1973年創業で、人気を誇る革製バッグブランド「HERZ(ヘルツ)」。東京(2店舗)、仙台、名古屋、大阪、博多の6店舗で展開し、いずれのお店も店頭に工房が併設。買い物をするそばで、続々とバッグが生産されるユニークなスタイルが特徴です。
革製バッグのジャンルは幅広くその型数は500以上にも及びますが、このヘルツで特に気になるのが財布のカテゴリーです。他にはない厚手の革をあえて採用。どれも極めてシンプルで無骨な印象ながらも温もりがあり、使うほどに馴染んでいくモデルがラインナップされています。
近年はキャッシュレス化が進んでいるうえ、巣ごもりの影響もあり、生の財布を使う機会は以前より減りつつあるように思います。こういった時代に、ヘルツの財布はどのように進化しているのでしょうか。今回はヘルツ本店の泉 美佳さんを訪ね、ヘルツの財布および、財布の今について話を聞いてきました。
キャッシュレスの影響を受けるどころか、ヘルツならではの巨大財布も!
ーーメインの革製バッグだけでなく、財布も数多くラインナップされているヘルツでは、キャッシュレス化が進む今、どんな影響がありますか?
泉 美佳さん(以下、泉) 接客をしていると、たしかにキャッシュレス化が進んで二つ折り財布などのコンパクトなお財布への支持が高まっている印象があり、そういった商品を求められるお客さまもいらっしゃいます。あとは、コインケース、カード専用ケース、マネークリップと、一つのお財布を細分化して使い分ける商品も人気があります。
しかし、これはヘルツ特有のことだと思うのですが、そういった声に耳を傾けながらも、作り手が「まず作りたい」という財布が多いんです(笑)。実はヘルツの場合、後者のような商品のほうが人気があるんです。ヘルツのお客さまは、「流行に左右されない」「長く使える」革製品を求めてこられる方が多いので、キャッシュレス化の影響によって生まれたコンパクトな財布よりも、むしろ他のメーカーにはないボリューム感のある革の財布を求められる傾向があります。
ですので、コンパクトな財布の一定の支持をいただきながらも最近では、通帳も入れられるほどの大きなお財布を出したりしています。
ーーデカっ(笑)! 大きくて、なぜか笑ってしまいますね。
泉 むしろ時代に逆行しているような大きなお財布ですが、しかし、ヘルツのお客さまからは「こういう財布を待っていた!」「使いやすい!」といった声も多く寄せられるんです。だから、ヘルツでの財布の傾向がそのまま世間の時流とは合致しないように思っています。
どんなニーズにも対応するヘルツの財布群
ーー実際、ヘルツの革製品と言っても、種類が豊富ですよね。どれほどの革製品があるのでしょうか。
泉 私自身もパッと言えないほどですが(笑)。長財布、三つ折り財布、二つ折財布、ライトウォレット、マネークリップ、小銭入れ、ポーチなどに加え、名刺入れやカードケース、パスケースも関連商品として展開しています。さらに各カテゴリーごと、金具がなくパタっと閉じるだけのもの、ホックなどの金具で止めるもの、ファスナーで止めるものなどがあるため、本当に数多く展開しています。
泉 使っている革はいろいろありますが、多いのは2種類で1つが“ラティーゴ”というハードレザーで表面がツルッとしているもの。もう1つが“スターレー”というシボがあって柔らかいソフトレザーですね。財布はカバンに使用する革よりは比較的薄めの革を使うことが多いですが、それでも一般的な革財布よりは厚手で、壊れにくいものが多いです。
無数のラインナップの理由は、創業以来のこだわりによるところも
ーー相当なこだわりを感じる一方、これこそがヘルツだという印象も受けます。そもそものバッグや財布に対するブランドとしての思いはどういったものなのでしょうか。
泉 やはり「長年使っていただく」ことが主眼です。ヘルツでは何年前にご購入されたモノでも、できる限り修理をさせていただいています。創業以来、廃盤はなるべくしないようにしています。たとえ廃盤になったとしても型紙は保存し、できる限り対応させていただけるよう準備しております。
ーーそうなんですか?
泉 例えば20年前にご購入いただいて、それと同じ型のモノを使いたい場合、他メーカーだと廃盤になっていることも多くあります。売れるものだけが残っていくので、これは仕方がないことかもしれませんが、ヘルツではこういった声を大切にしていて。たとえ、店頭に並んでいなくても、サンプル品以外の商品化された型であれば、再び使っていただけるように可能な限りの修理をおこなっています。正直言いますと、年間を通して1本も出ない型もありますが、それでも大切に愛用してくださった方の要望はできる限りご対応させていただきたいと思っています。
工房と店舗が一体となっている理由
ーーそういった点でも、量産ではなく、1つ1つ手作りだからこそなせる技でもありそうですね。
泉 そうですね。ヘルツでは工房と店頭を一緒にしているのですが、お客さまがお買い物をされている横で、製作中の音が響くようなライブ感のある店作りをしています。その場で作ってすぐお出しするというわけにはいきませんが、できる限りお客さまが安心してお使いいただけるよう、製作行程もあえて裸にしています。
10年以上は当たり前? ヘルツの財布&バッグの使用年数
ーー話を財布に戻しますが、年間を通して、最も財布が売れる時期というのはありますか?
泉 やはり年末年始ですね。あと、新生活がスタートする前の2~3月も売れる傾向があります。ただ、これまで話した通り、ヘルツは流行に関係なく売れていることもあり、財布は年間通して動いています。
ーーきちんと使えば一生使える商品もありますか?
泉 はい。絶対一生使えるとは言い切れませんが、革なので30年以上同じバッグを使っていただいているお客さまもいらっしゃいますし、お財布にしても10年以上の方は結構いらっしゃいます。もちろん、直せる範囲で直していきながらですけど、これもヘルツ特有のことだと思います。
ーー最後に今後の展望をお聞かせください。
泉 これからも「我が道を行く」がメインになるとは思います(笑)。しかし、かと言って頑固なわけでもなく、スタッフが「なんか良いな」「こういうバッグ、財布があったら面白い」といった商品もどんどん出ていくと思います。突拍子もない商品はないと思いますけど、これからもヘルツの良さを継続して、商品に反映していきたいと思っています。
筆者は自分使いはもちろん、プレゼントなどでも数多くヘルツを利用しており、振り返ってみると、財布、名刺入れ、キーホルダー、バッグとヘルツ率がかなり高めでした。時代を追いかけるだけではない「変わらない」良さが詰まっており、使いやすいヘルツの商品群。時代に移り変わりが激しい今ですが、シンプルで長きにわたって使える財布、バッグを求めている方はぜひチェックしてみてください。欲しいものが必ず見つかると思います。
撮影/我妻慶一
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