9回目を迎えた「くらしのラボ」と「ムー」のコラボ企画。もはや長寿連載の域である。前回は「風水」をテーマにゲストを呼んで鼎談を実施。家電王・中村剛さんとオカルト王・三上丈晴氏による、交わらないようで交わったトークが展開された。今回は「付喪神(つくもがみ)」をテーマにした家電王vsオカルト王の対談をお届けする。
【前回の「風水×家電×オカルト」の鼎談はコチラ】
対談は「くらしのラボ」で配信されたコラボ動画で触れられなかった、付喪神の伝承や古い家電の危険性についての話からスタート。なのに、なぜか結論は三上編集長が新しい冷蔵庫を買うという話に……。その辺の脱線具合を含めて、なかなか読むことのできないオカルト談義、家電談義となったので期待して欲しい。
【家電王×オカルト王が「付喪神」について語る動画はコチラから】
家電への長年の”愛着”が付喪神を生み出す
——それでは、まず三上編集長に伺います。付喪神の定義と、ルーツについてお話し下さい。
三上 付喪神というのは道具に宿る精霊と言われていて、茶碗であるとかしゃもじであるとか、箒(ほうき)とかにつきます。付喪神がつくのは家の中でも日常的な、まさに家電的な道具に宿り、キャラクター的にはちょっととぼけた妖怪といった位置づけになりますね。
近しいものとして職人の道具があります。こちらは使い手の魂が入りますが、日常的に使うモノにつく付喪神とは若干違うと思います。職人の道具はメンテナンスを重ねて使い続け、捨てる直前に供養の儀式を行うからです。ちなみに消耗が激しいこともあって、昔の時代の大工道具はほとんど残っていません。
——家電王は、最近のアニメ作品を見ていて「付喪神」というワードが気になっていたと聞きました。
中村 付喪神をテーマにした作品があって、そのキャラが古い家電を連想させました。付喪神にもちょっと悪いものと、人間に寄り添うものがいます。道具である家電も、使い方や付き合い方、そして捨て方ひとつで、人間にとって良くも悪くもなる存在ではないかと感じました。
古い家電の買い替えという行動について、世の中に発信していきたかったので、今回のコラボレーションのテーマとして選ばせていただきました。動画でも触れましたが、リサイクルなどをしながら新しいモノを使っていける状態につながればいいと思っています。
——編集長に伺います。冒頭で「付喪神というのは道具に宿る精霊」と言っていましたが、付喪神は「霊」なのでしょうか? 「神」なのでしょうか? それともこれらとは違うものなのでしょうか?
三上 これは、日本人の思想や宗教観、世界観が関係します。日本人のものの考え方として、マテリアルな部分と御霊(みたま)的なスピリットのような部分の両面があります。たとえば、人形を作った場合、最後に御霊入れをします。それで初めてものとして完成するという思想があるので、長年使っていると愛着もわきます。
ただ、日常で使う家電に関しては御霊入れをしないけれどもスピリット的なものが入ってしまうというケースに当てはまるでしょう。先ほどお話したように、職人が使う道具とはちょっと違います。日常的な道具は、モノとして愛でたり愛着がわいたりするうちに御霊が入ることにつながるのだと思います。
中村 気づかないうちに、そういう儀式めいたものがあるわけですよね。世の中で使うモノは何かと考えると、ポジティブな気持ちで選んだモノには思い入れが入りやすくなりそうですが、ぞんざいに選んだらおそらく思い入れのようなものが入る余地がほぼなくなります。道具ではあるのだけれど、きちんと使われることなく放っておかれるという状態になりがちです。
——プレゼントはどうでしょう?
三上 気持ちが込められているプレゼントは、想いのやり取りになるので、付喪神の一種ではあります。
ただし、古い家電は発火やケガのリスクもある
三上 先ほど話に出た日本古来のもの、茶碗などと家電を比べて決定的な違いは何かといったら、電気ですよね。電化製品は、生物でいえば神経である電気で動きます。神経も電気信号です。だから、電化製品にとって電気というものは神経であり血液であり、体液でもあります。こうしたものが入っているということは、生きていると形容することもできるわけです。電気というエネルギー、御霊のエネルギーですよ。
中村 人間だって、体が衰えてきて最後は老衰や病気で死んでしまいます。家電製品を作るときには、設計段階で10年程度まで持つように考えられます。たとえば「200年持ちます」みたいなことをやってしまったら、価格が高くなるでしょう。消費者からすると無駄なコストでしかありません。適切な耐久性を持たせることが大切なのです。
家電が10年くらいのサイクルで買い替えていくのは、安全面からも重要です。古い家電は火災の原因になるケースがあり、人間に危害を及ぼす恐れもあります。14年ほど前(2009年4月)、長期使用製品安全表示という法律が作られました。扇風機だったら、今は設計上の標準使用期間が定められています。やはり新しいテクノロジーを搭載したモノのほうが良くて、便利だし、当然快適に使えます。
付喪神に話を戻すと、少し似ている思ったのがIoT(※)やスマートホームです。人が介在しなくても勝手に動くので、江戸時代の人が見たら、神が宿ったと思うかもしれません。人が便利に使いたいのだけれど、なかなか使いづらかったモノが、テクノロジーによってどんどん改善されてきているわけです。
※:家電製品などの”モノ”がインターネットにつながる技術
三上 扇風機なんか、なかなか壊れないですね。
中村 扇風機は、仮にメーカーの設計上の標準使用期間が6年だとして、ならば7年目に必ず火を吹くかというと、決してそうではありません。でも、永遠に使っていいわけでもありません。もったいない精神が先立って使い続けてしまうのでしょう。
いろいろな電化製品をちゃんと循環させていって、そのための費用を出していく姿勢も大切だと思います。使いづらいモノを長く使っていこうなんていうことはまったく言っていないのに、議論はなぜかすぐそちらの方向に行ってしまいます。
——買い替え時の目処みたいなものはありますか?
中村 コラボ動画でも言っているのが、ポジティブな買い替えです。冷蔵庫でいうと、10年ちょっと。昔の冷蔵庫は断熱性が悪いので、古いタイプのモノを使い続けていると電気代が高くなります。
古いモノは買い替えた方がいいとか、ポジティブな買い替えという発想になったら、他に何に気を付けたらいいかという思考に広がりが出てくると思います。先ほども言いましたが20〜30年前の冷蔵庫は電気代も高いので、いいタイミングで早く買い替えるのがおすすめです。
三上 今は、助成金も出るようですね。後で、どこのメーカーの冷蔵庫がいいのか教えてください(笑)。モノを長く使う行為と、モノを大切に使うという行為とはベクトルが全然違うということでしょうか?
中村 モノによっても違うでしょうが、そうした側面はあります。そもそも、今の日本の停滞は「昔は良かった」という幻想に囚われ過ぎているから、新しいモノを買いにくいメンタリティにあるのが原因だと思うのです。
SDGsとかカーボンニュートラルとか、言葉にはみんな踊ります。そして、こうしたことを実際にうまくやっていくために、たとえば共通規格(Matter)をちゃんと作ろうという動きが生まれています。Matter対応していれば、Google HomeでもAmazon Alexaでも連携するし、セットアップも容易です。
世界では具体的な流れが生まれているのに、日本国内では目立った動きがありません。古いモノを大事にするのはいいことだけれど、それと同じように新しいことにちゃんと目を向けたほうがいいと思うのです。
三上 もともと日本人って、新しいモノ好きですよね。飛びついては使い捨てといった姿勢が感じられました。今の時代は消費者側も生産者側もコンサバティブになっているということなのでしょうか。
中村 なっていますね。それと、グローバルな視点が足りないために世界の流れから遅れてしまっているのです。国内向けの新しい施策で、日本はどうするのかということをちゃんと考えてくれればいいですね。
今、電気代の値上げについていろいろ言われていますが、高くなる要因は何かと言えば、家の断熱性能が悪かったりすることにも原因があるのです。そのあたりを改善していく補助金を準備して対応すれば、改善された部分は機能を発揮し続けます。家電製品を効率的に使おうと思ったら、家の構造もよく考えなければなりません。
三上 そもそも、近頃は可処分所得が少なくなってきています。
中村 夏が暑くて冬が寒いと電気代やガス代が上がります。これはさまざまなメディアが、テレビを中心に電気代高騰を伝えているから意識されることなのですが、住宅の断熱性能が高ければその影響は緩和されます。
昔ながらの考えをちょっと変えた方がいいんだよということをきちんと伝えて、ちょっとグローバルなところに目を向けていくということが大切だと思うのです。「新しい」というのは、ただ単に扇風機とか家電一個だけが変わったというレベルの話ではなくて、家全体をスマートホーム化していくことでしょう。太陽光を含め、発電システムの最適化にもつながるはずです。
三上 電池ではできないのですか?
中村 電池を活用するのは、これからまさしく必須になっていくでしょう。ただ、単に溜めて使うだけだと放電するので、効率が悪くなります。
三上 そのあたりが課題だとは思うけれど、解決できるんじゃないですか?
中村 解決可能です。でも、そのためにはまず、家電同士のスマート化が必要です。先ほどIoTの流れでスマートスピーカーの話が出ましたが、それだけではなくて、すべてが同じプラットフォームでつながれば、家でエアコンを使う時に電源はEVから持ってきたりとか、バッテリーから持ってきたりとか、そのあたりを整理しながら使うことができるようになるでしょう。
合理的にやっていいと思うのです。家電の寿命と人の寿命が公倍数で進んでいくわけではないでしょう。だから1年でも長く使い続けてやるぞというモチベーションは無意味かもしれません。でもそういう人は持っている家電製品が壊れたり、まだ使っている途中なのに買わなければならなくなったりすると、がっかりした気分で買いに行くわけです。「お金払わなきゃ」という部分ばかり意識してしまいます。私がポジティブな買い替えと言っているのは、こういう場面を減らしたいという思いなのです。
正しい使用期間を考慮してポジティブな買い替えを!
対談のオチも冷蔵庫となったようだ。エコが強く意識される現代、モノを長く使う行為は本当に大切なことなのかもしれない。そういう姿勢であり続けるために、まずは正しい知識を身につけることが必要だ。壊れたり、性能が落ちたりしてがっかりした後ではなく、正しいサイクルを考慮しながら買い替えへのポジティブな気持ちを盛り上げていって、新しい家電を迎え入れるのがベストなのではないだろうか。
ポジティブな買い替えという言葉の響きは、三上編集長にしっかりと刺さったようだ。すっかり気持ちが盛り上がり、対談終了後も家電王に対して冷蔵庫に関する細かい質問をぶつけていた事実も記しておく。
取材・執筆:宇佐和通 撮影:我妻 慶一