家電
2021/4/29 18:30

新参の「アイリスオーヤマ」は、なぜ家電業界で飛躍できた? ヒット商品のキーマンに聞く

手ごろな価格で性能十分な家電を多数手がける“バリューブランド”のルーツや、製品開発にかける想い、アプローチ方法についてインタビューを行う企画。本記事は、アイリスオーヤマのヒット商品をピックアップしながら、同社のモノ作りの強みを掘り下げていこう。

 

【アイリスオーヤマ基本DATA】

社名:アイリスオーヤマ

創業:1958年

本拠地:宮城県仙台市

ヒット家電第1号:ノンフライ熱風オーブン

1958年、大山ブロー工業所として創業。80年代にペット用品や収納用品などの製造・販売で躍進し、91年、アイリスオーヤマ株式会社へ社名変更した。生活者目線で不満や不便を解消する「ユーザーイン」発想で需要を創造。

 

【今回ピックアップする家電】

ボール型形状が室内の空気を強力に攪拌!

↑SPEC●適応畳数:20畳●消費電力:27w●風量:8段階(静音モード5段階)●首振り角度:上下60度/左右120度●送風モード:連続、強制攪拌●タイマー:2/4/8時間●サイズ/質量:約W210×H290×D210㎜/約1.3㎏

アイリスオーヤマ

サーキュレーターアイ DC silent

実売価格1万6280円

DCモーターとボール型形状で、パワフルな送風と図書館並みの静音性を両立。上下・左右に首振りする3Dランダム送風で、室内の空気をムラなく攪拌できる。約1.3㎏の軽量コンパクト設計で持ち運びもしやすい。

↑ドーム形状のグリルが風を中心に集まりやすくし、気流の直進性がアップ。表面性の広い羽根で1回転ごとの送風量も向上

 

【インタビューに答えてくれた人】

アイリスオーヤマ 家電開発部 季節家電課マネージャー

福増一人さん

入社以来、季節家電の設計・商品化ひと筋。代表商品はサーキュレーターアイ。2020年はファン付き衣類も担当。

 

ボール型形状の実現は大きな挑戦だった!

アイリスオーヤマがボール型形状の採用を決めたのは、大きなチャレンジだったそう。というのも、従来の市場にはなかった形状で、送風性能に問題をきたすことがないか半信半疑だったからだ。しかし、球体の曲率やプロペラとの距離を調整し実験を繰り返した結果、風がドリルのように中心にまとまることが判明。送風性能の大幅アップに成功した。

↑2018年発売の初号機。形状とモーターの大幅な改良により、従来機種より風速が約20%、到達距離が約50%アップした

 

↑20年発売の音声操作機能付き。高性能音声認識回路とマイク内蔵で、声をかけるだけで操作可能に

 

大阪R&Dセンター設立が家電業界進出の大きな転機に

アイリスオーヤマは、低価格・高品質に加え、思わず膝を打つ便利機能を備えた「なるほど家電」を展開。LED電球の大ヒットを足掛かりに、2009年に家電業界へ本格参入した。

 

家電業界で飛躍する契機となったのは、大阪R&Dセンターの設立だ。当時、海外メーカーに押されて業績が悪化していた大手家電メーカーは、大規模な人員削減を敢行。早期退職した技術者の海外流出が懸念されていた。折しも家電部門の強化を図っていた同社は、〝日の丸家電〟を支えてきた彼らを日本から手放すのは損失だと考え、技術者の受け入れを積極的に進めたのだ。

 

「大手メーカーの開発部門の多くは大阪にあるため、当社も家電の開発拠点を大阪に作りました。そこで様々なメーカーの家電知識を集めて開発を進めたことが大きな財産となっています」(家電開発部・福増一人さん)

 

最初のヒット家電は、14年発売のノンフライ熱風オーブン(※1)。油を使わずにフライ調理でき、後片付けもラクと人気を集めた。同シリーズはその後もたびたびメディアで取り上げられ、ロングセラー商品となっている。

 

「いくらなら買うか」という買い手目線で価格を決める

アイリスオーヤマの家電が低価格・高品質を実現できる理由は2つある。ひとつは海外に大規模工場を持っていることだ。

 

「国内外に複数の工場を所有していますが、メインは中国の大連工場。ラインはほぼ自動化し、品質が均一かつ低コストで製造可能です。また、当社はプラスチックや不織布など様々な素材を製造しているため、余分な仕入れコストがかからないのも低価格の実現につながっています」(福増さん)

 

2つ目の理由は値付け方法だ。製品の価格を決める際、通常は「この機能とこの機能で原価はいくら。売値はこれくらい」と値付けをする。だが同社では「この機能を備えた商品を作りたい」と考えたら、「いくらなら買いたいと思ってもらえるか」で売価を想定してから、逆算して原価を決める。開発前に仕様や機能の見積もりを行い、それらがクリアできてから企画を提案するのだ。

 

また、製品開発では「ユーザーイン」という考え方を徹底。これは開発者が実際に製品を使い、生活のなかでの困りごとを基に「あったらいいな」と思う機能を製品化する考え方だ。そこから「この手があったか」と消費者を唸らせる製品が生まれる。

 

「そんな家電の典型がモップ付きのスティッククリーナー(※2)です。開発者が自宅をクリーナーで掃除中に棚の上のホコリが気になり、『掃除機を置いてモップを取りに行くのは面倒』『掃除機がけとモップがけを同時にしたい』と考えて生まれました。対面式のIHコンロ(※3)も、夫婦でお鍋をするときの『私だけ火加減を見続けて、食べるのに集中できない』という奥さんの不満から生まれたのです」(広報室・高橋里奈さん)

 

社長の決裁が下りるや超スピーディに開発へ着手

製品開発は超スピーディだ。それを端的に表すのが、毎週月曜の朝9時半から7時間にわたって開かれる「新商品開発会議」である。

 

「社員の提案議題に対して、その場で社長のハンコが押されます。決裁の全責任をかけて、社長もこと細かく提案を追及していきます。社長からのGOサインが出たら、開発部のほか知的財産関係の部署、応用研究、品質管理など各部署が一斉に製品化に向けて動き出します。順序や段階を踏んでではなく、すべてが同時に進行していくので、スピーディな製品開発が実現できるのです」(福増さん)

 

そんなアイリスオーヤマで昨年最も売れた家電はサーキュレーターシリーズだ。累計販売台数は700万台を突破したという。アイリスオーヤマは現在日本のみならず、欧米やアジアの各国でも商品展開している。そしてそこでも重要なのはやはり「ユーザーイン」の発想だという。

 

「今後もそれぞれの国の住環境やニーズに合わせて製品開発を行い、世界中の方が快適な生活を送れる製品を提案していきたいと思います」(福増さん)

 

【インタビューに登場したアイテムたち】

(※1)FVH-D3A ノンフライ熱風オーブン

食材に含まれる油分を利用し、食材をカラリと揚げる。庫内を熱風が循環し、食材全体をムラなく加熱。メディアでも頻繁に取り上げられた。

 

(※2)極細軽量スティッククリーナーモップ付き

掃除機の延長パイプ部に静電モップを搭載。掃除中に見つけたホコリを拭き取れる。家電と日用品との組み合わせがアイリスらしい発想だ。

 

(※3)卓上IHコンロ 対面操作式

操作パネルがコンロの両側に付いた、ありそうでなかったIHコンロもヒット。食事相手と協力して火加減調節できるのが便利と評判に。

 

【コラム・バリューブランドの神髄】製品企画のプレゼンはわずか5〜10分で採否が決定!

「新商品開発会議」では、開発担当者が社長や経営陣、各部署の部長などを前にプレゼン。企画に疑問点が挙がると責任者がすぐ回答でき、効率が良い。与えられた時間は質疑応答を含めて5〜10分。短い時間でいかに端的にわかりやすく伝えるられるかが勝負となるため、アイリスオーヤマの技術者はプレゼン力がかなり鍛えられているとのこと。