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2023/9/30 11:30

幸福学研究者が教える、幸せになる思考習慣…「幸せ」の定義とは? 幸せは自分の物差しで決めること

いま誰もが、忙しい日々に追われ周囲の視線を気にして、自分を見失っているのではないでしょうか? 毎日がもっと楽しくて、幸せに感じられるものならいいのに──。落ち込む時代の空気に反比例するように “ウェルビーイング” が重視されるなか、幸せを科学的に研究・実証する「幸福学」が注目されています。

 

幸福学とは、心理学を基礎として、統計的にどういう人が幸せなのかを明らかにしていく学問のこと。この連載では、幸福学を研究する前野マドカさんに、さまざまな視点から幸せを感じる習慣や思考法など、「幸せになる方法」を教えていただきます。第1回のテーマは、そもそも「幸せ」とは何なのか……?

 

周りの人と自分の「幸せ」を比べてしまう

──「周囲の友人や知り合いは幸せそうなのに、一方自分は……」とネガティブに考えてしまうという人は、SNSがさかんになってからより多くなっているのではないでしょうか? ズバリ伺いますが、幸せって何なのでしょうか?

 

「幸せは、自分が決めることであって、感じること。人によって、幸せの感じ方は変わるんです。つまりその人自身が『幸せだわ〜』と思えれば、幸せでOK。幸せとは、何かを頑張らないと掴み取れないもの、誰かにもたらしてもらうものって思っていませんか? 例えば、アニメのお姫様やドラマの主人公のように運命に導かれてこそ、幸せのテンプレートに当てはめてこそ幸せ! と。まずは、幸せとは自分で決めていいもの、そして自分で育むものだと意識を変えることから始めましょう」

↑幸福学の研究者、前野マドカさん。同じく幸福学の第一人者で、慶應義塾大学大学院の前野隆司教授との共同研究や共著も多い

 

──幸せは自分で決めるもの! 誰かと比べたり、幸せの大きさで判断したりするものではないんですね。

 

「そうですね。幸せは他人と比べるものではありません。幸福学では、幸せには4つの因子があり、これら『幸せの4つの因子』を伸ばしていくことが幸せをより感じやすくなると定義しています」

 

幸せの4つの因子

■「やってみよう!」因子
・主体的にやりたいことに取り組んでいる人
・得意なことがあり、それを伸ばそうと努力をして強みをさらに高める人
・好きなことがあり、それを突き詰めようと打ち込んでいる人

■「なんとかなる!」因子
・考えすぎず物事を決断できる人
・失敗しても気持ちを切り替え立ち直るのが早い人
・自己受容できている人

■「ありがとう!」因子
・人の喜ぶ顔を見たいと思う人
・困っている人を支援したいと思う人
・他者とのあたたかい付き合いに感謝している人

■「ありのままに!」因子
・地位財形型の競争を好まない人
・自己像が明確な人
・他者への許容度が広い人

 

──「幸せの4つの因子」に今の自分の気持ちを当てはめてみると、足りない部分が見えますね。忙しいからと「やってみよう」と思えなかったり、不安がいっぱいで「なんとかなる」と思えなかったり、自分のことでせいいっぱいで「ありがとう」が言えなかったり……。そもそも「ありのままの自分」ってどんな自分だったかな? とか。

 

「いい気づきですね。これら4つの因子と今の自分を照らし合わせて、自分に欠けているところはどこかな? と振り返ると、自分を俯瞰できて視野も広がりますよ。実は俯瞰できる人は幸福度が高いという研究結果もあるんです」

 

──そうなんですね!

 

「それに、幸せって意外と身近にあるもの。本当の幸せは日々の生活の中にあって、それが一番感じやすいんです。そこに気づけるかどうかが、幸せになれる大切なポイントです! お金があるから、いい会社の社員だから、結婚しているから幸せなんて一体誰が決めたのでしょう? 人のモノサシや価値観で幸せは決めるのはよくないですね。大切なのは、自分の価値観に合う幸せをピックアップすることです」

 

──頭ではわかっているのですが、すぐには日々の幸せには気付けないかもしれません。小さな幸せは、どうしたら感じられるようになるのでしょうか?

 

「自分がときめいたり、ワクワクすることってなんだろう? と考えればいいんですよ」

 

──たったそれだけですか?

 

「ときめきやワクワクは、旅行や特別なイベントじゃなくて大丈夫。コーヒーのいい香りで目覚めてときめいた、キッチンに花を一輪生けたらワクワクした、好きなアーティストの新譜に感動した、電車からの景色に心が弾んだ、など。どんな時にときめいてワクワクするのか、考えてみてください。そこに幸せがありますから。多くの人は、目の前にたくさんの幸せがあるのに、自分の意識が向いていないから気づいていないだけ。仕事に行かなきゃ、今日はミスしないようにしなきゃ、家に帰ったら家事をしなきゃと日々の不安で頭がいっぱいになっていたら、幸せに気づくヒマがないですよね」

 

──自分がときめく瞬間を知り、気づくことが、幸せを感じることにもつながるんですね。

 

「自分は何をしている時に楽しくて、ワクワクして、うれしくて、リラックスしているのかを知ることって大事ですよ。どうしたら幸せになれるか悩んだら、自分がワクワクすることを思い出して、実践してみてください。そして『私は幸せだ〜』って自分のモノサシで幸せを感じてみてください。

 

もっと幸福度を上げたいと思ったら、その幸せを誰かと共有するのがいいでしょう。一緒にご飯を食べて『これ、おいしいよね』って。高級なレストランじゃなくていいんですよ。家族で囲む食卓でも、仲間とのランチでも、誰かと幸せを共有すれば自分も相手も幸せになれます。小さなことをコツコツ積み重ねて、幸せを感じていきましょう」

 

幸せになる思考習慣……「小さな幸せを積み重ねる」

・幸せかどうかは、自分で決めるもの
幸せの4つの因子」で今の自分を捉え直してみる
・日常生活の中で、心がときめく、ワクワクすることを考える
・小さな幸せを共有して、幸せを積み重ねる

 

今日から実践できるものは、すぐに取り入れてみましょう。次回のテーマは「常に “ごきげん” でいるために必要な自分のトリセツ」です。

 

プロフィール

慶應義塾大学大学院研究員 / 前野マドカ

EVOL株式会社代表取締役CEO、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科附属システムデザイン・マネジメント研究所研究員、一般社団法人ウェルビーイングデザイン理事、国際ポジティブ心理学協会会員。サンフランシスコ大学、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などを経て現職。著書に『月曜日が楽しくなる幸せスイッチ』(ヴォイス)、『家族の幸福度を上げる7つのピース』(青春出版社)などがある。