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2015/11/28 12:00

五郎丸ポーズの意味は……「特にない」!? ルーティーンの共作者、荒木香織メンタルコーチがその秘密を語る!

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「五郎丸ポーズ」に「ルーティン」……。この2つの言葉が2015年の新語・流行語大賞にノミネートされるほど、ラグビー日本代表のワールドカップでの活躍は我々にとって衝撃的でした。日本列島がラグビー日本代表の勝利に沸き、世界中も驚きと賞賛の声を挙げました。

 

そんなラグビー日本代表を支えた存在が、チームのメンタルコーチを務めた荒木香織さんです。2012年のコーチ就任以降、エディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)のチーム作りを支え続けてきました。彼女はアメリカでスポーツ心理学を学び、博士課程を修了後、現在は兵庫県立大学の環境人間学部で准教授として教鞭をとっています。

 

10月31日をもって任務が終了し、肩書が“元”日本代表メンタルコーチとなった荒木さんは、現在育休中。京都にある彼女が生まれ育った自宅にお邪魔して、インタビュー取材を行いました。(このインタビューの内容は「五郎丸ポーズの共作者、荒木香織メンタルコーチが振り返るラグビー日本代表の成長」および「ラグビー日本代表躍進の立役者、荒木香織元メンタルコーチが語る、“選手の成長”と“日本人のメンタル”。」にも掲載しています。コチラもぜひお読みください!)

 

荒木さんは五郎丸選手の一連の動作、すなわち「ルーティン」のモニタリングと助言を行い、二人三脚で完成させた人物としても有名です。あのポーズの効果は? どんな意味があるのか? 今回は、「五郎丸ポーズ」についてたっぷり語ってもらいました!

 

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~五郎丸選手のルーティーンの秘密とは?~

「五郎丸ポーズ」や「ルーティン」と呼ばれるあの動作。学術用語では“プレ・パフォーマンス・ルーティーン”というそうです。五郎丸選手は荒木さんとともにこのルーティーンを作りあげていったということですが、そもそも一体どんな効果があるのでしょうか?

 

荒木さん「色々効果はあります。毎回同じ動作をすることで、これからキックするで、という準備を身体がしてくれるという説がひとつ。また、ルーティーンに集中することで、心の不安や外部からの歓声などの障害も取り除いてくれます。トライしたあとに心臓がバクバクして息があがっている、とか明らかにキックに影響を与えそうなものは当然ですが、『いけるかも!』というポジティブなものもないほうがいいんです。よく“ゲン担ぎ”だとか“精神統一”だとか言われることがありますが、実際は違います。ルーティーンという“動作のプロセス”そのものに集中できるようになることが大事なんです」

 

荒木さんによると、五郎丸選手はルーティーンの最中、「何も聞こえなくなる」というそうです。それだけルーティーンの遂行に集中しているんですね。ほかにもルーティーンの効果はあるそうです。

 

荒木さん「一定の動作を必ず行うことで、ミスをしたときの修正の基準にもなります。五郎さんは2~3本続けてキックのミスをすることはほとんどないと思うんですけど、これはルーティーンのなかで修正するポイントを設けているからです。例えばキックの前に一歩下がってから、八歩で蹴るんですけど、うまくいかなかったときはその下がり方・重心の移動をちょっと変えたりすることで対応ができるようになります。どこをどれだけ変えればどうなるか、ということが五郎さんのなかではもう分かってはるんですよね」

 

荒木さんが語ってくれたように様々な効果があるルーティーンですが、特に五郎丸選手に特有なのがあの独特なポーズ。あのポーズには一体どんな意味があるのでしょうか。

 

荒木さん「実は、動作ひとつひとつに意味があるのか、と問われればあんまり意味はないと思います。別にポーズの形式とキックの成功については統計学的になんの関係もないですから。ただ、ルーティーンを決めていくときに“キーワード”は必要ですよね。五郎さんにとって、“ボールを2回回して置く”“3歩後ろに”“2歩右に”……って行為がルーティーンのキーワードとしてよかった、っていうだけなんです。手の組み方とかは自然に決まっていきました。大事だったのはゴールの軌跡、イメージを描くことができるか、ということなので、姿勢はなんでもいいんです」

 

五郎丸選手がもともと感覚的に行っていた動作をベースに、4年間かけて確実なものに完成させていったそうです。微調整を繰り返し、ようやく15年の6月くらいに現在のカタチに落ち着いたとか。五郎丸選手のルーティーンに注目が集まりがちですが、他の選手もルーティーンのようなスキルを使っているのでしょうか?

 

荒木さん「いっぱいしていますよ。スクラムを組む前に1回息を吐いて、チームメイトのジャージを引っ張る選手もいますし、ネガティブなことを考えそうになったらテーピングをギュッと抑えたり。手首に言葉を書いて、それを見たり。ルーティーンばかりでなくて、クセみたいなものをうまく利用しながら、メンタルを調整していく方法を、それぞれの選手が見つけて、実践しています。もともとレベルの高い選手たちなので、すでに何らかの工夫をしているんです。それを感覚的に行うのではなくて、“なんのための動作か”を一緒に決めていきました」

 

荒木さんの携わってきた、選手たちの多様なメンタルの調整法が、ラグビー日本代表の強さの背景の一つだった……といえます。ここで気になってくるのは、ルーティンは私たちにも使えないの? という点。我々の日常生活のなかでも、ルーティーンを活用することはできるのでしょうか?

 

荒木さん「スポーツとビジネスの場面は根本的に異なるので、そのまま応用……というのは難しいですね。でも、例えば『プレゼンのときに緊張したらどうしよう』ということなら、緊張しても問題ないくらいの練習が必要です。理論的にはいつも通り、平常心で臨めばいいというのは嘘で、少し緊張していた方がパフォーマンスの質は上がる、ということが分かっているんです。大事なのは準備を怠らへんこと。わたしたちも4年間しっかりと準備してきたからこそ勝つことができました。メンタルが弱いのではなく、実は準備不足……という人が多いように感じます。緊張はしてあたりまえなので、そのための準備を欠かさないことが大切だと思います」

 

 

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プロフィール
あらき・かおり 1973年2月23日生まれ。京都府出身。学生時代は陸上競技部に所属し、ジュニアオリンピックに出場するなど選手として活躍。8年間に渡るアメリカでの留学・博士課程の取得の後、シンガポールの大学にて教鞭を取る。08年10月より兵庫県立大学准教授。スポーツ心理学についての研究を行う。12年から今年の10月まで、ラグビー日本代表のメンタルコーチを務めた。

 

 

取材・文/ゲットナビ編集部 撮影/土居雄一(TRYOUT)

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