今後の映画界を担う新たな才能として注目を集める片山慎三監督の最新作『さがす』が1月21日(金)より公開する。主演は佐藤二朗。指名手配の連続殺人犯を見かけた父親の失踪から予想外のストーリーが繰り広げられていく。うだつが上がらない父親をユーモアも交えつつ演じた今作について、佐藤二朗さんがたっぷりと語ってくれた。
【佐藤二朗さん撮りおろしカット】
伊東蒼は怪物という表現が僕の中ではしっくりきます
──片山慎三監督との出会いは19年前に遡るそうですね。
佐藤 当時、僕はBSのドラマに準レギュラーみたいな形で出演していて、そこに右も左もわからない、人というよりはほとんどサルのような使いっ走りがおりまして(笑)、それが片山慎三でした。ただ当時から会話の返しや言葉の感性がおもしろくて、「おもしろいよな~」って声を掛けた記憶はありました。
──それから親交が続いていたわけではないんですね。
佐藤 はい。10数年がたち突然長文の手紙が来て、『岬の兄妹』のDVDと台本が入っていたんです。その手紙には「あの時、お世話になりました片山です。僕は次の映画で商業作品デビューをします。その主演をぜひ二朗さんにやってほしくて、脚本も当て書きをしました」と書いてありました。それで脚本を読んでみたらものすごくおもしろくて。メンタル的にきつくなりそうな内容だったので、引き受けるには多少の勇気は必要でしたけど、何としてもやりたいと、そう思わせる脚本でしたね。
──主演をお願いしたいと思った理由をお聞きになりましたか?
佐藤 手紙に書いてありました。内容をはっきりとは覚えていないんだけど、『宮本から君へ』を見て、改めてすごい俳優さんだと思ったということでした。そこには括弧書きで(二朗さんの作品を全部見たわけではありませんが)とあったので、正直なヤツだなと思いましたね(笑)。
──佐藤さんも監督をされていますが、片山監督の撮影を見て「こんなふうに撮るんだ」という驚きはありましたか。
佐藤 ありました。僕は監督と俳優は全く別のギアでやっているので、これは一役者として感じたことですが、片山はポン・ジュノ監督の助監督をやっていた経験があり、「日本はテイクを重ねなさすぎる」と言うんですよ。日本映画は予算も少ないし、そのせいで撮影期間の制約もある。だから1カットで何テイクも試すということができなくなるんですね。片山は助監督時代に自分が撮る時にはじっくりやりたいと思っていたそうで、今回は撮影期間を長くしたんです。
──どれくらいの撮影期間だったんでしょうか。
佐藤 2か月。日本で2か月かけられるのは大作なんですよ。でも大作に比べて予算は全然少ない。そこで片山がどうしたかというとスタッフを減らしたんです。各部署一人、照明も持ち道具もいない。非情にミニマムな形にしました。今回、僕が片山を偉いなと思ったのは、スタッフを少なくしてでも撮影に時間をかけたいとプロデューサーを説得して、そういう座組を自分で作り上げたこと。衣装合わせの時に僕が言った「スタッフも含め、みんなちゃんと寝られるようなスケジュールにしてほしい」というお願いもそのとおりになっていました。なぜなら1日2ページくらいしか撮らないから、何テイク重ねても普通の人間が暮らせる時間に終わるんです。
──テイクを重ねることは映画にどのような効果をもたらしてくれるのでしょうか。
佐藤 俳優の可能性を諦めさせないことに繋がるんですね。「今のテイク良かったけど、違うパターンで見せて」となっていくから。片山は俳優のあらゆる可能性を探ってるように見えました。ただ俳優にはキツい現場でした。泣き叫ぶようなシーンを何回もやることになるから。だから「俺は今回いい経験をさせてもらってる。でも泣き叫ぶようなシーンを何10回もやるのは無理よ」と言ったんです。そしたら「それはわかってます。5回までです」と。5回はやるんかい!! と思いましたが(笑)。
──実際に5回撮ったんですか?
佐藤 本当に5回までは撮りました。泣き叫ぶ以外のシーンは10回以上。この映画はどこにでもいる原田智という中年男性が非常に過酷な状況に追い込まれていくという内容なので、芝居とはいえメンタル的にキツイんです。でも俳優としても映画を作るということにおいてもとても勉強になりました。まさか19年前にサルみたいだったヤツから、こんなに影響を受けることになるとは本当に思わなかった(笑)。こういうことが起きるから人生っておもしろいと思いますね。
──娘の楓役を演じた伊東蒼さんの印象はいかがでした?
佐藤 怪物という表現が僕の中ではしっくりきますね。あの年齢であの感性とあの技術を持っているのは、僕には考えられないので。怪物としか言いようがない。すごい俳優さんがいたもんだと。これを撮影した後、「ひきこもり先生」(NHK総合)というドラマでも共演したんですが、やっぱりすごかった。
──智と楓、ふたりが陥る状況は特殊ですが、どちらも思い合っている普通の親子関係ですよね。
佐藤 そう、ありふれた親子関係だと思います。それをどこにでもいる感じの親子として観る方にお伝えできたのは、脚本がおもしろいのと、俳優の技量も関係してくると思うんですね。そういう意味でも伊東蒼の技量は評価できると思います。
一番は晩酌ですね。妻の手料理で
──ここからは「モノ」や「コト」にまつわるお話をお聞きしたいのですが、佐藤さんが作品を選ぶ時にこだわるポイントはありますか?
佐藤 自分がやりたいと思うかどうかですかね。今までやってきたことの中にもやりたいことはたくさんあるし、一度もやったことがないことの中にやりたいことがあるかもしれない。この作品はまさにそうで、自分がやったことがないけどやりたいと思いました。
──撮影に必ず持っていくものはありますか?
佐藤 老眼鏡とタブレット。僕はいまだにガラケーで皆さんから蔑みの目で見られているんですけれども(笑)。最近タブレットを取り入れまして少しデジタル社会に仲間入りしたもんだから、タブレットが手放せないんですね。
──タブレットでは台本を読んだりしているのですか?
佐藤 そういう方、監督にもいらっしゃいますね。僕はそこまで使いこなせてないです(笑)。最近ゲームにハマってしまいまして、使い道は主に「ソリティア」ですね。僕は撮影中に余計なことを考えたくないので。テニスのイワン・レンドルという元プロ選手が試合の合間にラケットの網を直すしぐさをしていて、取材でそれについて聞かれた時に「余計なことを考えないため」と言っていたんだけど、僕にとってそれがソリティアなんですね。
──長年愛用されているものはありますか?
佐藤 ガラケーは長く使ってますね。ただこだわりとかポリシーとか、ガラケーを貫く! みたいな、そんなかっこいいものでは全然なくて。気づいたらみんなに置いていかれていたっていう。長年愛用しているもの……何だろうな。財布とかカバンは妻が「いい加減変えなさいよ!」っていうぐらいずっと同じものを使ってます。
──お気に入りなんですね。
佐藤 特に財布って、カードや診察券がどこに入っているかとか使い慣れているほうがすぐ出せるじゃないですか。新しくすると慣れるまでに時間がかかるからそれが面倒なんですよね。だからボロボロになっても使ってますね。7、8年使ってるかな。
──では撮影が続いて忙しい時に、気持ちのリフレッシュになるものを教えてください。
佐藤 一番は晩酌ですね。妻の手料理で、この言葉を足してください。
──奥様の手料理でお好きなものはなんですか。
佐藤 豚キムチ、砂肝となすのアヒージョ、卵と豚肉と竹の子の炒め……止めなさい!(笑)
──おいしそうだなと思って聞いていました(笑)。
佐藤 あとささみの唐揚げ! お酒はいろいろです。なのでグラスは、もちろんワイングラスや日本酒はこれ、焼酎ならこれといろいろありますよ。今愛用しているのは、ビールを飲むための銅のタンブラー。あれはビールがぬるくならなくていいですよ。
『さがす』
2022年1月21日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開
監督・脚本:片山慎三
共同脚本:小寺和久、高田亮
出演:佐藤二朗、
伊東蒼、清水尋也、
森田望智、石井正太朗、松岡依都美、
成嶋瞳子、品川徹
配給:アスミック・エース
公式HP https://sagasu-movie.asmik-ace.co.jp/
(C)2022「さがす」製作委員会
【『さがず』よりシーン写真】
撮影/映美 取材・文/佐久間裕子 ヘアメイク/今野亜季(A.m Lab) スタイリスト/鬼塚美代子(アンジュ)