1983年、“腕時計は貴重品”という常識を覆し、“壊れない”腕時計を具現化したのが初代G-SHOCKです。その初期角形デザインは5600系に受け継がれ、ELバックライト、タフソーラー、標準電波受信機能、さらにはマルチバンド6、スマホリンクへと、ほぼ同じサイズながら高密度実装技術の向上によって多機能化を果たしてきました。
ここでは、数回に分けてそんなG-SHOCKの歴史を振り返ります。今回は1983年、初代G-SHOCKを中心に取り上げます。
【G-SHOCK史】1983-1984年
その1/1983年
DW-5000C-1A
カシオの若き開発者たちの夢を具現化した初代G-SHOCK。タイヤのようなボリューム感のある外装デザインは、全方位カバリングを実現したもの。まさに機能美の塊といえます。
その2/1983年
<耐低温仕様>
WW-5100C-1
初代モデルから7か月後、早くも1983年11月に発売された新作。DW-5000Cのタフさを追求し、−30℃から+50℃の環境でも正常に動作するようブラッシュアップされました。
【その3/1984年】
DW-5200C-1
初代モデルと同じモジュール240を搭載しながらマイナーチェンジ。1/100秒ストップウオッチ、タイマー、時刻アラーム、時報、オートカレンダーなどの多機能を誇りました。
【1984年/その4】
WW-5300C-1
耐低温仕様「WW」の2代目。初代WW-5100Cと同じく、文字盤に記された「WIDE TEMP-LC」の文字が、レッドに変更されています。操作ボタンを表す4つの矢印がユニークです。
【その5/1985年】
<マッドレジスト>
DW-5500C-1
G-SHOCK本来のショックレジスト(耐衝撃構造)に加えて、2つめのレジスト構造「マッドレジスト」を新たに開発。文字盤下部の「G-SHOCKⅡ」の文字に、カシオの意気込みが感じられます。
【その6/1987年】
DW-5600C-1
初代モデルDW-5000Cのケースデザインを継承する初期角型モデルの完成型。このモデルから、防水性能の表示が国内は「20BAR」、海外モデルは「200M」と区別されるようになりました
【その7/1988年】
<小型化>
DW-500C-1
角型デザインのDW-5600Cを、そのままボーイズサイズにまで小型化。男性向けに開発したモデルですが、通称「ジュニアG」とも呼ばれ、現在のBABY-Gのルーツとなりました。
【G-Shock episode.1】
世界一タフな腕時計を夢見た若き開発者たち
1981年当時、腕時計はまだ貴重品で、注意深く扱っていた時代。薄く軽い時計がトレンドで、最薄・最軽量を競い合っていました。だが、カシオの若きエンジニアたちはそんな常識に疑問を持ちました。
「違う。腕時計はもっと生活に根ざしたもの。使い込むほど味わいが出てくるジーンズのようなものが作れないだろうか」
2年の膨大な試行錯誤の末に完成したのが、DW-5000Cです。ウレタン樹脂で全面をカバーし、心臓部であるモジュールは点で支える中空構造を採用しました。初期角型モデルは、現在でこそG-SHOCKでは小振りな存在でしたが、当初は「大きすぎる」と、社内で否定的な意見が多かったといいます。また同時に、期待の声も一部にありました。だがさすがに、35年で出荷1億本の超ヒット作になるとは、誰も想像していなかったに違いありません。
【キーワード――耐衝撃構造】
<中空構造>
衝撃を受け止めずに受け流す逆転の発想
初代G-SHOCKで実現した耐衝撃構造は、モジュールをがっちり守るのではなく、ケースの中で浮遊させる考え方。いくつかの“点”でモジュールを支え、衝撃を分散させる逆転の発想。その外部をウレタンベゼルや緩衝材で取り巻くことで、10mの自由落下にも耐える構造を完成させました。現在は技術革新によりモジュール自体も耐衝撃性を備えるなど進化していますが、中空構造の考え方は継承されています。
<全方位カバリング>
ベゼルが受け身を取りバンドも耐衝撃形状に
G-SHOCKの形状はすべて、衝撃に耐えるためにあります。落下時に、ガラス面やモジュールと直結するボタンをガードするため、突き出たベゼル全体が受け身を取るよう設計。あえて凸凹とした独特のタフなフォルムにより、あらゆる方向からの衝撃を緩和しています。また、G-SHOCKのバンドは自然と腕に沿うように丸くなるタイプが主流。これはバンド自体がショックアブソーバーの役目を果しており、裏ブタへの直接的な衝撃を防いでいます。
【G-Shock episode.2】
誇大広告ではないかと疑われたテレビCM。GーSHOCKの凄さを最初に見抜いたのはアメリカ人だった
GーSHOCKの実用性を最初に認めたのは、実は日本人ではなくアメリカ人。タフさと手頃な価格が彼らの合理性にマッチしました。
決定的だったのは、米国で放映されたテレビCM。アイスホッケー選手がパックの代わりにDWー5200Cをシュートするという映像です。しかし、現地販売会社が製作したこのCMに、誇大広告ではないかと消費団体が噛みついた。その騒動を聞きつけた全米ネットのニュース番組が、CMの再現実験を生放送。結果、やはりGーSHOCKはCM通りに無事。この騒動が逆に知名度を高め、全米でブームが巻き起こりました。
走り込んできたプレーヤーが、強烈にシュートを放ったのは、パックではなくG-SHOCK。キーパーが見事にキャッチしたグローブの中で、DW-5200Cは何事もなかったかのように時を刻んでいる──というタフさをアピールする内容でした。