エンタメ
2023/2/20 6:30

眞島秀和「稽古や本番のたびに増えていく課題。そうした苦労こそが僕にとっての舞台の醍醐味」

2020年に上演された2人芝居『そして春になった』を下敷きに、新人女優の死をめぐる映画監督と女優たちの愛憎と葛藤を悲喜劇として描いた岩松 了さん作・演出の新作舞台『クランク・イン!』。主演を務めたのは、これが初めての岩松作品への出演となる眞島秀和さん。衛星劇場での放送を前に、公演中のエピソードをたっぷりと語ってもらった。

 

眞島秀和●ましま・ひでかず…1976年11月13日生まれ、山形県出身。1999年、映画『青〜chong〜』でデビュー。近年の代表作に映画『ある男』、『“それ”がいる森』、ドラマ『鵜頭川村事件』、大河ドラマ『麒麟がくる』など。現在、ドラマ『大奥』、主演作『しょうもない僕らの恋愛論』が放送中。

 

吉高由里子さんのお芝居には何が飛び出してくるか分からない面白さがある

──岩松 了作品への出演は以前から切望されていたそうですね。

 

眞島 ええ。実はこの作品が決まる前にも一度オファーをいただいていて、楽しみにしていたんです。でも、その公演はコロナ禍でキャンセルになってしまいまして。ちょうど中止が決まる前に岩松さんと映画の現場でお会いする機会があり、そのときに、「今度の舞台、大丈夫なんでしょうか?」と聞いたところ、「え、なに? 僕とはやりたくないの?」と誤解されてしまったこともありました(笑)。「いやいや、コロナが心配なんです……」と説明したら分かっていただけたのですが、そうしたお茶目なところがある方なんですよね。それがあったからかどうかは分かりませんが(笑)、今回も「せっかくだし、眞島くんでやろうか」という流れで、僕を起用してくださったのかもしれません。


──実際に岩松さんの作品に触れてみた印象はいかがでしたか?

 

眞島 稽古が始まったばかりの頃は最後まで台本が出てきていませんでしたので、どういう話になるんだろうとワクワクしていました。ただ、覚悟していたとおり、難解さも感じました。セリフに込められた機微もそうですが、不明瞭な感情表現も多く、それらをいかに自分の中に落とし込めるかが大事だなと思ったんです。また、岩松さんに直接お聞きしたわけではないのでこれは僕の勝手な解釈ですが、そうした判然としない登場人物たちの言動には、“人間の行動のすべてに理由があるわけではない”という岩松さんの思いが込められているのかなとも感じました。

撮影/宮川舞子

──これまで岩松さんとは役者としての共演経験がたくさんありますが、演出を受けるのは初です。稽古場での「演出家・岩松 了」は眞島さんの目にどのように映りましたか?

 

眞島 役者の岩松さんはいつも面白くて、何をしてくるのか、何を考えているのか分からないという印象があるんです(笑)。もちろん、いい意味でです。役者の仕事を純粋に楽しんでいるんだなというのが伝わってくる。でも演出家でいるときは、当然ながら役者や自分が書いたホンとじっくりと向き合われていて。穏やかながら、ときどき目がギラッと光る瞬間もあり、その姿を見るたびにこちらの身も引き締まる思いでした。

 

──よく、いろんな役者さんから「岩松さんの稽古場は厳しい」という声を聞きますが……。

 

眞島 僕もその噂は耳にしていました。ですから、役者として追い詰められるようなことがあるのかなと思っていたんです。でも、今回に限っていえば、あまり恐ろしさもなく充実した稽古を過ごせたなと思います。役柄の方向性について大きな枠を作ってくださいますし、それらがヒントになって、いろんなアイデアが生まれていくんです。ただ、稽古が佳境に入った頃に、『眞島さんのやりたい形でいいから』と言われたことがありまして。“このタイミングで言われても、もう戻れないしなぁ”と思ったのを覚えていますね(笑)。

 

──それは、しっかりと地盤ができたことで、何をやっても役から外れることはないという思いもあったからなのかもしれないですね。

 

眞島 どうなんでしょうね(笑)。もしくは、それまで重ね過ぎて凝り固まった芝居の無駄な部分を削ぎ落としていきましょうという意味だったのかも。確かに、役者が手応えを感じてきた頃にそうしたことをおっしゃるそうなんですが、僕自身はまだ実感できていなかったので、ちょっと戸惑いましたね(笑)。

 

──今回の役についてもおうかがいすると、眞島さんが演じる映画監督の並之木は女性にだらしなく、そのことで多くの女優たちからどんどんと責められていきます。

 

眞島 ちょっと手を出し過ぎですよね(苦笑)。ただ、彼のなかで何よりも優先させているのは、あくまで映画を撮ることなんですよね。ですから、すべての情熱を映画に注いでいるという気持ちを軸にして役を作っていきました。それに、岩松さんもおっしゃっていましたが、いわゆる芸術肌なところがある。岩松さんから、「だから彼の女性への言い訳をよく聞いていると、かっこいいことを言ってるようで実は中身がないんだ」と言われたときは、思わず納得しました(笑)。

 

──印象的だったセリフはありますか?

 

眞島 これは舞台を観に来た知人の感想なのですが、並之木はさんざん現場をかき乱し、女優たちからも責められているのに、最後に「いい映画になりそうな予感がする」って言うんです。あの言葉にゾッとしたと言われて(笑)。でも、なるほどなと思いました。並之木は本当に映画のことしか考えていなくて、ちょっと感覚や感性がおかしくなっている。ある意味で彼の人物像を象徴したセリフだなと思いました。

撮影/宮川舞子

──そんな並之木を翻弄する新人女優役に吉高由里子さん。今回が初共演となりました。

 

眞島 一緒に演じていて、ものすごく楽しい方でした。感受性が高く、こちらの動きに合わせて純粋な気持ちで芝居を返してくるので、毎回違ったものが生まれるんです。どんなものが飛び出してくるのかその瞬間まで分からないという面白さがあり、そうした方との共演自体も初めてでしたので、とても新鮮でした。また、秋山菜津子さんや伊勢志摩さんなど、舞台では百戦錬磨の方々と共演できたことも本当に幸せで。場面ごとにさまざまな感情をぶつけてくる大変な役だったと思うのですが、そのすべてに説得力があるんですよね。いつかお2人のような役者になりたいなと、多くの刺激をいただきました。

 

──なお、今回の舞台は3年ぶりの舞台でした。以前、「舞台は純度の高い仕事」とコメントされていましたが、改めて舞台の魅力をどのようなところに感じましたか?

 

眞島 なんだか生意気なことを言っていてすみません(苦笑)。でも、今回もとても充実した時間を過ごさせていただきました。連日の稽古をはじめ、本番直前の緊張感など、やはり舞台でしか味わえないものがたくさんあるんです。そうした環境に身を置くことが自分にとっては大切であり、やるべきことだという思いもあって。僕は歌ったり、踊ったりすることはできませんが、その代わり、ストレートプレーのお芝居に関しては正面からドンとぶつかっていきたい。その思いで毎回挑戦させてもらっています。

 

──「苦労することが役者の醍醐味だ」との言葉も残されていましたね。

 

眞島 またまた生意気なことを言ってますね(笑)。けれど、稽古場もその日その日で得るものや課題が変わっていきますし、そうした苦労って本当に醍醐味だなと感じています。舞台はいつも大変ではあるけれど、充実感がある。そのひと言につきますね。

 

──最後に、放送をご覧になる方に向けて、眞島さんが注目しているポイントを教えていただけますか。

 

眞島 並之木は感情がたかぶるとどんどん声が大きくなっていくんです。公演中も、本番ごとにその日の流れによって変化していったところがあるので、僕個人の楽しみで言えば、放送ではどうなっているのか、そこがちょっと気になっています(笑)。また、この作品には本当に素晴らしいキャストが集まっていますので、皆さんがどのような表情をしてお芝居をされていたのかもじっくり見てみたいですね。作品の見どころとしては、見る方によっていろんなとらえ方ができる物語だと思います。お話が進むにつれて、過去の事件の真相が明らかになるどころか、どんどん謎が深まっていきますし、登場人物たちの心情やセリフにも翻弄されていって。それに、僕は女性のたくましさと怖さも感じました。そうした強さや怖さが一つの場所に集まることで、やがていろんな悲劇や喜劇が巻き起こっていく。岩松さんらしい物語や言葉の美しさも散りばめられていますので、ぜひ何度も繰り返し見ていただけたらと思います。

 

撮影/宮川舞子

『クランク・イン!』

CS衛星劇場 2023年2月26日(日)後 4・30よりテレビ初放送!

 

(STAFF&CAST)
作・演出:岩松 了
出演:眞島秀和、吉高由里子、伊勢志摩、富山えり子、石橋穂乃香、秋山菜津子

(STORY)
映画の撮影現場で命を落とした新人女優。はたして彼女は殺されたのか、それとも事故だったのか──。真相は謎に包まれたまま、撮影は延期に。そして一年後、同じ地で撮影が再開され、監督の並之木はなんとか成功させるべく準備を始めるも、女優たちのわがままや進行の遅れで頭を悩ます。そんな彼の前に現れたのが、新たに作品に参加することになった新人女優のジュン。奔放なジュンの姿に並之木は徐々に惹かれるも、やがて彼女の言動が現場に思わぬ空気をもたらしていくのだった。

【舞台『クランク・イン!』よりシーン写真】

撮影/宮田浩史 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/佐伯憂香 スタイリスト/momo 衣装協力/suzuki takayuki