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2019/2/22 18:00

元祖・清純派アイドル「天地真理」の“愛”と”苦悩”――ギャランティーク和恵が6枚組ボックス「私は歌手」を聴く

みなさんこんにちは! いかがお過ごしでしょうか? ギャランティーク和恵です。「レコードショップ ギャラン堂」、久々のオープンです。え? まだ営業してたのかって? 確かにどのくらいぶりの開店かしら……。気まぐれ営業にもほどがあるわ! と自分で自分を叱りたい気分です。あなたもどうぞ叱ってください。それでも怖い顔ひとつせずに連載を続けさせてくれるGetNavi webの担当の方には本当に頭が上がりません。大好き! GetNavi!

↑ギャランティーク和恵さん(撮影:下村しのぶ)

 

「ギャラン堂」がなかなか開店できなかったのも、昨今のレコードショップ離れという音楽業界における問題と少しばかり関係はあるようにも思えるのですが(大袈裟)、歌謡曲に特化した「ギャラン堂」にとっては、いわゆる“復刻アルバム”や“コンピレーションアルバム”、そして“ゴルベス(ゴールデンベスト)”と呼ばれる類の歌手別全曲集などのリリースが最近少なくなってしまったのも一因かと思われます。リリースされたとしても、未発表曲1曲を入れただけでほかはすべて同じラインナップの全曲集だったりして、iTunesにCDを取り込むと同じ曲が2つも3つも重複するようなことばかりが起こる始末。宇宙のごとく広く深い歌謡曲という資源も、とうとう底を尽きてしまったか……と思わざるを得ないここ最近。そんな出がらし資源再利用系のゴルベスではなく、その歌手や作家に対する深い「愛」によって丁寧に編集された商品であるかどうかが、これからの歌謡曲のゴルベスやコンピレーションCDにおいて大事なポイントになるんではないかと思っています。(何様)

(撮影:下村しのぶ)

 

今回ご紹介するのは、レコード会社の「愛」、ファンの「愛」、家族の「愛」、そして何より本人自身から溢れ出す「愛」によって完成された作品、天地真理さんの6枚組BOX「私は歌手」です。

(提供:ソニー・ミュージックダイレクト)

「私は歌手」/天地真理
2018年12月25日発売
価格:1万円+税(通販限定販売)

CD5枚(100曲)+DVD1枚(18曲) /Blu-specCD2

発売:ソニー・ミュージックダイレクト
企画協力:渡辺音楽出版

特設サイト:http://www.110107.com/s/oto/page/mari_amachi

 

天地真理さんのBOXがリリースされたと聞いて、ワタシから担当の方にレビューをしたいとお願いしました。これがなかったら「ギャラン堂」はいつまでも開店しなかったわ……。大好きな真理ちゃん。ワタシだけでなく、この世の中に存在する多くの真理ちゃんファンはみな、きっと同じ理由で彼女のことが好きなんだと思います。それは、純粋で美しい心の持ち主だということ。その正直なまでに純粋で澄み切った歌声にワタシたちは心が洗われるのです。デビューしてから50年が経とうとするいまもなお、ファンは彼女のこと見守り、ずっと応援しています。まるで、壊れやすいガラス細工を優しく丁寧に包み込んであげるように……。

 

ワタシの見解によると、60年代のアイドル像から70年代のアイドル像への移り変わりにおいて「天地真理」というアイドルは、70年代から80年代のアイドル像の移り変わりにおける「松田聖子」のようなパイオニア的存在だったと思います。60年代に“アイドル”という言葉が生まれてからの日本におけるアイドルと言えば、奥村チヨやちあきなおみや辺見マリだったりの「お色気路線」だったものが、天地真理の出現によって、それ以降の日本のアイドルのプロトタイプとなる「汚れない処女性」を持った新しいタイプのアイドルが誕生したといえます。さらには天地真理の「お姫様のような上品さ」も加わり、大人から子どもまで愛される国民的アイドルになったわけです。ワタシの祖父母の家にも真理ちゃんのポスターが飾ってあったくらいですから、老若男女幅広く愛されたアイドルだったことは間違いありません。

(提供:ソニー・ミュージックダイレクト)

 

天地真理を語る上で外すことが出来ないのが、1974年の紅白歌合戦での「想い出のセレナーデ」の歌唱です。それまでの元気はつらつだった真理ちゃんのイメージとは打って変わり、虚ろげな瞳で心ここにあらず状態で歌う姿が見られます。前年の「恋する夏の日」でテニスボールが飛び交う中ハツラツと歌う真理ちゃん(むしろ躁状態)はそこにはいません。一体真理ちゃんに何があったのでしょう。その真意をワタシは、次から次に出てくるアイドルたちに人気を奪われ、ファンやスタッフが自分から離れていく孤独や絶望などを感じていたのではないかと勝手に想像していました。アグネス・チャンの歌う後ろで応援する時も、みんな白の靴で揃えていたのに、真理ちゃん一人だけ真っ赤なロングブーツでそれこそ心ここにあらず状態でした(本当の理由はブックレットに彼女自身が答えています!)。アイドルが大人へとイメージチェンジを遂げるために、しっとりとした楽曲を歌うという手法はよくありますが、それだけではないあの時の虚ろな表情はきっと、彼女が初の国民的アイドルとして知った絶頂とどん底、まさに「天」と「地」の「真理」を知ったからこそ見せた表情だったのではないでしょうか(上手いこと言う)。

 

ヒット曲といえば「ひとりじゃないの」「恋する夏の日」などがありますが、そういうアップテンポのものよりも、先ほどの「想い出のセレナーデ」や「水色の恋」(「恋は水色」もカバーしてて紛らわしい!)のようなしっとりとした曲調のほうが彼女には合っているし、本人も好きなようです。もともと国立音大付属の音楽学校で声楽科を専攻していただけあり、彼女の持ち味でもある伸びやかなファルセットが活きる歌が彼女の魅力を引き出しています。そして声楽科にいながらポップスへの興味を抱き、当時流行っていたフォークへと音楽の興味が向かった流れでデビューした彼女は、アイドル歌謡というよりは、フォーク・ソフトロック路線の歌手であることが、このボックスのなかの「フォーク・ポップスコレクションvol.1〜vol.2」や「オリジナルソング・コレクション」で聴くことでよくわかります。

↑ボックスに同梱される歌詞ブック(提供:ソニー・ミュージックダイレクト)

 

同梱されている特典ブックレットの「100の質問」コーナーで彼女がしきりに好きな歌としてあげているのが「矢車草」「レインステイション」、そして、さだまさしのカバー曲の「童話作家」「告悔」でした。「告悔」はDISC 3「フォーク・ポップスコレクションVol.2」でライブ音源を聴くことが出来るのですが、これが本当に素晴らしく、真理ちゃんが2小節ほど歌っただけで、ワタシの心はスッとその歌声に引きこまれ、気づいたら目頭は熱くなり、じんわりと涙を浮かべてしまったほどです。彼女がいかにその場にいたファンの皆さんを信じていたか、心を開いていたかが伝わってきます。その頃、彼女に何があったかはわかりませんが、きっとこのステージで彼女がこの歌を歌ったことは大きな意味があったと思います。ワタシも所有しているライブ・アルバム「私は天地真理」の中の「告悔」を歌う前のMCで、彼女はこう言います。

 

「この歌は、神様に自分の気持ちを告げる、みたいな歌なんですけど……とにかく今日私は、この歌を歌いたかったんです」

 

彼女がデビューしてから国民的アイドルとして頂点を極めてから5年ほどのあいだ、たくさん傷ついて、それでも笑顔を作り続けて、守ってくれる人もいなくなって、どれだけ深く悩んだだろうかと思うと心が苦しくなります。そんな辛い時期でのコンサートで、彼女はこの「告悔」の歌詞にその時の心の内を委ねていたのでしょう。周りの大人たちや世知辛い世の中の人々の目から隔離された世界、すなわち信じることの出来るファンと触れあえるコンサートしか、彼女の居場所はなかったのかもしれません。だから、ありのままの自分を受け止めてくれたファンのみんなのことを、真理ちゃんはずっと愛し続けて今日まで生きてこれたのだと思います。そう思わせるのも、ブックレットでの彼女への質問やインタビューには、度々「愛」という言葉が出てきます。

 

最後に、ワタシが1番にお薦めしたい曲は、DISC 4「オリジナルソング・コレクション」の中に入っている「明日への愛」です。歌詞とともに愛溢れる彼女の歌声をぜひ堪能してください。まさにいま、真理ちゃんがこの歌の通りにファンからの「愛」を感じ、人生の喜びを感じながら生きてる姿が目に浮かんできます。

 

真理ちゃん、深く清らかな「愛」をありがとう! そしてワタシたちファンもみんな、真理ちゃんのこと、愛しています!

 

【商品情報】

「私は歌手」/天地真理
2018年12月25日発売
価格:1万円+税(通販限定販売)

CD5枚(100曲)+DVD1枚(18曲) /Blu-specCD2

大ヒットを記録した「ちいさな恋」「ひとりじゃないの」をはじめとする全シングルA面曲、アルバムに収録されたオリジナルの楽曲、さらには倉庫に眠っていたマルチテープから発掘された未発表音源5曲も初収録。さらにDVDにも初商品化映像4曲が収録されたファン必携のアイテムとなっています。

【DISC構成】
DISC 1 コンプリート・シングルA面コレクション
DISC 2 フォーク・ポップスコレクションVol.1
DISC 3 フォーク・ポップスコレクションVol.2
DISC 4 オリジナルソング・コレクション
DISC 5 レア音源コレクション(初商品化)
DISC 6 DVD 真理ちゃんシリーズ・コレクション

【歌詞ブック内容】
1.100曲の歌詞
2.22枚の秘蔵モノクロ・ポートレイト
3.59編のフォト・ニュース
4.ファンからの100の質問
5.4000字本人インタビュー
6.4000字解説

特設サイト:http://www.110107.com/s/oto/page/mari_amachi

 

【INFORMATION】

ギャランティーク和恵さんの未発表新曲2曲を含むオリジナル曲を集めたアルバム「オリジナルコレクション」と、これまで「アンソロジー」シリーズで発表してきたカバー曲のなかから10曲をセレクトした「カバーコレクション」の2枚が3月27日に同時リリースされます。こちらは、3月21日に開催されるワンマンライブ「ギャランティーク和恵LIVE 2019春 筒美京平を唄う 〜10 years later〜」(チケット完売)にて先行発売されるほか、3月22日よりギャランティーク和恵オフィシャルHPショップでも販売開始されます。詳しくは公式HPをチェック!

http://gallantica.com/cd2019.html

 

<収録曲>

「オリジナルコレクション」
1. 輝いてNight Flight
2. 人肌中毒 <2019 new mix>
3. 夜に起きるパトロン
4. あきらめのボン・ヴォヤージュ
5. 果てしなき欲望 <2019 new mix>
6. 十年目の独白(モノローグ)
7. 真夜中のなでしこ
8. 恋のダブルブッキング <duet with 多岐川舞子>
9. 明日は雨
10. もうひとりの私 <2019 new mix>
11. 不眠症のパンセ
12. 夜に起きるパトロン(CHERRYBOY FUNCTION REMIX)

 

「カバーコレクション」
1. マイ・ジュエリー・ラブ
2. 孔雀の羽根
3. 明日の為に微笑を ~愛の讃歌~
4. 煉瓦荘
5. もう海へなんか行かない
6. 茅ヶ崎メモリー
7. 窓あかり
8. クリスマス・イブ・シック
9. ホット・スポット ~One night at Othello~
10. 孤独な旅人

 

ギャランティーク和恵さんがメンバーを務める歌謡コーラスユニット・星屑スキャットのツアー「星屑スキャット TOUR 2019 『あゝ喉仏』」の開催が決定しました。チケットの一般販売は3月2日(土)を予定しています(静岡のみ2月24日)。こちらもお見逃しなく!

<ツアー日程>
【大阪】4月14日(日) なんばHatch 開場17:15/開演18:00 全席指定:¥6500(税込・ドリンク代別)
【東京】4月27日(土) マイナビBLITZ赤坂 開場17:15/開演18:00 全席指定:¥6500(税込・ドリンク代別)
【東京】4月28日(日) マイナビBLITZ赤坂 開場17:15/開演18:00 全席指定:¥6500(税込・ドリンク代別)
【愛知】5月1日(水・祝) 名古屋市芸術創造センター 開場16:30/開演17:00 全席指定:¥7000(税込)
【宮城】5月 4日(土) 仙台PIT 開場16:30/開演17:00 全席指定:¥6500(税込・ドリンク代別)
【福岡】5月25日(土) ももちパレス大ホール 開場16:30/開演17:00 全席指定:¥7000(税込)
【福岡】5月26日(日) 石橋文化ホール 開場16:00/開演16:30 全席指定:¥6000(税込)
【静岡】6月 1日(土) 森町文化会館ホール 開場16:00/開演16:30 全席指定:¥6000(税込)
【千葉】6月 8日(土) 森のホール21 小ホール 開場17:00/開演17:30 全席指定:¥7000(税込)

 

撮影協力:天盛堂(亀戸)