エンタメ
タレント
2023/3/9 20:45

女優・田中道子が1500時間の勉強を経て『一級建築士』に合格!! 「自分が納得するようにやりたかった」

2016年に女優としてデビューし、さまざまな役柄を演じる田中道子さん。バラエティ番組『プレバト!!』MBS/TBS系)で見せる絵画の上手さもプロ級です。その田中道子さんが合格率10%という難関資格「一級建築士」に合格したとのこと。その合格までの道程、これからの目標などをうかがいました。

 

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:松本祐貴)

●田中道子(たなか・みちこ)/1989年8月24日静岡県生まれ。

 

芸能と建築の仕事の両立はずっと考えていた

ーーまずは、超難関、合格率9.9%といわれる一級建築士の合格おめでとうございます。

 

田中道子(以下田中) ありがとうございます。芸能界で鍛えられたおかげか試験では緊張しすぎることもなかったのですが、合格は本当に奇跡でした。

 

ーーそもそも二級建築士の資格を持っていて、さらに一級建築士を目指した理由はなんですか?

 

田中 大学生のころから「いずれ一級建築士を取りたい」と思っていました。理由は、2011年の東日本大震災です。未曾有の大災害で、多くの人がピンチのときに人の命を守る建築の仕事は改めてかっこいいと思いました。当時、大学3年生でしたが「一級建築士の資格を取り、プロとして人々の生活を守る仕事がしたい」とぼんやりとですが思ったんです。

 

ーー二級建築士は大学時代に取得したんですね?

 

田中 卒業しないと受験資格がないので、大学を卒業してすぐに取りました。

 

ーー当時は芸能界にデビューするかどうかというときですか?

 

田中 大学4年生のとき、ミス・ユニバース・ジャパン2011で3位入賞をして、知り合いがオスカープロモーションを紹介してくれました。

もともと私は中学生のころアクション女優に憧れていたんです。でも、地元は浜松で、周りにやってる人もいなければ、事務所もなく、目指す手段がなく、憧れだけだったんですね。就職活動中に芸能事務所に声をかけていただいて「今しかできないのはどっちだろう」と考えて、芸能を選びました。

それでも、事務所には「将来一級建築士を取りたいから、建築の実務を2年積ませてほしい」と頼んだんですが「なんのために東京に出てきたんだ」と怒られちゃいましたね。そのときから、芸能と建築を両立したかったんですよ。

 

ーーデビュー前からの思いが今回やっと叶ったんですね。

 

田中 はい。令和2年から一級建築士の受験資格が緩和されて、実務がなくても受験可能になったんです。これは追い風だと思いました。また、コロナ禍で、仕事が止まって、あらためて「自分って何がしたかったんだっけ」と自問自答して、こういう緊急事態のときに「すぐに動けるプロになりたい」と思い直しました。

 

ーーということは勉強への決意は2020年ぐらいからですね。

 

田中 ハードルの高さはわかってたので、いきなり一級建築士を目指してはいなかったです。そのときの勉強は、インテリアコーディネーターとか自分が興味がある分野でした。ただ、勉強する時間があるなら大きな資格を狙おうと気持ちが変わってきました。2021年の夏に「一級建築士」を目指す覚悟を決めました。そのときには、マネージャーさんにも「仕事には絶対影響ないように頑張るから。見守ってください」と宣言しました。事務所も応援ムードでした。自分で火を付けて、自分を追い込みましたね。

 

ーーなかなかできることじゃないです。

 

田中 一時期は追い込みすぎて、目が回りそうなぐらいでした。私はうまくいかないとき、人から慰めてもらったり、別のリラックス方法を試しても、モヤモヤしちゃうんです。「仕事でうまくいかなかったときの解決策は、仕事がうまくいくこと」。私はそういう性格なんですね。『プレバト!!』でもそういう風に追い込んだから、いい結果が出たと思います。だから、マネージャーさんには「みっちゃんは追い込んだほうがいい」って思われているみたいですけど(笑)。

 

ーーしかし、それだけの努力ができるとは、学生時代から勉強が好きなタイプでしたか?

 

田中 受験シーズンになると1日10時間とかやるタイプです。やると決めたら納得するまで勉強します。

 

ーーそれだと、小中高など学校でも成績はよかったんじゃないですか?

 

田中 いや成績はよくなかったですよ。中学のとき、先生に市内で下から2番目ぐらいの高校しか受けられないと言われたぐらいです。でも、中3の夏に好きな男の子ができて、その人がいい学校に行くっていうから、一緒に通うために1日10時間勉強して合格しました。でも、その男の子は落ちちゃったんですけど……。どこでスイッチが入るかわからないですよね。

死に物狂いで勉強すれば努力が実るというのは、高校・大学受験で体験したので、私は、今回のような勉強を頑張れるんだと思います。成功報酬がない可能性もあるものに、何時間も費やす気持ちがわかるので、資格の勉強や、なにかをやろうとしてる人はジャンル関係なく尊敬しますね。

 

ーーテレビの印象では、田中さんは優等生タイプかと思っていました。

 

田中 優等生タイプは語弊がありますね。番組のアンケートなどは、最終日に手をつけるタイプです。優等生ではなく、夏休みの宿題も気づいたら8月末になっていることがありました。私生活でもズボラな部分はありますよ。

 

『プレバト!!』の絵は1枚50時間もかけている!?

ーー一級建築士に合格するには勉強時間が1000時間〜1200時間といわれていますが、どうでしたか?

 

田中 1年ちょっと月100時間プラス月4回の授業なので、トータル1500時間ぐらい勉強しているかもしれません。資格の学校に通い、授業は週1回、朝の8時から夜の11時ぐらいまでありました。

月に100時間の勉強もスキマ時間を合わせてです。いつもならベッドの上で漫画やゲームをしている時間を全部勉強にあてました。問題を解き続けて、携帯を握ったまま寝て、起きたらまた問題を解いているような状態でした。

 

ーー一級建築士の試験では、どんな問題が出されるんですか?

 

田中 一次試験は学科試験、いわゆるペーパーテストです。二次試験は製図を書く試験です。一次試験は、構造計算や足場の付け方、コンクリートの基礎、空調などの設備関係、もちろん法律も出ますね。ほかに「コルビュジェの作品はどれ」というような作品事例や歴史です。一次試験対策はスキマ時間を使えるんですよ。でも、二次試験の対策は机に向かってやらなきゃいけないので、時間を取るのも大変でした。

実際に見てもらえますか? これが製図の試験の1か月前の練習です。先生には練習不足といわれ、赤ペンだらけです。

 

私は実務経験がないので、資格の学校でも、周りの生徒から遅れてスタートしているんですね。本当に初歩的なとこで結構つまずくことが多くて。これなんか製図で、建物に階段を2個つけなければいけない法律があって、意味なく階段を並べて書いてたり、事務室の中に廊下があったりとか、本当にハチャメチャでした。

 

ーー製図試験の対策は大変そうですね。

 

田中 この製図の練習をしているころ、私は初舞台、初主演の最中でした。座長なので、みんなを引っ張る立場でしたが「本当に付き合いが悪い」と、後からみんなに言われました。みんな応援してくれて、仲はいいんですけどね(笑)。初舞台も楽しかったです。

ただ学科試験で覚えたことがセリフを覚えることで、ロケット鉛筆みたいに出ていっちゃうか心配でしたが、大丈夫でした。

 

ーー実際、一級建築士に受かったときはどんな気分でしたか?

 

田中 血管が切れたかと思いました。視界になにかが見えていますが、受験番号しか見えない。母と電話しながら合格発表を見ていて、絶叫しました。

母には普段から「プレバトもあるし、勉強もあるしどうしよう〜」と悩みを相談したりしています。そういうときに母は「タレント業が本業なんだから、それをやってから勉強しなさい」と、背筋を伸ばしてくれます。

今思い返すと、どっちもベストをつくそうと、がむしゃらだったので、二度とあの時間に戻りたくないです。でも、手を抜かずやれてよかったなとも思えますね。

 

ーー『プレバト!!』の絵画は、そんな悩みになるほどなんですね。

 

田中 そうです。宿題が出て家で描いてるんです。昔はロケで行って、絵をその場で描きあげてました。ハイレベルになるにつれて、宿題になって、10時間、20時間と制作時間をかけ始めました。最近は1枚の絵に50時間かけたりしています。裏ではめちゃくちゃ大変です。感情が大暴れする番組なので、涙も出ます。観てる人には絵ができあがったところだけじゃないですよと伝えたいです。

 

ーー伝わると思います。『プレバト!!』は田中さんをより有名にしましたね。

 

田中 父は最初、芸能界に反対してたんですが、今となってはこの番組の一番のファンです。今回の一級建築士の件で、実家に帰ったときに父から「建築に戻れ」と言われるかなと思ったんですが、逆に「『プレバト!!』があるからずっと芸能をやれ」と言われました。娘が頑張ってる姿を見られるのが父としてはうれしいらしいです。

それに地方ロケに行くと「『プレバト!!』観てます」と言われることが本当に増えました。先日は、ビルに入館しようとしたら警備員の方が「一級建築士合格おめでとう」と言ってくださって、それを聞いた周りの方も「おめでとう、おめでとう」って。うれしかったですね。

 

足湯カフェや子どもたちが夢見れる施設を建ててみたい

ーーちなみに一級建築士と二級建築士はどう違うんですか?

 

田中 設計できる建物の規模が違います。二級建築士は300平方メートル以内は2階建てまで、木造だと3階建てまで設計できるなど決まっていますが、一級建築士は縛りがありません。ビル、駅、代々木体育館など何でもOKになります。

 

ーー実際に建ててみたいものはありますか?

 

田中 学生のときは、両親が温泉好きなので、足湯があって、平屋の家を設計してあげたいと思っていました。でも、30歳を超えて、ちゃんと調べると家を建てるってお金かかるんですね。

 

ーーそうですね。それ以外に仕事につながるような建築物はどうですか?

 

田中 私自身「夢を持て」という言葉がすごく苦手なんですよ。子どもには実際にやらせてあげないと夢がわからない、学校にしか通っていない子どもにはそんなに選択肢はないですよね。だから、子どもが夢を見つけられるような楽器、運動、勉強などなんでもできるスクールというか施設を作ってみたいですね。イメージとしてはキッザニアみたいなところです。調べたことがあるんですけど、キッザニアで人気の職業を体験するには、朝早く行って並ばなきゃいけないみたいです。のびのび体験できたらいいのにと思います。

 

ーー自分の家を設計するならどうしますか?

 

田中 実は、私、静岡から仕事に通いたいと思ってるんですよ。自然豊かなところが安心します。私は音に敏感で、東京は夜中も騒がしいですね。浜松の地元では、家からコンビニ行こうとしても、音の振動がなくてシンっとしてるんですね。また、東京は父親と喧嘩して出てきてるので、戦う場所で、心を許しちゃいけないという思いが根っこにあるんです。実家だとまっさらの自分に戻れる気がします。

今の私の妄想では、両親のいる浜松と東京の間ぐらい、熱海に家を建てたいと思っています。それに足湯カフェを作りたいんですよ。まだ衛生面とか要勉強ですが考えてます。

 

ーーそのうち「こういうのを設計してほしい」とオファーも来るかもしれませんね。

 

田中 実務経験を2年積まないと一級建築士の登録ができないんです。だからまだ資格を得たスタートラインです。実務は2年分必要で、一級建築士の補助につくこと、資格の学校で教えること、研究でもいいそうで、手段はたくさんあります。どんな風に実務経験ができるか悩み中ですが、コツコツ積み重ねたいです。

 

一級建築士の資格をいかし、NHKの番組レギュラーも!?

ーーそれこそ大学時代の同級生は建築士をしていたりしますか?

 

田中 建築士の友達もいっぱいいます。人の命を直に預かるお仕事なんでみんな大変そうですね。納期が近くなれば休み返上ですし、依頼人と現場の人との板挟みにも合うそうです。

先日、結婚して産休、育休に入った友達が、今回の私のニュースを見て「もう1回一級建築士にチャレンジすることにした」と連絡をもらいました。ほかにもSNSでファンから「私も別の資格を諦めてたけど、刺激をもらいました」という反応もあってうれしいですね。

 

ーー一級建築士の資格をいかしたお仕事もありますか?

 

田中 2023年の4月から『解体キングダム』(NHK)という番組のレギュラーが始まります。今まではNHKBSプレミアムで城島茂さんと伊野尾慧さんがリポートしていましたが、ゴールデンタイムに枠が変更になり私が加わることになりました。番組では実際に高層ビルや鉄塔などの解体現場に行きます。

例えば、東京の日本橋、呉服橋にある高速道路に地下化プロジェクトがあり、その解体現場に行きました。近くを大きなトラックがバンバン走っていて、その出口をちょっとずつ剥がしていく現場で、すごく怖かったです。下は川で物も落とせないという難工事でしたね。

その解体する部分が、鉄筋もキレイで60年前のものと思えませんでした。日本はしっかり建てているから解体やコンクリートを砕くのも大変だそうです。近々、関西の解体現場も見に行く予定です。現場に行くまでは「私が見てて大丈夫かな」と考えてましたが、建築の勉強していたので、気になるところも出てきて、やってみたら楽しいお仕事でした。

 

悩んだときは、代わりに誰かに選択してもらうのもひとつの手

ーー田中さんが芸能の仕事をしながら、一級建築士の試験を受けようとした原動力はどこにあるんですか?

 

田中 人にはいろんな顔があっていいと思います。中学時代から憧れた女優も、大学時代から一級建築士を目指していたのも私のひとつの顔です。自分の中では一級建築士を取らずに人生が終わることは考えもしませんでした。ある意味諦めが悪いですね。

だから、私の一番の原動力は「自分が納得するかどうか」です。努力じゃ変えられない部分、例えば「私が宇宙飛行士になりたくて、でも視力が0.01しかない」のなら不可能です、諦めます。でも、不可能じゃないことを諦めることをしたくなかったんです。

 

ーーでは、女優・タレントとしての田中道子さんは、なにがあるから頑張れるんですか?

 

田中 女優やバラエティのお仕事は、観てくれる人がいるから成り立つものです。私は正直に話すと、好感度とかではなく、観てくださってる人が私を面白いと思い、元気になってもらえればいいと考えています。

実際に私が視聴者だとして、テレビにいい子ちゃんしかいなかったら絶対つまんないと思うんですよ。ハプニングや予期せぬ表情や感情がテレビの面白さだと思います。

私もせっかく公共の場に出るお仕事してるんだから毒にも薬にもならない人間になりたくないんです。だから、私を見たときに、ムカつくでも、刺激受けたでもいいから、なにかしら反応を受け取ってほしいですね。私も人付き合いするとき、場をかき乱す人も面白いと思ってしまうタイプです。結果的に私は周りを気にせず、のびのびと活動できていると思います。

 

ーー中学生のときのアクション女優への憧れが何度か出てきます。もう少し詳細を聞かせてください。

 

田中 近所にツタヤがあって、毎週家族の誰かが借りてきた作品をみんなで観ていました。姉はラブロマンス、私はファンタジー、兄はホラー、母はサスペンスと好きなジャンルがバラバラでした。でも、洋画のアクション物だと、かっこいいって家族みんなが観るんです。それでアンジェリーナ・ジョリーさんとミラ・ジョヴォヴィッチさんに憧れました。男性に負けない自立した大人のかっこいい女性のイメージです。子どものころは、理想の女性像とかぶっていて、アクション女優になれば、自立した女性になれると思っていましたね。当時は完璧な女性に憧れたんですけど、今は言い訳かもしれませんが、短所も魅力と思うようにしています(笑)。

 

ーー最後にこれだけ頑張ることができた田中道子さんだから伝えられる言葉もあると思います。人生で行き詰まったときの悩みにはどう対処すればいいでしょうか。

 

田中 うーん。プレッシャーですね……。悩んだとき、物事の決断にはものすごくストレスがかかると思います。そんなときは、私の行動基準は私の理想像ならどうするかを考えます。その理想像は、尊敬する先輩やお母さんでもいいです。あの人だったらどう行動するかな。悩んだときは、そんな風に代わりに誰かに選択してもらうことも重要です。すると、一歩引いて俯瞰的に見られますし、もしできるなら誰かの行動のマネをしてもいいと思います。

私は、女優として、母として、最近はドラマのプロデュースもなさっているMEGUMIさんが好きで尊敬しています。MEGUMIさんはタイムスケジュールの管理がスゴいんです。だから、自分がなまけそうなときには「MEGUMIさんなら今ジムに行くな」と考えて行動したりしています。

いろんな人の影響を受けながら私も作られているんです。もし今悩んでる人がいれば、理想の人やアニメのヒーローでもいいです、「あの人だったらどうするかな」と想像してもらうと、一歩踏み出せるんじゃないですか。私もよく使う手なのでやってみてください。

 

 

女優としての美しさ、バラエティ番組でのひらめきや絵の才能、さらに一級建築士の資格を取得するという努力家の面も持つ多才な田中道子さん。取材ではひとつの質問に真剣に考え込み、言葉を選んで的確に話してくれました。このマジメさ、一生懸命さが、田中道子さんのテレビで愛されるキャラクターにつながっているのだと思います。中学生からの女優、大学生からの一級建築士という大きな夢を叶え、つぎはどんなことでファンに夢を見させてくれるのでしょうか。楽しみに待っていましょう。