ゲーム&ホビー
2016/7/7 19:40

落日のE3――されどゲーム業界は進む デジタル流通の進展で一人負けの現状【レポート】

今年もE3(Electronic Entertainment Expo)が2016年6月14日から16日まで米ロサンゼルス・コンベンションセンターで開催された。1995年から続く世界最大級のテレビゲーム見本市だ。新型ゲーム機や最新ゲームソフトの発表が全世界に先駆けて行われる、ゲームビジネスの中心ともいえるイベントだが、徐々に様相が変わり始めている。ゲーム産業全体が拡大する一方で、皮肉にもE3自体の地盤沈下が進行しているのだ。

 

パッケージからデジタル販売への移り変わりが実際に現れはじめている

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E3はもともと北米(アメリカ・カナダ)市場における家庭用ゲーム&PCゲームの流通向け「商談会」と、メディア向け「発表会」として発足。主催は米業界団体のエンターテインメントソフトウェア(ESA)協会だ。日本よりも国土が広く、物流や宣伝コストがかかるアメリカでは、年末商戦にむけて重点ソフトを流通会社やメディアにアピールし、受注をとったり、取材を増やす機会が求められた。こうした背景で生まれたのがE3だ。

 

ところがデジタル流通の拡大によって状況が変わってきた。2015年の世界ゲーム市場の内訳はスマートフォン&タブレットが33%、PCのカジュアルゲームが6%、PC/MMOゲームが28%、家庭用ゲームが33%だ(NEWZOO調べ) 。デジタル流通では受注や在庫といった概念は不要で、パッケージ流通よりも利益率が高く、海賊版問題も解決できる。そのためPCゲームはほぼデジタル流通に移行。家庭用ゲームにおいても同様の事態が進行中だ。

 

例えば、アメリカ市場ではパッケージ流通のピークは117億ドル(1兆2800億円)を記録した2008年のこと。そこから7年連続でマイナス成長を続け、2015年は52億ドル(5270億円)と約3割にまで減少している。その一方でスマートフ ォン&タブレットやPCゲームなどのデジタル流通分が落ち込み分をカバーする 形で、市場全体では3年連続成長中。2015年の市場総額は165億ドル(1兆8100億円)となっている(NPD調べ)。

 

前々段で「PC/MMOゲームが28%」、前段で「2015年の市場総額は165億ドル」と書いたが、実は、PCゲーム全体の市場規模に関する正確な統計資料は存在しない。というのも、世界最大のPCゲームのデジタル販売プラットフォーム「Steam」の売上規模が不明だからだ。SteamはPCゲームのデジタル流通で大半を占めており、アカウント数は全世界で1億件を越える。しかし、運営会社の米Valveは非上場企業であることを理由に、実数公開を伏せているのだ。つまり、現在語られているゲーム業界全体に関する数字はあくまで憶測に過ぎない。断片的な統計データを組み合わせたものなのである。

 

 

E3の来場者が減り、出展社にも変化が出ている

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パッケージ販売の減少という傾向をうけて、E3 2016では業界人の来場者数が5万2200から5万300人へと3%減少(ESA発表)。会場の空きスペースも昨年より拡大した印象を受けた。これには任天堂が新型ゲーム機「NX(仮称)」を発表しないと早々に表明したこと、また業界大手のEAとアクティビジョンがブース出展をキャンセルした影響も考えられるだろう。しかし、その背景には上で挙げた業界全体の構造変化がある。E3自体が踊り場を迎えているのだ。

 

また、家庭用ゲームソフトの大作化もE3の踊り場の要因のひとつだ。いまや大手では一作あたり数十億円から百億円以上の開発費がかかる。そのため業界全体が続編指向。この結果、流通各社はある程度正確な販売本数が見込めるようになったが、全体の作品数は減っている。さらに、E3でブースを出展すると、3日間の会期だけで数億円から十数億円のコストがかかる。これを嫌って、E3以外で個別に商談を行うケースも増加中。こうした事態も会場の密度感の低下に拍車をかけている。

 

さらに、メディア展開においてもE3の活躍の場が減っている。例えば、ストリーミング動画配信の活用。今年のE3に先立ち、SIE、マイクロソフト、ベセスダ・ソフトワークス、EA、UBIは独自にプレスカンファレンスを実施し、その模様を全世界のユーザーむけに生配信した。任天堂、スクウェア・エニックスもE3の自社ブースから連日、特別番組を配信。期間中に全世界で4200万人がTwitchを通してストリーミング配信を視聴したという(ESA発表)。

 

こうした環境の変化をうけて、ゲーム会社はどこも次の一手を模索中だ。これはハードメーカーからサードパーティ、はたまたインディ(独立系)ゲーム開発者まで同様で、それぞれがそれぞれの立ち場で独自の解決策を指向している。もっとも極論すれば、どの会社も「楽しい体験のマネタイズ」を追求している点は変わらない。その答えが多彩なのだ。各社のブースからはそうした、各々の戦略が透けて見えた。

 

ハードメーカーの戦略とソフトメーカーの戦略とは?

王道路線をとったのがSIEで、PlayStation 4とPlayStation VR(PS4むけVR HMD)向けに大作ゲームからインディゲームまで幅広いソフトラインナップを展開。質・量ともに頭ひとつぬきんでいた。PS4の累計販売台数は全世界で4000万台を突破し、発売3年目をむかえてソフトの品質も向上。10月に発売を控えたPS VRも話題性十分だ。もっとも携帯ゲーム機のPlayStation Vitaに関する展示はなく、日本市場との違いを印象づけた。

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これに対して別の道を歩み始めたのがマイクロソフトだ。筐体サイズを40%に抑えた「Xbox One S」や、4K映像出力に本格対応する上位機種「Project Scorpio(仮称)」といった新型ハードを発表。その一方でWindows 10とXbox Oneの互換性を高め、ゲーム機の販売台数にこだわらない姿勢も見せた。これには後述するPCゲームの市場拡大という側面もある。同社のクラウドサービス「Azure」への統合も視野に入っていることだろう。

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もっともユニークだったのが任天堂だ。大ヒットしたWiiのコンセプトにみられるとおり、これまで同社はあえて製品の機能や選択肢を削減することで、逆にユーザー体験を拡大する戦略をとってきた。E3 2016でも同様で、展示内容を新作ソフト「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」だけに絞るという前代未聞のブース出展を実施。他のタイトルやニンテンドー3DSの展示を抑えてまで、同作のアピールに全力をつくした。

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来場者以上に縮小傾向にあるのがサードパーティブースだ。目についた企業はUBI、2K/テイクツー、ワーナーブラザーズ、ベセスダ・ソフトワークス、スクウェア・エニックス、カプコン、セガ/アトラス、ナツメと10に満たない。Oculus Riftを擁するOculus VR社や、サムソン、Twitchなども大型ブースを構えたが、展示フロアには空きスペースが目立った。

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展示内容も様変わりしている。近年目立つのが、事前に商談予約がなければブースに入れない/トレーラーを上映するシアターのみで試遊台の数が極めて少ない/そもそも試遊台が存在しないなどのケースだ。例年UBI、そして今回は出展自体をキャンセルしたEAをのぞき、海外ブースは多かれ少なかれこうした傾向にあり、E3の「発売前のタイトルをいち早く試遊できる場」という性格が低下している。

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もっとも、この点で健闘しているのが日本企業だ。スクエニは「ファイナルファンタジーVX」「Hitman」「デウスエクス マンカインド・ディバイデッド」など、国内タイトルと海外子会社タイトルで、試遊台をバランス良く展示していた。カプコンも人気サバイバルホラー最新作「バイオハザード7 レジデントイービル」で、VR対応版のデモを披露。アトラスブースも「ペルソナ5」を試遊する熱心なファンで、常にごった返していた。

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インディゲーム34タイトルが集まった「IndieCade」ブースも例年同様の賑わいをみせていた。IndieCadeは業界有志によって2005年に設立された団体で、インディブームの一翼を担うほどに成長した。インディゲームの多くはPCゲームで開発されるが、家庭用ゲームに移植されるものもあり、累計1億本のセールスを記録した「マインクラフト」などの成功例もある。硬直化しつつある業界のカンフル剤として、もはや欠かせない存在だ。

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このほか影の主役になったのがやはりPCゲームだ。これには海外の大作ゲームがPCベースで技術開発が行われ、家庭用ゲーム機(現世代機ではPS4とXbox One)と併売されること。「Leagu of Legends」「Dota 2」など、PCゲームむけeスポーツ市場が急速に成長していること。インディゲームの多くがPCむけにリリースされること。そしてValveが運営するPCゲームのデジタル流通プラットフォーム「Steam」の成長が大きい。

 

一方で会場を飛び出し、E3会期中に隣接する商業施設で「EA Play」と題して一般ユーザー向けの試遊イベントを行ったのがEAだ。テレビCMが効果的な日本と異なり、欧米市場では近年、ネットを介したユーザーコミュニティに対する情報発信や販促活動が効果をあげている。次のステップとして、各社が力を入れ始めているのが、一般ユーザー向けの宣伝イベントだ。E3にあわせて自社イベントを開催したEAは、その最右翼といえるだろう。

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実はE3自体も業界向けイベントだけでなく、一般ユーザー向けイベントに性格を広げつつある。今年はじめて開催された「E3 Live」がそれで、E3会場に隣接するスペースで無料イベントを開催し、2万人の集客を得た(ESA発表)。もっとも、出展内容は芳しいものではなく、公式発表ほどには盛り上がらなかった、というのが正直なところだ。メイン会場とどのように差別化を図るか、来年に向けて知恵の出しどころだろう。

 

ゲームファン以外へのリーチという意味ではE3の意義は健在

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冒頭、E3には「流通向け商談会」と「メディア向け発表会」の2つがあると解説した。しかし、実際には3つめの機能がある。それが「業界のショウケース」としての役割だ。大手メーカーが一堂に会して最新ゲームを展示することで、一般メディアが取材に訪れ、社会全体でゲームの注目を高まる。残念ながらストリーミング配信だけでは、ゲームファンにしか情報が広がらないからだ。E3のこうした意味合いは、いまだ健在だ。

 

その一方でゲーム業界の変化に伴い、E3のもつ意味合いが徐々にずれつつあることは間違いない。こうした分析は主催団体であるESAでも、当然ながら行われているだろう。E3 2017は6月13日から15日まで同会場で開催される。来年はNX、Project Scorpio、そしてPS4の上位版「Neo」(ともに仮称)の出展が期待され、再びハードに注目が集まる年となる。E3がどのような対応を見せるか、期待したいところだ。

 

【URL】

E3サイト https://www.e3expo.com

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