ライフスタイル
2019/8/16 10:50

サプリのように米も“機能”で選ぶべき!医学博士が提唱する「玄米」の真価

日本の食医学と玄米が着目された歴史

元木:玄米が体にいいというのは、いつごろから言われているのでしょうか?

 

渡邊:もともと、“食養”を提唱したのは石塚左玄(1851年生まれ医師、薬剤師)という人で、明治40年(1907年)に「食養会」という会を設立しました。その少し後になって、米国から帰国した佐伯ただすによって栄養研究所ができ、それぞれ活動をしていたのです。僕は国立健康・栄養研究所の理事長を務めているときに、栄養研究所の設立や食養会のことを勉強しました。戦前に「玄米か、七分づき米か(どちらが体にいいか)」という論争があり、対立しながら両者が続いたということがあります(笑)。

 

元木:「食養会」と言えば、人間の食物は穀物が主体であるという理論ですね。穀物の中でも玄米か、七分づき米なんてことで対立があったのですか! その時代に何か不思議な論争ですね。驚きです!

 

渡邊:ただ、そもそも「食養にはエビデンスがないじゃないか」と言われていますね。だから今回、この『医師たちが認めた「玄米」のエビデンス』を企画・監修したという経緯があるのです。

 

腸内細菌(腸内フローラ)の改善にも重要な役割を持つ玄米

渡邊:その後「GENKIstudy」という疫学調査をおこない、玄米食を習慣にしている人は、腸内細菌のパターンがみんな同じことを発見しました。長寿の人はみんな持っている細菌が多いのです。

 

元木:……というと、玄米を食べていると長寿になり得る細菌が多くなってくるというわけですね。その細菌は美容や健康に関心が高い人たちに魅力的なものです。その証明があれば、玄米の魅力はさらに注目されますね。

 

渡邊:その通り。玄米はブドウ糖の吸収がゆるやかだから糖尿病にも効果的で、さらに抗酸化作用があるので、ガン予防にも有効と言われています。それだけでなく、GABAやフェルラ酸が豊富なので、認知症予防に効果的なのです。

 

元木:玄米はすごい機能性食品なのですね。その玄米に含まれる成分が腸を刺激し、今話題の“腸活”とか、“腸内フローラ”へ影響を与えてくれる貴重な食材となるのですね。

 

渡邊:大腸だけでなく口腔内や皮膚など、実は体中がみんな菌まみれなのですけどね。

 

元木:私たちの体には、何個くらいの菌がいるのでしたっけ?

 

渡邊:体の細胞は、体重を細胞の平均重量で割って60兆個といわれていますが、菌は腸管だけで100兆個以上といわれていますから、全体では300兆個ぐらいじゃないかな。

 

元木:300兆! そんなにいるんですか……。でも、その菌が白米を食べている人と玄米を食べている人の腸で、どう違うんでしょうか?

 

渡邊:まず白米と玄米で何が違うかというと、食物繊維の量です。それから成分表には出てこないのですが、ガンマオリザノールが圧倒的に多い。ビタミンB1など、ビタミンやミネラルの構成も特徴的です。

 

元木:ガ、ガンマ……? ごめんなさい、聞いたことがないです。

 

渡邊:ガンマオリザノールはね、フェルラ酸というのに分解されるのだけど、それによって腸内に良い影響を与えているのです。こうして良い腸内細菌を保っている人は、腐敗菌が少ないのでおならも臭くないし便もあまり臭くない。

 

元木:それは魅力的ですねえ(笑)おならが臭くないことは健康な証なのですね。

 

処方された薬を飲む前に「未病」は食事療法を

渡邊:さきほど、病気は食事で治る、という話がありましたね。医学には、「未病」という考え方があるのです。

渡邊先生提供の関係図。心と体、どちらかを病んでいる場合を「未病」とするなら、食事で生活を見直せば快復に向かうという。
↑渡邊先生提供の関係図。心と体、どちらかを病んでいる場合を「未病」とするなら、食事で生活を見直せば快復に向かうという

 

元木:病気になる前、という話ですよね。

 

渡邊:そう、体には正常な場合と異常な場合があるでしょう。これは心も同様なのですが、それが一致しないときがある。例えば、肝臓や血圧検査の数値がとても悪くても、気持は元気いっぱいなことがある。反対に、ちょっと鬱っぽいのだけど、検査値はすべて正常なことがある。

 

元木:それが、つまり「未病」の状態ですか? 会社にも、周りの人にも「未病」の状態の人が山ほどいますね。

 

渡邊:はい、でもこの未病の時点で、病院にいくとお医者さんは未病は病気になると信じていますから、早期診断、早期治療といってどんどん薬を出しちゃうのです。すると症状が固定化して本当の病気になってしまうことが多いのですよ。

 

元木:そうですね。私はあまり薬を飲みませんが、風邪気味なだけなのにすぐに薬で治そうとしたり、薬を常備しすぎるところがありますね。

 

渡邊:統合医療的に言えば、俗に言う「未病」の状態はまだ薬に頼らなくても、体のバランスが整ったら元の健康体に戻る方向に行くはず。食事と運動で体の芯を整えるのが大事です。

 

元木:これからは、玄米を食べながら食事と運動が一番の健康法なのですね。

↑「玄米食による食事療法で未病を防げば、がんだけでなく国全体の医療費まで大幅に削減できます」と渡邊先生は話します

 

メディカルライス協会による玄米食のさらなる普及を

渡邊:玄米には、腸内環境をよくすることで免疫機能を高め、健康長寿に貢献することも明らかになってきていることは説明しましたね。すでに肥満解消、血圧降下、糖尿病予防、腎機能保全、認知症予防などの効果が報告されているのです。だから僕は、この素晴らしさを伝えるために「メディカルライス協会」という団体を立ち上げました。

 

元木:「メディカルライス協会」ですか。どんな活動をされているのですか?

 

渡邊:例えばタイでは、「元気になる米」とか「糖尿病に効く米」なんてラベルが貼ってある米を売っているのです。まるでサプリメントみたいに、機能性で売り分けているのですね。「認知症にいい米」なんていうのもあります(笑)

 

元木:それはとても面白いですね。自分が求める機能性米を選んで食べられるようになったら、米の消費が増えるかもしれません。日本では米の消費が下がっているので社会的な解決にもなりますね。

 

渡邊:こういう“メディカルライス”が、日本にもあるべきだと思っているのです。つまり、味ではなく客観的な数値で規定した、機能性の高い「●●にいい米」を、日本でも作ろうと思っているのですよ。メンタルヘルスにいい米、がん予防にいい米、とか。今、いろいろと開発を進めています。

 

元木:それは新しい取り組みですね! 健康にもよくて、手軽に食べられる玄米。さらに一歩進んだ米が、いつの日かコンビニやスーパーに「メディカルライス」として並ぶのを心待ちにしています!

 

【プロフィール】

医学博士 / 渡邊 昌

1941年生まれ。慶応義塾大学医学部大学院修了。医学博士。アメリカ国立がん研究所研究員、国立がんセンター研究所がん情報研究部長、東京農業大学教授を経て2005年より現職。(社)生命科学振興会理事長。国立健康・栄養研究所理事長を務める。
メディカルライス協会 http://medicalrice.com/

 

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