音ですね。これはレゲエ・グループのマトゥンビのメンバーで、ザ・ポップ・グループのデビュー作もプロデュースしたデニス・ボーヴェルが手がけているので、彼の力も結構大きいなと。

 

勝井:デニス・ボーヴェルそのものですよね! もちろんスリッツも素晴らしいんですけど、録音作品としては、デニス・ボーヴェル先生そのものじゃないですか。

 

小野島:これは勝井さんが音源を作っていくにあたって、影響のあるものなんですか?

 

勝井:体に沁み込んでるような作品ですね。

 

小野島:音源になると、バンドや歌い手の演奏だけじゃなくて、いろんな部分が音源としての魅力につながってくる。さっきの曲でバンド以外の音が色々入ってるっていうのもそうですけど。そういうことも教えてくれますか?

 

勝井:それもそうですし、いま聴いても感じるのは、普通のロック・バンドの音のバランスじゃないですね。明らかにレゲエのバランスですよね。それも含めて何だこりゃと。あと異常な音数の少なさ。

 

小野島:さっきの話に出たダムドやセックス・ピストルズと比べて、これはどういうふうに聴こえたんですか?

 

勝井:すごく新鮮でした。自由で良いなと思いましたね。ずっとこっちのほうがかっこいいと思いました。ちなみにセックス・ピストルズも音良くないなと思った。

 

小野島:あれは良くないです。ピストルズは当時のAMラジオで流すことを考えて、中域にグシャって固まったかんじの音になってるって。

 

勝井:音詰めすぎですね。

 

2.スティーヴ・ヒレッジ「サーチング・フォー・ザ・スパーク」(『モチヴェイション・ラジオ』収録)

小野島:それでは、同じ77年に作られた2曲目を聴いていただきます。スティーヴ・ヒレッジの3枚目のアルバム『モチヴェイション・ラジオ』から「サーチング・フォー・ザ・スパーク」です。

 

勝井:僕とも親交のあるスティーヴのソロ作です。前から彼の音楽はラジオで聴いてたんですけど、初めて聴いたときはキラキラしてるなーって思ったんですよ。

 

小野島:スティーヴ・ヒレッジとは何度もROVOでも共演されて、一緒にアルバムも作られてますけど、彼はどういうかたなんですか?

 

勝井:素晴らしい人ですよ。

 

小野島:人間的に?

 

勝井:はい。しかもひとりで何でもできちゃう。音楽を作って、録音して、ミックスもして、完成させて、それをプロモーションして、流通させていくっていうことを、全部ひとりでやってますからね。ROVO and System 7というユニットを組んで、2014年にヨーロッパをツアーしたんですけど、その時もブッキングからすべての手配はスティーヴがやってくれました。

 

小野島:スティーヴ・ヒレッジは元ゴングのギタリストで、2枚目の『L』が、トッド・ラングレンがプロデュースしたポップなアルバムでヒットしましたね。

 

勝井:今までのスティーヴのキャリアの中で、『L』が一番売れたんですよね。かなりの大ヒット。トッドによって本当に良くプロデュースされた名盤だと思います。それで成功して、売れて、その次はもっと自分のやりたいことを好きにやろうってことで、趣味性を全開させたのがこの3枚目ですね。

 

小野島:昨日聴いててオッと思ったんですけど、まさにROVOの原型のよう。

 

勝井:影響を受けてるか受けてないかでいえば、バリバリに影響受けてるんですけど、直接こういうことしようって考えてたわけじゃないんですよね。スティーヴの音楽って、子どもの頃からずっと聴いてたので。それが全部体の中に入って、血となり肉となり、体の一部みたいになったという感じですかね。

 

小野島:スティーヴ・ヒレッジがPファンクなどに影響を受けた時期に作ったアルバム。いまの曲はかなりスペイシーで、ROVOに近いような音楽ですけど、他の曲は普通のファンクみたいな曲をやってて、アルバム全体の印象としてはここまでコズミックな感じではない。

 

勝井:そうですね。キラキラした曲を選びました。

 

小野島:これは録音上の特徴というか、こういう録り方をしたんじゃないかって思うことはありますか?

 

勝井:データ的に全部は把握してないんですけど、現在はアンダーワールドの専属PAでFunktion-Oneを開発したジョン・ニューシャムさんという、元々大学で音響工学を学んだ研究者が、どういうきっかけか知らないですけど、この時期にスティーヴ・ヒレッジバンドの楽器テクニシャンになるんですよ。それが音楽業界に入ったきっかけで、ふたりでいろいろ研究してたんだって言ってました。

 

小野島:いまの曲は、特にリズムが入ってくるとゴングっぽくなって、プログレ心を刺激されるような。

 

勝井:スティーヴは海外で言うプロッグ・ロックもしくはスペース・ロック、そう言われるのがすごく嫌だったみたいです。

 

小野島:みんな嫌がりますよね、プログレって。

 

勝井:じゃあ何なんですか? と聞いてみたら、畳みかけるようにして「サイケデリックだ!」って。それはすごく感じますね、いまも。

 

小野島:サイケデリックってヒッピーの思想を受け継いだもの、という意味ですか?。

 

勝井:いや、僕がスティーヴに感じるのは、もっと音楽としての純粋なサイケデリック。あのキラキラ感に顕著に表れてるような。

 

小野島:勝井さんのいうサイケデリックっていうのは、どういうものですか?

 

勝井:サイケデリック・ロックが出てきた時の現場にいたわけじゃないけど、子どもの頃からパンクロックも好きでしたが、いろんなロックの音楽を聴いていて、好きになるのがサイケばっかりなんですよね。ドサイケみたいなのが、すごく好きで。だからスティーヴ・ヒレッジもそのうちのひとつなんです。

 

小野島:ここではない別の世界へ連れて行ってくれるような?

 

勝井:そうです、そうです! 違う次元の扉を音楽で開くっていうか。僕はそれをずーっと聴いて育った。それが血となり肉となって、サイケデリックな感覚っていうのは、スティーヴたちから受け継いでるというか。資質もあると思いますけど。

 

小野島:スティーヴ・ヒレッジとか、その時代にサイケをやってた人たちは、いろんなもの(ドラッグ)食って、その体験みたいなものを音楽で表したいと思ったということなんですかね。

 

勝井:その先にあるものを目指したんじゃないですかね。知覚の扉の向こう側ですよ。ドラッグを摂取してうわーみたいな状態で、音楽を楽しみたいっていうことじゃない。

 

小野島:音楽を作ってる時はしらふの状態?

 

勝井:もちろんそうでしょう。

 

小野島:あの時の別世界に飛ばされるようなコズミックな感覚を、音で表現したいと。

 

勝井:ということじゃないでしょうかね。

 

小野島:サイケデリックな素質が一番表れてるのが、いまかけた曲?

 

勝井:そうですね。そういう感覚の曲が子どもの頃から好きだったんですよね。

 

小野島:いま聴いてみて、ご自宅で聴かれるのと違いはありました?

 

勝井:よりキラキラ感が増してて、いい感じでしたね。

 

小野島:勝井さんの作る音楽は、小学校・中学校の時にスティーヴ・ヒレッジを聴いた経験っていうのがつながってきてると。

 

勝井:そこにサイケっていうひとつベクトルがあるじゃないですか。そういうベクトルのない音楽って作り手のエゴが出てる事が多くて。リッチー・ブラックモアの速弾きみたいな。あれって毎日聴けないでしょ? 聴けます? これは体質だと思う。俺、全然聴けないんですよ。

 

小野島:“俺はこうなんだ!”って主張している人の声を毎日聴けるかどうかということ?

 

勝井:そういうことです。スティーヴはサイケっていうひとつの指針があって音楽を作ってるから、いま聴いたギター・ソロも良いんですよね。ハマってるな~と思って。

 

小野島:作り手のエゴが過剰に出てない音楽?

 

勝井:目指してるものに対して非常にフラットに進んでいるっていうか。

 

小野島:例え話で、ミュージシャンは極端に分けて2通り、“俺はこういう人間なんだ”って主張したいがためにやってる人と、“俺のことはどうでもいいから、俺の作った作り物の世界を楽しんでくれよ”っていうタイプがいると。勝井さんは後者に惹かれるタイプということですか?

 

勝井:ステレオタイプに2つに分けたときに、ガッチリ後者かわかりませんが、少なくとも音楽を作る動機は前者ではないですね。

 

小野島:ロックって、自己主張や自己表現、“俺様!”っていうのを出すような人もけっこう多い。そこに馴染めない勝井少年が、スティーヴ・ヒレッジを代表とするようなサイケデリックな音楽に惹かれていったと。

 

勝井:そうなんじゃないですかね。ほかにはピンク・フロイドのファーストとか。

 

小野島:なんかちょっと曖昧な感じの。

 

勝井:キラキラしてるじゃないですか。

 

小野島:キラキラって言葉が勝井さんから出るのは意外でしたけど。

 

勝井:ディープ・パープルとか全然聴けないんですよね。少し話が外れますが、60年代から90年代のロックはけっこう聴いていて、有名どころ、特にオールド・ロックに関してはある程度網羅してます。でも、自分がすごく好きで買って聴いてるのと言われてみればレコードを1枚も買ったことがないっていうのがハッキリ分かれるんですよね。

 

小野島:勝井さんと私は7、8歳違いますが、私がロックを聴き始めた頃って、まだ歴史が浅かったから、とりあえずビートルズに遡って聴くというのは当たり前の話だった。でも、もっと世代が新しくなると歴史があり過ぎて、昔のものを遡って全部聴くのは不可能になった。だからビートルズを聴いたことがないとか、ストーンズをろくに知らないとか、そういう人が普通にいる。勝井さんはどういうふうに自己形成していったんですか?

 

勝井:とにかく音楽が好きだったので、ありとあらゆる……。スーサイドっていうNYのバンドのヴォーカル、アラン・ヴェガが去年くらいに亡くなって、その時に年を10歳ごまかしてたっていうのがわかって、みんな“え~!?”って。時空がゆがんだっていう事件があった。スーサイドのファーストもすごく好きで毎日のように聴いてたんですよ、中学生くらいの時に。この間久しぶりに最初から最後まで聴いたら、ものすごい音楽だなと。こんなものを毎日中学生が聴いてたら、絶対心に傷を負うなって思いました。で、傷を負ってしまったと思うんですよね。

 

小野島:スーサイドは79年くらいに、NYの深夜のクラブで観ましたよ。ふたりがステージに出てきて、マーティン・レヴがカセットデッキのスイッチをポンと押すんですよ。そしたらオケが出てきて、アラン・ヴェガが転げまわって絶叫してるっていう、ただそれだけのライヴでした(笑)

 

勝井:最高ですね。

 

小野島:NYの人たちはそういう風景を見慣れてるわけですよ。だから特に反応はないんだけど、俺はビックリした。“何だこれは!?”と。こういうのを日常的にやってるNYってヤバいなと、その時思いました。

 

勝井:本質的なヤバさは十二分に持っているとはいえ、あれはちゃんとコンセプトでやってるじゃないですか。パロディとしてのロカビリーみたいな。ドラム、ベース、ギター、ヴォーカルみたいなロックという形態が解体されてて、リズムボックスで、っていう。あの当時NYにいたマルコム・マクラーレンが、そういう要素をいっぱいロンドンに持って帰って、そのイメージをつなげて作ったのがセックス・ピストルズだと思います。

 

3.カール・リヒター指揮「マタイ受難曲」(『バッハ:マタイ受難曲(全曲)』収録)

小野島:3曲目は勝井さんらしくて、非常に幅が広い、ビックリするようなものが出てきます。バッハの「マタイ受難曲」。カール・リヒター指揮による1958年録音。クラッシックをお聴きになる方だったら誰でも知ってる超名盤。

 

勝井:名演中の名演ですね。

 

小野島:あらゆる西洋音楽のなかでベストだという人もいるぐらいの名演。

 

勝井:そうです。そう思いますね。

 

小野島:私はあまりクラシックに詳しくないですけど、そんな門外漢が聴いても、ただならぬ緊張感とスケールを感じます。

 

勝井:宗教音楽ですけど。このくらいのシステムの音量で聴くと、ちゃんと低音が出ていて良いですね。

 

小野島:普段と聴こえ方が違いますか?

 

勝井:コーラスが近く聴こえました。いつもはホールの奥にいる感じで聴こえてるんですけど、いまは最前列まで来たぞ、みたいな。

 

小野島:プレイヤーの音質もあるし、エラックのスピーカーの傾向もあって、中高域が張ってる感じが少しありますね。

 

勝井:そうですね。低音よりも、中高域にアタック感がありますね。

 

小野島:ソースがロックやポップ・ミュージックに近いものだともっと良いと思いますが、いま聴いても十分良い音でした。これは中学校ぐらいの時に聴いていたんですか?

 

勝井:この曲を好きになったのは、大人になってからですね。

 

小野島:ヴァイオリンはいつ頃から始められたんですか?

 

勝井:4歳の時です。父親が、クラシック音楽がすごく好きだったので、習ってました。コンサートがあると、必ず一緒に連れて行ってくれたんですよ。でも眠くて眠くて、この異常な眠さとどうやって戦えば良いんだろうっていう記憶しかないですけど。でもオーケストラの音の中にいるっていう感覚は、子どもの頃から身近にあったんでしょうね。

 

小野島:いまの曲でも、コーラスが広がってくる感じとか、音に包まれる感じとか、聴きようによってはサイケデリックと思えなくもない。

 

勝井:音楽の持つある種の多幸感みたいなもの。受難曲なんで厳しい話なんですけど、これは1曲目ですからいま物語が始まろうとしている段階。イエス・キリストが死ぬ前の話で、明るさもあり、多幸感にも通じるものがありますよね、やっぱり。

 

小野島:原曲はCDだと3枚組でかなり長いですけど、通して聴くと、否応なくキリストの悲劇みたいなものを迎えます。当事者にとっては悲劇だけど、作品になってみると非常に美しくて、聴き手にとっては幸せな体験に成り得ると。この作品はハイレゾでも出ているので、興味がおありになったらぜひ聴いてみてください。ありがとうございました。

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