リオデジャネイロ五輪のテレビ観戦で寝不足続きだという方も多いだろう。筆者もその1人で、男子112年ぶり、女子116年ぶりとなるゴルフ競技の金メダリスト誕生の瞬間を見るためほぼ徹夜。世界のトップ4人が真意のよくわからない理由で出場を辞退した男子は、チケット完売の最終日に1万1000人以上のギャラリーが入った。ゴルフ発祥の英国(正確にはスコットランドとされるが)代表のローズとスウェーデン代表のステンソンが激闘を展開し、「五輪は盛り上がる。辞退した人は後悔すると思う」と話したという米国のクーチャーが驚異の追い上げで、銅メダルという結果になった。
初めてゴルフを見るギャラリーも多かったようで、カメラを向けるなど観戦マナーはイマイチだったが、各国国旗が振られ、明らかにメジャー大会とは違う雰囲気につつまれた。ゴルフの面白さを世界に伝えるにはいい機会だった。なにより、金メダルのローズの喜びようはメジャー大会の優勝にも劣らないほどだった。
世界ランクの上位が全員出場した女子。朴仁妃(韓国)が抜けて金メダルを獲得したが、日本の野村敏京(4位)が追い上げて一時は3位でホールアウトするなど、銀、銅メダル争いは熾烈な展開だった。出場権や試合方式の問題は残るが、2020年の東京五輪以降も存続するための、いい印象を与えられたと期待する。
■20代がゴルフに使うおカネは900円!?
以前も書いたように、五輪はテレビなどで見て、始めてみようというきっかけを作る大会でもある。競泳、体操、ラグビー、卓球、柔道、バドミントン、レスリングに、テニスの錦織、陸上の男子400メートルリレー……史上最多メダルにつながった活躍は、子どもたちのみならず、多くの人の心に響いただろう。こうした競技を始める人は増えるのだろうが、ゴルフはどうだろうか。
【URL】
ゴルフとおカネの切っても切れない関係(東洋経済ONLINE)
五輪の直前、六本木の居酒屋でゴルフ業界の友人と飲んでいた。「20代がゴルフに使えるおカネが月にいくらぐらいか知ってます?」というので、低めに「3000円」と答えたら、苦笑いで「900円なんです。どうしましょうか」。ちょっとびっくりした。総務省の2014年全国消費実態調査の「単身世帯の勤労世帯での1カ月の収入と支出」の中で、30歳未満で年収300万~350万円の人のプレー料金を含めたスポーツ費は平均「887円」とあった。約38万世帯の平均で、たぶん0円の人が多かったのだろうと推察するが、それにしても――。携帯など「情報通信関係費」の10分の1しかスポーツやゴルフに使われていない。
ゴルフ界は新規ゴルファー創出という大きな課題を抱えている。今回の五輪がそのきっかけとなるはずだったが、アピールが少し弱かったのは残念だ。しかし、「ゴルフを始めたい」という人は各種調査でもたくさんいると聞く。「でもゴルフにまでおカネをかけられない」という20代、30代も多いのだろう。
そういう人を拾い上げるために、ゴルフ業界も費用のハードルを下げて「ゴルフを始めてもらおう」というさまざまな企画を打ち出している。たとえば、60歳以上のシニアプロの大会「ゴルフパートナーカップ 日本プログランド・ゴールド選手権」で驚いたことがある。
会場で行われた無料の「はじめてのゴルフレッスン会」「初心者ゴルフレッスン会」に2日間で450人以上が参加したことだ。50代以上の参加者は「夫が定年を迎えた後に夫婦でゴルフができたら」と一念発起した主婦が多かったが、30代の参加者からは「前から興味があった。クラブを1本もらったので打ちっぱなしにでも行きます」という声があった。
■20、30代を呼び込む仕掛け
ゴルフパートナーは2014年8月から、ゴルフ初心者に店舗で7番アイアンをプレゼントする企画を始めているが、1年ほどで5500人以上が受け取り、うち52%が自腹で何らかのゴルフグッズを購入し、32%がクラブを買っているという。この数字が高いか低いかは別にしても「20代、30代が多い」というから、「900円」世代にもゴルフへの欲求は感じられる。
「900円」でゴルフができないか探してみたら、近いものが見つかった。室内練習場のドライビングレンジ日比谷によると、2015年10月に会員制から非会員制にして、1打席(2人まで)50分で2500円にしたところ(1人当たり1250円)、それまでほとんどいなかったゴルフ未経験者が20%、年齢構成も20代と30代で50%を占めるようになったという。
同店によると「使えるおカネの少ない世代が増えている。若い人へのアンケートの結果、価格を含めてゴルフは敷居が高くよくわからない人」が多く、「100%、最初はゴルフをする人に連れられてきている」という。初めてゴルフを体験し、その後続けていくかどうかは、金額だけではなく「連れて行く人」が重要なようだ。
「大学ゴルフ授業 産学連携調印式」が先日行われた。PGA、用品業界をはじめゴルフ業界全体で構成するゴルフ市場活性化委員会(GMAC)と全国大学体育連合が連携し、大学のゴルフ授業の充実を図るという。以前大学ゴルフ授業の厳しい現状を紹介したが、ようやくゴルフ業界も「約580大学で実施、年間数万~10万人の新規ゴルファー創出」の土壌に目を向けた。
9000本のクラブを無料で用意し、ルールや技術などの「教科書」作りにも着手する。ゴルフは就活の有効なツールになるので、授業としては人気があるそうだ。ただ、卒業してから「900円」になってしまっては意味がない。最初にゴルフを指導する人が大事になる。PGAは「指導者を指導する」ことから始める。こちらも「始める人の入口に立つ人」が大事ということだ。
■未経験者だけでのゴルフには限界がある
ネットで探すと、初心者向けの安価なレッスンやイベントがたくさん見つかる。19・20歳の人は練習場やゴルフ場が無料になる「ゴルマジ!」という企画が人気だ。しかし、未経験者だけで行っても何をしていいかわからず、簡単に上達しないからか、苦痛に感じて続けられる人は少ないという。やはり始める、続けるには寄り添うゴルフ経験者の存在が大きいようだ。
ゴルフ界が、未経験者にゴルフの入り口に立ってもらう仕組みをつくっても、最初にゴルフをやった印象が、続けるかどうかの基準になる。ゴルフを続ける人が増えれば、誘える人が増えてゴルフに行きやすくなる。そう考える先輩ゴルファーが増えるのか。ゴルフの楽しさを伝える先輩ゴルファーの「協力」が、新規ゴルファー創出の大きなカギを握っている。
文:赤坂 厚(スポーツライター)
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