気軽に行けてリーズナブルに楽しめるということで、密かに注目を集めている夜の社交場「スナック」。その魅力や楽しみ方を解き明かしていくのが本連載です。3回目となる今回も、ガイド役はスナック研究の第一人者である⾸都⼤学東京の法学部教授・⾕⼝功⼀氏。スナックに憧れる40代独身のGetNavi web編集者・小林史於(こばやし・しお)による谷口教授へのインタビューを通し、スナックの楽しみ方を紹介します。
第1回はスナックの成り立ちをはじめとする基礎、第2回はスナックの現在の課題や未来をお聞きました。ここからはいよいよ実践編ということで、実際に谷口先生の行きつけのスナックへと移動し、実地でレクチャーを受けていきます!
本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です。
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「いいスナック」とは「リラックスできる店」のこと
小林 ここからは、スナックの選び方とスナックを楽しむコツを聞いていきたいと思います。まずは先生、ズバリ「いいスナックの条件」とは何でしょうか?
谷口 結論から言えば、「その人にとって一番リラックスできるスナックがいいスナック」です。つまりは、行きつけの店ですね。というのも、スナックって基本的には生活圏内にあって、地元の人と飲むのが本来あるべき姿だと思うんです。自宅で飲んでいるかのように、くつろいで落ち着ける場所であること。ある意味、家飲みの延長線上にあるといえるでしょう。
小林 反対に「良くないスナック」というのはどんな店ですか?
谷口 これは当たり前ですけど、あまりにも汚いスナックはダメですね。生活臭が出すぎなほど散らかっているとか。家のようにリラックスできる居心地のよさは大切ですが、あくまでもスナックは商売。他人の生活空間のようなお店に入ってしまった場合、僕は早めに切り上げ、次のスナックに行きます。
旅先の一番店を探すなら、ちょっといい寿司屋で聞くのがオススメ
小林 では、生活圏にない場所でスナックを探す場合、たとえば旅先の場合は、どういった観点でスナックを探せばいいですか?
谷口 ひとつ挙げるなら、何十年もやっているような老舗を探すことですね。というのも、飲食店は経営が難しいですから、寿命が短いんです。そのなかで長く続けていること自体がスナックの実力の高さを物語っているわけです。しかも、どの地域にも地元の名士が来るような一番店があって、そういったスナックのママは当然人柄も素晴らしいんですよ。
小林 長く続いている店を探す、なかでも地域の一番店を狙う、ということですね。でも、スナックってインターネットにもあまり情報がないですよね。地域の一番店はどうやって見つければいいんでしょう?
谷口 ちょっと高級なお店、たとえばカウンターのあるお寿司屋さんに行って聞くのがオススメです。開店すぐなど早めに行って、行儀よくひと通り食事を楽しみましょう。頃合いを見計らって大将に、『この辺りで、いいスナックはありませんか?』と聞けば、たいてい教えてくれます。それなりのお寿司屋さんならお客さんも立派な方が多いですから、地域の一番店もご存じですよ」
小林 急がば回れ、ということですね。一番店にたどり着くには、それなりのお金と労力が必要だと。
谷口 付け加えるなら、ジャケットを着ていくなど、ある程度身だしなみは整えたほうがいいですね。信用が大切な業界なので、心配な要素がある人を紹介したくないですから。その点に気をつけていれば、一見客で行ったとしてもひとつの縁なので、いいスナックを教えてくれるでしょう。そして、紹介先のスナックに着いたら、どこのだれに教えてもらったときちんと伝えましょう。その店が初めてだったとしても、ママの対応が違ってきます。会話もスムーズになるでしょうし。
小林 確かに、紹介があればお店側も安心しますよね。
谷口 私の場合、地方は講演会や会合で行くことが多いので、主催の方や参加者に紹介してもらうことがよくあるんです。それもあって、まっさらの一見客でスナックに行くケースはほぼありません。講演会でなくとも、現地の知り合いに聞いたり、それこそ寿司屋で聞いたり、何かの縁を頼ったりすることがほとんどですね。
スナックの料金はボトルが付いて3000円が一般的
小林 あと、初心者としては料金が心配です。怖いお兄さんが出てきて、ぼったくられたり……といったことはないでしょうか。
谷口 いまは法律が厳しいので、スナックでぼったくられることはほぼありません。ただし、スナックの料金は看板などがない限り、入店前にわからないのも事実。とはいえ、基本的には全国どこに行っても時間制ではなく、ハウスボトルが付いて3000円程度というのが一般的ですけどね。
小林 あ、すみません。ハウスボトルってなんでしょうか?
谷口 お店側が用意している焼酎やウイスキーのボトルのことです。2回目以降の来店でボトルキープをしている場合は、料金体系が変わるケースも多いですけど。まあ、先ほど3000円といいましたが、あくまでも基本。地域によって1500円や2000円と安かったり、高級スナックの場合は4000円以上したり、時間制だったりする店もあります。週末は高いとか、ドリンクやカラオケ代が別途料金という場合もありますね。ですから、初めてのお店や価格が高そうと思ったら、最初に聞いた方がいいでしょう。
初めてのスナックでは、必ず「どこに座ったらいいか」を聞くべし
小林 では、いざ入店してからの、基本的な心構えを教えてください。
谷口 いい意味で、「気を遣うこと」ですね。その場の雰囲気を尊重することです。たとえば、初めてのお店に行ったときは、どこに座ったらいいかを聞きましょう。なぜなら、長年愛されているスナックは、定位置が決まっている常連さんの席があるもの。常連さんへの配慮は、欠かせないマナーのひとつです。
小林 何でこいつが勝手にオレの席に……となっては雰囲気も悪くなりますよね。確かに、この法則はスナック以外でも当てはまりそうです。
谷口 こういった配慮は、カラオケにも通じます。ほかのお客さんが得意な曲を歌ってしまうのはマナー違反。デンモク(電子目次本=カラオケの曲を検索、選択するための端末)から履歴をチェックして、重複しないようにしましょう。自己主張は避け、「その場の雰囲気に合わせて皆で盛り上がる」というのがスナックの暗黙のルールなんです。
スナックは紳士的な対応が求められる「大人養成所」
小林 なるほど、スナックを楽しむ第一歩は、ほかのお客さんに敬意を払うということなんですね。そのあたりのバランス感覚も必要だと。
谷口 その通り。スナックって、紳士的な対応が求められる場なんです。これは常連でも同様。お店が混んできたら「今日は帰りますね」と、サっと会計を済ませる。満席になる前に店を出て、次のお客さんのために席を開けるんです。そうすることで、お店もより多くの人に利用してもらえる。こうした気遣いができることで、ママや常連さんにも「できる人だ」と思われるわけです。昔の言葉で言えば、「粋(いき)な人」として見られるわけですね。その意味で、スナックは大人養成所でもあるんですよ。
小林 自分も、かっこよく振る舞って周りに一目置かれる大人になりたいです! 泥酔して悪態をつくなんて、もってのほかですね……(遠い目で過去を反省)。
いろいろなお店の違いを楽しんで
谷口 ちなみに、いつでもサッと帰るのがベストなわけじゃありませんよ。お客さんが少なくて、自分が帰ってしまうとお店が寂しくなる場合ってあるじゃないですか。そんなときは、逆に居たほうがいい場合もあります。話すネタもなくなってしまったら、無理する必要はありませんが。
小林 一般的に、スナックでの滞在時間はどれくらいですか?
谷口 ほかの飲食店と同じく、2時間ぐらいが目安です。私の場合、特に地方に行ったときはフィールドワークを兼ねて、1時間程度で切り上げて2~3軒ハシゴしますけど。
小林 さすがスナックの研究者! 1日に数軒行くこともあるんですね。それだけたくさんお店を回ると、店によって優劣を感じることもあるんじゃないですか?
谷口 知人の紹介や、連れて行ってもらうことが多いこともあって、どこもいい店です。特徴はそれぞれで違いますけど。地域の老舗でお店の人が歴史に詳しかったり、ママが高齢のおばあさんだったり。逆に若くて勢いのあるママの店も。いろんなパターンがあるので、どちらがいい、悪いということは感じないですよ。
小林 どの店にもそれぞれ「色」があって、先生はその違いを大いに楽しんでいる、ということですね。僕も、慣れていったらいろいろなお店をハシゴしてみたいです!
次はいよいよ最終回。本稿では料金や心構え、マナーなどを学んでいきましたが、次回はお店での振る舞いについて、いっそう深掘りした内容をお届けします。カラオケのオーダー方法から盛り上がる曲、スナックで鉄板の話題まで、より深く楽しむための知識を伝授していきますので、お楽しみに!
撮影/中田 悟
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