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2022/4/21 6:30

赤堀雅秋&荒川良々「人間のゲスな部分を包み隠さず表出してくれる役者ばかりが揃ってる」

人間が持つ滑稽さや無様な姿を隠すことなく、独特のユーモアを交えて描く劇作家・赤堀雅秋さん。その彼が、かねてより親交のあった田中哲司さん、大森南朋さんらと何のしがらみにもとらわれず、自由な舞台を作ることを目指した演劇ユニットが約2年半ぶりに復活する。共演者には赤堀作品に欠かすことのできない荒川良々さん。常に新作が期待される彼らに、4月21日より上演される舞台『ケダモノ』についてたっぷりと話をうかがった。

 

【赤堀雅秋さん、荒川良々さんの撮りおろし写真】

 

今の時代を生きる人々の鬱屈した思いを描いていきたい

──「赤堀雅秋プロデュース」のシリーズも今回で3作目になります。赤堀さんの中でほかの作品との違いはどんなところに感じていらっしゃいますか?

 

赤堀 作品自体に特別な違いはないんですけど、あえて言えば、他のプロデュース公演と違って、キャスティングの全権を握ってるぐらいです(笑)。もちろん、普段の作品でも本当に一緒にやりたい役者さんと舞台を作っているんですが、この公演はより純度が高いと言いますか。あとは、田中さんや大森さんといつも作戦会議と称して、「あの人に出てもらいたいね」「あの人は面倒くさいからやめたほうがいいよ」って、3人でダラダラ飲んでるっていう違いがあるぐらいです(笑)。

 

荒川 そのわりには、僕はこれが初参加なんですよね。哲さんも南朋さんも昔から知っている先輩なのに、 “あれ、俺、全然呼ばれないなぁ”って、ずーっと思っていて。まぁでも、ようやく呼んでもらえてよかったです(笑)。

 

──荒川さんは赤堀作品の常連という印象があったので、このプロデュース公演への参加が初めてと聞いて意外でした。

 

赤堀 いや、本音を言うと、荒川君も大好きな俳優なので、隙あらば呼びたいと思っていたんです。でも、そうすると毎年一本、荒川君と一緒に舞台をやってるみたいな感じになっちゃうから……(笑)。

 

荒川 そうですね(笑)。

 

赤堀 昨年も『白昼夢』という別のプロデュース公演に出てもらったしね。ただ、今回に関しては、大森さんと田中さんがメインとしている中で、荒川君のような見栄えのいい役者さんがキャストに入ってくれるとバランスの良い人間模様が描けそうだなと思って、それで声をかけさせてもらいました。

赤堀雅秋●あかほり・まさあき…劇作家、脚本家、演出家、俳優。1996年、SHAMPOO HAT(現THE SHAMPOO HAT)を旗揚げ。作・演出・俳優の三役を担う。「一丁目ぞめき」にて第57回岸田國士戯曲賞を受賞。初監督作品「その夜の侍」(2012年)では同年の新藤兼人賞金賞、ヨコハマ映画祭・森田芳光メモリアル新人監督賞を受賞。近年の作品に舞台「イモンドの勝負」(出演)、「白昼夢」「神の子」「美しく青く」「女殺油地獄」(作・演出・出演)など。

 

──では、お2人が感じる田中さん、大森さんの魅力はどんなところでしょう?

 

荒川 このプロデュース公演の過去作品をどれも拝見していますが、やっぱり“面白い方たち”という言葉に尽きます。どう転んでも良いお芝居をされる方たちですし、とっても信頼できる先輩方なので、舞台を観ていてすごく安心感があります。

 

赤堀 演出家の視点で言うと、2人とも“人間っぽい”芝居をされるところが素敵ですね。というのも、ゲスな役を演じる時に、それらしく繕った表現をされるのが僕は好きじゃなくって。その点、お2人はゲスな部分を変に包み隠さず表出してくれる。そういった役者さんって、なかなかいないんです。しかも、お2人に限らず、今回のキャストはそんな役者さんばかりが揃っているので、なお面白いことになりそうだなと感じています。

 

──では、気になる作品の中身についてもお聞かせいただけますか?

 

荒川 僕も知りたいです(笑)。

 

赤堀 まだ、ほとんどできてなくてゴメンね(笑)。(※取材時は稽古開始前) ただ、骨格は既に出来ていて。ずっとコロナ禍が続き、多くの人の中に鬱憤が溜まっていると思いますが、そうした時代性を一番リアルタイムに描けるのが舞台だと思うんです。ですから、世の中の鬱屈した人間たちの気持ちを表現できないかという思いで書き始めています。

 

荒川 こんな言い方をするとプレッシャーになるかもしれないですけど、僕はすごく赤堀さんを信頼しているので、必ず面白い脚本になるんだろうなって信じています(笑)。

 

赤堀 頑張るよ(笑)。とりあえず今決まっているのは、とある山に囲まれた閉塞感のある田舎町が舞台で。そこに大森さん演じるリサイクルショップの店長がいて、荒川君と清水優君はその従業員。それと、彼らが通うキャバクラで働いているのが門脇麦さんや新井郁さんで、哲司さんは共通の知り合いであるインチキ映画プロデューサー(笑)。そんな人たちの些末な人間模様を描けたらなと思ってます。

荒川良々●あらかわ・よしよし…1998年、大人計画に参加。2013年放送のNHK連続ドラマ小説「あまちゃん」に出演。08年には映画「全然大丈夫」で初主演を果たす。近年の主な出演作に舞台「大パルコ人④マジロックオペラ『愛が世界を救います(ただし屁が出ます)』」「3年B組皆川先生~2.5時幻目~」「白昼夢」、ドラマ「俺の家の話」(TBS系)、大河ドラマ「いだてん ~東京オリムピック噺~」(NHK総合ほか)、映画「決算! 忠臣蔵」「ハード・コア」など。

 

“舞台ってこういう作品もあるんだ”ということが、多くの若い人に届けば

──荒川さんはこれまでに何度も赤堀さんの作品に出演されていますが、いつもどんなところに戯曲の魅力を感じていらっしゃいますか?

 

荒川 セリフも好きですが、やっぱり人間の描き方に嘘がない感じがいいですよね。人間って、裏表があって当たり前じゃないですか。赤堀さんは、そこでいう人間の裏の部分と言いますか、イヤなところをしっかりと表現していて。演じる側としても、普段の生活だと他人に対して絶対に言えないようなことがセリフになっているので、そこにも新鮮さや楽しさを感じますね。

 

赤堀 ……まあ、それは僕自身が世の中に対して、“そんな明るい気分になってる場合じゃないぞ”って毒を吐きたくなる性格の悪い作家だし、ちょっとサディスティックなところがあるからね(笑)。

 

荒川 そういう意味では、もしかするとこのコロナ禍で、「いやぁ〜、ハッピーエンドでよかったね!」っていう舞台を求めて劇場に来る人がいるかもしれませんが、赤堀さんの作品を観た後は、みんなどよ〜んとした気持ちで帰っていくんじゃないかと思います(笑)。

 

赤堀 ははははは。そうかもね。「せめて舞台やエンターテインメントでは明るい気持ちになりたい」っていう人が増えているだろうし。もちろんそうした作品もあって然るべきだと思うんだけどね。……けどさ、そこを求めてくる方たちはどんな反応をするんだろうね? 東京だといろんな舞台を見慣れている人が多いだろうけど、地方公演とかでは、「大河ドラマに出ていた子が出演しているから観に来た」っていうような人がいると思うんだ。そんな気持ちで観に来たりしたら……。

 

荒川「おいおい、何だよこれ。暗いなぁ〜」って?(笑) ありえますね。でも、今回は途中休憩がないんですよね。だったらいいじゃないですか? 芝居の最中に帰られてしまうこともないし(笑)。

 

赤堀 あー……。いや、そういう問題でもないんだけどね(笑)。あと、できれば若い人たちにも見てほしいなっていう思いがあって。自分でいうのもおこがましいんだけど、“舞台ってこういう作品もあるんだ!”っていうことが若い人にも届けばいいなって。本当に僭越ながらそう思ってるの。

 

荒川 それはきっと感じてもらえると思いますよ。特に初めて舞台を観るという方にとっては演劇の印象が変わると思います。だって、やっぱりまだ演劇に対して、“大袈裟な芝居をするちょっと恥ずかしい世界”っていうイメージを持っている人がたくさんいると思うんです。僕も田舎だったから演劇部とかなかったし、そういう“演劇=かっこ悪い”っていう印象をずっと持っていて。でも、上京して芝居を見たら、全然そんなことがなかった。ですから、確かにたくさんの若い人に観てもらって、同じような経験をしてもらいたいですよね。

 

──では、赤堀さんが舞台を演出する上で、いつも意識しているのはどんなことでしょう?

 

赤堀 そんな大層なことは考えていないのですが、一番はその役者さんのまだ見たことのない表情や佇まいを見たいなということですね。例えば、何となく頭で考えた類型的な芝居ではなく、そこから1mmでもはみ出ているような。かっこいい言い方をすると、そんな奇跡的な瞬間が見たいなといつも思っています。

 

荒川 僕自身は、今赤堀さんが話したような、“見せたことのない佇まい”が自分から出ているのかどうか、よく分かんないですけどね。自分のほうから“俺の良さをもっと引き出してくれ!”と思ったこともないですし(笑)。

 

赤堀 ははははは! そりゃそうだ。

 

──荒川さんは赤堀さんの演出にどんな印象をお持ちですか?

 

荒川 細かいですね。本当は赤堀さんが求めてくるもの以上のお芝居ができればいいんでしょうけど、なかなかそこまで到達できないので、稽古はいつも苦しいです。ただ、自分以外の共演者の稽古を見るのはすごく楽しくて。ただでさえ、すごいお芝居をされる役者さんばかりなのに、赤堀さんの演出でさらに面白さが増していくので、ずっと見ていたくなります。

 

赤堀 そうはいっても、どうやったって荒川君が一番面白く輝くのは松尾(スズキ)さんや宮藤(官九郎)さんの舞台作品だっていうのは、僕も重々承知してるからね。それに、きっと僕の舞台に出ている時は、ずっと潜水しているような息苦しさを感じているんだろうなっていうのも分かってるし。その意味では、さっきの地方公演の話じゃないけど、お客さんの中には、“テレビではいつも面白い芝居をしているあの荒川良々が、今日は妙に重い芝居をしているぞ”って戸惑う人もいるだろうし、そこを求めている方たちには申し訳ないなという思いもあります(笑)。ただ、せっかく僕の作品に出てくれているわけですからね。そこはやはり、松尾さんや宮藤さんの作品の時とは違う、僕が勝手に考える荒川君の魅力を引き出せていけたらなって思ってますね。

 

──楽しみにしています。最後に、GetNavi webということで、皆さんにお気に入りのアイテムをお聞きしているのですが、お2人が最近購入されたものでおすすめのものなどはありますか?

 

赤堀 僕は……特に何もないですね。もともとモノに固執することがないんです。ハマっていることとかもありませんし(苦笑)。

 

荒川 でも、ときどきマンガを大人買いしたっていう話をされてません?

 

赤堀 あ〜、そうだね。それは昔からあるね。でも、“この1冊がおすすめ”というような愛読書があるわけでもないし、繰り返し読む作品もなくて。だから、強いて趣味を挙げるなら、大人の嗜みじゃないけど、お酒を飲むことかな。それこそ荒川君とはよく飲みにいくもんね。ただ、いつもリフレッシュのはずが、最後は逆にイヤな気持ちになって、翌日には“失敗したなぁ”って思いながら目覚めることがほとんどだけど(苦笑)。

 

荒川 そうですね(笑)。

 

──それは、つい仕事とかお芝居の話になってしまったりということですか?

 

赤堀 いや、仕事の話はほとんどしないです。

 

荒川 何をしゃべったかも覚えてないですもんね(笑)。

 

赤堀 多分、人の悪口しか言ってないんじゃない?(笑) だから飲み終わった後に、自分自身がイヤな感じになる(笑)。荒川君は最近買ったものとかあるの?

 

荒川 電動自転車を買いました。

 

赤堀 あ、そっか。言ってたね。

 

荒川 なので、天気がいい日はこの稽古場まで自転車で来ています。

 

赤堀 どれくらいでここまで来られるの?

 

荒川 40分くらいですね。でも、電動だからそれほど大変ではないです。まだ慣れていないから、お尻がちょっと痛くなるくらいで。最初は別に電動じゃなくてもいいかなって思ったんです。でも、東京に来て初めて買う自転車だし、東京は坂が多いので思い切って電動にしたんですけど、こっちを選んで正解でした。漕ぎ出しが「あれ? 嘘みたい!」って思いますもん。もし購入を考えている方がいればおすすめです。

 

 

【「ケダモノ」より】

赤堀雅秋プロデュース「ケダモノ」

(東京公演)
会場:東京・本多劇場
日時:4月21日(木)~5月8日(日)
チケット:全席指定 7,800円(税込)/ U25チケット 3,500円(税込)(観劇時25歳以下対象・当日指定席券引換・枚数限定・要身分証明書)

(札幌公演)
会場:北海道・かでるホール
日時:2022年5月14日(土)~5月15日(日)
チケット:全席指定 8,000円(税込)/ U30チケット 3,500円(税込)

(大阪公演)
会場:大阪・サンケイホールブリーゼ
日時:2022年5月20日(金)~5月22日(日)
チケット:全席指定 8,500円(税込)/ U25チケット 4,500円(税込)

《STAFF&CAST》
作・演出:赤堀雅秋
出演:大森南朋、門脇 麦、荒川良々、あめくみちこ、清水 優、新井 郁、赤堀雅秋、田中哲司

《STORY》
神奈川県のはずれ。
駅前の繁華街以外は寂れ、奥には山ばかりが広がる田舎町。
真夏。
リサイクルショップを経営する手島(大森南朋)は、アヤしげな自称・映画プロデューサーのマルセル小林(田中哲司)とつるむ以外、特に楽しいこともなく、日々しけた店を切り盛りしている。
従業員は態度のでかい出口(荒川良々)と、やる気ばかりで空回りの木村(清水優)の2人。
彼らの楽しみは飲みに出て、キャバクラでマイカ(門脇麦)や美由紀(新井郁)ら女の子をからかうことくらいしかない。
ある日、郵便局員の節子(あめくみちこ)から「父が死んだので家を整理し、不用品を引き取って欲しい」という依頼が。
手島たちは節子の家と蔵を物色するが、木村が蔵から意外な「もの」を見つける。
山から時折聞こえる銃声。
増え過ぎた鹿が農家の作物を荒らし、その被害が深刻化しているため、他県からも猟師を募って害獣駆除をしているのだという。
手島とマルセルの抱えた「事情」と木村がみつけた「もの」、そしてマイカの切実な望み。
退屈な日常はふとしたはずみで軋み、歪み、彼らは暴走し始めた。

 

撮影/映美 取材・文/倉田モトキ