ライフスタイル
2023/6/27 10:30

商品化予定はなかったが…「泡の新ギャツビー」開発したのは入社3年目の技術者

今年2月、メンズコスメブランドを牽引する「ギャツビー」から新たなヘアスタイリング剤「メタラバー」シリーズが発売されました。「エフォートレス(労力を要さない、気楽に)」をコンセプトに、さまざまなヘアスタイルを表現できるラインナップは6種類。

 

ワックス、バーム、ジェルなど多彩なタイプが揃っているのですが、実はこのシリーズの中には、もともと商品化の予定がなかったものがありました。いくつもの偶然が重なり、時代の波にも乗っかって、発売へーーしかも、それを開発したのが発売当時入社3年目の若手というエピソードまで付いています。

 

↑「メタラバー」シリーズ。赤が「ワックス ハード」、そこから反時計まわりに「バーム スマート」、「クレイ フレックス」、「グロス ハード」、「ジェル プレイフル」、「バブル パーマスタイルクリエイター」

 

その商品とは泡タイプの「バブル パーマスタイルクリエイター(以下バブル)」。スタイリング剤の泡だけでパーマ風アレンジを行える、これまでになかった製品なのです。

 

一方で、泡タイプのスタイリング剤は販売比率では決して多いとはいえない状態になっています。男性スタイリング剤市場においては、ワックスが高い比率を占めて32.7%。ついでジェル(19.2%)、スプレー(18.8%)と続き、泡は8.7%と4位に留まっています(※)。実際に、マンダム「ギャツビー」の看板ヘアスタイリング剤「ムービングラバー」のラインナップはすべてがワックスです。

※:出典「マンダム算出市場データ/全業態/202243(金額)

 

なぜ泡タイプの「バブル」は誕生したのか? なぜ高い注目を集めているのか?「メタラバー」の企画を担当した株式会社マンダム ブランドマーケティング一部 マネージャー 森 健太さん、「バブル」の開発を担当した ヘアケア研究所 エアゾール製品開発グループ高嶋快土さんに取材しました。

 

↑森さん

 

↑高嶋さん

 

今の時代を見据えた「メタラバー」

ディテールの話に入る前に、「メタラバー」全体のコンセプトについてプロジェクトマネージャーの森さんに概要を聞いてみます。

 

「2006年に発売された『ムービングラバー』は、ワックスのみのラインナップでした。当時、毛束を作り込むヘアスタイルが人気だったためです。ただ、現在はヘアスタイルが多様化していて、これまで通り毛束を作るスタイルもあれば、ナチュラルスタイルや、パリッと固めたスタイルもあります。さまざまなニーズに応えられるように、6タイプが異なる剤型になっているのが『メタラバー』のポイントです。

 

また、使いやすさにもこだわっていて、泡タイプの『バブル』ですとパーマをかけるわずらわしさから解き放たれて、すぐにパーマ風のスタイルが作れる。エフォートレスに使えるヘアスタイリング剤になっています」

 

「メタラバー」の立ち位置を理解いただいたところで、ここからは4つのエピソードをもとに「バブル」の開発秘話を紐解いていきます。

 

【開発秘話1】入社1年目には既に発想が生まれていた

「メタラバー」の泡タイプ「バブル」の開発を担当した高嶋さんは現在、入社4年目(2020年入社)。「メタラバー」が発売されたのは2023年2月なので、入社3年目で開発担当商品が発売されたことになります。「バブル」のアイデアはどこから生まれたのでしょうか?

 

高嶋「入社して1年が経った頃 、自分が生活者として欲しい製品を考えたことがきっかけです。パーマへの憧れがずっとあったのですが、パーマって踏み出しづらいですよね。似合わなかったときにどうしようもないとか、スーツを着るときはきちっとしたいとか。1日だけパーマになれる整髪剤があったらどんなにいいだろうと思い、挑戦に踏み出しました。

 

実はパーマは、細い毛束がいっぱい集合してできているんです。そこで髪の毛を針金みたいに自由に成形できる状態にしたら、簡単にパーマ風の髪型が作れるのではと考えました」

 

1日だけパーマにしたい。開発者側の視点ではなく、生活者としてのリアルな感覚があったからこそ見えたニーズ。入社1年目の新人が思いついたアイデアには、実は大きな可能性を秘めていたのです

 

【開発秘話2】スタイリング剤のセオリーに完全に反したアプローチ

手軽にパーマ風のスタイルを作れる整髪剤の開発に着手した高嶋さん。ある日、ひとつの素材にたどり着きます。

 

高嶋「ロウソクを思い浮かべていただくとわかるかもしれませんが、グニャグニャできる硬さと毛束を作れる粘着感が欲しくてたどりついたのがロウでした。そのロウと組み合わせて、うまく髪の毛をコーティングできるものが泡の製剤だったんですね。

 

泡の整髪剤は男性、特に若い方は使わない方も多いと思うんですけど、自分も入社して触っていくなかで、非常に髪馴染みが良くて、髪全体を覆うのに長けていることがわかってきました。実際に試作したものを使ってみると、細かいカールが作れる発見もありました」

 

「開発部署からのリクエストと並行して、自分だけの研究テーマもコツコツ進めていた」という高嶋さん。荒削りながらプロトタイプを丸1年ほどかけて作り、さまざまな部署の社員に試してもらう……。こうして入社3年目で高嶋さんは「泡×ロウ」という組み合わせを生み出します。しかし、それはスタイリング剤のセオリーに反したものでした。

 

高嶋「製剤的には珍しく、同じような処方を組んでいる製品は、おそらく市場にないはずです。なぜかというと、ロウのようなカチカチになる固体を、泡状の製剤にするのは配合しづらいものなんです。思いついても多分誰もやろうとは思わないでしょう。なぜ自分がそこに踏み切れたかというと、入社したばかりで科学的な知識が乏しく、難しいってことを知らなかったんです(笑)。それで、なんとなくやってみたら意外とできるぞと。言ってしまえば、無知が幸いしたようなところがありました」

 

【開発秘話3】上長が見込みを感じ社長プレゼンに!

業界の常識にとらわれずに、経験が浅いから突き進むことができたという高嶋さん。もちろん新しい製品を生み出すには多くの苦労があったといいます。

 

高嶋「中身として新しいと、予測できないことが色々と起こるんです。製品の品質を保つ上でトラブルがないかという検証も大変でした。社内の人間が持っている知見から外れた現象がたくさん出てきて……。それでもやはり機能は面白いので、お客様に届けたいという想いがありました」

 

マンダムにはもともと「製品の企画を担当する部署からのインプットで製品開発が進むルートと、技術分野からのアイデア出しで開発が進むルートの2つ」(高嶋さん)があり、技術分野からの面白いアイデアを拾い上げる社風があったことも幸いしました。

 

高嶋「自分の中で生み出したい価値とそれを実現する技術がしっかりマッチした状態になったときに、それを小耳に挟んだ技術分野の常務から『面白いじゃないか』と言ってもらえました。そのあと、社長と開発分野の常務に、当時3年目になったばかりのペーペーの社員がプレゼンテーションをする機会を突貫で作っていただき……。結果として、社長にも期待してもらえて、トントン拍子で製品化の話が進みました」

 

【開発秘話4】新シリーズ開発の時期とたまたま重なった

ちょうどそのころ、製品を企画する部署では新たなコンセプトのシリーズ「メタラバー」を企画している段階でした。

 

「『メタラバー』の企画を考えているときに、奇跡的に高嶋から『泡×ロウ』の案が出てきて、これも入れられそうだなと。『メタラバー』の特徴はエフォートレスですが、その中でもこの『バブル』のラインナップは手軽、気軽に劇的なヘアスタイルの変化ができるという点で、『メタラバー』の見せ方にも大きな影響を与えてくれました。

↑「メタラバー」シリーズの特徴を示したマップ。「バブル」はセット力や質感の枠に捉われないポジショニングになっているのがわかる(「メタラバー」サイトより)

 

こうして、入社3年目ながら、高嶋さんが開発した「泡×ロウ」の常識を破るスタイリング剤は、「ギャツビー」の「メタラバー」というマンダムが力を入れる新シリーズに抜擢されることとなったのです。

 

Z世代に響く新製品とは?

売上は非開示ですが、「初動では非常に好調な滑り出し」(広報)という「メタラバー」。ラインナップのなかでも「ワックスとバブルがかなり人気」(広報)とのこと。特に印象を大きく変えることができる「バブル」は、SNSに“使ってみた”のビフォーアフターが複数投稿されています。男性ヘアスタイリング剤では構成比がわずか8.7%という泡タイプの「バブル」が、Z世代に受け入れられた理由はどこにあるのでしょうか?

 

「多様化という点が一番大きいのではないかと考えています。Aさん、Bさん、Cさんと複数人のなかで多様化している部分もありますが、Aさん1人のなかでも『このシーンではこうしたファッションをするけど、別のシーンではまた違ったファッションをする』というふうに、自分像を使い分けるパターンが見られます。それはSNSが発達したことによって、リアルとバーチャルなどコミュニティ自体が多様化している結果であると思います。

 

ですので、昔は自分に合ったヘアスタイルを維持する考え方でしたが、現在はヘアワックスも6~7種類ほど持っていて日替わりで使い分ける。だからこそ『バブル』は現状にフィットしていて、『カチっとしたいときはジェルだけど、今日はラフに行きたいからパーマ風のバブルで!』となっているのではないでしょうか」

 

これまでの常識を覆す新しい製品が生まれるときは、いくつもの偶然が重なって起こるもの。タイミングや時代の風にも恵まれなければヒットはしません。1日だけパーマにしたい。入社1年目の新人のそんな思いが「バブル」という新しいカタチを生み出しました。

↑「メタラバー」シリーズは人気サロンのfifthがヘアスタイル監修しているのも特徴のひとつ。実際にスタイリストからのフィードバックで商品力を磨き上げていったという(「メタラバー」サイトより)