ライフスタイル
2017/5/30 18:30

「つっぱり棒」はオワコン化したのか? 老舗メーカーの3代目社長が語った“日用品とデザインの関係”

国内のクラウドファンディングMakuakeを見ていて、面白いプロダクトを発見しました。古くからキッチン収納、つっぱり棒、つっぱり棚などを作り続けてきた平安伸銅工業が、クリエイティブユニットTENTとコラボレーションして考案した「DRAW A LINE」です。

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↑DRAW A LINE

 

シンプルなスタイリングを身にまとったいわゆるデザイナーズモデル。と思いきや、使われる現場の声なき声に応えたかのような設計がお見事。ポイントを1つ1つ見ていきましょう。

 

選べる壁面固定方式

「DRAW A LINE」のつっぱり棒は、その末端部を広い面積で押さえる大丸キャップか、スタイリッシュな小丸キャップかを選べます。大丸キャップは耐荷重を増やすことが可能(最大荷重25kg)で、重いシェルフなどのパーツをつり下げるときにも効果的。またホチキス、ネジ留めにも対応します。

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2段ロックで扱いやすく

最初にパイプを伸ばして、真鍮素材の貫通ネジで長さを決めます。さらにキャップ側にあるスクリューロックで長さを微調整。この2段のジャッキ式によって設置も取り外しもカンタンです。

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↑真鍮素材のネジ

 

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↑2段ロックでしっかり固定

 

各種パーツで機能性をアップ

「DRAW A LINE」のつっぱり棒に合わせた横位置のシェルフ/ハンガー、縦位置のテーブル/フック、横/縦位置のランプ、貫通ネジとデザインを合わせた真鍮マグネットなどと合わせて、設置する場所に応じた機能を持たせることができます。同様の機能はDIYで装備させることもできるでしょうけど、専用設計されたパーツのほうが安心というものですよね。

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今後はギターフック、自転車フック、傘立てやグリーン用のハンガーなどのパーツ開発も考えているそうです。

 

インテリアとマッチするデザイン

そして最大の特徴が、デザイン性です。従来のつっぱり棒は機能性重視。デッドスペースを埋めるためだったら仕方がない、という感覚で、白くて太くてがっしりとしすぎなつっぱり棒を使ってきた人も多いのではないでしょうか。でも「DRAW A LINE」のつっぱり棒なら、人に見せたい場所でも積極的に使いたくなってきます。

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あえてスペックをダウンさせた設計思想

そして最大の特徴が、耐荷重というスペックを追求していないところ。平安伸銅工業の商品群には耐荷重が65kgにも及ぶハイエンドモデルがありますが、あえて、でしょう。このモデルをベースとはしていません。

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日用品はデザインに走ると売れない?

つっぱり棒という実用性が求められるプロダクトでありながら、スペックを押し出さないプロダクトを目指したのはどんな理由があるのでしょうか。平安伸銅工業三代目社長の竹内香予子さんに尋ねてみました。

 

「私が会社を継ごうと決めたとき、自分が欲しい商品が自社になかったんですよね。つっぱり棒は便利な商品でこれまで一人暮らしを始めてからいつもお世話になっていましたが、『平安だから欲しい』と思えるものではなかったんです。これから会社をもっと盛り立てていこうと考えたときに、『ユーザーに選ばれる会社、名指しで指名される会社』にならなければ、生き残っていけない。そんな危機感を抱いたことがきっかけです」

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ふむ、コモディティ化が進んだ結果、メーカーによる差がなくなり没個性となってしまったのでしょうか。

 

「そうですね。つっぱり棒が世に出たころは目新しかったのですが、それが普及してくるとあって当たり前の物になり、どこの会社の物も違いがなくなり、あとは価格だけの勝負でした。だからつっぱり棒を作ってきた当事者として、つっぱり棒は『オワコン』だと思ってたんですよ。だからこそ、強みを活かして『別の商品』を作らないといけないと思っていました。いままでは機能と価格を高めることで市場を獲得してきた。一方で、日用品にデザインを加えると売れないというジンクスが日用品業界のなかにあったんです」

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えっ。そうなのですか。

 

「無印良品が数千億の売り上げに成長したいまでも、社内や同業者のなかでは『グッドデザイン賞をとったら売れない』といったジンクスがあったんです。でも、時代は変わりました。物があまる時代で、暮らしは量より質の時代に入っていることを、自分自身が物にあふれたミレニアム世代ってことで実体験で感じていたんです。とはいえ周囲には『デザインなんて、コストを高めるだけ』という空気がありましたし、だからって自分でデザインを内製できるような技術はないし……。そこで世代が近く、価値観が合うデザイナーを探して、自分たちのもやもやの答えを出したいと思っているなかで、偶然出会ったのがTENTさんでした」

 

おお! 最初から彼らのビジョンはしっくりときたのでしょうか。

 

「それがですね、私は『脱つっぱり棒』と言っていたので、彼らからつっぱり棒を提案されたときは、なんかもやもやしました。元の木阿弥になるのでは……と。でも、『つっぱり棒を生かすほうが面白くなる』『納得いく前提案させてほしい』というTENTさんの熱意で、徐々に自分たちの持っている強みを再認識することができ、つっぱり棒を再定義するというコンセプトで進めることになりました」

 

クラウドファンディングを使うことになった経緯を教えてください。

 

「クラウドファンディングは、以前から使いたいサービスでした。でも、クラウドファンディングでユーザーに訴えかけられるようなストーリーのある商品が出来ていなかったので、Makuakeさんと出会ってから3年越しの参戦なんですよ。フィラメントLED電球『Siphon』のプロジェクトを拝見したのですが、電球というコモディティーな商品でもこんなにできることがあるんだ。私たちもクラウドファンディングを通じて、直接ユーザーさんの声や反響を得て、それを開発に生かしていく作業をしていきたいと思っていました」

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開始後すぐに目標額を達成されました。そのご感想をお聞かせください。

 

「本当にうれしかったです。これまでは問屋さんや小売店を通じて販売していました。お客様の存在がみえない環境だったんですね。Makuakeでは直接お客様とつながることができ、またコメントをいただき、期待をいただいていることを肌で感じることができました。これまで以上にお客様の期待を裏切らないように、期待以上の価値を提供できるように、身の引き締まる思いです。ユーザーと直につながることで、社内にもこれまでと違う空気となりました」

 

耐荷重を見て、価格を見て選ぶプロダクトとなっていたつっぱり棒。でも竹内さんはクリエイティブユニットTENTの力を得て、スペックではなく使いたくなるデザインを平安伸銅工業の主軸となる製品に投映しました。

 

「DRAW A LINE」のつっぱり棒は、2016年6月に発表されたインテリア ライフスタイル アワードのBest Buyer’s Choiceに選出。モダンなデザインが多くの人に認められ、「使ってみたい」という気持ちがクラウドファンディングの成功につながったのでしょう。機能性も重要ですが、使用するシーンに落とし込んだデザインも大事。平安伸銅工業と「DRAW A LINE」の今後の展開にも注目したいところです。