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2019/7/26 17:00

「スナックって何?」と聞かれてどう答える? 大学教授に聞く「夜の社交場」スナックの成り立ちの噺

夜の街でよく⾒かける⾝近な存在「スナック」。いま、気軽に⾏けてキャバクラよりリーズナブルということもあり、スナックが密かに⾒直されています。ただ、「どんな店かよく知らない」「敷居が⾼そうで⼊りづらい…」と、遠慮している⽅も多いはず。40代独身男性である、GetNavi web編集部の小林史於(こばやし・しお)もそのひとり。

 

スナック研究の第一人者にスナックの基本を教えてもらおう!

…まずは、恥をかかないために、スナックの基本を詳しい方に教えてもらおう! というわけで、⾸都⼤学東京・法哲学の教授でありながら、スナック研究会の代表も務める⾕⼝功⼀氏をガイドに招へい。今回を含めた4回の連載で「スナックとは何なのか」「どう楽しむべきなのか」を伝授してもらいます!

訪れたのは、⾕⼝教授が日々教鞭をふるう⾸都⼤学東京。初回のテーマは“きほんのき”として、スナックとは何なのか、キャバクラなど、ほかの業態とは何がどう違うのか。また、スナックの成り立ちや、なぜ先生がスナックについて研究するに至ったのか、などを谷口教授にお聞きしました。

↑⾕⼝功⼀氏。スナック研究会代表、⾸都⼤学東京・法学部教授。専門は法哲学。著書に「日本の夜の公共圏 スナック研究序説」「ショッピングモールの法哲学」(ともに白水社)など

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です。

 

スナックに関する学術的な本がなかったことが研究のきっかけ

小林 本日はよろしくお願いします!  スナックの基本をお聞きする前に、まずは谷口先生について少しおうかがいしてもよろしいでしょうか? 大学教授がスナックの研究をされているって、かなりユニークだと思います。先生がスナックに興味を持たれたいきさつから教えていただけたら。

 

谷口 知人の学者とスナックで飲んでるとき、「なんでスナックっていう名称なの?」とか「全国に何軒あるんだろう?」という話題で盛り上がったんですね。でも、誰も知らないと。「帰って調べればすぐわかるだろう」と思ってたんですが、調べてもわからない。特にスナックの軒数に関してはまったくのナゾ。というのも、歴史や軒数などを調べた学術的な本が存在しなかったんです。

 

小林 ええっ、存在しない!? それで研究者魂に火が着いたというわけですね。ちなみに、軒数はどうやって調べたんですか?

 

谷口 保健所をはじめとする機関を調べるなど、いくつか方法はあるんですが、スナックって開業に関する許可は不要なんです。届出だけでOKな業態なんですね。なので、スナックとして登録されていないケースもあると。そこで行きついたのがタウンページです。ここにはスナックというくくりがあって、2015年時点では約10万軒もありました。

小林 じゅ、10万軒! …といっても比較対象がないからピンと来ないです! その数って多いんですか?

 

谷口 はい、多いですよ。他業種ですと、美容院が一番多くて23万、続いて不動産が12万。飲食店でいえば居酒屋でも8万、コンビニでさえ6万軒でしたから、実はそれよりスナックのほうが多いんです。深掘りしていくと、スナックって地方の小さな駅の近くや、それこそ山あいの「こんなところに?」という場所にさえある身近な存在なんですね。なのに、それに関する本は少ないということにも興味がわきました。

 

小林 コンビニより多いのに、誰も研究していない…と。確かにその意外性は面白いですね。

 

谷口 あとは、私は大分の別府生まれなんですが、実家が駅前近くにある繁華街の中心地なんですね。周囲にはスナックも多く、知り合いの大人はみんなスナックで日常的に飲んでいたことも大きいです。私自身、大人になったらスナックで飲むんだろうな…と思ってましたから。

 

小林 なるほど、スナックは先生にとっては身近な存在だったんですね。一方で「大人の階段」みたいな存在でもあったと。

 

谷口 また、本業の法哲学にも関係してるんです。公共性などに関する理論的な研究が主なのですが、そういった市民的活動って、昼間のボランティアやNPOなどが一般的。でも市民的な活動って、昼間だけ行われているわけではないですよね? 夜に地元の会合を飲食店でやるにもかかわらず、実は夜にフォーカスを当てた研究ってなかったんです。人生の半分は夜なのに。その点、スナックはマスターやママ、お店の女性だけではなく、お客さんとも話す場所であり、地域の「夜の社交場」になっている。そんな公共の場所として、スナックの研究をしてみたら面白いと思ったんです。

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スナックはカウンター越しに接客しなければならない

小林 では、いよいよスナックの基本についてうかがっていきます。そもそも、スナックって何なんでしょうか? その定義から教えてください!

 

谷口 実は、明確な定義はないんです。私が「スナックって何?」という質問に答えるときは、「ママがいてカウンター越しに接客する店」だと言っています。従業員とお客さんとの位置関係はひとつのポイントですね。もしお店にソファなどがあっても隣には付きません。

小林 ああ、いわれてみれば!  そこがキャバクラやクラブとの違いですか?

 

谷口 そうですね。大きな違いとして、キャバクラやクラブは風俗営業の許可を取っているお店。風俗営業の許可があるお店は、客の隣に座る「接待行為」ができる。一方、スナックは風俗営業の許可がない「深夜酒類提供飲食店」なので、客の隣に座ってはいけないんです。法規制以外で見れば、キャバクラなどは基本的に時間料金制で、女性の指名制がありますよね。でもスナックの場合、都心部などの店舗賃料が高いケースを除いては、おおむね時間制ではありません。またスナックには指名制もありませんね。

 

スナックは形式上、軽食(snack)を出すバーから発展した

小林 そういえば、ガールズバーもスナックと同様、カウンター越しの接客ですよね。スナックとはどう違うんでしょう?

谷口 ガールズバーはスナックと同じく、風俗営業ではない「深夜酒類提供飲食店」です。基本的に指名制もないですが、時間制のチャージを払い、カウンター越しに接客する女性のドリンク代も払うシステムになっていることが多い。また、ガールズバーの女性従業員はおおむね20代。若くても30代以上が取り仕切るスナックとは年齢層が違いますね。

 

小林 では、「スナック」という名称はどこから来ているのでしょうか。

 

谷口 これは文字通り、「軽食」(=snack)に由来します。スナックの前身は「スタンドバー」というお店なのですが、1964年の東京オリンピック開催を機に風向きが一変。多くの外国人が来日することもあって風俗営業への取り締まりが厳しくなり、深夜営業が難しくなったんです。深夜喫茶やスタンドバーは、深夜まで音楽をかけて踊るなど騒音が問題となっていて、不良がたまる場所として問題視されていた。こうして、「スタンドバーなどのお酒を提供する業態は営業させない」と法律が改正されたんです。そこで、営業する側も一計を案じ、「スナック」つまり、軽食を出すという「スナックバー」という形式で対抗。「飲むだけの店」ではなく、「食べる店」ならば深夜まで営業できるでしょう? というわけです。これがいまのスナックにつながっていくわけですね。

 

小林 へえ、スナックにとっては、前回の東京オリンピックが転機だったと。2020年の東京オリンピックが近づくいま聞くと、歴史を感じてちょっと感慨深いです……。

 

人口あたりの軒数がもっとも多いのは宮崎県

小林 ちなみに、スナックが多い都道府県ってどこですか?

 

谷口 都道府県別の単純な総軒数では1位が東京都、2位が北海道、3位以下は福岡県、大阪府、神奈川県。見ての通り、大都市が多いという結果になっていますね。ただ、人口あたりの軒数となると、1位が宮崎県、2位が青森県、3位以下が沖縄、長崎、高知と続きます。

 

小林 おお、人口あたりの軒数で言えば、大都市から離れた地方が強い! 特に暖かい地方に……。

 

谷口 顕著に「西高東低」の傾向があることがわかります。九州や高知に多いのは、お酒が好きという県民性が影響しているのかもしれません。また、人口あたりの下位は45位が千葉、46位が埼玉、47位が奈良。これらは完全に大都市のベッドタウンですね。働き手が仕事終わりに職場がある都市部で飲み、地元では飲まないからだと考えられます。

 

小林 なるほど、確かに……非常に興味深いです!

 

市区町村の人口あたりで見ると、離島や農村・漁村に多い

谷口 なお、さらに掘り下げて市区町村別の人口あたりでみると、離島やその周縁部に多いという傾向もあります。たとえば高知県の奈半利町(なはりちょう)という、人口3000人ほどの小さな港町が全国5位に。また、沖縄県最東端の島にある人口600人ほどの北大東村(きただいとうそん)が8位。これは離島や農村・漁村にはスナックが多いという、ある種の相関性を物語っています。また、全国的に自衛隊の大きな基地や、大規模な工業都市の周辺にはスナックが多くなる傾向にあります。これは、スナックがその地域における大切な娯楽であることを意味しているといえるでしょう。

 

スナックをみればその地の情勢や経済が見えてくる。谷口教授のスナック講には、地域社会を知る観点からも興味深い点がたくさんありました。次回は、スナックと景気との関わりや業界が抱える問題点、今後のスナックの展望についてもお聞きしていきます。お楽しみに!

撮影/中田 悟

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