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2020/10/4 18:00

「喜劇 愛妻物語」公開! 眠くても「エゴサーチ」しまくってしまう映画監督の日常とは?

「足立 紳 後ろ向きで進む」第6回

 

結婚18年。妻には殴られ罵られ、ふたりの子どもたちに翻弄され、他人の成功に嫉妬する日々——それでも、夫として父として男として生きていかねばならない!

 

『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『喜劇 愛妻物語』(全国公開中)で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。いま、監督・脚本家として大注目の足立 紳の哀しくもおかしい日常。

 

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9月3日

台風が接近している。湿気というか気圧というかなんというか、全身がじめっとしていて爽快感からほど遠い気分だ。不定愁訴とでもいうのだろうか、どこかが強く不調というわけでもないのだが、肩と背中が重だるく、頭の中が膨れた感じで、何となく目も見えないし何となく息苦しい。近年、気圧の影響をかなり受けるようになってしまった。これは老化現象なのだろうか。それとも肥満のせいか。

 

そんな中、今日は売れている芸能人並みに忙しい一日だ。朝10時から銀座で映画の打ち合わせをして、その後 お昼に「喜劇 愛妻物語」のプロモーション で「活弁シネマ倶楽部」の収録が2時間あり、その後汐留に移動しいくつか取材があり、夕方から濱田 岳さん水川あさみさん新津ちせちゃんと完成披露イベント、その後にまた銀座に移動し20時から「TIFF Studio」の生出演をする予定なのだ。

 

今日の完成披露イベントのために怒れる妻を説得し麻のシャツを買ってもらったが、「TIFF Studio」のころには汗みどろでしわくちゃになっていた。脚本家という仕事にはほとんど取材など来ないのだが、監督をするとマスコミから質問を受けることが格段に多くなる。普段アピールできない心情を吐露するのはとてもうれしい機会なのだが、なぜか良い空気が漂ってくるとぶち壊したい願望というか、不用意なことを言ってしまう癖があるため、発言に注意するのがとっても疲れる。今日も完成披露イベントでテンパって何を言っているか分からなくなり「妻への復讐のつもりでこの映画を作った」と完全に意味不明のことをのたまっていた。

 

また「活弁シネマ倶楽部」の司会の森直人さん、「TIFF studio」の矢田部吉彦さんは本当に博識の方たちなので、知的なことや映画史的なことなどを突っ込まれたりすると、無知にもほどがある私は取り繕うために1リットルくらいの汗をかいてしまう。私が謙遜なし掛け値なしのアホであることは先方も重々承知のこととは思うが、虚栄心だけは人10倍抜きんでているため、何とか良く見られたく必死で誤魔化し続けて、後半疲れすぎてゾンビの心境になった。ただ、森さん、矢田部さんともに「喜劇 愛妻物語」に本当に愛情を持って接していただけて涙がでるほどありがたい。

 

 

23時ごろフラフラになりながら帰宅。サウナに行く気力もない。疲れていたのですぐに眠れるかと思ったが脳が興奮しているのか寝つきがものすごく悪かった。「TIFF studio」を生で見ていた妻が起きていて、「あんた画面で見ると、ほんとハゲ180度いったね」と言うので、頭皮マッサージをしてくれと言ったら「はぁ? ねえよ」と言われた。

 

9月4日

午前4時半起床。始発の新幹線で大阪に向かう。昨日に続いて今日もなかなかに忙しい。11月にクランクインする連ドラのロケハンを朝から大阪市内の公園でして、その後に「喜劇 愛妻物語」の宣伝のためにラジオ出演があるのだ。この連ドラもコロナの影響で止まったり内容に変化があったりと苦労した。いやしている。

 

新幹線内で絶対に寝ようと思っていたのに、昨日の取材がどれほど露出しているかエゴサーチしていたら止まらなくなり、結局一睡もせず、新大阪駅に到着時点でスマホのバッテリーが残り10%を切っている。しかも充電器を忘れた。

 

午前10時過ぎ、プロデューサーや監督らと何とかという駅で(大阪には全く明るくないので駅名忘れた)待ち合わせし、公園やら路地やらをあちこち歩く。その合間に執筆中のシナリオの説明をしどろもどろにする。こういう説明がとことん苦手だからシナリオを書くことを生業としているのだが、やはりどんな仕事でも口頭で分かりやすく説明することを求められるのは当たり前か。

 

その後、タクシーを拾っていただき、気の利く女性プロデューサーが美味しいパンを持たせてくれて、ラジオ局(毎日放送)に向かう。タクシー内でパンを3秒で貪り食う。異様に腹が減っておりもはや噛むというよりほぼ飲むようにして食べたが、とても美味しかった。

 

12時30分にラジオ局に到着後、少し打ち合わせをして「こんちわコンちゃんお昼ですょ!」の生放送に出演させていただく。

 

拙書「それでも俺は、妻としたい」を気に入ってくださったメッセンジャーの黒田 有さんが、映画の宣伝をしませんかとその番組に呼んでくださったのだ。冒頭からみっちり30分も「喜劇 愛妻物語」のために時間をさいていただいた。もう本当にありがたい。

 

コンちゃんこと近藤光史さんは毎日放送の元アナウンサーで4回結婚さていて、4回離婚されているらしい。明石家さんまさんからは「趣味が結婚、特技が離婚」と言われている強者で、そんな方にも「喜劇 愛妻物語」は楽しんでいただけたようでうれしかった。いや、そんな方だから楽しめたのかもしれない。

 

私の出演部分が終わり、ロビーに降りて行くと、ちょうど今着いたという妻と遭遇。妻は子どもたちを学校にやってから新幹線に乗ったのだが、大雨のために名古屋で1時間足止めを食っていたのだ。電波が悪く生放送を聞けなかったと悔しがる妻は「ちょっと皆さんに挨拶してくる」と言って私の首から入館証を引きちぎると、それをくわえてエレベーターに乗ってラジオ局へと入って行った。私ならいくら妻が世話になっているとしても見知らぬ人たちに一人で絶対に挨拶など行けない。そのあたりは本当にたくましいと思う。

 

9月8日

朝6時妻と散歩。午前中、連ドラの脚本執筆。肩甲骨および右腕痛し。その後、近所の行きつけの銭湯へ。

 

銭湯内にあるサウナのテレビがいつも日テレだったのだが、テレ朝に変わっていた。この銭湯はお客にチャンネル権は一切なくリクエストもできない。今までずっと日テレだったのに急にテレ朝に変わったのは何か理由があるのだろうか。お客から「何でいつもいつも日テレなんだ! 飽きるだろ!」とクレームでもあったのか、もしくはシェフの気まぐれサラダのように、番台さんの気まぐれチャンネルにでもなったのか。

 

いつも私が行くこの時間には「ヒルナンデス!」を問答無用に見ることになっていたのだが、テレ朝に替わっていた今日は「大下容子ワイド! スクランブル」という番組が流れており、これは無知な私には「ヒルナンデス!」より勉強になりそうで、このままテレ朝でいっていただけたらと思った。

 

夕方から月島ブロードウエイで「喜劇 愛妻物語」の一般の方向けのオンライン試写。私と妻のトークショー付き。

 

その前にマスコミ取材があったのだが、登壇者が私と妻ではどのくらいのマスコミの方に来ていただけるだろうかと不安に思っているところに、伊勢谷友介さんが逮捕されたとの報が飛び込んできた。もしかしたらマスコミはそちらに行ってしまうかも……と宣伝担当のOさんがポツリと呟いた通り、来てくださったマスコミは2~3社。まあ私と妻では伊勢谷さんのことがあってもなくても変わらなかっただろう。申し訳なく恥ずかしい。

 

わずかに来ていただいたマスコミの方とサクラのように客席に座ってくれた数人のスタッフの前で妻と話すというのはなかなかにヘビーではあったが、妻の作りハイテンションで何とか乗り切った。私は上がり症のくせに観客が少ないとテンションがダダ落ちするという面倒臭い性格だから、どんな時でも意地でテンションをあげる妻はやはり本当に頼りになる。

 

が、帰り道に「お前が監督したんだろうがよ! すかしてんじゃねえよ! ホアキン・フェニックスかよ!(インタビューが盛り上がらないことで有名らしい)千年早えぇわ!」と厳しく叱責された。すかしたつもりはないし、ましてホアキンのつもりなど1ミリもないのは言うまでもないが、妻の繰り出す技(言葉)を正面切って受けなかったらしい。

 

 

しかしオンライン試写というのは当たり前だが、お客様の反応が見られないのがものすごく寂しい。声を出して笑ってもらえたり、自分では予想も付かないところで笑い声が発生したりすると死ぬほどうれしいので、それを体感できないのが残念でならない(全く笑われなくて頭を抱えることもあるが)。

 

妻とのトークショーというのは何と言うか同情も得られそうで、「どうかつまらないと思ったら、SNSなどで何もつぶやかずにこの映画は見なかったことにしておいてください」と話した。

 

9月11日

朝4時には目が覚めてしまう。5時半までどうにか我慢し、妻を起こす。いつもより早い5時45分妻と散歩。

 

とうとう、いよいよ、ついに「喜劇 愛妻物語」の公開初日だ。大変緊張する。どうか少しでも多くのお客さんに観ていただきたい。

 

私は自分の関わった映画はたいてい初日の朝一番の回にどこかの劇場で観るようにしているが、今回はメイン館の新宿ピカデリーに妻と一緒に行った。

 

一席ずつあけてのソーシャルディスタンス映画館はやはり寂しいがこればかりは致し方ない(でも、自分が客として見る時は満員が嫌い)。客席は半分くらいは埋まっていたような感じはあった。終始、妻の笑い声が一番大きく、笑う回数も一番多かったような気がするので、ありがたいがかなり複雑な気持ちにもなった。

 

その後、昼食を食べに焼肉屋に入った。妻は映画を観て寿司が食べたくなったから寿司がいいと言ったのだが(寿司を食べるシーンがあるのです)、私は予告で流れていた寺門ジモン監督の「フード・ラック! 食運」という映画の肉の映像で分かりやすく焼肉が食べたくなっていて、3回勝負のジャンケンをして3連勝で勝ったので、随分昔に来てからずっと行ってなかった「焼肉長春館」に行った(昔は映画館で予告の前に「長春館」の宣伝があり、貧乏学生だった時はあこがれの焼き肉屋さんだった)。

 

ランチ定食では飽き足らず、追加でタンやらカルビやらハラミやらミノやらハツやらレバやらホルモンやらを大いに食らう。最後にコムタンスープを1滴残さず平らげ大満足。食うだけ食ったら今度は甘いものが食べたくなり、高島屋に行きジェラートダブルをいただく。すると強烈な睡魔が襲ってきた。夕方からラジオ出演があるため、一回家に帰ると30分しか家にいれないという微妙な時間で、妻はこのまま「イル・シチリアーノ」を見に行くというので、私は自分へのご褒美と投資のためテルマー湯に向かう。最近睡眠不足が溜まっていたのでゆっくり休もうと思ったのだが、入浴サウナ後に案の定エゴサーチを始めてしまい、結局一睡もできなかった。

 

17時30分木場駅にて岡村洋一さんのラジオに出演させていただく。久しぶりにお会いした岡村さんが「今のところ、今年は愛妻が邦画では一番面白い」と言ってくださったので気分がとても良くなった。

 

9月12日

朝5時半妻と散歩。本日は舞台挨拶がある。娘は以前より用事があったので来れないが息子と妻は来ると言う。娘の用意ができておらず、時間がギリギリになってしまったとかで、朝早くから妻と娘が激しくやりあい、かなり険悪のムード。私はそれを見て見ぬ振りして日課のエゴサーチ。娘を初めての未開の駅へ送るため、妻と娘息子は9時前には出発してしまった。

 

その後、毎朝散歩で行っている近所の神社にも今朝行ったにもかかわらずまた寄り、少しでも多くの人に見てもらって、少しでも多く笑ってもらえますように……と祈り、新宿ピカデリーに向かう。

 

舞台挨拶では、新津ちせちゃんが「私のお父さんとお母さんはこんなケンカはしない」と言ったので「君のお父さんくらい大ヒットを連発していればウチもケンカしなくてすむんだよ」と余計なことを言ってしまい、ちせちゃんを困らせてしまった。彼女の顔にはわりと本物に近い困惑が浮かんでいたようにも見えて、これは大人として言うべき言葉ではなかったかもしれないと心の底から悔いた。妻からも「あんた、私だけじゃなくて誰にでも一言多いね」と言われ、さらに落ち込んだ。

※新津ちせちゃんのお父さんはアニメーション監督の新海 誠さん
↑足立の額のテカリが半端ありません!(by妻)

 

9月13日

朝妻と散歩。余計な一言から少々口論に。後半無言のウォーキング。午前中、連ドラの脚本執筆。肩甲骨および右腕痛し。その後、近所の銭湯へ。日曜は昼から混んでいる。

 

午後から麻布十番でやっている映画「アンダードッグ」のダビングに向かう。「アンダードッグ」は今年の東京国際映画祭のオープニング作品に決定している。前後編合わせて4時間半以上もあるが、森山未來さんはじめ、俳優陣の鬼気迫る演技にきっと釘付けになることと思うので、この機会に是非ごらんいただけたらうれしい。

 

劇場公開は11月27日から。その後に連続ドラマ版の配信が始まる予定だ。

 

身体の凝りを嘆いていたら武 正晴監督がマッサージをしてくれた。さすがに柔道の猛者だっただけあって(中学時代にはあの吉田秀彦選手にも勝利!)、マッサージもお手のものではっきり言ってめちゃくちゃ上手い。絶妙の力加減で肩甲骨の凝りをほぐしてくれて、その後のストレッチで右腕もずいぶんと楽になった。武監督はこの業界で食いっぱぐれてもマッサージ屋さんを開けば、今と同じくらいそちらの業界でも売れっ子になるだろう。その暁には私が受付をさせてもらおうと思う。

 

それにしても昨夏はこの「アンダードッグ」のシナリオを書いている途中に「喜劇 愛妻物語」の撮影もあり、脳みそがパンクしそうであったが、どちらもやりたいことを存分にやらせていただいただけにストレスはまったくなかった。両作品とも何とか興行的にも成功して関わった皆さんも自分も幸せな気持ちになれたらうれしいと殊勝にも思う。

 

殊勝と言えば首相が変わるが、ほとんど興味を持てないでいる。今、自分のことで精いっぱいで、その大事を自分のこととして考えられなくなるくらい自分も自分以外の何かもが鈍りきっているのかもしれない。憂鬱になる。

 

夜、寝床で、平松洋子さん著「肉とすっぽん」を読んでいたら猛烈に内臓とか羊とか馬とか鹿とかクジラとかが食べたくなるが、そんなものは家にない。それでも刺激された食欲を抑えきれず冷蔵庫をごそごそと漁り、近所のラーメン屋から買ってきたチャーシューをかじっていたら止まらなくなり、かじりすぎて胃がもたれ眠れなくなってしまった。バカとしか言いようがない。

 

9月16日

朝妻と散歩。午前中、連ドラの脚本執筆。午後は週に一回、妻と講師をしている高校へ。

 

授業で脚本作「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」を半分だけ見たのだが、久しぶりに見たら南 沙良さんの無垢すぎる歌声に涙が滲んだ。この人はきっとものすごい女優さんになるのではないかと思う。私が勝手に言ってるだけの言葉だが、いわゆるぶちかまし系の俳優さんで、全身で自分の役をしょっている感じがするのだ。「幼な子われらに生まれ」という映画で演じた反抗期の娘役にもすでにその片鱗は見られていた。

 

今日は70分授業で早く終わったため、白金高輪まで電車で向かい、妻がかねてから行きたいと言っていた「鈴木屋」へ。

 

前からその存在は知っていたが、私たちの生活範囲に白金高輪はなかったし、営業時間が週4日の17-19の2時間しかないため行けずにいたが、今日なら間に合うと思い向かった。

 

1630に店につき、ホワイトボードに名前を書いたのだが、我々の前にすでに5組書いてある。店内はカウンター8席くらいとテーブル席2席のみ。ギリギリセーフだった。白金高輪の商店街を散策して時間をつぶし(美味しそうな店が沢山)、開店時間ピッタリに入店。食事は何もかもが美味しかった! 澄んだスープの煮込みも最高だったが、串焼きも最高だった。結局メニューにあるすべての品を食べ尽くし大満足。それでも二人で6千円。絶対にまた来たいと強く思った。

 

9月18日

朝妻と散歩。午前中、連ドラの脚本執筆。肩甲骨及び右腕痛し。その後、近所の銭湯へ。

 

午後、妻と一緒に「TENET」を近所の映画館のIMAXで鑑賞。そりゃ頭悪くていろいろ分からないが、分からないことにすら気づかなったくらい(脳みそ足りなさすぎ)、2時間半あっという間だった。ただし説明は何もできない。

 

9月26日

地元商店街の制服屋さんで娘が中学で着るという学校指定のセーターを買いに行く。この制服屋さんにはお菓子とかカルピスがたくさん置いてあって自由に食べたり飲んだりしてもよく、それを知っている息子がついて行くというので3人で行った。

 

息子は相変わらずのハイテンションで店内で騒ぎまくり、空気も読まずにがんがんお菓子を食べ(私もガンガン食べまくる)それに対して恥ずかしくて娘が不機嫌になるというよくあるパターンが店内で発生しかけたので、まだ食べたいと言う息子を抱えて慌てて店を出た。

 

制服屋を出ると、商店街に新しくできたスイーツ屋に行きたくなりそこに向かう道すがら、突然息子がキレ出した。「こっちの道は嫌だ! 絶対に嫌だ!」と始まる。

 

息子は知らない道を行こうとすると大暴れするのはよくあるのだが、これが非常に面倒くさい。スイーツは食べたいが、息子のスイッチが完全にオンになってしまったので諦めた。こういうときは私よりも娘のほうが諦めが早い。

 

息子は発達障害グレーゾーンで、道を急に変えるとかそんな小さなことでも、突然の変更を受け入れられず癇癪を起こす。療育にも通ってアンガーコントロールなど一応学んでいるのだが、今のところ成果は見られない気がする(妻は休校期間中よりは少し癇癪間隔があいたと言っているが)。まあそれはそれで癇癪起こす姿がかわいい部分もあるからムカつかない時もあるが、今日はスイーツを諦めている上に、暴れる息子のケリが私の金玉を直撃したため、瞬時に脳内が真っ白になって手に持っていた娘のセーターの入った袋で息子をぶっ叩いていてしまった。

 

こちらの痛みにくらべたら数億倍は弱い痛みのくせに、父親が瞬間湯沸かし器のように突然怒ったということで息子の中でまたスイッチが入り、「この暴力男!」「お前なんか死んじまえ!」「逮捕されろ!」「懲役だぞ!」と知っているワードを総動員して商店街のど真ん中でがなりたてる。こうなるともうほっておくしかないのだが、置いてけぼりにすれば、一人で喚き散らしているので、抱えて連れて行くしかない。娘は恥ずかしがってさっさと行ってしまった。

 

それにしても、息子のことで発達障害の本を読んだり専門家の話を聞いているうちに、映画に出て来るちょっとエキセントリックなキャラクターはみんな発達障害に見えてしまうようになった。

 

夕方、声をかけてもらい子ども向けのZOOMセッションに参加する。お題は「未来の自分を考えてみよう」と言うことで、私の他にはブラインドサッカーの日本代表の方や獣医師さんなどが参加していらした。6歳の年長さんから中学1年生までのお子さんが参加してくれた。

 

子どもたちから「失敗をしたらどうやって乗り越えているんですか? クヨクヨしませんか?」とか「生きるために仕事をするんですか? それともやりたいから仕事をするんですか?」とか「周りの友達は将来やりたいことが決まっているのに僕は全然決まっていません。やりたいことはどうやったら見つけられますか?」とかなかなかに鋭い質問が来た。

 

私は今でも失敗は怖い。そして失敗したときにそれを乗り越えられない。なし崩しで次に行くしかない。失敗するたびにクヨクヨしている。人生でクヨクヨしている時間のほうが長いくらいだ。それはとてももったいない時間だと思うが、人生の大半をクヨクヨしていると子どもたちに正直に言った。そんな言葉聞きたくもなかったろうと後になって思った。クヨクヨせずに切り替えられるなら、当たり前だが断然そちらの方が良い。どなたか良い方法があれば教えていただきたいが、私にとっては百メートルを10秒台で走るくらい難しい気がしている。

 

【妻の1枚】

 

 

【プロフィール】

足立 紳(あだち・しん)

1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作「百円の恋」が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ほか脚本担当作品として第38回創作テレビドラマ大賞受賞作品「佐知とマユ」(第4回「市川森一脚本賞」受賞)「嘘八百」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「こどもしょくどう」など多数。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。監督、原作、脚本を手がける『喜劇 愛妻物語』が公開中。著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』などがある。最新刊は『それでも俺は、妻としたい』。

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