気軽に⾏けてリーズナブルということで、密かに注目されている夜の社交場「スナック」。その魅力や楽しみ方を解き明かしていくのが本連載です。ガイド役は前回に引き続き、スナック研究の第一人者である⾸都⼤学東京の法学部教授・⾕⼝功⼀氏。スナックに憧れる40代独身のGetNavi web編集者・小林史於(こばやし・しお)による谷口教授へのインタビューを通し、スナックの置かれている現状やスナックの未来に触れていきます!
※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です。
↓前回の記事はコチラ↓
スナックはその地方の様々な情報が得られるメリットがある
小林 前回は、「スナックの軒数が、居酒屋やコンビニより多い」と教えてもらったことには驚きました。確かに、スナックはけっこうな田舎にだってありますからね。それだけ欠かせない存在というのはわかるのですが、具体的に、客は何を求めてスナックに行くんでしょうか?
谷口 まずは、お酒を飲んだりママと会話したりというところでしょう。そのうえで、地域の社交場なので、その地のいろいろな情報が得られるメリットがありますね。これはママからだけじゃなくて、お客さんからの話も含めて。だから、昔は地方で事件が起きると、サツ回りの人(警察担当の新聞記者)はスナックで情報収集するのが常套手段だったんです。警察関係者もスナックで聞き込みをしますからね。
小林 スナックのママって、地元の情報にすごく詳しいイメージがありましたけど…やっぱりリアルに頼りにされているんですね!
谷口 たとえば「この辺で一番おいしいお店を教えて」なんていうのもアリ。ママや常連さんから、地元の人しか知らないような穴場の店を教えてもらえることもありますよ。なかには地元の名士が来る店もあって、そういう店の情報はまず間違いがない。こういう地元の名士が来る店はスナックのなかでも高級で、利用料金も高めです。ただ、バブルの時代に比べると地方の高級スナックは大変かもしれないですね。
小林 地方の高級スナックは大変…というのは、いまは昔ほど景気がよくないということですか?
谷口 はい。僕は仕事の関係上、地方の県庁や市役所などで話を聞くことも多いんですけど、その夜にスナックで飲んでいると、その地の本当の経済事情が見えてきますよ。大都市の景気はなかなか地方まで回っていかないですから、製造業が撤退してしまった地域は、特に厳しいです。
人口に見合っていないのにクラブがある街は景気がいい
小林 スナックは、地方の社交場であるゆえに、その地の景気を映す鏡でもあるんですね。ちなみに、「高級」といえば、クラブ(※)を連想しますが、こちらのほうはどうなんでしょう。
※クラブやキャバクラは風俗営業の許可を取っているお店で、営業時間は深夜0時まで。風俗営業の許可があるお店は、客の隣に座る「接待行為」ができます。一方、スナックは風俗営業の許可がない「深夜酒類提供飲食店」で、営業時間の規制はありませんが、客の隣に座って接客できません
谷口 クラブで有名な繁華街といえば、東京の銀座、大阪の北新地、名古屋の錦、福岡の博多などですね。クラブを見ていく場合は、人口比率も関係してきます。人口の約1%の富裕層を対象にしている業態なので、30万人を超えないと成立しません。ただ、面白いのが15万~20万人の規模でもクラブがある街があって、そういう街には飲みに行く余裕を持っている人がいる。つまり、街自体に経済力があるんです。
小林 なるほど! つまり、人口に見合っていないのにクラブがある街は、景気がいいというわけですね。クラブの有無、クラブの数が景気を見る指標になると。では、クラブが成立しない地方都市を補うのがスナック、ということになるのでしょうか?
谷口 そうですね。クラブはなくても、スナックが地域の社交や娯楽の場を兼ねていて、地域社会の重要な部分を占めています。また、スナックは地域の「働く場」としても貴重な存在なんですよ。スナックには資格が不要なので、参入障壁はそれほど高くありません。スナックで起業して、お子さんを立派に育て上げたシングルマザーもたくさんいらっしゃいます。女性にとって、ひとつのセーフティネットともいえるでしょう。
人手不足とコンプライアンスの厳格化がスナックの課題
小林 景気に関しては社会全体が抱える課題だと思いますが、スナック業界ならではの課題となるといかがでしょうか?
谷口 女性の人手不足が深刻です。特に地方は、若い女性が都市部に出ていっちゃうと、水商売に長年携わっているオーナーが多店舗展開をしようと思っても、雇う女性がいないから難しい。
小林 少子高齢化の波は水商売にも押し寄せているんですね。
谷口 人手不足は、スナックで働く女性以外でも深刻化しています。実は、地方の客では「スナックに行きたいけれど、行くのが難しくなった」という人が少なくありません。なぜなら、いわゆる「代行」、つまり自分が乗ってきたクルマを運転して帰ってくれるドライバーの数が少ないから。週末になると2~3時間待ちとかがザラにあるんですよ。
小林 なるほど…それではスナックに行く気もなくなっちゃいますね。人手不足のほかにスナックにとって打撃になったことってありますか?
谷口 たとえばコンプライアンス(=法令遵守・法律や社会的な通念を守ること)に関わる部分ですね。たとえば、接待によるスナックの支払いを経費で切りづらくなったことが挙げられます。地方における裕福な層って、有力な経営者を除くと、役所や地方銀行なんですよ。でもコンプライアンスが厳しくなって、経費で落とせないから、あまり飲みに行けないようになった。本来、地域の経済を回すには、彼らがお金を落とすようにしなければならないと思うのですが…。
小林 たしかに。そのせいで地方の経済がさらに衰退するとは…。その点はもう少しみんなで考えてみる必要がありますね。
高齢者の楽しみを増やす「介護スナック」が登場
小林 と、いままではちょっと暗い話でしたが、逆に明るいニュースはないでしょうか? たとえば、未来のスナックの展望とか。
谷口 面白い例では「介護スナック」というものがありますよ。昨今、高齢者が行きやすいように、昼間から営業しているスナックが増えてきていますが、これはその進化系ですね。
小林 へえ、それは面白い! 具体的にはどんなものなんでしょう。
谷口 入店は高齢者のみと年齢制限を設け、完全予約制。スナックというだけあって、客はカラオケを楽しんだり、お酒を飲んだりできるんです。もちろんお酒を飲んでOKな人だけで、量もあらかじめ決まっています。内装も高齢者仕様で、バリアフリーの店内にテーブルを固定して、床にはウレタン材を敷くなどの安全な造り。来店する場合は家族などが事前にスナック側と打ち合わせをして、送り迎えも行ってくれます。店で働くスタッフは全員福祉施設の職員なので、何か起きてもすぐ対応できるというわけですよ。
小林 それなら安心ですね。「要介護だけど、本当はスナックに行きたい」というニーズはたくさんありそうです。高齢者にとっても、楽しみが増えるのはいいことですね。
谷口 ビジネス面での引き合いも多いですよ。とある自治体が興味を示しているとか、大企業が資本参入しているといった話もあります。介護市場はこれからより巨大なマーケットになるでしょうから、その点でも明るいニュースといえるでしょう。
スナックを開拓すれば旅行先が「プチふるさと」になる
小林 最後に、一般の方に向けたスナックのオススメの使い方をお聞きしてもいいでしょうか?
谷口 住んでいる街のスナックに通うのもいいですが、あえて地方のスナックに行くのもいいと思います。観光に行っても、知らない土地の人と会話することってないじゃないですか。でもスナックなら地元の人とじっくり話ができる。特に出張が多い方は、ひとつのスナックに何度も行けば知り合いができるようになりますよ。そうなると「ああ、あの県にはあの⼈がいたな」と、会いに行く楽しみができる。
小林 ある意味、スナックが「帰る場所」になる…と。いわば「プチふるさと」のような存在になるわけですね。ちなみに、行くのは男同士だけでなく、カップルでもいいんですか?
谷口 もちろん。「よく来てくれた!」って大歓迎してくれますよ。料金が高くないので、行きやすいのもいい。だいたいどこも3000円程度で、安い地域なら1500円ということも。旅行先で飲食店に飲みに行くことは多いと思うので、ぜひその一軒にスナックを入れてもらいたいですね。
小林 なるほど。まずは小料理屋や居酒屋でご当地つまみと地酒を楽しみ、二次会ではスナックで焼酎の水割りと地元の人との会話を楽しむ…と。地方を様々な角度から楽しめるわけですね。最高じゃないですか!
「第二都市」と「対人口比の数が上位の県」がオススメ
谷口 いまは東京をはじめ、札幌、仙台、名古屋、大阪、京都、福岡といった大都市は年々ホテルが高くなっていますから、第二都市を狙っていくのがいいですよ。たとえば、北海道だったら小樽だったり、愛知だったら岡崎市だったり。静岡でいえば静岡市のようなところは安く泊まれますから。
このほか、前回話しましたが、対人口比でスナックの数が日本一の宮崎をはじめ、2位の⻘森、3位以下の沖縄、⻑崎、高知などはどの市町村でもイチオシです。で、宿泊費で浮いたぶんをおいしいご当地料理とスナックに使う。そして、地元民から聞くディープな歴史や文化にふれることで、日本の再発見を楽しむことができるんです!
――次回はいよいよ「実践編」。大学からスナックに舞台を移し、スナックの選び⽅や⼊店後の流れ、マナーとしてやってはいけないこと…などを谷口教授に聞いていきます。お楽しみに!
撮影/中田 悟
「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です!!