ライフスタイル
2021/12/7 11:30

「全長8m超えのキャンピングカーが僕には必要で必然だった」──藤岡弘、の出会った宝物#2

藤岡弘、さんが所有するお宝を紹介する連載第二弾は巨大なキャンピングカー。

 

フルサイズバンのフォードEシリーズをベースにアメリカのキャンピングカーメーカー「ウィネベーコ」社が製造した2007年式アスペクトは、6.8LV10エンジンを搭載し全長8200mm、全幅2490mmと国内で購入できるキャンピングカーとしては最大級のサイズを誇るキャンピングカーファンにとって憧れの一台だ。

 

現在、空前のキャンピングカーブームが到来しているが、藤岡さんならではの活用法、いわば藤岡流キャンピングカーの極意をうかがおう。

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:手束 毅)

 

●藤岡弘、(ふじおか ひろし)/俳優・武道家。 1965年、松竹映画にてデビュー後、青春路線で活躍。 1971年、「仮面ライダー」で一躍ヒーローに。映画・テレビで活躍中

 

アメリカでの映画出演が大きなきっかけ

──このキャンピングカーを購入したきっかけを教えてください。

 

藤岡 実は、以前にも同じアメリカ製のキャンピングカーを所有していたんですよ。このクルマよりひと回り小さかったですが、クルマにサバイバル道具や武道着、木刀などを積んで、当時いた弟子たちと山や川へ出向いて行う稽古のベースキャンプとして重宝していました。

 

いま所有しているクルマを選んだ理由は、アメリカで映画に出演したことが大きなきっかけとなっていますね。アメリカの映画撮影現場では俳優に1台から2台のキャンピングカーが提供されるんですよ。僕にもキャンピングカーが提供されたんですが、使い勝手の良さに驚きましたよ。これはいいぞと。

 

日本へ戻ってきて新たにキャンピングカーを購入しようと決めたんだけど、アメリカで味わった利便性を求めたかったのと、僕には子どもが4人もいたことで小さいサイズでは無理。何台もの候補からこのクルマを選んだんです。

 

──利便性や利用シーンを考慮して選んだこのクルマですが、実際に使ってみてイメージ通りでしたか?

 

藤岡 まず、このクルマは水を大量に積むことができるのが大きい。調理やシャワーなどキャンピングカーでは水を使うことが多いのだけど、家族が多い僕にとってこれだけの水を積むことができるのは非常にありがたいです。

 

あと、ジェネレーターの存在。走行中でも単体で動くジェネレーターがあることで電気の心配をしなくていい。

 

そして、なによりキャビンを横に広げることができるスライドアウト機構があるのがいいね。ボタン操作ひとつでキャビンの一部が外に“ガッと”せり出すんだけど、せり出した部分を支える4つのスティックがダンパー付きのため地面が斜めでもキャビンは水平に保たれるんですよ。ここが外にせり出しキャビンが拡大するおかげで、後方にあるベッドとともに8人くらいは寝ることができるんです。

↑車内とは思えない広いキャビン

 

──なるほど、家族が多い藤岡さんにとってはありがたい機構ですね。このクルマの購入時、藤岡さんの希望でカスタムされた箇所はありますか?

 

藤岡 このような大型の車両を運転する際、夜はタイヤの位置や両端の幅がわからないので、後輪を照らすライトを装着しました。このライトがあるおかげで、夜間の運転が楽になりましたね。あと、車両後方を確認できるバックモニターを追加するなど、自分が運転してみてこれはちょっと、というところを全部改善しました。

↑後輪を照らすライト

 

──内外装ではなくて、機能的で運転中に必要な部分をカスタムしたわけですね。

 

藤岡 内装なんかはキャンピングカーの本場で作られているから、これ以上必要ないくらい充実していますよ。

 

ただ、以前所有していたアメリカ製キャンピングカーは個体にもよるんでしょうけど故障が多かった……。当時は苦労したんだけど、その時に得たノウハウが脳裏に焼き付いているから、故障した時どうするかを想定しながら運転していますね。

 

このクルマには故障した時に自分で直せるように必要な工具類はすべて積んでいます。だからトラブルが発生してもオタオタすることはありませんね。

 

──実車を見ると、想像より大きく感じます。大きさは購入時に問題視しなかったのでしょうか?

 

藤岡 それはなかった。僕自身がこのクルマを乗りこなせる自信があったからね。大型自動車や大型特殊自動車の免許を持っているし、昔バイトで大型車両にさんざん乗っていましたから。それを考えたら自分にとってこのサイズはどうってことないですよ。

 

先程も話したように、これより小型とはいえ所有していたこともあって僕にとってキャンピングカーはわりと乗り慣れた車種なんですよ。ただ、この大きさは大型自動車やキャンピングカーの経験がない人にはお勧めできない。ちょっと大き過ぎる、日本向きではないと感じる時もある。

 

このクルマを停めている事務所の前の道を、修理工場の人さえ入れることが難しくて、コーナーを何回も切り替えしてしまう。私もそうですが、スムーズに車両を入れられない時もある。

 

──藤岡さんは乗りなれているとはいえ、旅行中にこの大きさで苦労されることもあるかと思います。

 

藤岡 そう、このクルマのバックミラーは幅でいうとバスより広いんですよ。だからボディの全幅とともにこれを考えた運転をしないといけない。あと、キャビン上部の高さや幅も高く広なっていますから、例えば街路樹が横へはみ出している時、気にせず走るとドンとぶつかりキャビンが削れてしまう。前のキャンピングカーを運転していた時それをやっちゃってねえ……。キャビン上部が、削れちゃって修理に大分かかってしまったこともある。

 

北は青森から南は和歌山まで

 

──大きなサイズのキャンピングカーでは行く場所も限られてしまうかもしれませんね。

 

藤岡 目的地に行く時にはどこでUターンできるかを想定したり、地図を見て車両が旋回できるところを考えたりと、相当神経と頭を使います。(車両の)頭が入るからといっても、旋回できない場所もありますから。このクルマはキャビンがかなり長いでしょう。後が引っかかっちゃうんですよ。

 

──そういう意味ではクルマに合わせた目的地選びも必要となってくるかもしれないですね。

 

藤岡 その考え方をベースとするのは良いですね。ただ、僕の場合はね、子どもたちをクルマに乗っけたらある程度の方角は決めるけど、目的地を最初に決めることはないんですよ。行き当たりばったりというか、ここ良いなという場所があるとクルマを停めたり、ああ、あそこに行ってみようか、ここもいいなと運転しながら思ってしまう。

 

何というのか、冒険や探検じゃないけどスケジュール通りに動くよりも、むしろその時の感覚で移動する。だからクルマを動かすまでどこ行くのかわからない。今日は東北に行こうかとか、今日は富士山のほうへ向かおう、とかってなっちゃうんですよ。

 

──まさに藤岡探検隊というドライブですね! ご家族とこのクルマで旅行されたとき、どのあたりまで遠出をしたことがありますか?

 

藤岡 遠方というと秋田や本州最北端で北海道が間近の青森まで行きましたね。南は和歌山まで行ったかな。そのあたりまではこのクルマで行っています。いまは忙しいけど、できれば家族とこのクルマで北海道へ行ってみたいとは考えていますよ。

 

また、このクルマのメリットは長距離運転が楽なこと。優雅な走りを体感できます。やはり大排気量の10気筒エンジンはパワーやトルクもあるし、運転席の着座位置が高いでしょ、だから高速道路を使ってのロングドライブが疲れない。

 

しかも高速道路のパーキングエリアは大きいし、(車両を停めたまま)寝ていいところもあってね。最近は温泉付きのパーキングまでありますからね。子どもたちは温泉好きなので、そういうパーキングやサービスエリアを絶えずマークして探しちゃう。じゃあ行ってみようかと向かったら、そこがけっこう良い施設なんですよ。そこにクルマを停めて温泉に入って美味しいものを食べて、クルマで寝るという形で楽しめました。

 

──キャンピングカーならではの楽しみ方ですね。

 

藤岡 また、朝風呂入ったりね、そのあと早朝に湖に向かい魚を釣ったりすることもできます。

 

以前、所有していたキャンピングカーには船外機付きのゴムボートを積んでいたんですよ。海とか川とか湖ではボートを使って釣っていました。当時、弟子たちもいたんでね。稽古やそういうサバイバル的なキャンプにおいて、アウトドアのノウハウ培ったかといえるかな。

 

──藤岡さんのお話をうかがっていると、アウトドア好きやキャンプ好きの方はキャンピングカーが重要なツールになると思います。そういう方は手に入れるべきでしょうか?

 

藤岡 経済的な問題もあるから絶対に買うべきとは言えませんが、分相応のキャンピングカーを所有することはお勧めできます。いまは乗用車程度の金額でいいキャンピングカーを買えますし、豪華さや見栄えを気にするのではなく機能的、実用的に考えたらいいんですよ。

 

昔と比べると、日本製のキャンピングカーも機能的に非常によくできている。日本の技術はすごいから、たとえボディが小さくても出来が良くすごいなと感心してしまう。

 

僕の場合は、実用性を考えたらガソリン車よりもディーゼル車、しかも四輪駆動であれば最高ですね。ディーゼル車だと経済的にもいいし力もある。四輪駆動だと雪山や悪路での走破性が良く、ちょっと道が悪いところに入ってしまったり、自分が危険に陥った時を考えると助かる可能性が高くなる。そういう場所に行かなければ四輪駆動でなくても、それほどの問題はないね。充分だよ。

 

土地の情報は無線の交信で集める

──キャンピングカーを選ぶ際も万一のことを想定するのが重要なのですね。キャンピングカーを所有したいと考える方は多いと思いますが、利用しているときのトピックスを教えてください。

 

藤岡 ルーフについているアンテナを見ればわかるかもしれないけど、僕は車両にハム無線を付けているんですよ。無線を付けていることでドライブ中、「ちょっとお尋ねしたいのだが、どなたか応答願います」というと必ず地元の人が返答してくれるんです。

 

「ちょっとお聞きしたいのですが、地元のおいしいお店ないかな?」っていうと教えてくれるのはもちろん、行き方まで丁寧に無線で教えてくれるんですよ。「ちょっと○○が欲しいんだけど」と尋ねると、それならあの店にあるし、その店はどこにあるよとかね。地元の情報を無線の仲間だと思ってくれて教えてくれるんですよ、次から次へと。

 

「魚釣るんだったらここがいいよ」とか穴場を教えてくれたりね。そういう面で無線があるのは助かっています。中には親切に「僕がどこそこで待っているから、案内してあげる」という人もいるしね、本当に助かります。また、何か起きた時の緊急時に助かる、ハム無線なので災害の時も。

 

──無線では藤岡さんだとわかってないですよね? 待ち合わせ場所に藤岡さんがいらっしゃったら結構驚かれますよね?

 

藤岡 相手の方は僕にびっくりしているし、僕もそれに驚いて(笑)。あと地方へ行くと、その土地の果物とか野菜で何が美味しいとか、苺狩りやみかん狩りができるぞって教えてくれるでしょう。そういう情報もキャンピングカーに乗っていくと非常に助かるよね。

 

あと市場によく行くんですよ。そこには獲りたての鮮度抜群な魚が安く買える。僕が行くとお店の方が「これも持っていけ、持っていけ」といっぱい魚を持たせてくれて、それを刺身にして残りの身を味噌汁にしてね。ご飯を炊いてさらに地元の野菜を味わうなんて最高の朝飯を食べることができるんですよ。

 

──新鮮な食材を車内で調理できるのもキャンピングカーの大きなメリットといえますね。

 

藤岡 そうそう。だって地方で買うと大きなアワビも安いんだよね。え、こんな値段でいいのと言ったら、いいよ、これもおまけだなんて言ってくれて。それを贅沢に厚切りにして刺身で食う。そういう出会いがあるところもキャンピングカーのいいところですね。

 

──キャンピングカーがコミュニケーションツールになると。

 

藤岡 そういうことです。とくに子どもたちにとっては楽しい移動ツールといえるでしょう。

 

ただ、旅行だけではなく僕にとってはビシネスでのコニュニケーションを取るツールでもあるんですよ。

 

僕らは映画やドラマの撮影で地方へロケに行くでしょう。このクルマでロケに向かうと車内で監督やスタッフとミーティングできるんです。前日入りして現場に泊まって、衣装を着替えたり、食事を作って食べたり、それから監督やスタッフみんなと打ち合わせしたり。車内で映像も観ることができますし、テレビもあるしね。私の場合はこのクルマをプライベートと仕事の両面で活用できる。そういう面で非常に重宝していますね。

 

あとこのクルマは絵的にも良いので取材、あるいはテレビの番組なんかでもキャンピングカーを使っていいですか? 借りると1日これくらいになり大変な金額を要求されるからと、僕と一緒に提供すると喜ばれるんですよ。

 

──キャンピングカーは走るオフィスにもなるわけですね。

 

藤岡 そうですね。ただ、このキャンピングカーについて皆さん、芸能人だからステイタスの象徴として所有しているのだろう、と思っているかもしれないけどそうではないんですよ。

 

このクルマを購入するときいろいろな車両を見た中で、機能性、家族の人数、業務的に使えるかどうか、また自分の経験が活かせるなど総合的に判断して買ったものなので、見栄や周りにどう見えるかなどを考えて買ったわけではないんです。

 

とくに、僕は芸能人だからファミリーのプライバシーを守るためには電車などで旅行することができない。周りが気になって子どもたちも神経を使い、声を掛けられる事もあり、疲れる事もあるし楽しみながら家族で移動するために必要なサイズがこの大きさだったんですよ。

 

このクルマは僕と家族との良き想い出を残すためと会社には必要だったし必然だったんですよ。小さいころの子どもたちの体験や成長と、想い出の写真が家族の絆の宝になるんです