2015年、国連サミットで採択され、世界中で取り組まれているSDGs(持続可能な開発目標)。様々な目標が掲げられているなか、そのうちの目標12に「つくる責任 つかう責任」というものがあり、具体的なターゲットには11の項目があります。さらに、その中には廃棄物の削減や管理に対する取り組みが含まれています。
このSDGsから遡ること8年前の2007年。廃タイヤチューブを「管理」すべく、オシャレで頑丈なバッグに転じたブランドがすでにありました。それがモンドデザイン社が展開する「SEAL(シール)」。さらに、今年からは「特に日本に多い」という廃棄ビニール傘を再利用させるライン「PLASTICITY(プラスティシティ)」も立ち上げ、現在では同社の2大ブランドとなっています。
代表の堀池洋平さんは「SDGsは特に意識しているわけではなく、あくまでも『環境への貢献』が理念」とのことですが、ここでは同社の試みとその中身について迫ります。
廃タイヤチューブ、廃棄ビニール傘には共通する「素材の強み」があった
ーーモンドデザインではSEAL、PLASTICITYの2ブランドがありますが、両方とも廃材を再生させた商品展開ですね。
堀池洋平さん(以下、堀池) はい。「環境に貢献する」というのは弊社の根本にあるコンセプトで、これはずっと変わっていないです。2007年に販売をはじめたSEALは、廃タイヤチューブを再利用してバッグなどに転じたものです。廃タイヤチューブは、水に強く頑丈である一方、走行距離やサイズによってチューブの表面の質感が変わってくるんですよ。そういった素材個々に違う特性も活かして、再利用し製品化しています。
堀池 こうした再利用フローは、廃棄ビニール傘を元にしたPLASTICITYも同じです。ビニール傘は雨をしのぐためのものですから水に強い。そして、よく見る透明のものもあれば、柄がついているもの、薄い着色があるものなどもあります。例えば1000本の廃棄ビニール傘を集めると、このうち600本が透明、200本が半透明、残りの200本がカラーという割合だったりします。こういった素材の違いも活かして製品化しています。
廃棄ビニール傘の再利用製品が、これまでになかった理由とは?
ーーいずれのブランドもどのようにして廃材を入手し、製品化されているのかが気になります。大変そうな先入観がありますが。
堀池 まず、廃タイヤチューブは、タイヤの履き替え時に廃棄されることとなり、日本国内では産業廃棄物としてある場所に集まります。そこで選別をして回収していました。今は海外から1~2か月に一度、何千枚かを素材として輸入しています。
堀池 また、廃棄ビニール傘は主に駅や大きめの商業施設などで集めています。こういう場所では、意図的に捨てられるものもありますが、ほぼ「忘れ物」の傘です。しかし、忘れたビニール傘を取りにくる人はごく少数なため、一定期間保管された後、大半が廃棄されることになります。そういった廃棄される際のビニール傘を収集して素材にしています。
ーー想像では、廃タイヤチューブは洗浄と切り出しをすればすぐ素材になりそうです。しかし、廃棄ビニール傘は金属部品なども多く、素材にするのは結構な手間がかかりそうに思います。
堀池 そうですね。ビニール傘は、大きくわけてビニール、鉄、プラスチックの部品で成り立っています。「廃棄する」「リサイクルする」といった際は、すべて分解しないといけません。その手間とリサイクルに回した際に得られる費用が見合わなくて、だから皆さんが「やりたくてもできないもの」だったんです。
ーーそうなると、ビニール傘はどうやって処分されていくのですか?
堀池 埋め立てられたり、焼却に回されたりするという流れです。環境的には良くないことですが、再利用する際の費用が見合わないので敬遠される素材だったんですね。弊社でもずっと「ビニール傘を何かに使えないか」と思っていたんですけど、前述のような事情もあり、なかなか良いアイデアが浮かびませんでした。
しかし、ある時、齊藤明希さんというアーティストが「ビニール傘に手作業でアイロンをかけ、何枚か重ねて一枚にして販売する」という展示会をされていて、これがすごく面白かったのです。独特の質感に仕上がっているし、良いなと思いました。ただ、この時の齊藤さんは一点一点手作業でしたので、「量産させるためにはどうしたら良いか」という話をさせていただいて、そこで共同でPLASTICITYをはじめることにしたんです。
これまでに集めた廃棄ビニール傘は5000本くらい。廃棄ビニール傘を分解した後、齊藤さんが展示会で行っていたように4~6層に重ねてプレスして、それを縫製職人さんに出して、パターン通りに仕上げて製品化……というフローです。
日本国内での縫製に限定。その合理的すぎる理由とは?
ーー縫製は全て日本国内で行っているのですか?
堀池 そうです。日本の職人さんに頼むとたしかに相応の費用がかかります。そのことで「じゃあ安い海外の工場にオーダーしよう」というブランドは多いと思いますが、実はこれ悪循環なんです。「職人さんが高い」となると、受注する仕事は限られてくる。すると、そのような仕事を好んではじめたがる若者は少なくなり、日本での後継者もいなくなります。新しくはじめようとする人がいなくなるので、自然と日本の職人さんの人数が減っていく、その分費用もどんどん上がっていくという。
しかし、たしかに海外に比べればコストがかかる日本の職人さんは、技術力は高い。特にこういった個々に微妙に異なる素材を使った縫製は海外では出せないんです。一つ一つ目で見て判断して裁断・縫製していかなければいけませんので。そういった際、意思疎通もしっかりとでき、技術力が高い日本の職人さんは本当にありがたくて。こういった理由から日本国内の職人さんに限ってご協力いただいています。
ーーしかし、「廃タイヤチューブ、廃棄ビニール傘を縫ってくれ」と言われたら職人さんも驚きそうな……。
堀池 たしかにご協力いただけるところを探すのは、廃タイヤチューブの裁断・縫製、廃棄ビニール傘の分解・プレス全てにおいて結構大変でした。しかし、ご理解くださったいくつかの業者さんとお付き合いさせていただくことで、これらのブランドが成り立つようになり、良い流れができるようになりました。本当にご協力いただいている皆さんのお力です。
SDGsともまた違う、モンドデザインならではの環境へ貢献
ーーこれまでのお話を伺うと、まさに三方よしですね。環境に良い素材を使い、国内の職人さんたちの技術継承への貢献もあり、もちろんユーザーの方に対しても環境や社会問題への提示にもなるような。
堀池 そう言っていただけると嬉しいです。現状では、「リサイクルだから」「再生品だから」という理由でご購入されるよりも、素材やデザインの見た目にご興味いただきご購入される方が多いです。しかし、コミュニケーションの流れで「実はこのバッグ、廃棄ビニール傘で出来ているんだよ」などの話に繋がって、その人たちの記憶に残り、環境の意識へ繋がる流れができたらすごく嬉しいなと思います。
ーー近年、日本でも浸透されつつあるSDGsの目線で見ても理想的な流れのように思いますが、意識はされていますか?
堀池 SDGsという概念が広まりはじめたのが最近なので、実はそれほど意識はしていないです。あくまでも「環境に貢献する」という、弊社を始めた当初からの理念に従っているだけ。ですので、今後も弊社のやり方で展開していけたら良いなと思っています。
ーー最後に今後の展望をお聞かせください。
堀池 今はまだ途中段階ですので、今後も様々な形での廃材の再利用を今後数年かけてやろうと思っています。また、2年くらい前から海外、特にヨーロッパでの販売を増やしていたのですが、最近はちょっと控えめだったんです。これも徐々に再開させ、数年かけて海外の人にも弊社の理念を具現化した製品を、お届けしていきたいと思っています。
紳士的でクールな印象の堀池さんでしたが、その実、これだけのフローを経て、製品として再生させるためには相当なアツい思いがないと絶対にできないことのようにも思いました。モンドデザインの試みによって生まれたSEAL、PLASTICITYの2ブランド、これからさらに注目を浴びる予感がします。ぜひ注目してください!
撮影/我妻慶一
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