エンタメ
2016/10/27 18:25

“唐揚げとハイボールに救われた”― 人気ドラマ「深夜食堂」の仕掛け人が語る制作秘話

2009年からMBS系の深夜帯に放送され、毎回おいしそうな料理が映し出されることから、一部では「夜食テロ」呼ばれ人気を博している「深夜食堂」シリーズ。これまでシリーズ3までが地上波で放送されてきましたが、第4シリーズにあたる最新作「深夜食堂-Tokyo Stories- 」全10話が、インターネット動画配信サービスのNetflixオリジナルとして10月21日から配信され、話題となっています。今回は、同作品を第1シリーズから手がけている遠藤日登思プロデューサーにお話しを伺いました。

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↑深夜食堂シリーズを手がける遠藤日登思プロデューサー

 

--小林 薫さんをマスター役に選ばれたのはどういった理由からなのでしょうか?

僕はほとんど映画の仕事が中心で、TVドラマを手がけるのは「深夜食堂」(シーズン1/MBS系)が初めてだったんです。なので映画とTVの違いがよくわからなくて(笑)。ただ、「主役のマスター役は小林 薫さんしかいない!」という、直感みたいなものは最初からありました。

(C)2016安倍夜郎・小学館/ドラマ「深夜食堂」制作委員会
(C)2016安倍夜郎・小学館/ドラマ「深夜食堂」制作委員会

 

小学館で連載されている人気マンガということで、映像化のオファーは多くあったそうですけど、原作の安倍夜郎さんが「マスターが小林 薫さんなら」ということで、我々に白羽の矢を立ててくれたんです。おかげでドラマ化の権利を預かれたものの、小林 薫さんから「演出家にはこだわって欲しい」、と映画監督の松岡錠司監督を推薦されました。それまで面識がなかった上、その前の年に「東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜」で日本アカデミー賞を受賞しているバリバリの映画監督です。低予算の深夜ドラマを引き受けてくれるとは思いませんでした。それがタイミングが良かったというのか、運良く引き受けてもらえる事になり、スタートから小さな奇跡が重なっていったという感覚なんです。

 

--今回の「-Tokyo Stories-」は第4シリーズにあたりますが、過去のシリーズを振り返ってみていかがですか?

実はシーズン1は、当初はビジネス的には失敗でして……。……。映画のように製作委員会方式で資金を集めていたんですが、(資金)回収はできなかった。ただ、やたら業界内視聴率はいいし、評判も高い。クオリティ面での手応えだけはすごくありましたね。

 

なので、シーズン2ではタイアップによる協賛金を得ようと、某酒造メーカーの「唐揚げとハイボール」で資金的な問題を乗り切りました。シーズン1の実績にタイアップ収入をプラスすれば赤字にはならないと、単純な理屈で出資者を説得し、半ば強引に企画を通す事ができました(笑)。そうなると、再放送やDVDが売れたりとでシーズン1も動くんですよね。これでやっと赤字を脱出できたので、僕自身は「ありがとう、ハイボール」という気持ちでした(笑)。

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--同シリーズはアジアでも人気となっています。

あのセット(新宿ゴールデン街を彷彿とさせる)で映画も作れたら、という話は当初からあったのですが、シーズン2が終わってしばらくしてから、予算的なことも考えて、じゃあドラマのシーズン3と合わせて同時に映画も撮ろうかということになったんです。

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その頃には既に、韓国や台湾、中国でも「深夜食堂」が人気になっているということを聞いてまして。シーズン3では日本の放送と同時に韓国、中国、台湾に同時放送する権利を販売し、海外からの収入もバカにならない状態になりました。その後、韓国ではローカライズされたドラマ「深夜食堂fromソウル」が作られ、台湾でも現在ドラマ化が進んでいます。新シリーズにつけたサブタイトル「-Tokyo Stories-」は、世界のなかの「東京」を意識してのことです。新シリーズ第4話「オムライス」では韓国ロケを敢行しましたが、ここではオダギリジョーさんが「深夜食堂」ファンならちょっと嬉しい感じで出演しているので、ぜひチェックしてみてください。

 

--従来の地上波放送から、今回初めてNetflixオリジナルとなりましたが、なぜネット配信にシフトされたのでしょうか?

テレビの放送やDVD等の従来の収入では苦しいことになっていまして、事業としての条件が合わなくなってきたんです。それでも「僕らには日本以外にもアジア中のファンがいるじゃないか!」と考え、新シーズンは世界同時に見られる配信に可能性を求めようと思いました。制作上の自由度も高いというのも魅力ですしね。

 

--作品を制作する上で、心がけていることなどがあれば教えて下さい。

プライムタイムの地上波ドラマでは実現できない地味なキャスティングというのも「深夜食堂」ならではの魅力だと思います。シーズン1で岩松 了さんとあがた森魚さんを主役にした時は、テレビ局の方から「さすがに渋すぎだろ……」と(笑)。でも、そこが「深夜食堂」の魅力だと思いますし、そのテイストは続いています。監督や小林薫さんも「こんなにアングラ俳優が出ているのも珍しいよな」と(笑)。なので、今までの世界観を変えないということが大切なんだと思っています。Netiflixで世界配信だからといって急に派手になった「深夜食堂」なんて見たくないですよね。

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11月5日からは、劇場版第二弾となる「続・深夜食堂」も全国公開予定となっています。Netflixでは、過去3シリーズと劇場版を配信していますので、この機会に一気見してみてはいかがでしょうか。