エンタメ
2020/10/19 17:30

まさかの「全身タイツ」で世界33か国を笑いの渦に! コメディー・パフォーマンス・グループ「3ガガヘッズ」の軌跡

全身タイツを着用しての映画の名シーンの再現や、様々な小道具を使った音楽ネタなど、言葉に頼らない独創的なパフォーマンスを武器に世界33か国で1000回以上の海外公演を行い、日本以上に海外から高い評価を得ている2人組コメディー・パフォーマンス・グループ「3ガガヘッズ」。日本にはなじみの薄い国に飛び込んで、現地の学校や孤児院、工場、病院、ショッピングモ-ル、村の広場などで無料ライブを行ってきた3ガガヘッズのトニー淳さんと、正源敬三さんに、海外ツアーを始めたきっかけや、海外でのエピソードを語ってもらった。

(企画撮影:丸山剛史/執筆:猪口貴裕)

初参加の世界3大コメディーフェスティバルで結果を残す

――まず、初の著書『3ガガヘッズの勝手に全身タイツ旅~笑顔を届けた33ヵ国の喜跡~』を刊行した経緯から教えてください。

 

トニー いろんな人に海外ツアーのお話をしていると、他では聞いたことのないエピソードばかりだから、本を出したほうがいいと関係者や友人から言われることが多かったんです。今年、コロナ禍がなければWAHAHA本舗で3年ぶりの全体公演を予定していたんですけど、僕たちも海外公演を始めて10年目の区切りというのもあって、ロフトブックスさんと本を作ろうという話になりました。

 

――約10年間で、世界33か国で1000公演以上をやってきたそうですが、本にまとめるのは大変な作業ですよね。

 

トニー もっと前に出す予定だったんですけど、コロナ禍で様々な予定が延期や中止になったりして、この時期に発売となりました。

 

――どうやってエピソードをセレクトしていったんですか?

 

トニー 正源は日記のようなものを書いていますし、僕は自分たちで撮影した映像の編集をやっているので、お互いに記憶に残っているエピソードをすり合わせていきました。

 

――映像も自分たちで撮影しているんですね。

 

トニー 海外には2人だけで行くので、自分たちで撮るしかないんです。なので、画質も荒いですし、手ブレもしています。本に掲載している写真も全て自分たちで撮影しているので、写真集のクオリティには達していないんです。でも、演出家の喰さん(※WAHAHA本舗を主宰する喰始)とも話したんですが、実際に現地に行って自分たちで撮影している旅のドキュメントだからこそ、そのままのほうが味があっていいのかなと。

 

↑正源敬三さん(左)とトニー淳さん(右)

――世界でツアーをやろうと思ったきっかけは何だったんですか?

 

トニー 2007年に日中国交正常化35周年の記念イベントがあって、WAHAHA本舗で参加しました。当時の僕らは若手でしたがメンバーに入れてもらって、1週間ぐらい滞在して中国でライブをさせていただいたんです。そしたら、ありがたいことに現地の人にウケていると評判になって、それに味を占めて、違う国でもやってみたいねって話になったんです。それで2009年、世界3大コメディーフェスティバルの一つとして知られるスコットランドの「エジンバラ・フェスティバル・フリンジ」にチャレンジしました。

 

――結果はどうだったんですか?

 

トニー 世界中から集まった2000以上の演目の中から、もっとも斬新で独創性に富んだパフォーマーに贈られる賞「マルコム・ハーディー・アワード」に、日本人として初めてノミネートされました。順位で言うと、2000組の中でベスト5に入るようなものだったんです。1年目で評価をいただけたので、周りもビックリしていました。それで翌年、翌々年もチャレンジしたら、少しずつお客さんも増えたんですけど、日本と同じで、現地の大きい番組に取り上げられたりしないと人気が爆発しないんですよ。

 

――「エジンバラ・フェスティバル・フリンジ」自体はどんなイベントなんですか?

 

トニー 町中が劇場になったようなお祭りで、1~2千人のキャパでやっている超有名なコメディアンもいれば、僕らみたいに小劇場でやるコメディアンもいますし、その辺の路上でやるアマチュアもいて、約1か月にわたって公演をするんです。僕らよりも前から参加していたが〜まるちょばさんは、すでに集客がすごかったんですけど、聞いたらエジンバラのためにお金を貯めて、宣伝費や劇場費に注ぎ込んだことで、人気に火が付いたと。

 

正源 どんなに現地でウケても、いいプロモーターがつかないと難しいんですよね。

 

トニー 僕らはお金もないし、そこまで投資もできないので、パフォーマンスだけでなんとかならないかと3年間やったんですけど、爆発的に集客を増やすことはできない。これからどうしようか悩んでいたときに、喰さんから「エジンバラに行くのもいいけど、すごい人たちは山ほどいるから、そこでなかなか評価はもらえない。それよりも普通のコメディアンが行かないような国に行って、どこでもいいからやらせてくれというスタンスでライブをやれば、面白がって注目してくれる人も出てくるはず。だから、そういう方向性で行こう」と言われたんです。僕らも頭打ちだったので言う通りにしましたけど、なんのツテもないですし、最初はめちゃめちゃ嫌でしたね(笑)。

 

――今は嫌じゃないんですか?

 

トニー むしろ今年なんてコロナ禍で行けないほうが苦痛でしたね。2人でよく話すんですけど、2011年から今の仕事のスタイルを始めていなかったら、もう辞めてたんじゃないかと思うんです。それぞれ役者活動などで芸能界には残っていた可能性はあっても、3ガガヘッズ自体は解散していたかもしれないです。そのぐらいやりがいのあることを見つけてしまいました(笑)。確かに詐欺に遭ったり、危険な目に遭ったりと、大変なことも多いんです。でもライブをすると、いろんな人が親身になって助けてくれるんですよ。そういう出会いがあると、この活動を続けてよかったなと実感できるんです。

 

――コースは綿密に決めていくんですか?

 

トニー ほとんど決めないで行きます。

 

――かなり長く滞在するんですよね。

 

トニー 1か国に1か月ぐらい滞在しないと、国の事情って分からないんですよね。地元の人と上辺だけ仲良くなって、次の予定があるので、すぐにお別れする事を繰り返すってことになっちゃうと、普通の海外ツアーと変わらないですからね。

 

正源 ライブだけやりに行ってるわけじゃないですからね。たかだか1か月ではありますけど、できるだけ現地の人や文化に触れたいので、まずは市場に行って、ローカルの食堂で食事をして、交通手段もバスなどの陸路を使うようにしています。

 

トニー 近所の国を幾つか回るにしても、最低10日間は1か国に滞在して、トータルで1~1か月半はいるようにしています。

 

現地の大使館や領事館は協力的

――現地に行ってから交渉事をするんですか?

 

トニー 10年前にツアーを回りだした初期のころはそうでしたね。たとえばアフリカのときは、現地に住む日本人が書いているブログの連絡先にメールをして、「こういう者が行きますので1日だけ会わせてもらってアドバイスをください」みたいな感じで飛び込みで行ってました。でも初日に会う予定だった日本人の方と、現地に着いた途端に連絡が取れなくなったこともあって最初のころは大変でした。ただ、最近は経験値を積んで、僕たちの活動を知ってくれた方も増えたので、大使館や領事館が間に入ってくれることも多くなりました。そうすると身元がちゃんとしたグループだということで、「他の国の大使館も受け入れているんだから、こっちも受け入れよう」と他の国の受け入れ態勢も良くなるんです。

 

――現地でも大使館や領事館は協力してくれるんですか?

 

トニー すごく協力的です。正直な話、現地でライブをやるとウケるので、それを1回見てもらうと対応も変わるんです。そもそも僕らは営業目的でやっているわけではないので、その姿勢を気に入ってもらえて、ライブする場所を紹介してくれたり、ツアー中ずっと同行者を1人付けてくれたり、無料で車を出してくれたりする国もありました。

 

――ツアー中の持ち物はどうしているんですか?

 

正源 とにかくネタで使う小道具が多いので、持ち物は厳選しないといけないんです。

 

トニー ライブ用にバッテリー式のスピーカーも持ち歩いていますからね。あとツアーを支援してもらっている方へのお土産も買っていくので、ちょっとだけ荷物のスペースに余裕があるように選別しています。

 

トニー ぶっちゃけ下着なんて2枚ずつぐらいしか持っていかないです。

 

正源 毎日洗って乾かしてね(笑)。

 

トニー あと3日で破けてしまうような質の悪い安いパンツを現地で買って穿いています(笑)。

 

――小道具が空港の持ち物検査で引っ掛かることはないんですか?

 

正源 小道具で使うマネキンの頭が出てきて、「これは何に使うんだ?」って聞かれたことがあります。

 

――そういうときは「ライブで使うんです」って答えるんですか?

 

トニー それが国によっては「僕たちはコメディアンで仕事をしに来た」というと、「ビザはどうした?」という話になるんですよ。実際、僕らはお金をもらってないから大丈夫なんですけど、説明するのも面倒なので、「現地に住んでいる友達のプレゼントだ」ということにします。

 

バリ島でひっかかった換金所の巧みな詐欺

――お金の管理も大変そうですね。

 

トニー まさにそうです。主要都市はカードが使えますけど、僕らが行く国は、ほとんどが使えないですからね。一応カードも2枚ぐらいは持っていきますけど、基本的には2人で分散して現金を持ち歩いています。

 

正源 僕は移動中に盗られないように、服の中に入れてお腹のあたりに隠しています。ライブ中も荷物が心配ですから、お金だけは肌身離さず持つようにしています。

 

トニー 僕は最悪盗られても大丈夫なように3か所ぐらいに分散させていますね。あとガイドブックなどでは海外でウエストポーチはダメって書いてあるんですけど、僕らからすると絶対にウエストポーチが良くて、ウエストポーチを後ろの腰に付けるのではなく前に回してお腹辺りに付けて、その上に手を置いておくことが一番盗られないんです。

 

正源 赤ちゃんみたいに大切に守れば、ひったくられないですから。

 

――実際に路上などで現金を盗られたことはあるんですか?

 

正源 今のところはないです。

 

トニー でも正源は換金所で詐欺にあったんですよ。経由地で少しだけバリ島に滞在したときのことです。いつもは僕が、できるだけ換金率のいいところを調べて換金するんですけど、その日は僕が現地の方々とコンタクトを取ったりして忙しかったので、正源に5万円渡して換金を頼んだんです。正源が換金して戻ってきたら、日本円に換算して2万5千円ぐらいしかないんです。聞いたら、「ちゃんと数えているところも確認したよ」と言う。でも換金率を聞いたら、あまりにも計算が合わないんです。よくよく聞いたら最後に換金所の人に数えさせて、袋に入れたお金を素直に受けとったらしいんです。そのときに盗られたんですよね。あとで現地の日本人の方に聞いたら、「よくある手で“マジック”と言うんですけど、こっそりお金を机の下に落として、枚数を減らしてから袋に入れるんです」と。そんな分かりやすい方法に引っかかって、のこのこ帰ってきたんですよ。

 

正源 いやー、マジックが上手だった。全然分からなかったもんね(笑)。

 

トニー 僕が確かめるために同じ換金所に行ったら、案の定、同じ手口をやったんですよ。だから無理やり、「自分で数えるよ」と言いました。

 

――いつのことですか?

 

トニー 3、4年前だったかな(笑)。

 

――もう旅慣れているはずなのに(笑)。そういう詐欺って観光地のほうが多そうですね。

 

トニー 仰る通りです。騙し慣れているんですよね。そういうところがたくさんあるらしいので、それだけ日本人は騙されているってことです。だから僕たちはホテルのセキュリティボックスにも貴重品は絶対に預けないです。

 

正源 宿泊先も信用できないんですよ。そもそもバックパッカーが泊まるようなところは金庫もないですしね。

 

トニー 高級ホテルで預けたほうがいいと言われたときは、金庫に入れる瞬間を写真に撮ります。そうしないと、その担当者がいないときに、「預かってない」と言われる可能性もありますからね。現地の知り合いの方に、「ここはいいホテルだし、オーナーも知り合いだから安くしてもらえる」って言われて宿泊したホテルで、腕時計を盗られたこともあります。

 

正源 悲しいですよね。疑っているわけじゃないんですけど、犯人は昨日廊下を笑顔で掃いていたおばちゃんかな? とか思っちゃうんですよね。

 

トニー 紹介してくれた日本人の方に言ったら、「そんなことあったんだ」って笑っていました。日本の感覚だと許されないですけど、向こうの感覚はそんなものなんです。

 

――油断しているほうが悪いってことなんでしょうね。海外での活動資金はどうしているんですか?

 

トニー 自分たちで資金を貯める以外に、事務所も協力してくれて、営業でお世話になったクライアントさんにカンパをお願いしてくれています。それだけでは賄いきれないので、かなり早くからクラウドファンディングの先駆けみたいなことを自主的にやっていました。サポーターをホームページで募集して、支援してくれた方には、現地のお土産や、僕が編集したDVDなどを送っています。毎年、何十人も応募してくれて、「お土産をコンプリートしてます」「DVDを楽しみにしてます」って声も届くのでありがたいです。

 

正源 本当にみなさんの気持ちはうれしいですね。海外で病気になったときのために、薬を送ってくれる方もいるんですから。こういうご時世じゃなきゃ、会ってハグしたいですもん。

 

――コロナ禍でまだまだ先の見えない状況ですが、今後どんな活動をしていきたいですか。

 

トニー これまで通り海外を回るツアーは続けていきますが、国内の小さな島だったり、電車の終着点のような僻地の村だったり、海外でやっていることを日本でもやってみたいですね。あと喰さんとも話しているんですけど、もう一回、前に訪れた国に行って、お世話になった人に会って、どう変わったかを見に行くのも面白いなと考えています。

 

【プロフィール】

3ガガヘッズ

トニー淳(とにー・あつし)、正源敬三(しょうげん・けいぞう)による2人組コメディー・パフォーマンス・グループ。劇団「WAHAHA本舗」所属。2005年結成。日本国内での様々なメディア・イベント出演のほか、彼らの作品の多くが言葉をあまり使わない「ビジュアルコメディー」であることから、2009年より海外ライブツアーを開始、現在までに世界33か国で1000回以上の公演を行い、世界中の大人から子どもまでに、大絶賛されている。2012年のアフリカ6か国ツアーで訪れた、ベナン共和国からは「日本&ベナン親善大使」にも任命され、その功績が認められた。9月7日に初の著書『3ガガヘッズの勝手に全身タイツ旅~笑顔を届けた33ヵ国の喜跡~』(ロフトブックス)を刊行。

また、​期間限定 2020年11月~2021年1月まで「勝手にGoToジャパンツアー」と題して、日本各地に出張して公演をしてくれるツアーを開催。詳細は公式サイトをチェックください。

 

公式ホームページ:https://www.3gagaheads.com/