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2020/5/20 17:30

中村うさぎが考える夫婦の在り方、この先の人生——そして、今振り返る番組降板騒動の真相。

買い物依存症、ホスト沼、整形など、自らの身体を張った体験で世間を騒がせてきた作家・中村うさぎ。原因不明の難病ととも生きる今、改めて「恋愛」「結婚」「人生」について語ってもらった。

 

【前編:買い物依存・ホスト・整形そして、難病と心肺停止……生き急ぐ中村うさぎの現在地を読む】

 

(企画・撮影:丸山剛史、執筆:小野田衛)

 

セックスレスになってからが本当の夫婦

──今後、夫婦の関係はどのように変化すると思います?

 

中村 仮に病気の件がなかったとしても、私も彼もここからは老いていく一方だと思うんですよ。前よりは健康じゃなくなるし、外で遊ばなくなるし、お金も使わなくなるだろうし。私の場合は白内障の問題も抱えているから、目もどんどん見えなくなっている。歯だってほとんど抜けちゃって、固いものが食べられない。人生が下降線をたどることは避けられないですよ。それは彼だって同じで、あそこも勃たなくなるでしょうしね。2人で徐々に衰弱していくんでしょうね(笑)。

 

──衰弱するにしても、1人で孤独死するのと2人で支え合って生きるのでは意味が違うように感じます。

 

中村 そうですよね。だから最終的には、「結婚とは何か?」というところに立ち返っていくしかないんです。私が考えるに、結婚とは家族を作る行為。人間って生まれてくる家族は選べないでしょ? 親やきょうだいや家庭環境は与えられるものだから。私は何不自由ない中流家庭で育って教育も受けさせてもらえたけど、世の中には貧乏だったり虐待だったりという問題を抱えながら生きている人たちもたくさんいる。理不尽なようだけど、それが現実じゃないですか。

 

でも、自分で作る家族は違う。自分たちで作る家族は、自分たちが好きなようにデザインできるんです。なにも子どもを作らなくてもいいし、相手は異性じゃなくていい。結婚という書類上の制度を使わないで、一緒に住むという考え方もありますよね。

 

ただし、事実婚となると法的な権利が認められないという問題は出てきます。ゲイの人たちが同性婚を求めているのも、結局はその部分が大きいわけですしね。そこには遺産相続の話も絡んでくるし、どちらかが入院しても家族なじゃないという理由で病室に入れてもらえないようなケースもある。だから現状では制度上の結婚にも意味はあると思うんです。

 

──軽い気持ちで始まった夫婦の絆がここまで強固になったのは、結局のところ、20年の積み重ねということになるんでしょうか。

 

中村 そういうことになると思う。病気だけじゃなく、税金やホストの問題も含めて「いろんなことを2人で乗り越えてきたね」という気持ちがありますからね。でも、それは私たちだけじゃなくて普遍的な話だと思いますよ。長年きちんと支え合っている夫婦を見ると、実質セックスレスということがすごく多いじゃないですか。そこはひとつのターニングポイントじゃないかな。恋愛感情やセックスがなくなってから、「結婚とは何か?」「家族とは何か?」という重要課題に直面する。

 

──ダウンタウンの松本人志さんも言っていましたね。「セックスレスになってからが本当の夫婦だ」と。

 

中村 その通りだと私も思いますよ。お互い、いつか相手に性的興味をなくすわけですよ。でも、それは生物として仕方ない話。抗いようがない。本質的に2人を結びつけるのが何かと考えたとき、それはセックスでもなければ、恋愛感情でもない。大事なのは「あなたがどんな状態になったとしても一緒にいてあげるよ」という慈しみの気持ちですよね。

 

──20代のころなんて、なかなかそこに気づかないものですけどね。

 

中村 気づかない、気づかない! 20代なんて私に言わせればクルクルパーの生き物ですよ。若くして結婚したはいいけど、セックスレスになって即離婚みたいなパターンもよくあるじゃないですか。自分が最期まで一緒にいたい人は誰か? 一緒にいることができる人は誰か? そういう角度で考えないとダメなんでしょうね。

 

2人の絆が揺るぎなく存在するのなら、極端な話、浮気をすることだって許されていいと私は思う。結婚というのは性的独占の契約では決してないですから。「私の旦那に手を出しやがって」とか「俺の女房を寝取りやがって」とか言いますけど、「私の」「俺の」っていう発想自体が所有の感覚でしょ。親子関係だってそうです。子どもは決して親の所有物ではない。家族って所有したり支配したりするものではなく、シェアするものだと思うんです。

 

「5時に夢中!」降板の真相

──不倫に関していうと、今はものすごい勢いで叩かれる傾向にあります。

 

中村 ネットで芸能人や政治家の不倫を叩いている人たちは本当に気持ち悪いなぁって思いますね。正義の側に立つことで自分が優位になった気分に酔い、他者を裁く権利が与えられたとでも思ってるのかな。

 

──「他人は他人、自分は自分。別にどうでもいいや」という考え方をしないんですかね。

 

中村 しないよね、あの人たちは。根底にあるのは日頃のストレスだったり、パッとしない日常だったりに対するルサンチマン的なドス黒い感情。惨めな自分から目を逸らすために他人を叩くとか、イジメと同じ構造じゃないですか。

 

でもまぁ、ネットで叩いてる人たちよりさらにレベルが低いと思うのは、不倫叩きに精を出すメディアの人たちですよ。『週刊文春』みたいなプライドの高い雑誌が、なぜ不倫なんかであんなに騒ぎするんだろ。彼らはジャーナリズムを標榜しているわけでしょ? 不倫なんてタブロイド紙に任せときゃいいじゃん。しかも週刊誌の男性記者なんて、不倫している人いっぱいいるじゃん。どの面下げて「不倫はけしからん!」なんて叩けるんでしょうね。

 

──それを言ったら、ワイドショーのコメンテーターだって普通に不倫していると思いますよ。

 

中村 いるでしょうねぇ。私も『5時に夢中!』(TOKYO MX)のコメンテーターをやってましたけど、はっきり言ってコメンテーターなんて仕事は好きじゃなかった。もともと私はワイドショーのコメンテーターは絶対やらないって決めてたんだけど、マツコ・デラックスに勧められたりプロデューサーから何度も頼まれたりして断れなかったんですね。「やらなきゃよかった」と今でも後悔してます。

 

──『5時に夢中!』降板のイザコザに関しては、もう何年も経ったから冷静に振り返れることもあると思います。当時はいろんな憶測も流れましたが。

 

中村 どんな憶測が流れたか知らないけど、私、「ポルノ女優のくせに」なんて絶対に言ってない!

 

──美保純さんに対して中村さんがそう発言したと当時は報じられましたが、今となってはそれも濡れ衣だと世間も気づいているのでは?

 

中村 そう? そんなことはないと思うけどな。うっかり何かのYouTubeまとめサイトを見ちゃったときも、「中村うさぎが自分の暴言を認めた」と結論づけられていてすごくムカついたし。いまだに私が侮辱したと信じている人がほとんどじゃないですか。

 

──そんなことないですよ。その後、ふかわりょうさんのフォローもありましたし。

 

中村 えっ、ふかわ君が何か言ったの!?

 

──ご存知なかったですか。少し長くなるけど説明します。ふかわさんは「だれも言っていない言葉が一人歩きしている」として、ブログで状況説明したんです。それによると以前から美保さんは中村さんに「話を遮られる」「すべてを下ネタに持って行かれる」と違和感を覚えていた。そして、そのことを番組スタッフにも相談していたんですね。だけど、これは出演者として当たり障りのない相談。ところが相談を受けたプロデューサーが番組10周年を気持ちいい状態で迎えたいと考え、中村さんにも美保さんの違和感を説明しにいった。すると、そこでなぜか「話を遮られる」「下ネタになる」の他に「『ポルノ女優のくせに』と言われた」という言葉をつけ加えた。ふかわさん曰く、「ポルノ女優のくせに」なんて中村さんも美保さんも言っていない。つまり完全にプロデューサーのスタンドプレーだったという話です。

 

中村 ……(しばらく考え込んでから)ふ~ん、なるほどね。言われてみたら、たしかにそのブログは読んだ気もします。ただ、ふかわ君は良くも悪くも事なかれ主義的なところがあるんですよ。穏便に済ませようとする性格。私がプロデューサーからいきなり言われたのは、「美保さんに謝ってくださいよ」ということ。「何を謝るの?」と聞いたら、「『ポルノ女優のくせに』と言ったらしいじゃないですか」という話を切り出された。こっちとしてはまったく身に覚えもなかたからビックリしたけど、よくよく話を聞いてみると朝の4時だか5時だかに酔っ払った美保さんから泣きながら電話がかかってきたらしいんです。たぶんそれは嘘じゃないと思う。だってMXテレビがそんな嘘をつく理由ないし。

 

美保さんはその電話でプロデューサーにこう訴えたそうなんです。「中村うさぎから差別を受けている。『ポルノ女優のくせに』とまで言われた。このままじゃ番組も続けられない。私をクビにするか中村さんをクビにするか、どっちかにしてくれ」と。

 

だけど電話を受けたプロデューサーとしては美保さんが酔っ払っていたこともあって、この時点では半信半疑だったそうなんです。それでスタッフに「うさぎさんの差別的な発言なんてあった?」と聞いて回ったところ、「たしかにありましたね」という証言が出た。それで私のところに来た──。こういう話だったんです。

 

もちろん私としては納得いかないですよね。言ってもいないことで責められているわけだから。それでプロデューサーに伝えたのは「私が差別的な発言をした場面を見たスタッフがいるわけでしょ? その人を連れてきてよ。私も知りたいから」ということ。実際、それで私とスタッフの間で会談が持たれたんです。

 

──その場に美保さんサイドは?

 

中村 いなかった。私も美保さんに対してはLINEで問い質したんですよ。「プロデューサーからこのように言われた。だけど私としては言った覚えがない。私のどの発言が差別的だったのか、美保さんのほうから教えてくれませんか?」って。そうしたら「私はそんなこと言っていませんよ」という返事が来て、そのあと唐突にブロックされたんです。そうなると、こっちも次なる質問ができないじゃないですか。ブロックするということは後ろめたいことがあるのかなと私は受け止めたし、没交渉だと解決の糸口も見つからない。

 

それでスタッフとの会談に話を戻すと、当時は私も車椅子だったけど京王プラザホテルに行きましたよ。そこにはスタッフが4人くらいいました。それで私が何を言ったのか改めて検証しようという話になった。まず1人が証言したのは、「美保さんだって若いころはヤリマンだったんでしょ?」とメイクしながらの打ち合わせ中に私が言ったということ。でも、それは仲間内の戯れ言みたいな感じだったんですよね。

それに、そもそも私はヤリマンを差別用語だと認識していない。ヤリマンって性に奔放な人という意味でしょ? それで言ったら私だってヤリマンですよ。「私は身持ちが固いけど、あなたはヤリマン」と見下すような意味では決してなかった。

でも、これはあくまでも私の言い分。その証言したスタッフによると、私の「ヤリマンだったんでしょ?」という発言で美保さんの顔色が変わったと指摘するんですよね。そう言われたら、返す言葉もないですよ。たとえ私にそのつもりがなくても、相手を傷つけたんなら申し訳ない。そこは悪かったと素直に謝りたいと思った。いじめやセクハラの問題と同じで、発言者に悪意がなくても被害者が傷ついたら謝るべきなんです。

 

──本当に傷ついたどうかは、当の美保さんに確認しないとわかりませんが。

 

中村 ただ私に言わせれば、問題の本質はそこじゃないんですよ。ポルノ女優という職業に対して、私に差別意識があったかどうか。そこがものすごく重要だった。これは単なる「言った・言わない」の問題では決してないんです。これまで私は作家としてポルノや性に関する原稿を発表してきた。もし私がセックスワーカーに対する差別意識があるのなら、今までの性に関する文章がすべて否定されることになってしまう。作家としての信用が根底から覆ってもおかしくないし、私にとってはそれこそ大問題なんです。大体、私自身がデリヘル嬢をやったこともあるわけですしね。差別なんかするわけないじゃないですか。

それで結局、京王プラザホテルでの会談では「ポルノ女優のくせに」発言を聞いたというスタッフ証言は出なかった。「なんなのよ。誰も聞いていないじゃないか!」って私が怒ったら、プロデューサーは「でも、僕は美保さんから直接そう聞きましたから」と言うわけ。

 

──この件に関して美保さんは沈黙を守りました。

 

中村 そして私は沈黙なんてしなかった。タイプ的にいうと、私は岡本夏生と同じ種族だからね(笑)。おかしいと思ったら黙ってないし、言いたいことは何でも言う。そのことをもってして、ふかわ君は「中村さんは、いい意味で大人げない」とコメントしたらしいけど、じゃあふかわ君にとって「大人」というのはどういう定義なのか逆に聞いてみたいですよ。黙っていることが大人だなんて、私は考えていないからね。私にとって大人とは自分の発言に責任を持つこと。私は自分の言ったことに対してケジメを取る覚悟がある。だけど美保純は陰での自分の発言に責任取るどころか、私をブロックして逃げた。

 

──ただ、ふかわさんが言うことにも一理ある気がするんです。もし本当に単なるボタンのかけ違いなら、2人で話し合えば誤解も解けることじゃないですか。

 

中村 そうかもしれない。だけど向こうは2人で話し合う気がないんだもん。要するにこれはどっちが正しいとかいう問題以前に、向こうが話し合いを避けたことが問題だと思う。でも、彼女の話し合いたくない気持ちは少しわかるんだよね。だって私と美保純じゃ、どう考えても私のほうが口が達者でしょ? 2人で話し合ったら、向こうが圧倒されるのは明らかじゃない。こういうのって声が大きいほうが勝つものだしね(笑)。向こうはヘタに私と会談して不利益を被るより沈黙して世間の同情を集めた方が得策と思ったのかもしれない。

 

開き直って生きるしかない

──今後のことについてお伺いします。スティッフパーソン症候群にかかってからは自殺未遂を起こしたこともありましたし、書くテーマも死生観にまつわるような内容が増えました。中村さんとしては、どこを目指していくつもりですか?

 

中村 自殺はもうする気ないですね。夫があまりにも傷ついていたので。でも、当時は生きていても意味がないと思っていたんです。歩けないどころか、手も動かせない状態でしたからね。ドアノブにひもをつけて首をくくろうとしたんですけど、手が不自由でそれもままならなかった。「今の私には自殺する力もないのか……」って、それはそれで落ち込みました。本当にどん底の日々。毎日、泣いていました。

 

私、自殺が必ずしも悪いことだとは考えていないんですよ。実は私のいとこも自殺で亡くなったんですけど、最後のほうは鬱で本当に苦しんでいたんです。私のところにも思い悩んだメールがたくさん届いて、それがあまりにも重くて長かったから途中から私は返信しなくなったんですね。彼女の悶え苦しむ姿を私は知っていたから、彼女が命を絶ったと知ったときは「よかったね。これで楽になれるね」と思ってしまった。あんなつらい状態のまま生きていくなんて耐えられないですよ。

 

──作家としての中村さんは、緻密に組み立てを考えるというより、行き当たりばったりで書きたいことを書いてきたと思うんです。

 

中村 そうなんですよ。だから今後の展望もないし、自分でもどうなるか予想がつかない。ノンフィクションものに取り組みたいという気持ちはあるんだけど……でも、この身体じゃねぇ。取材しようにも、歩けないんだから話にならないですよ。編集者は車で送ると言ってくれるんだけど、やっぱり体力がないと長時間の取材はキツいと思う。今はトークイベントとかで1日外に出ると、次の日は疲れきって起き上がれないくらいなんです。外に出る仕事は週に3日が限界ですね。

 

でも今は体調も一時期よりはマシになっているし、気分的にも落ち着いたのは事実。もし病気がなかったら、いつまでも私は整形をしながら老いに抗って生きていたと思うんですよ。だけど今は、ありのままの状態を受け入れられるようなった。心肺停止状態からも復活したし、自殺にも失敗した。幸か不幸か、私は生き延びちゃったわけですからね。開き直って生きるしかないですよ。

 

 

【プロフィール】

中村うさぎ(なかむら・うさぎ)

◎1958年、福岡県生まれ。同志社大学文学部英文科卒。OL、コピーライターを経て、ジュニア小説デビュー作『ゴクドーくん漫遊記』がベストセラーに。その後、壮絶な買い物依存症の日々を赤裸々に描いた『ショッピングの女王』がブレイク。著書に『女という病』『私という病』『あとは死ぬだけ』など。