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2020/12/1 18:15

味付けのコツも! 家政婦・志麻さんが教える、家事を“楽しくラクする”10の秘訣

フランス料理店で料理人として働いたのち、家政婦に転身した、タサン志麻さん。スーパーで買える身近な食材でフランス料理が作れるという魅力的なレシピは、すでに多くのひとがご存知でしょう。

 

その志麻さんに、家政婦として1500軒以上もの家庭や台所を見てきた経験から、家事との上手な付き合い方を教えていただきました。料理を効率よく行うコツや調理道具のこと、買い物や掃除の仕方、そして食事への思いなどを通して、志麻さんの魅力をたっぷりお届けします。

 

作るときも食べるときも、楽しくすることが何より大切

↑タサン志麻さん。今回はご自宅にお邪魔し、献立の決め方から料理、キッチンの掃除にいたるまで、志麻さん流の家事の進め方、考え方についてうかがいました

 

志麻さんが、パートナーのロマンさんと2人のお子さん、2匹の猫たちと一緒に暮らしているのは、静かな町にある古民家。テレビ番組や雑誌などでの活躍も多くなりましたが、本業である家政婦の仕事を、変わらず大切にしています。そんな忙しい中でも、お子さんたちとの時間や家族の団らんを大切にしている志麻さんは、いったいどのように家事をこなしているのでしょうか?

 

「とにかくすべての根底にあるのは、“楽しく楽にする”こと。料理にネガティブな気持ちを持っている方や、大変だと感じながら頑張っている方も多いのですが、食べることって毎日絶対にやらなくてはならないことですから、本当は楽しく作れたらいいですよね。

 

大切にしてほしいのは、何よりもまず自分が心地よく生きられること。どうやったら家事が楽しくなるかな、って考えてみるといいかもしれません。我が家では一汁三菜ではなく、フランス流に大皿で出したものをみんなで食べるスタイルにしているので、作るのも食べるのも片づけるのも、とても楽なんですよ」(志麻さん)

 

1. スーパーはお肉と魚のコーナーに直行する!

↑スペアリブとレンズ豆の煮込み ※『志麻さんちのごはん』(幻冬舎)より

 

実際に、志麻さんがどのような夕食づくりをしているかを伺ってみると、買い物の仕方から特徴的でした。

 

「自分が今日、何を食べたいかなって考えながらその日の買い物をするのが好きなので、できる限り毎日スーパーに行って、その日の分をその日に買います。おすすめの買い物の仕方は、入り口にある野菜コーナーを素通りして、お肉と魚のコーナーから見ること。今日はお肉の気分なのか魚なのか、お肉なら何がおいしそうで安いか……、そこが決まってから戻って野菜を見て、どんなものを合わせるか考えます。

 

もちろん買い物の仕方はそれぞれでいいと思いますが、食べたいメイン食材がはっきり決まってから他のものを見ると、そこに向かって買い物していけばいいので、迷いが少なくて効率がいいんですよ」(志麻さん)

 

↑食材のストックはほとんどしないそうですが、小さな玉ねぎは「煮込み料理にもグリルにも、小ぶりな玉ねぎを入れると見た目がかわいいから好き」という理由で、見つけると買ってストックしておくそう

 

2. メニュー名で考えず「食べたい食材+味」で決める!

↑タットリタン ※『志麻さんちのごはん』(幻冬舎)より

 

メインに使う食材が決まったら、次はそれを“何味で食べたいか”を考えるそうです。

 

“○○風の○○煮込み”のようにメニュー名で献立を考えてしまったり、買い物の前にあらかじめ献立を決めてしまったりすると、使いたい食材が手に入らなかったときに切り替えしづらくなったり、慣れていないレシピだと、作っているうちに工程がわからなくなって調べなくてはならなかったりしますよね。とはいえ、知っているメニューしか作れなくなると、だんだんマンネリ化もしてきます。

 

「“何味がいいか”と考える方が、トマト、コンソメ、味噌、クリーム味と、楽にアイデアを広げることができますし、食材が変われば出てくる旨味も違うので、味も見た目もまったく違う料理にすることができます。

 

たとえば、肉じゃがの作り方を知っているとしたら、材料を鶏肉に変えてコンソメとトマトで煮込めば、まったく違う料理になりますよね。お肉を魚に変えてもいいし、じゃがいもと玉ねぎ以外の野菜を加えてもいい。素材と味付けの分だけバリエーションができるので、レパートリーは無限に広がっていきます。しかも、食材が変わっただけで作り方は肉じゃがと同じですから、楽に作ることができるんです」(志麻さん)

 

3. レシピ通りに作らないから料理が楽しくなる

↑イワシとじゃがいものセロリ風味 ※『志麻さんちのごはん』(幻冬舎)より

 

手がけたレシピ本がすでに10冊以上にもなる志麻さんですが、実は「あまりレシピに縛られないでほしい」という思いを持っているそう。

 

「レシピはあくまでも、アイデアの提案にすぎません。人によって味覚は違いますし、今日はちょっと疲れているからしょっぱいものが食べたいな、というときは塩を強くする、というように、そのときの気分や体調に合わせて味付けを考えてほしいなと思っています。

 

実はそこを意識することこそが、料理を楽しくするポイントでもあるんですよ。レシピを見てその通りに計って作るより、自分でどんなふうにしようかなって、クリエイティブな頭を働かせて作る方がきっと楽しいし、思い通りにできあがったときにすごくうれしいんですよね。

 

また、和食は味噌にみりんに醤油にと、味を重ねていく“足し算の調理”なので、細かくて複雑な味が表現できますが、バランスをとるのがとても難しいお料理でもあるんです。一方、フランス料理は“引き算の調理”と言われていて、味付けにはほぼ塩しか使わないので、味の匙加減を整えやすいのがいいところ。きっとどなたにもおいしく作れると思いますよ」(志麻さん)

 

↑調味料棚もシンプル。塩は、粗塩とサラサラしたテクスチャーのものが2種類、砂糖は茶色いものとお菓子に使う白いもの

 

4. 塩で味付けなし! 志麻さん流「つけあわせ茹で野菜」の作り方

↑ホットサラダ ※『志麻さんちのごはん』(幻冬舎)より

 

メインディッシュに添える茹で野菜は、塩を入れず、水だけで茹でるのが志麻さん流。メインで塩分を取るので、塩分過多にならないようにすることと、どの料理にも塩気があると、全体のバランスが重くなってしまうからだそう。塩気のあるメイン料理と、塩の入っていない茹で野菜を食べ合わせることで、全体の味のバランスがとれ、おいしく食べることができます。

 

ちなみに志麻さんが作るグラタンのホワイトソースも同じで、入れる具材は塩茹でしたり塩胡椒したりして味付けしますが、ホワイトソース自体には塩を入れないのが特徴です。上に乗せるチーズと具材の塩気の中に感じる塩分のないホワイトソースが、軽さとやさしさのある料理に仕上げてくれます。

 

5. 魚料理は金曜日! 志麻さん流 魚料理のアレンジの仕方

↑魚のソテー ※『志麻さんちのごはん』(幻冬舎)より

 

日々のメニューに、魚の新しい食べ方を取り入れたいときはどうしたらいいか、相談してみました。

 

「南仏では魚介が豊富ですが、フランスの他の地域では金曜日は魚の日にしようって言われるくらい、あんまり魚を食べないんです」(志麻さん)

 

魚は、馴染みのない種類のものを扱うのが難しいので、レパートリーが増えていきづらいものですが、よく知っている魚の味付けを変えて食べてみるのが近道なのだそう。たとえば、焼いて大根おろしを添える食べ方が一般的なサンマも、オリーブオイルとニンニクとハーブで味付けをして焼いたり、バターで焼いてレモンとニンニクとクリームでソースを作ってみたり、味付けを変えるだけで新しい料理になりますよ。

 

続いて6番目の秘訣は? フランスの家庭では、鍋やフライパンごと出した大皿料理をみんなで取り分けていただくのが主流。ここには子どもたちへの食育、さらに食とコミュニケーションの関わりに対する考え方も反映されているようです。

 

6. 無意識に食べないようにする、大皿料理の良さ

↑ケバブ ※『志麻さんちのごはん』(幻冬舎)より

 

フランスの家庭料理は、個々に盛り付けられたものを食べる和食とは違い、お鍋やフライパンごと出した大皿料理をみんなで取り分けていただくのが主流。ここには子どもたちへの食育的な考え方も含まれていました。

 

「盛り付けられたものを食べる方法だと、“自分のお皿にあるから食べる”だけで、どうしても食べることに無意識になりがちなんです。そうではなく、“食卓の上から自分が何をどのくらい食べたいか決めて自分の皿によそう”という行為が、食べることを能動的にするのだと思います。

 

“子どもたちにはこれを食べてほしい、もっとお肉ばかりじゃなく野菜も”とコントロールしたくなることもあるとは思いますが、子どもにだってその日の気分があるもの。栄養のことはその日のその食事だけで考えるのではなく、一週間でどのくらいどんな栄養が摂れたか、一か月ではどうか、という長期的な目で見てみるといいと思います。

 

毎食欠かさず野菜を何品目、ということに囚われすぎてしまうと、やっぱりそうできなかったときに苦しくなってしまいますよね。疲れた日はデリバリーに頼ればいいし、我が家でもそうしていますよ。栄養満点の食事でも、キリキリして作って急がせて食べるより、『もう今日は無理!』って潔く諦めて、何であっても楽しく食べられる方がいいと思いませんか?」(志麻さん)

 

7. オーブンから食卓までフライパンひとつで、洗い物を少なく

そんな志麻さん宅での夕食のメインメニューは、たとえばグラタンのようなオーブン料理やお肉の煮込み料理が定番。

 

調理に使う道具は、下ごしらえしたものをそのままオーブンにも入れられる、お鍋やフライパンのセット一式だけ。オーブン料理も煮込み料理も、できあがったものをそのまま食卓に出すので、洗い物がとても少なくて済むのです。

 

「グラタンや煮込みは手が込んでいると思われがちですが、実はオーブンとお鍋がほとんどやってくれるので、すごく簡単。オーブン料理は特に、焼きはじめてしまえば台所にいる必要もありません。付け合わせにするのは、先ほどお伝えしたように、さまざまな旬の野菜を茹でたもの。そのまま食べたり、好みのソースをつけたりしていただきます。副菜となると味付けしなくてはならないので手がかかるけど、茹でるだけなら楽ですよね。

 

子どもたちはそれにごはんも食べますが、わたしとロマンは食べないことが多いかな。パンを用意することもあります。お皿にソースを残すのはマナー違反だと、子どもの頃から教えられているフランスでは、お皿に残ったソースをパンで拭っていただく習慣があるんです。だから、パンがごはんの代わりに主食になるという意味合いではなく、お料理と一緒にちょっと食べるという程度の量なんですよ」(志麻さん)

 

8. 会話するために会う、食事する……フランスの暮らしに学んだおもてなし

ロマンさんが作ったイタリア風マカロニグラタン ※『志麻さんちのごはん』(幻冬舎)より

 

フランスと日本の違いは、働き方や時間の使い方にもありますが、子育て世帯は100%共働きですから、フランスでも誰もが忙しいのはさほど変わりません。そんな中でも料理することや食べることを楽しめているフランスの家庭では、おもてなしの様子も違いました。

 

「日本でのおもてなしって、調理を担当する人はずっと台所から出てこられなくて、ひたすら料理を作っている、というイメージがありますよね。わたしもロマンを連れて実家に帰ったとき、母は全然食卓に来られないくらい忙しく料理をしてくれていました。もちろんそれが悪いのではなく、日本でのおもてなしはそういうものだと教わって生きてきたように思います。

 

でもフランスでは、喋るために会うのだということに重きを置いているんです。料理はオーブンに任せて、買ってきたハムなんかを食べながらワインを飲んで喋る、というスタイル。料理をしていてはせっかくのゲストとの時間が取れませんから、食べるものにこだわるのではなく、顔を合わせる時間を作ることにこだわる、という感じでしょうか。

 

また、フランス料理はどんな年齢の人でも食べられるようなメニューが多いので、赤ちゃんや老人のために別のものを用意することもほとんどありません。離乳食用に別のものをつくることもしません。みんなで同じものを食べるから楽しい、ということをあらためて実感できる文化があります」(志麻さん)

 

9. 調理道具をシンプルにしておくことが掃除の手間を省く

続いてお聞きしたのは、オススメの道具のこと。片付けの負担をなくし、調理をスムーズにするためには、道具を少なくするのがよいのだそう。

 

「フランスではお箸を使わないので、卵ひとつかき混ぜるにも泡立て器を出すという、道具の多い料理なんです。でも、日本にはお箸というとても便利なものがありますよね。かき混ぜるのも炒めるのもひっくり返すのも何でもできて、ちゃちゃっと洗うことができるので、わたしはお箸一本だけで料理しちゃいます。ナイフとまな板も、このセットひとつしか使いません。お肉を切ったり野菜を切ったりしながら調理中に何度も洗うので、小さい方が楽なんですよね。使う道具は極力シンプルな方が掃除は楽ですし、いろいろ置くと収納や片付けが大変になるので、必要なものだけ置いています」(志麻さん)

 

10.“汚れは溜めずに今すぐやる!”のがキレイを保つ秘訣

家政婦になったばかりの頃は、掃除の仕事が多かったという志麻さんが、さまざまなお宅を見ていちばん気になったのは台所の排水口だそう。

 

「なぜか排水口がぬるぬるしていて汚いまま、という方が多くて、あそこに物が落ちると汚いと思っていらっしゃるんです。生ゴミって本来は、野菜の皮などの“もともと食べられるもの”ですから汚いわけじゃないのに、放置してしまうから雑菌が増えて、ニオイが出たりぬめりの原因になったりしてしまうんですよね。

 

“今度やろう”と思っていると、汚れが落ちにくくなって掃除にも時間がかかるので、汚れた瞬間に拭いたり洗ったりしておくと、きれいな台所を保つことができます。料理中は三角コーナーやポリ袋を用意しておき、生ゴミをそこに溜めながら料理して、終わったら捨てる、というふうに習慣づけておくと、排水口も汚れないしゴミもまとめやすくておすすめですよ。我が家では大掃除もしないので、使ったらその都度掃除するようにしています」(志麻さん)

 

↑「我が家では毎日漂白しているので、中まですごくきれいです」という排水口。使ったら放置せず手入れする、が結果的に楽することにつながります

 

インタビュー中、終始「何でも楽しくやることが大事」と、話してくださった志麻さんの生活はシンプルで、とても温かいものでした。料理がつらいなと感じている人は、いったん今の方法を見直してみてはどうでしょう。何を作るか、どう片付けるかと考えるよりも、肩の力を抜いてその日できる範囲のことを無理なくすることで、家事の負担が減っていくのかもしれません。

この記事に掲載した料理の写真はすべて、『志麻さんちのごはん』(幻冬舎刊)からお借りしたもの。志麻さんが日々を綴ったエッセイとレシピの中に、料理を楽にするヒントがたくさん盛り込まれています。

【プロフィール】

家政婦 / タサン志麻

調理専門学校を卒業したのち、渡仏して三つ星レストランで料理人として働く。帰国後は老舗フランス料理店やビストロで働いたが、日本でのフランス料理の在り方に疑問を感じて退職、家政婦となる。料理人としての知識を活かして各家庭の食事作りをするうちに、やりたかったことはこれだと強く思うようになり、現在も家政婦として働いている。『沸騰ワード10』(日本テレビ系列)、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK総合)の出演をきっかけに全国的な人気となり、この3年で10冊以上のレシピ本を出版。近著はエッセイを盛り込んだ『志麻さん式 定番家族ごはん』(日経BP社)。
https://shima.themedia.jp/

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