ライフスタイル
2018/10/24 17:30

国際福祉機器展で見つけた「車いす対応キッチン」に感じた未来

「障がい者や高齢者は守るべきもの」という意識が、まだまだ日本は強いように思う。もちろん、サポートが必要な人には手を差し伸べるべきだ。しかし、人は誰でも「自立したい」と思うもの。手を差し伸べることが自己満足になってはいけないし、できることなら自立を促すべきだろう。

 

先日、国際展示場にて国際福祉機器展が開催された。最新技術から手作りのアイテムまで、世界の福祉機器を一堂に集めたアジア最大規模の展示会だ。そこでひときわ目を引いたのが、バリアフリーのキッチンだ。

この「車いす対応キッチン ウエルライフ」は、車いすユーザー自身が使いやすいように配慮されたシステムキッチンだ。会場の多くは「介護」がテーマだったように思うが、こちらは生活の自立を支援する数少ない商品だった。

 

車いすに座ったまま、調理や洗い流しができることを前提として設計されている。その工夫を見ていこう。

↑シンクの下が空いているため、座ったまま調理や洗い流しができる

 

↑座ったまま手が届く奥行き

 

↑上部の収納はボタンひとつで手の届く高さまで降りてくる

 

↑給水・止水は、手をかざすだけ

 

↑レンジフードの照明や換気は、リモコンで操作ができる

 

↑調理台はレンジとシンクまで横移動をしなくて済むよう、あえて短めに設計されている

 

実際に試してみた車いすユーザーからは、

「オーブンや食洗機が程よい高さなのがいいですね。自宅のものは低すぎて使うにはかがまなければならず、足が不自由な自分にはとても大変なんです」

「横移動しなくていいのも使いやすそう」

と高評価だ。

 

キッチン(ワークトップ)の高さは73~85cmまで1cm単位で変えられる。車いすユーザーそれぞれの状況に合わせることが可能だ。

 

ひとくちに「車いすユーザー」と言っても、人によって状態はさまざま。乗っている車いすが異なれば、できることも、作業しやすい高さも異なる。そこで、このキッチンの開発には11名の車いすユーザーが監修に当たったという。さまざまな意見を取り入れたことで、「すべての障がいに対応」とまではいかなくても、これまでの一般のシステムキッチンに比べたら格段に使いやすくなっているはずだ。

 

しかし蛇口、収納に電気を使うとなると、気になるのが災害時。停電が起きた場合に水が出なくなっては困るだろう。その懸念をスタッフに聞いてみると、カバーを外して設定を変えると、どちらも手動に切り替わるとのこと。車いすに乗ったままではその操作は難しいため、そこは外部の手が必要なようだ。

 

キッチンのカラーバリエーションも19色と豊富。自宅のインテリアに合わせて選ぶことができる。

↑バリエーションのひとつ。こちらはビビッドカラー

 

まだまだ日本はユニバーサルデザインが徹底されているとは言いがたい。ということは、障がいや加齢によってなにかを諦めたり、できないことが増えたりすることを意味する。

 

「障がい者用だからカッコ悪くても仕方がない」「高齢者向けだから選択肢が少ない」……では、人権にも関わってくる問題だ。

 

自分の好きなデザインを選び、自分の好きなときに、好きなものを作って食べるという、健常者が当たり前に得られる権利や選択肢は、誰もが得られるべきだろう。

 

ユニバーサルデザインが障がい者や高齢者だけではなく、健常者にとっても便利だというのはよく知られた話だ。このキッチンの例で言えば、車いすユーザーだけではなく、椅子に座って調理ができたら誰にとっても楽だろう。

 

ウエルライフからは、「諦め」や「デザインよりも利便さ」が感じられない。車いすユーザーでなくても「素敵」「欲しい」と思えるデザインだ。障がいや高齢を理由になにかを諦めなくていい社会は、すぐそこなのだ。