ツインバード工業が昨年10月に発売した3杯抽出できる全自動コーヒーメーカー「CM-D457B」。自家焙煎コーヒーの第一人者であり、「コーヒー界のレジェンド」と称されるカフェ・バッハ(東京都台東区)の店主、田口 護(まもる)氏が監修しただけあって、「プロがハンドドリップしたような味が家庭で楽しめる」と話題になり、1年で約1万5000台を販売する人気商品となりました。
「プロの味」と話題になったコーヒーメーカーの新製品が登場
筆者自身もこの美味しさに感動した一人。同じコーヒー豆でも、コーヒーメーカーによってここまで味が変わってくるものか! と驚いたものです。そして今回、田口氏監修の全自動コーヒーメーカーの新製品が発表されました。それが一度に6杯ぶん淹れられる「CM-D465B」(実売予想価格4万5000円前後・税抜/11月上旬発売)です。従来モデルは3杯用だったので、ただ容量を2倍にしただけ……? と思うことなかれ。そこには大変な苦労があったようです。
従来モデルは低速臼式ミルや湯温が選べるこだわりの仕様
まずは6杯抽出の新製品をご紹介する前に、そもそも従来モデル「CM-D457B」にはどのような特徴があるのか、ご紹介しましょう。
先述のとおり同製品は、カフェ・バッハ店主の田口氏が監修し、プロがハンドドリップしたようなコーヒーを目指して開発されました。まず、コーヒー豆を挽くミルは、摩擦熱を抑えて豆の風味を損なわない低速臼式ミルを採用。粒度をそろえるため、刃には切れ味のよい燕三条製のステンレス刃を使用しました。
湯温は、田口氏がこだわる「83℃」と深煎り豆やアイスコーヒーに適した「90℃」の2つから選択が可能。ミルで挽いたコーヒー粉に、6か所からシャワーのように注いだあと、蒸らし時間をおくことで絶妙な濾過層を作ります。またドリッパーのリブは、蒸らし時に発生するガスを逃がしやすい高さと形状で設計するなど、細部にまでこだわっています。
さらにハンドドリップ時と同様に、これらの工程が五感で味わえる仕様に。豆をゴリゴリと挽く音、コーヒーのアロマのほか、シャワードリップの様子が見えるよう、シャワーの噴出口とドリッパーの間にすき間を設けているのが特徴。シンプルでスタイリッシュなデザインも評価されており、2019年グッドデザイン賞も受賞しました。
要望に応じて倍量モデルの開発をスタートするも、数々の壁に突き当たる
同社が、そんな全自動コーヒーメーカーの大容量モデルの開発に着手したのは、この3杯モデルが発売されて間もなくのこと。「もっとたくさん淹れられるようにしてほしい」という声が相次いだのがきっかけだと言います。「こんなに美味しいコーヒーだからこそ、家族で一緒に飲みたい、お客様のおもてなしで淹れたい、おかわりしたい…とニーズがどんどん広がっていきました」と同社プロダクトディレクション部の谷澤達也氏。
当初は単に容量を倍にするだけのこと……と安易に考えていたそうですが、いざ開発を始めると数々の壁に突き当たったそうで、商品開発部リーダーの吉田勝彦氏も「非常に苦しみました」と振り返ります。「まず突きつけられたのが、容量は倍でもサイズはコンパクトに、という無茶な要望でした(笑)」と吉田氏。さらにミルにかかる負担はどうやって軽減するか、1杯ぶんと6杯ぶんを同じドリッパーで淹れられるか、プログラムはどう変わるのか……と問題は山積み。まさにゼロからの開発となりましたが、味の再現性を求めてトライ&エラーを繰り返し、1年の開発期間を経てついに形になりました。
刃の枚数を増やしてモーターにかかる負荷を軽減
まず難しかったのはミル構造。従来のモーターで2倍量の豆を挽くと、モーターにかかる負荷が大きくなってしまいます。それを軽減するにはどうしたらいいのか? これを解決するために、従来モデルはミルのステンレス刃を4枚刃と4枚刃を組み合わせて粉砕したところを、新モデルは1つを4枚刃、もう1つを5枚刃とし、毎回同じ場所に負荷がかからないようにすることでモーターへの負担を軽減しました。さらにコーヒー粉の掃き出し用の羽根も、従来の2枚から5枚に増やしています。
ドリッパーはイチから試行錯誤して開発
続いては、ドリッパー。3杯用モデルのドリッパーは、カフェ・バッハで使っているものを参考に作ればよかったのですが、6杯用モデルは参考にできるものがありません。そこで3杯用を2倍サイズにしてみたものの、味が決まらない……。試行錯誤していたあるとき、底を厚くしてすり鉢状にすることによって味が安定することが分かり、採用されました。ちなみにこちらは4~6杯用のドリッパーで、1~3杯を淹れる際は、従来モデルと同型のドリッパーを重ねて使います。このアイデアには、カフェ・バッハ店主の田口氏も「そうきたか、と驚きました」と感心した様子でした。
また、大容量となるとガラスサーバーも大きくなるため、1杯分だけ入れると放熱により、コーヒーの温度が下がりやすいという問題があります。そこで小容量を淹れる場合は、保温ヒーターをオンにするタイミングを早めることで、温度の低下を抑えました。そのほかどの杯数でも美味しい味が出るよう、蒸らしや抽出の時間を秒単位でプログラミングしています。
これらの開発には、カフェ・バッハの田口氏と、総店長の山田康一氏がテイスティングに協力。1年の開発期間を経て、3杯用モデル同様、大容量でもプロがハンドドリップした味を実現しました。
実際に試飲すると、深みや風味がしっかり感じられる味わい
発表会では本機を使い、カフェ・バッハのコーヒー豆で淹れたコーヒーをいただきました。手順は従来モデル同様、コーヒー豆と水をセットしたら、3段階から選べる挽き具合と温度、杯数をダイヤルで設定し、スタートボタンを押すだけ。
じっくり豆を挽き、じっくりドリップするため、6杯で13~14分と時間はかかりますが、ふわっと広がるコーヒーアロマや、シャワードリップの様子を眺めていたら、待ち時間もあっという間に感じました。ガラスサーバーにこだわっているのも「コーヒーが落ちる様子を楽しんでいただきたいから」とのこと。まさに最後の一滴が落ちるまで楽しめます。
さっそく一口いただくと、うん、この味! 従来モデル同様、コーヒー豆の深みや風味をしっかり感じる美味しさが味わえました。ちなみに同じコーヒー豆を使い、同社で以前に製造していた(田口氏の監修モデルではない)コーヒーメーカーで淹れたものを試してみると、短時間で抽出されたものの味が浅く、風味もあっさりしており、やはり全然違います。
3杯用に比べサイズは少し大きくなるものの、1人にも大人数にも対応するこの「CM-D457B」があれば、家庭でプロの味をより多くの人と共有できます。コーヒーを楽しむシーンもさらに広がりそうですね。
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