フランクな雰囲気が良いアイデアを生む
では、続いて商品開発の流れについてうかがっていきましょう。驚くべきことに、実はライソンにはマーケティング担当がいないとのこと。アイデアは営業や開発など部署を問わずに随時受け付け、毎週10人程度で行われる商品会議で開発の進捗確認とともに新作の議論をするそうです。
「会議はフランクな雰囲気でやっていて、私が最終決定を行います。ネタはふだんの雑談から生まれてくることもありますし、トレンドなどはだれかが『こういうのが売れてるみたいですよ』と教えてくれることもありますね。以前は毎週企画を出そうというルールにしていたんですが、前日に考えたようなネタが増え、アイデアの質が悪くなって結果的にムダが多いと気づいてやめました。それに、ノルマがなくても良いネタが出ているので、ノルマを設ける必要もないかなと。実際に、いまでは毎週1ネタは採用になっていると思います」(山社長)
テーマによっては開発に長期間を費やす商品も
開発において重視していることを聞くと、「ファーストサンプルを作る前のトライアンドエラーにある」とのこと。たとえば、1月15日までクラウドファンディングでプロジェクトが公開されていた「超蜜やきいもトースター」は、近年でもっとも力を入れた製品で、開発には苦労したそう。
「このテーマならほかに開発を進めているところも少ないだろう、との判断で、開発には2年ほどの時間をかけて取り組みました。おいしさは人によってバラバラですよね。そのおいしさの最大公約数を得られるポイントはどこなのか、決めていくのが特に大変でした。味を安定させる温度や、水分などの条件を詰める作業などに時間がかかりましたね」(山社長)
ちなみに、こちらは山社長が東京の人気店に直談判して実現したコラボ商品だそう。
「毎年『品川やきいもテラス』というイベントが開催(2021年は中止)されていまして、うちも品川に支社があるものですから、東京に行ったときに訪れたんです。そこで一番行列を作っていたのが『超蜜やきいもpukupuku』さん。『あの絶品焼き芋を家でも作れたら幸せだろうな』という熱意をもって、後日お電話して共同開発をお願いしたのが始まりです」(山社長)
↑「超蜜やきいもトースター」は2020年11月にクラウドファンディングでプロジェクトがスタート。通常販売予定価格は1万8480円(税込)
ネーミングと製品サイズで違いを出す
もうひとつ、オススメの最新作が2月15日に発売された「揚げ直し名人」です。最後まで葛藤したのが、商品コンセプトとネーミングだったと山社長は振り返ります。
「機能はいわゆるノンフライヤーで、それがとにかく小さいというのがウリです。ただ、惣菜を温めなおすとサクサク、ヘルシーに仕上がりますし、冷凍食品もおいしく調理できるので、『揚げ直し名人』という商品名とコンセプトに舵を切りました。小さいことで場所を取らず、価格も抑えられるという点も差別化ポイントですね。もともとうちでは電気フライヤーを数種類販売しているのですが、実は小さいのが一番売れるんです。また、コアなボリュームゾーンは大手が作っていますから、製品を大きくしてみたり、小さくしてみたりと、ニッチなニーズに提案するのがうちのやり方です」(山社長)
今後は世界進出も視野に入れている
最後に、今後の展望について聞いてみました。
「価格は最初に『この値段なら欲しい!』という勘で決めているのですが、これまでは安さを求めすぎて機能を削ってしまった製品もあったので、もう少しバランスをとっていきたいと思っています。ジャンルも、調理家電以外にチャレンジしていきたいですね。新作に関しては、IoTなどの分野でライソンならではの『世界初』を作るために燃えているところです。また、5年以内には中国や欧米のマーケットも視野に入れていて、うちのアイデアを現地にローカライズし、独自の製品を展開したいなと考えています」(山社長)
その旺盛なチャレンジ精神で、いつか「世界のライソン」「世界の山社長」となる日が来るかもしれませんね。
今回のインタビューをまとめると、同社は、
●コンセプトやネーミング、製品サイズをはじめ、他社製品との違いを意識して差別化を図っている
●クラウドファンディングを宣伝とリサーチのツールとして賢く活用している
●アイデア出しはノルマより雰囲気を重視
●機を見て開発スピードで勝負することもあれば、テーマによってはじっくり開発する
……などなど、「違い」を出しつつも、自由で柔軟なものづくりを行っていることがわかりました。さすがヒットメーカーだけあって、学ぶべきところは多いですね。今後はどんな「ライソンらしい」商品が出てくるのか、みなさんもぜひ、注目していきましょう!
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