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2018/12/3 17:30

貯金は本当に無意味? 20代から身に付けたい税理士流「貯金術」

日本の家庭はかつて世界でも高い貯蓄率を誇っていましたが、1990年代以降、所得の低下や少子高齢化などが原因でその率は著しく低下。近年では貯金は無意味という説が出回るほど、お金に対する価値観が揺らいでいます。そんな時代だからこそ改めて考えたい貯金の意義。そこで、今回は税理士の方に貯金の重要性、貯金の方法、さらに資金運用についてお話を伺いました。貧富の差が開く一方の現代。低い給料でもそんな時代を生き残る税理士流の貯金術とは――?

 

↑税理士法人レディング 公認会計士・税理士、木下勇人さん。企業や資産家向けの経理だけでなく、一般の方向けのお金のやりくりについてもアドバイスを提供している

 

身近な体験に引き寄せながら貯金について考える

日本銀行情報サービス局内の金融広報中央委員会は、貯金を「将来に備えて銀行などにお金を預けること」と定義しています。総務省統計局の平成29年度の家計調査によると、2人以上の世帯の貯蓄現在高の中央値は1074万円。しかし、これだけ貯金をできている世帯の割合は全体のわずか5.6%。それに対して、貯蓄現在高が200万円未満の割合は約3倍の15.3%を占めています。両者の間では大きな差が開いています(下の図)。

↑総務省 2人以上の世帯の貯蓄現在高(総務省 平成29年度の家計調査より)

 

世代別で見てみると、2人以上の世帯の20代の貯金の中央値は77万円、30代で200万円、40代で220万円とイオン銀行は述べています。若いうちは所得が低いうえ、住居費や子育てしている場合なら教育費などの費用がかさむため、なかなか貯金できないという現実がありますが、貯金がなかなかできない理由はそればかりではありません。木下さんは「その目先優先の考え方こそが本当に危ない」と言います。

 

――目先のことを優先するあまり、なかなかお金を貯められないということをよく聞きます。

 

木下勇人さん(以下、木下)目先のこととは、たとえば「経験を買いに行く」と言って、まとまった休みに海外旅行で散財するという意味です。もちろん、その経験が投資になればよいと思います。家庭や仕事のストレスを発散するために外国へ行って息抜きをすることも人によっては必要でしょう。でも、その旅行にかけるお金のうち何割かを貯金に回しておかないと、いつか痛い目に遭います。

 

結婚して子どもを授かった場合、子どもは10代後半~20代前半で最も教育費がかかります。自分の老後にしても年金の微々たる額しか入ってきません。国の年金支給の不足分を消費税の増税で補うことで、年金制度は絶対に破綻しないという話もありますが、「将来は年金なんてもらえない」というのが庶民の見方でしょう。しかし貯金をしないままだと、「老後破綻」をしてしまう恐れがあります。

 

「終活」はいくらかかる? いま知らないと将来困る「老後」のお金事情(前編)

 

特に老後は現役時より収入が減る人のほうが多いわけですから、いまのうちに貯金をしておくかどうかで将来の生活に大きな差が出ます。貯金がないと将来、当たり前の生活を送れなくなるのは目に見えて明らか。それなのに貯金をしない方や貯金なんて無意味だと論じる方を見ると、「本当にそれで大丈夫ですか?」と心配してしまいます。

 

――貯金をするための心がけ、貯金のモチベーションの高め方というものはありますか?

 

木下 「心がけ」「意識付け」となると、これがなかなか難しくて、「何のための貯金なのか?」という問題をライフシュミレーションをしながら自分できちんと考えないと、貯金はなかなかできないと思います。昔は「貯金=徳」でしたから漫然と貯金をすることもよかったかもしれませんが、現代はそうではありません。何か目標を持って計画的にお金を貯める考えがないと、貯金は続かないでしょう。

 

確かに若いころには老後のイメージがつきにくいというのもよくわかりますが、できるだけ早い時期から社会のトレンドをよく見て、「独立意識」を持つことが大切だと思います。この先どうやって一人で生きていくのか? 親として家族を養えるのか? 老後破綻しないだろうか? 周りに迷惑をかけずに生きていけるだろうか? こういった問題を自分の身近な体験に引きつけながら考えることで、その意識を高めることができるかもしれません。そうすれば散財を控えて、将来のためにある程度は貯金をしておかないとマズい、という結論が導かれるだろうと私は思います。

 

簡単に始められる貯金の方法は「定期積金」。ごく普通の話ですが、給料が入る口座から天引き状態にして、「これは給料とは別に引かれるお金だ」と最初からわかっているから、多くの方たちがこの方法を選んでいるんだと思います。実際、平成29年度の家計調査にある種類別貯蓄で定期性預貯金が39.3%と最も多いタイプとなっています。

貯金だけでない! オススメの「資金運用」

銀行の利息がなかなか増えないいま、貯金をするためには銀行への定期積金や定期預金だけでなく、ローリスクの資金運用もオススメみたいです。

 

――貯金をする銀行の選び方はありますか?

 

木下 銀行は軒並み利息が同じですので、使いやすいところで良いと思います。銀行への貯金ができたら、今度は「お金でお金を増やす手段」も視野に入れるとよいでしょうね。

 

――つまり資金運用ですか。「お金でお金を増やす」というと、素人には少し恐い感じもしますが。

 

木下 資金運用には様々な種類がありますが、大まかに4つのパターンに分けられます。

 

ローリスク・ローリターン: 銀行預金、個人向け国債、地方債、社債(大手会社)等

ミドルリスク・ミドルリターン: 株式投資、投資信託、外貨(定期)預金、金

ハイリスク・ハイリターン: FX、先物取引

◯そのほか: iDeCo(イデコ=個人型確定拠出年金)、NISA(投資信託)

 

リスクとリターンの高さごとに分類した上記の3つはどこでも言われていることなので割愛しますが、このなかで、いま個人的にオススメしたいのは最近すごく注目されている「個人型確定拠出年金のiDeCo」です。

 

上限が設定されていながらも、自分で金額を決めて運用するiDecoは、入れた金額に対して、確定申告では医療費控除と同様、所得控除(小規模企業共済等掛金控除)が受けられるので税金対策にもなるんですね。

 

ただし、注意点は60歳になるまではお金を引き出せないことです。

 

――つまり民間版の年金のようなものですね?

 

木下 そうです。ローリスクではありますが、貯金が軌道に乗っている方ならやってみるのもよいと思います。

 

さらに、NISAは株や投資信託に投資をして、配当金が出た際、年間120万円までの投資に対する収益が非課税というものです。つまり、途中で売らないことを前提に、限りなく固い株式銘柄に投資をして、それをずっと持ち続ける。配当金が入ってくるけど、税金が取られない。しかも、銀行の利息よりもよいということになります。

 

――外貨での定期預金はどうですか?

 

木下 外貨預金も最近よく耳にしますね。利回りもよいので魅力的に見えますが、為替リスクがあるので日本円に換金する際に損をしてしまうこともあります。外貨預金をするのでしたら、この点も加味して考えておくべきだと思います。

――貯金や資金運用は何歳くらいから始めるのが理想でしょうか?

 

木下 やっぱり20代でしょうね。20代から貯金しておかないと、老後は食べられないと思っておくほうがよいでしょう。年代や家族構成によって異なる部分はありますが、やはり20代から貯金の意識付けをしておくに越したことはありません。20代だと、まだ結婚前の独身の方が多いと思いますから、ここでしっかりお金を貯めてほしいですね。結婚すると、どうしても独身時代よりもお金がかかってきますから。

 

――給料の何割くらいを貯金や運用に回すべきでしょうか?

 

木下 多ければ多い方がよいのですが、現実を踏まえると、最低でも2割。それよりも多くできるなら4割ぐらいがよいと思います。やがて結婚し、子どもが生まれた後も、この割合の貯金はキープすることが理想的。

 

40~50代を迎えると、一般的には給料がキャリアのなかで最も多くなりますが、高等教育に進学する子どもがいる場合は教育費が最も高くなります。このときは貯金額が下がってもいいのですが、その程度は、それまでにどれだけ貯金をしていたかによって変わります。

 

過剰にケチをしろと言っている訳ではありません。現実問題としてお金は将来絶対に必要ですから、常に「入るを量りて出ずるを制す」を心がけておいてほしいと思います。

貯金は無意味という主張のなかには、「人生の目的が貯金になる」「20代は貯金ではなく、知識や自分の可能性を広げるためにお金を使え」と論じているものもあり、それらには確かに一理あります。しかし、いまがよくても、将来に何が起こるかは誰にもわかりません。それでも、何が起きてもいいように準備をしておくことは可能。古典に学べば、例えば、二宮尊徳が勤倹の法則を説いています。昔から伝わる日本人の知恵を現代に合わせながら活用する。木下さんのアドバイスにはそんな意味も込められているのかもしれません。

木下勇人 | Hayato Kinoshita

相続・事業承継に専門特化した公認会計士・税理士。自らも不動産投資や起業をしている。税理士向け・一般向けセミナーを全国各地で年100回以上講演しており、ダントツでわかりやすいと評判。http://www.leding.or.jp