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掃除機
2020/10/29 22:30

バルミューダ初の掃除機が「圧倒的に気持ちいい」のはなぜ? テクノロジーの細部を社長が語る!

自然界の風を生み出す扇風機「The GreenFan」の発売を皮切りに、高級トースター「BALMUDA The Toaster」を大ヒットさせるなど、斬新な発想で洗練されたデザインの家電を生み出し続けるバルミューダ。先日、同社初となるコードレススティッククリーナーが発表されました。その名も「BALMUDA The Cleaner(バルミューダ ザ・クリーナー)」。発売は11月17日で、実売予想価格は5万9400円です。本稿では、その発表会で触ることができた同モデルのインプレッションに加え、囲み取材で聞くことができたバルミューダ社長・寺尾 玄(てらお・げん)氏の思いをお届けします。

 

浮遊しているような感覚が味わえる「ホバーテクノロジー」を搭載

コードレススティッククリーナーといえば、いまや大手各社が開発にしのぎを削り、機能面ですでに高いレベルに達しているジャンル。この群雄割拠&超レッドオーシャン状態の中に参入するわけですから、おそらくいままで見たことがないようなものが登場するのでは……? そんな期待に胸を躍らせながら、発表会に参加してきました。

↑BALMUDA The Cleanerは「ホバークラフトとミニ四駆から着想を得た」(寺尾 玄社長)という、少年の夢が実現したかのような掃除機です。カラーはホワイトとブラックの2色。本体サイズはW300×D165×H1240mm、本体質量は約3.1kg(フィルタ―含む)で、運転時間は標準モード30分、強モード10分

 

結論からいえば、まさに「今までにない掃除体験が味わえる掃除機」でした。実際に動かしてみると、確かに前後左右、斜め方向でさえ軽い力で滑るように動きますし、ハンドルの軸を回せばぐりんぐりんとヘッドが自由自在に動きます。なるほど、これなら広い床でもすばやく掃除できますし、家具のすき間もヘッドをタテに入れて掃除でき、イスの脚周りもヘッドを回転させて丁寧に掃除できます。スムーズにスライドできるので、壁際の掃除も実にカンタン。

 

【動画】BALMUDA The Cleanerの動き

この操作性を実現したのが、ホバークラフトから着想を得て開発された独自の「ホバーテクノロジー」。こちらは「デュアルブラシヘッド」と「360°スワイプ構造」からなる技術です。

 

「デュアルブラシヘッド」は、その名の通りヘッドに2本搭載したブラシをそれぞれ内側に回転させ、床面との摩擦を低減することで、浮いているような操作性を実現。さらに偏軸二輪式のキャスターがヘッドの動きに追従することで、前後左右と全方向への動きを可能にしたといいます。「360°スワイプ構造」は、独自設計されたユニバーサルジョイントを核とする技術で、あらゆる角度の移動や横方向へのスライドといった自在な動きを実現するとのこと。

↑ヘッドに搭載した2本の「デュアルブラシヘッド」が内側に回転することで軽やかな浮遊感を生み出します

 

↑ヘッドの付け根に独自の「ユニバーサルジョイント」を搭載することで、前後左右斜めに動かせる「360°スワイプ構造」が実現

 

クイックルワイパーの利便性を目指して開発

↑フロアワイパーやホウキのように、左右に振りながら掃除できるコードレススティッククリーナーなんて、見たことがありません!

 

それにしてもこの見た目、この動き。コードレススティッククリーナーというより、シートで床を拭き掃除するフロアワイパーのようです。それもそのはず、そもそも同社の寺尾 玄社長は「掃除機より(花王)クイックルワイパー派だった」から。掃除機は出しっぱなしにするには存在感がありすぎるし、前後にしか動かないのが不便であるのに対し、フロアワイパーは、サッと取り出し、自由自在に動かして掃除ができます。その点が気に入って愛用していた寺尾社長は、デザインが美しく、前後左右斜めに動かせる掃除機を目指したというわけです。

 

ちなみに、自在に動かせる掃除機を開発できないか? とデザイナーとエンジニアにオーダーしたのは、2018年の年末のある日、会社の近所にある「三河屋」というお蕎麦屋さんでのことだったそう。驚くべきことに、デュアルブラシヘッドやユニバーサルジョイントなどのアイデアは、すでにその日のお蕎麦屋さんのテーブルで語られていたといいます。

 

「今回は、自分たちが作りたいモノではなく、珍しく事業の拡大と発展を考えて始まったプロジェクトでした。だからこそ、自分たちが『欲しい』と思うモノでなければ、頑張って作ることができません。ですから、企画を立ち上げる最初の部分がとても重要だった。それが幸運にも、三河屋さんですぐに『コレだったら欲しいな』というアイデアが出て。これに向かってチーム一丸となって突き進むことができました」(寺尾社長)

 

なるほど、同社といえばマーケティングをしないことで知られていますが、今回も市場ニーズより「こういうモノが欲しい」という個人的な動機を重視し、蕎麦屋のテーブルに収まる小さなチームで共有したのが功を奏したわけですね。単に幸運が下りてきたのではなく、最初から自由な発想が出る下地ができていたということなのでしょう。

 

なお、完成した本機とクイックルワイパーを比べてどうか? との記者からの質問に対し、寺尾社長は「圧倒的に勝っていると思います。クイックルワイパーは自由自在に動かすことはできますが、浮遊感はありません。クイックルワイパー派だった私が、やっと掃除機派に乗り換えられる。それだけの自由さと浮遊感を達成できたと思っています」と自信を見せていました。

 

ミニ四駆に着想を得た角ローラーで壁際の掃除もスムーズ

そのほかにも本機には、独自の特徴を多数備えています。例えばヘッドの4隅に搭載された角ローラーは、ミニ四駆から着想を得たそう。ミニ四駆は、コース壁面との摩擦を減らしてスムーズに曲がれるよう、車体にローラーを付けたものがあり、同様に、本機はヘッドの角にローラーを付けたことで壁際をスライドさせながらスムーズに掃除ができます。

 

この角ローラーの開発について寺尾社長は、「デザインとの兼ね合いが非常に難しかった。角ローラーの軸をどこにするのか、(デザインのためには)キワまで攻める(なるべく外側に設置する)必要があって、攻めれば攻めるほど、素材の強度の問題が出てきて、その両立が大変だった」とのこと。

↑ヘッドの4隅に取り付けられた角ローラーのおかげで、壁際掃除もスムーズに

 

↑角ローラーのおかげで、階段の掃除もスムーズ

 

なお、操作は極めてシンプルで、スティック上面のひとつだけあるボタンを押すだけ。長押しすることで、強モードに切り替わります。

↑操作ボタンは1つだけ。見た目がスッキリしているだけでなく、操作も簡単です

 

スティックからハンディに切り替える方法もユニーク。一般的なコードレススティッククリーナーは、スティック部分を取り外す、ハンディ部を丸ごと外すなどの方法でハンディに切り替えますが、同製品はスティック部とヘッドを取り外し、ハンドルとノズルを装着します。手間はかかるものの、ハンディにしても姿が美しいのはさすがです。

↑ヘッドとスティックを外したら、付属のノズル(中)とハンドル(右)をつけるだけ。手順はカンタンです

 

↑家具の上や隙間など、細かい場所はハンディ仕様で掃除ができます

 

本体重量は重いほうだが、掃除中に負担を感じることは少ない

なお本体重量は約3.1kgと、最近のコードレススティッククリーナーの中では重さがあるため、やはり持ち上げると重く感じます。しかし基本的には床に置いた状態で使い、掃除を始めると軽やかに動くため、掃除中に負担を感じることはなさそうです。しかも、寺尾社長によると、このヘッドの重さにも理由があるとのこと。

 

「ヘッドにブラシが2本あり、モーターも2つ付いているため、一番重い部品がヘッドとなっています。しかし、実際の製品重量と動かしたときの体感はまったく違います。持ち上げる掃除機と(本機のように)滑らせる掃除機、同じ重さでも人にとっての感じ方は全然違うのではないかな、と。また、実はヘッドにある程度重さがないと、じゅうたんに対応できないんです。(ヘッドが軽すぎると)すぐに転がってしまうので、今回は私たちのクリーナー事業の第1弾ということもあり、ある程度のオールマイティさが欲しかった。そのための重さと大きさなのです」(寺尾社長)

↑記者の質問に答える寺尾社長

 

ゴミを浮遊させる力が優れていて、運転音も「意外に静か」

ちなみに、肝心の吸引力についてはどうなのでしょうか?

 

「私もすでに自宅で使っていますが、パワーは十分です。通常の掃除機に比べて、両側からかきこむという構造なので、そもそもゴミを浮遊させる力が優れています。また、通常の掃除機は引くときに吸い込むとされていますが、我々の掃除機はどちらの方向でもかき出すことができます。ゴミを浮かせる、吸う、このダブルの力で優れた掃除性能を商品に付与できたと思います。そして、(掃除するスピードが)びっくりするくらい速い。数名のエンジニアが使い始めていますが、一番の変化は掃除をする人が変わったということ。圧倒的に気持ちがいいので『掃除機をかけたことがないけど、かけるようになりました』という社員が続出しています」(寺尾社長)

↑滑るような操作感が気持ちよく、クセになりそう

 

同社らしいデザインの美しさも健在。立てかけられた1本のほうきのように自然な姿を目指したといい、付属のスタンドは最も美しい角度で立てかけられるよう設計したとのこと。運転音についても、「作ってみたら意外と静かだった。デュアルブラシヘッドの効果で空気の流通が速いのではないか、と開発チームは推測をしている」(寺尾社長)といいます。

 

「デュアルブラシヘッド」と「360°スワイプ構造」を開発したことで、スイスイ滑ってぐりんぐりん回る、まったく新しい操作感が楽しめる本機。角ローラーなどの細部へのこだわりも、滑るような操作感に貢献しています。これらの技術は、「自分たちが欲しいモノ」という動機を重視し、個人的な着想を開発の起点としているのが大きなポイント。同社のこうした姿勢が実を結び、「圧倒的に気持ちいい」操作感が実現したといえるでしょう。

 

加えて、十分な集じん力を持ち、デザインも美しく、運転音も静か。このBALMUDA The Cleaner、単なるアイデア先行のモデルではなく、総合力が高いモデルに仕上がっているように思えます。新規参入ながら、群雄割拠の掃除機市場で新たな価値を創り出すかも……そんな期待が持てるクリーナーだと感じました。

 

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