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2023/3/24 21:30

クリエイターは、目の前のおもちゃが欲しいという欲求に勝てない! プロデューサー橋本和明がフリーに 『名アシスト有吉』の裏側を語る

Netflixにて世界独占配信が開始し、「テレビでは見られないお笑いだ……!」と話題のバラエティ番組『名アシスト有吉』。個性的なゲストたちがMCを務める10本の番組に、有吉弘行がアシスタントとして参加するという新たなコンセプトのシリーズだ。今作を手掛けたのは、過去に『有吉ゼミ』や『有吉の壁』などの人気番組を立ち上げた橋本和明氏。実は橋本氏は、昨年末に日本テレビを退社し、フリーに転身。その記念すべき第一弾企画が「名アシスト有吉」なのだ。今回は、橋本氏に番組の見どころに加え、新たな時代のバラエティ制作やクリエイターの在り方について語ってもらった。

 

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:kitsune)

橋本和明(はしもと・かずあき)/1978年大分県生まれ。演出家・ディレクター。2003年に日本テレビ入社。「24時間テレビ41」、「有吉ゼミ」「ヒルナンデス!(火曜日)」「マツコ会議」「有吉の壁」などを手掛ける

 

有吉が〝MCが増えて昔より暴れることが少なくなった〟と……
「自由に動けるアシスタントになることをコンセプトに」

――この度、Netflixで配信開始された「名アシスト有吉」シリーズですが、企画を発案されたきっかけは?

 

橋本 今まで、有吉(弘行)さんと長年一緒に番組を作ってきた中で〝新しい有吉さんを見たい〟という気持ちが、僕の中にあったんですよね。今までやれていないようなことが、何かできないかと。それで、現在の有吉さんて「MC」の立場で番組出演されることが大半なので、逆に自由に動けるアシスタントになることをコンセプトにしたいと考えていたんです。

 

――たしかに最近はメインMC役が多いイメージですね。

 

橋本 同じことを続けていると、違うことをやりたい!って思うことがあるじゃないですか。僕らでさえそうなら、有吉さんはなおさらじゃないかと思って。それに、有吉さんが「MCが増えて昔より暴れることが少なくなった」って話も、ぽろっと口にしていたので。

 

――企画の段階から、ご本人に相談されていたんですか?

 

橋本 そうですね。『有吉の壁』や『有吉ゼミ』などで、週2回くらいは会うので、撮影の合間に「こういうこと考えてるんですけどどうですか」と相談していました。細かな内容を考えているときも相談しましたし。

 

――有吉さんの意向も反映されているわけですね。

 

橋本 はい。ただ、お互いめちゃくちゃ喋るタイプではないので(笑)、話し込んで相談したわけではないです。アイディアももらいましたけど、基本は雑談の中で「いま有吉さんは何を考えているのか」を拾いつつ、それをヒントに考えたりして。そういった言葉の端に本質や考えが出るかと思いますから。

 

――なるほど。それは長年一緒に番組作りをされているからこそ、分かる部分かと思います。

 

橋本 長く一緒にやらせて頂いてきた中で、ある種の信頼関係が成り立ってきたとは思います。有吉さんが、なんとなくこういう目線でやりたいだろう、ということも推し測れるようにもなってきたというか。ですが、最後の最後は聞かないと、想定していた笑いが作れなくなってしまう場合もあるので、そこは慎重にやってはいますね。

 

Netflixが選んだのは、まさかの〝どバラエティ〟
「もうちょっと高尚なものをやるのかと思ってたので驚いて(笑)」

――今作は、Netflixでの配信作品ということで、Netflixさんからのリクエストや要望はあったのですか?

 

橋本 もともと、最初の立ち上げの段階で、Netflixさんに僕が5本くらい企画をお送りしたんですが、その中でも一番テレビっぽい企画というか〝どバラエティ〟を選んでいただいた感じで、この企画に決まったんですよ。

 

――おお、それはNetflixさんがガチンコのバラエティ番組を求めていたということですか?

 

橋本 そうかと思います。僕はもうちょっと高尚なものをやるのかと思ってたので……驚いて(笑)。ですが、ただ派手なことをやるだけでなく、ある程度のお金と時間を懸けて直球のバラエティを作るって意外とやってないんじゃないかと思ったんですよ。そういった部分では〝Netflixさんだからできた〟側面が大きいですよね。

 

――たしかに、今のテレビにはない演出も多くて、“ここでしか見れない感”があり、興奮しました。

 

橋本 それこそ、有吉さんが「血糊を使うの面白いと思う」って言ってくださったおかげで、今回たくさん使いましたよ(笑)。テレビだと、ちょっとドキッとしてしまうような表現は難しい場合があるので。

 

――1エピソードごとの内容も濃厚なので、時間もかかっていそうだなと。

 

橋本 普通じゃできないだろうなってこともありますよね。例えば、内田真礼さんMCの回では、トムブラウン、タイムマシーン3号、真空ジェシカにオリジナルアニメを制作してもらったんですが、2か月かけてじっくり作ったんで(笑)。これ、テレビのサイクルじゃ大変だし無理だと思うんですよ。

内田真礼(Netflixコメディシリーズ「名アシスト有吉」独占配信中)

 

――配信だからこそ成立した部分も多くあるわけですね。

 

橋本 はい。さらに、そうやって完成した“どバラエティ”が、あのNetflixのラインナップに並ぶという異常さも面白いですよね(笑)。リッチで作品性が高いコンテンツと肩を並べて、分かりやすいジャパニーズバラエティが置いてある感じ。

 

――見たことない光景です。

 

橋本 その錚々たる作品のラインナップの中で、「名アシスト有吉」を選びたくなるようなマインドの日って必ずあると思うんです。映画やドラマを真剣に見るには、疲れているときとか……。そこを狙いたいですね。

 

――肩肘張らずに、気楽に見られるような。

 

橋本 『有吉の壁』がゴールデン進出した時も、その時間帯に数字が期待できるグルメや生活情報番組が並ぶ中、お笑い番組がポンッと放り込まれている実験的な状態だったわけで。でも、それから3年間凌いで戦ってこれた。その自信が僕の中にはあって、すごく嬉しい出来事だったんです。それをもう一度できたらいいですね。

 

――なるほど。ある意味ライバルは、Netflixの中の他ジャンルのコンテンツになる感じというか。

 

橋本 そう考えると、これを通したNetflixの方もなかなか尖っていますよね(笑)。その場の笑いをストロングスタイルでやるお笑い番組で、それをやらせてくれる度量の広さをNetflixさんに感じました。

 

GENERATIONSからベテラン芸人まで全員が本気!
「絶対面白くしたという気概が伝わってきました」

――本シリーズでは、豪華な出演陣も魅力のひとつとなっていますよね。MCを務められた方も、バラエティに富んでいるメンバーです。キャスティングの基準はありましたか?

 

橋本 一緒に“バカをやってくれそうな人”っていう基準の人選っていうのはあったと思います。腰が引けていたり、自分はMCだから……ってスタンスじゃ面白くならないので。有吉さんと一緒になって番組を作れる人っていうのは気にしましたね。

 

――GENERATIONSさんや、那須川天心さんなどバラエティのイメージがない方もいて驚きました。

 

橋本 GENERATIONSは、僕も「あんなことやっていいんだ……」ってびっくりしました(笑)。まさか、アツアツ騎馬戦や血糊ハリセンをノリノリでやってくれるとは……! 始める前にグループで作戦会議をしていて、絶対面白くしたという気概が伝わってきました。実際にその熱量が現場でぶつかって、芸人たちも刺激を受けていたと思います。

GENERATIONS(Netflixコメディシリーズ「名アシスト有吉」独占配信中)

 

――やはり芸人さんたちも気合いが入っていたんでしょうか?

 

橋本 そう思いますね。新しいプラットフォームでお笑いをやれる、新しいバラエティをやれるっていうワクワク感が全員にあったと思います。今回、「壁」のスタッフが入って制作しているんですが、有吉さんが言っていたのが「日テレのスタジオで、いつものスタッフでなんらいつも通りなんだけど(笑)、Netflixでやるっていう高揚感はあった」と。

 

――そうなんですね。今やベテランと言われるような芸人さんたちが、全力で身体を張ってたのがすごいなと。

 

橋本 小峠(英二)さんがフラッシュコットンをやったり、春日(俊彰)さんが巨大水槽で生活したり、大久保(佳代子)さんが地下アイドルをやったり(笑)。あれくらいのキャリアの人たちが、本気を出すって貴重だし、見られなかったものが見られるって新鮮ですよね。そこには、もちろんNetflixパワーはあるし、何よりバラエティっていう旗をみんなで振ってくれたのが大きい。要は、スマホのコンテンツしか見ない人にも、お笑いを届けたいという気持ちですよね。

 

ホリケンの20年温めてきた企画も実現!
「そんなにコレやりたかったんだってところから、面白い(笑)」

――さまぁ~ずさんや、ホリケン(堀内健)さんなどMC側でのベテラン勢の活躍もありました。

 

橋本 さまぁ~ずさんの企画では、一文字ロウソク消しや旗揚げゲームをやりましたが、そんなシンプルなことで、あれだけ盛り上がるって、一つの〝発見〟ですよねえ。それは、さまぁ~ずさんが肩を回してくれたことで分かったことでもあります。あと、ホリケンさんの頭の中を覗くみたいな、おかしくなりそうな企画も、自由にやらせてもらって(笑)。

 

――ホリケンさんが、20年温めていた企画を実現させたとか。

 

橋本 20年越しの企画が「カーカーくいコンドル」ってコンドルになって相撲するって…!(笑) そんなにコレやりたかったんだってところから、めちゃくちゃ面白い。20年考えてきたから、ホリケンさんの中に相当具体的なイメージがあって、それを再現しようとしている流れも面白くて。ドラマ「イカゲーム」のスタッフたちも何年もあたためてNetflixに持ち込んだって聞いたので、原点は一緒なのかもと思いましたね。

 

――また、本シリーズでは、アンジャッシュ渡部(建)さんが出演されていて、大人数のバラエティ番組の本格復帰となりましたね。

 

橋本 渡部さんとは「ヒルナンデス!」で7年くらいレギュラーで一緒に仕事してたんですけど、久々に一緒に仕事ができて嬉しかったなと、シンプルにその感情でした。やっぱり渡部さんのキレキレのツッコミをまた見たいな、とは思っていたのもありますし。だから、今回は一芸人としてフラットに出演してもらったんです。

 

――有吉さんの渡部さんへのフリや距離感も、フラットだった印象です。

 

橋本 そうですね。そのおかげで、違和感なく渡部さんの面白さが出ていると思います。なんなら、けっこうミラクルが起こっているので(笑)。収録をやっていく中で、有吉さんが見つけてくださった渡部さんの絡みに、制作陣も乗っかって進んで行って……まさに作品は生き物って感じを味わえましたね。見て欲しいなと思います。

 

日本テレビを出て“武者修行”へ 「クリエイターは、目の前のおもちゃがいっぱい欲しいという欲求には勝てない」

――橋本さんは、昨年末で長年勤めた日本テレビを退社されて、フリーランスとして活動されています。経緯や目的は何かあったのでしょうか?

 

橋本 もともと日本テレビに不満があったとか、そういう訳では全くなくて、むしろ“武者修行に出たいんだ”と会社に相談したら、行ってこいと言ってもらえたんです。今年で、僕は44歳なんですが、もし若い子の感覚や配信コンテンツのことを勉強して、自分のものにするとしたら、体力的にもギリギリの年齢だと考えていたんですね。僕の中ではフィールドを広げる作業ってめちゃくちゃキツいことで、気合いがいることなので。そう考えている中で、やっぱりそういう新たな世界に飛び込んでみたいという“衝動”が勝ってきて。それで、会社に申し出ました。

 

――辞めると話して、会社の反応はいかがでしたか?

 

橋本 いろんな反応があったので、誤解を生まないためにも、辞める時に、社内のたくさんの先輩にマンツーマンでしっかり話しにいきました。すると、「武者修行に出て、そこで見てきたものを日本テレビに還元してほしい」と言ってくれる先輩も多くて……。その時に、やっぱり辞めたくなくなりましたよね(笑)。良い会社だなと思ったし、仲間と離れる感覚は、寂しかったですよ。

 

――そうだったのですね。最近は、フリーランスとして活動するプロデューサーさんやクリエイターさんも増えていますよね。

 

橋本 そうなんですよね。結局のところですが、クリエイターはみんな遊びたいだけなんですよ(笑)。目の前のおもちゃがいっぱい欲しいという欲求には勝てない。だから、新たにフィールドを広げるためにも、会社から出る人もいるんだと思います。

 

――やりたいことが1つの場所では収まらないということですね。

 

橋本 新しいプラットフォームもどんどん増えているじゃないですか。そういうところに飛び込みたくなってしまうんだと思いますね。

 

バラエティ業界が迎える新時代で…
「僕らの世代でもう一度コントで勝負したいなと思う」

――今回の「名アシスト有吉」は、日本テレビとNetflixが協力して制作されている新たな試みですよね。

 

橋本 そうですね。どちらも面白いことを考えている方々だと思うので、こういった関係で作るものが、どんどん増えていったら、さらにすごいことが起きると思っています。

 

――新しいバラエティ番組の作り方が生まれて、プラットフォームの広がりもあり、自由なクリエイターも増えている。新たな時代に入ってきていると思いますが、どうお考えでしょうか?

 

橋本 テレビはもちろん、配信サイトやネット局などバラエティ業界に競争原理が生まれることはプラスであると考えています。ドラマ業界は早くからそうなっていましたが“見る強度のあるものしか見ない”じゃないですか。要は、自分が興味あるコンテンツだけを見る文化で、ようやくバラエティもそういったフェーズに入ってきたなと感じていますね。

 

――なるほど。見てもらえるものを作るために、どうするかということですね。

 

橋本 意図して見られるものを作ろうと、クリエイターたちが競争に晒されていくことはある種、健全なことだと思うんです。それがバラエティ業界全体の発展に繋がっていくと思うので。さらに、どうやってコンテンツを見つけてもらうかも、本当に大事な時代になっていて、そこは今よりもっと戦略が必要であるし、こちらが押し出すだけでは届かない時代なんですよね。だから、宣伝的な面でも過渡期を迎えている。そういった場で戦うのは、苦しいこともありますが、ワクワクしているような楽しみな部分も大きいですね。

 

――そういった時代の中で、橋本さんの目標や目指すところは何でしょう?

 

橋本 ひとつは、世界に出せるコンテンツを作りたい、と思っています。ドラマ業界も韓国に比べて、日本のドラマをどうやって世界に押し出せばいいと思っているだろうし、バラエティなんてなおさらだと思って。でも、ドキュメントバラエティやリアリティショーって、例えば「電波少年」のように、構築するのは日本が早かった。

 

――たしかに、いまリアリティーショーは世界的にトレンドですが、90年代には日本にあったという。

 

橋本 そういった世界に提示できるバラエティが、日本にはあるぞ、と見せていきたいですね。あと、人生の目標として、コント番組を作りたいというのがあります。コントでしか生きられない人が仲良い人にたくさんいるんですよ。シソンヌとかね(笑)。僕は、そういう人たちの生き方がすごく好きなのと、僕らの世代でもう一度コントで勝負できればという想いがあるんです。ただ、めちゃくちゃお金も時間もかかる世界なんで。

 

――コント番組、ぜひ見たいです。それこそ配信番組なら可能性があるかもしれませんし。

 

橋本 そうですね。先物投資のコンテンツでもあるのでね、ちゃんと育てて花が開くような。それでもやらせてくれる方がいたら嬉しいです。なので、すぐじゃなくても将来的に応援してくれる人を見つけるために、いまいろんな場所で結果を出していきたいですね。頑張っていれば誰か見ててくれると思うので。

 

――今後も楽しみにしています。本日はありがとうございました。

 

【information】

Netflixコメディシリーズ「名アシスト有吉」独占配信中