バキバキに割れた腹筋から“肉体美アイドル”として注目される佐藤まりあさん(フィロソフィーのダンス)。グループ人気が急上昇したことに伴って、最近は同性ファンからも羨望のまなざしで見られるようになった。
トレーニングに目覚めたきっかけは? スタイルを保つために心掛けていることは? ボディメイクに関するこだわりを存分に語ってもらうとともに、途中からはフィジカルトレーナー・足立 光氏も特別に加わって“ワンステップ上の体型管理術”を学んだのだった。
(構成・撮影:丸山剛史/執筆:小野田衛)
キャラ模索の末に苦肉の策
自分はアイドルとして何をウリにすればいいのか──? デビューしてからの佐藤さんは、ずっとこの問題に頭を悩ませていた。アイドル戦国時代と言われるほどグループが群雄割拠し、周りを見渡せば個性豊かで可愛いメンバーばかりが目につく。このレッドオーシャンで自分の存在感をアピールするのは並大抵のことではない。そんな中、ツイッターで見つけた「まりあちゃんって腹筋がうっすら割れているよね」というファンの書き込みに、「これだ!」と飛びついた。自身のキャラ獲得のため、藁にもすがる気持ちだったという。
「昔から運動は好きだったし、わりと得意なほうだったと思います。とにかく勉強が苦手だったので、スポーツしかできない子と周りからは認識されていたんじゃないかな(笑)。アイドルなんて一切興味がなかったし、私服も常にウインドブレーカーでした」(佐藤さん)
小学校5年生になったとき、体育の授業で50メートル走のタイムを計った。すると周りにいた先生や児童たちが「佐藤、速いな!』と目を丸くした。タイムは小5の時点で7秒台。中学に入ると女子で学年1位になった。
「覚えているのは小学校5年生のときに地域で駅伝大会があって、そこで選手になろうと頑張って練習したこと。うちの学校では、駅伝の選手に選ばれるというのはすごくステータスが高いことだったんですよ。それで中学に上がってからは3年間バレー部で汗を流していました。とは言っても、うちは同じ学年の子が4人しかいなくて、相手のミスでしか点が取れないような弱小チームでしたが(笑)」(佐藤さん)
アスリートとしての佐藤さんは、中学卒業を機に終焉を迎える。したがってファンから指摘された腹筋美も、決して狙って作られたものではなかった。しかしキャラとして打ち出すと決めた以上、そこは強化していくしかない。どういう体型になりたいのか、まずは目標を決めることにした。最初に頭に浮かんだのがTWICEのモモさん。「11字腹筋」と呼ばれる縦ラインで知られるK-POP美女である。
「ゴリゴリのマッチョになりたいわけじゃなくて、あくまでも引き締まったお腹を目指したかったんです。それでモモさんのトレーニング法を調べてみると、プランクを繰り返したという記事が出てきたんですよ。最初はやり方もろくにわからなかったですけど、見様見真似で私も頑張ってみることにしました。毎日やるのはよくないという記事も見かけたので、1日置きのペースで自分流のオリジナルメニューをこなして。時間にすると、1回につき30分くらいですかね」(佐藤さん)
同時に食事も見直すことにした。まずは炭水化物をなるべく減らすこと。タンパク質が手軽に摂れるため、コンビニで売られているサラダチキンは非常に重宝したという。一方で天敵となったのは、お菓子類。甘いものに目がなかったが、おやつがどうしても食べたいときは素焼きのアーモンドで我慢する。ここまで語ると、佐藤さんは「でも……」と声のトーンを落とした。「結局、全部が自己流ですから。本当に正しいことをやっているのか、自分ではわからないんですよね」と肩をすぼめる。
「私はジムにも通っていないし、家でもトレーニング器具は一切使っていない。もちろんトレーナーの先生もいません。強いて言えば先生はYouTubeやネット記事ということになるんですけど、インターネットって人によって言うことがバラバラだったりするじゃないですか。そこが今の悩みなんです。たとえばアーモンドにしたってカロリー自体は高いから、本当に太らないか不安。最近はソイ系のプロテインも摂るようになったんですけど、これも正しい飲み方がいまいちわかっていなくて……」(佐藤さん)
アイドルならではの食事の悩み
少し困惑した様子で語る佐藤さんを見て口を挟んできたのは、今回の取材に協力してくれた「ボディプラント六本木」代表の足立 光さんだった。足立さんはプロレスラー・オカダカズチカ選手をはじめとした数々のファイターやアストリートを育て上げてきた肉体改造のトップランナー。ももいろクローバーZやアップアップガールズ(仮)との共演経験も多いため、アイドルのフィジカルに関する悩みも解決してきたという経緯がある。
「プロテインというのは大豆を原料にした植物系と、卵や牛乳を原料とする動物系に分けられます。大豆(ソイ)プロテインは女性ホルモンのバランスを整えるのでお薦めではあるのですが、それだけだと必須アミノ酸が足りなくなるので、理想を言えば動物系も同時に摂ったほうがいいんですよね」(足立さん)
専門家ならではの詳細な解説を聞いて、「そうなんですか!?」と佐藤さんは目を丸くする。返す刀で足立さんは「昔のプロテインは、醬油メーカーが醤油を生成する大豆で作っていた」「それゆえに、牛乳と混ぜてアミノ酸スコアを上げる習慣が特に日本では残っている」「だけど、今主流になっているホエイ(乳清)プロテインはアミノ酸スコアが高いので、水と混ぜるだけでよい」などと矢継ぎ早にプロテインに関する知識を披露。話に夢中の佐藤さんは、すっかり生徒の顔になっている。
「いまだに女性にはプロテインに対する偏見が強い人がいて、『ムキムキのボディビルダーみたいにはなりたくない』と言うんです。だけど冷静に考えてほしいのは、プロテインって日本語に訳すとタンパク質だということ。つまりコラーゲンと同じなんですよね。『コラーゲン=美容にいいもの。プロテイン=マッチョになるもの』というイメージは根本的におかしくて、健康的に美しく身体を作ろうとしたらバランスよくタンパク質を摂るのが正解。プロテイン摂取によって、髪が綺麗になったり肌が瑞々しくなるなどの効果が期待できます。ただ佐藤さんの話を伺っていると、独学ですが結構しっかりした知識を身につけているなと感心しました。何よりも向学心が素晴らしいですね」(足立さん)
褒められたことで、ますますテンションが上がってきた佐藤さん。「肉体改造に関するこだわりを聞く」という当初の取材意図とは異なり、「専門家からの講義」といった様相を呈してきたが、これはこれで学びが多いのでOK! 佐藤さんは足立さんをタジタジにさせる勢いで質問攻めにしていく。
「どのタイミングでプロテインって飲めばいいんですか? パッケージには寝る前に摂取するように書かれているんですけど、それだとさすがに太る時間帯じゃないかと心配になるんです」(佐藤さん)
「プロテインは1gにおけるカロリーが炭水化物の半分以下だし、血糖値が上がらないので脂肪がつきにくいんです。ゴールデンタイムは『朝起きたとき』『トレーニング前』『トレーニング後』『寝る1時間前』というのが原則。ただし最近の研究では、どの時間に摂ってもさほど効果は変わらないというエビデンスも出ているので微妙なところなのですが」(足立さん)
「最近の研究? じゃあ今まで正しいと言われてきたロジックが否定されることもあるんですか?」(佐藤さん)
「それはすごく多い。何かが流行ると、それに対する“逆説論文”の応酬になるのがこの業界の常なんです。たとえば糖質制限ダイエット(=ケトジェニック)って一時期すごく流行りましたよね。だけど今は『糖質を制限しすぎるのはよくない』という意見がトレンドになっている。実際、ケトジェニックだけをやっているオリンピック選手なんていませんしね。エネルギーが足りなさすぎてパフォーマンスの質が落ちます。かつては糖質を全カットするように主張していた人も、今はやんわり路線変更して『ほどほどにしましょう』なんて言っているくらいです。だから結局、『食事はバランスよく食べたほうがいい』という極めて当たり前の結論になるんですよね」(足立さん)
「え~!? それはショックだなぁ。私も糖質制限ダイエットはすごく信じていたのに……」(佐藤さん)
「そもそも佐藤さんの場合、ライブのクオリティが落ちたら元も子もないじゃないですか。だから本来はライブ前に炭水化物や糖質を少し摂るようにしたほうがいいんです」(足立さん)
「逆のことをやっているかもしれない……。私、ライブ前は何も食べないんですよ。お腹を出す衣装を着るから我慢していて。本当はチョコレートとか食べたくなるんですけどね」(佐藤さん)
「糖質の入った甘いチョコレートはいいですよ! 実際、僕はアプガのメンバーにもライブの5分前にチョコレートを食べさせています。血糖値を上げたほうが絶対に集中力は出ますから。なんだったらライブ中も糖を摂ったほうがいいくらいです」(足立さん)
「ライブ中も? 糖分は何で摂ればいいんですかね」(佐藤さん)
「飴とかでもいいんですけど、ブドウ糖でできたデキストロースタブレットとかはお薦めですよ。激しい運動を余儀なくされるライブ中にエネルギーが足りなくなると、身体は筋肉とカルシウムを分解するようになるんです。結局、これがよくない。さらにそれを補おうとしてライブ後に食事をすると、今度は脂肪がつきやすくなる」(足立さん)
「うわ~、まさにそのダメなパターンでずっとライブしていました(苦笑)。『終わった~』って言いながら食べるお弁当が美味しいんですよねぇ」(佐藤さん)
佐藤さんはもともと体質的に太りにくいことに加え、激しい運動量を普段からこなすため今までは大丈夫だったのではないかというのが足立さんの見立て。しかし「ライブ15分前は栄養カロリーバー1本だけでも口にしたほうがいい」と改めて伝えると、「カロリーバー、絶対に食べます!」と固く誓うのだった。
「食事は本当に悩みどころ。私たちのお仕事は時間的に不規則なことが多いし、今はコロナ禍で外食も難しくなっているから、どうしてもコンビニに頼りがちなんですよ。コンビニの商品で身体にいいものは何か、いつも電車の中で調べているくらいです。最近はゆで卵を家で用意して持ち歩きつつ、コンビニではサラダや豆乳やプロテインを買うことが多いかな。あとは中華丼が意外にカロリーは低いとネットで見たので、がっつり食べたいときは中華丼に頼るんですけど……正直、ここらへんも専門家の足立さんに相談したいポイントです(笑)」(佐藤さん)
これを聞いた足立さんは「深夜に中華丼はまったくお薦めできません」と一刀両断。そして意外な一品を「ボディメイクに役立つコンビニ食品」として挙げたのだった。
「コンビニなら、ズバリ蕎麦がいいです。世の中で売られている蕎麦って、そば粉の割合が少なくて実は小麦粉ばかりというパターンがすごく多いんです。チェーン店の蕎麦屋さんでも、そば粉の割合が2~3割なんていうことがザラです。これではうどんやそうめんを食べているのと変わらないんですね。『痩せるために蕎麦を食べよう』なんて考えても、効果は期待できない。でも実はコンビニやスーパーで販売されている蕎麦は8割の商品もあって、それなら小麦のつなぎも少なく血糖値を上げにくいので健康的なんです」(足立さん)
なお、「米は太る」と一般的に考えられているものの、足立さんによるとそれも食べ方次第だとのこと。米が食べたいときは冷えたお米に冷えたお茶を加えて、お茶漬け状態にするのがベスト。いわゆる冷や汁である。往々にしてダイエッターはおかゆに頼りがちだが、温かい状態だと米の栄養素が身体に吸収されやすく太りやすい。もっともおかゆは血糖値が上がりやすいので、運動30分前などに摂るアスリートもいるそうだ。
「目から鱗が落ちる情報ばかりです。今日はソロ取材ということだったけど、後学のために他のメンバーも連れてくればよかったな(笑)。やり方によってはコンビニのごはんでもバランスよく栄養が摂れるというのは、個人的にも大きな収穫ですね」(佐藤さん)
「あとは食べる内容もさることながら、やっぱり食べる時間帯も意識したほうがいいんですよ。たとえばサラダを最初に食べたほうがいいというのは、よく知られていますよね。だけど厳密に言うと、サラダ(根菜類を含まない葉っぱ類やキノコ、海草などが好ましい)を食べ終えて15分くらい置いてから、消化に時間のかかる肉や卵などのタンパク質、最後に米や麺など糖を摂るほうが太りにくい」(足立さん)
「15分も!? そんなに間隔を空けるものなんですか!?」(佐藤さん)
「要するにこれは糖のほうが足は速いので、サラダの直後に糖質を摂ると、そちらが優先して吸収されてしまうんですよ。食物繊維は体内に吸収されないので腸に到達するのも遅い。そのために最低15分は待つというのが、われわれの世界では30年前から言われていたことなんです。食物繊維が先に腸の栄養を吸収する場所に到達した状態だと、糖の吸収を邪魔して遅くさせるので、血糖値の上がるスピードも遅くなる。インスリンの分泌も抑えられるから、脂肪も合成されにくくなる」(足立さん)
「なるほど。時間帯といえば、夜7時以降に食事すると太るともよく言われますよね。だけどお仕事の関係上、どうしても夜ごはんを食べるのが夜10時とか11時になってしまうことがあるんですよ。これもやっぱりNGなんですかね?」(佐藤さん)
「それぞれの生活サイクルもあるから一概には言えないのですが、基本的に人類は夜行性じゃないですから。朝7時に起きる人の場合、13~18時に食べると太りづらいんです。これは自律神経の交感神経と副交感神経の話に関わってくるのですが、交換神経が活発になっている昼の時間帯と、眠気が襲ってくるような副交感神経の作用している時間帯。この2つの時間帯に同じカロリーの高いお菓子を食べると、20倍くらい脂肪の合成に差があると言われているんですね」(足立さん)
「ひえ~! つまり夜遅くに食べると20倍くらい脂肪がつきやすいということですか! でも、これは私の他にも同じような間違いを犯している人が大勢いるはずですよ。これまで自分はムキになって糖質制限をしていたし、おかゆも食べていたし、ライブ後にごはんをモリモリ食べていました。でも今、私の中の何かが音を立てて崩れていますから(笑)」(佐藤さん)